隣人の事情。
隣人の事情
桜森高校二年八組。
あたし(俺)の隣には、いつも決まってあいつがいる。
教室の窓側の1番後ろの(隣の)席に。
あたし(俺)の好きなあいつは、いつもいる。
―――――――――――――――――――――――――
「桐谷ー!」
「んん…?」
あたしの席は、こいつ桐谷智夜の隣。
名前の順が近いだけあって何かと縁がある。
そして、部活に入ってないあたしの唯一の放課後の仕事。
それは、桐谷を起こすこと。
「早く起きなよ!部活始まっちゃうよ?」
「あぁ…もう放課後かぁ」
ふぁ、とあくびをしながら伸びをする桐谷。
いつもそのあくびに不覚にも笑ってしまう。
前髪に少し寝癖がついてる。
てか…ちょっと可愛いんだけど。
「ん〜じゃぁ行くか!」
やっとイスから立ち上がった桐谷はロッカーに入れっぱなしだった
学ラン引っ張りだす。
「じゃぁ、起こしてくれてサンキューな!」
嬉しそうに笑った桐谷は教室を出て行った。
帰り支度もせずに部活に行くのが桐谷の癖。
てか、この癖のおかげで一日に部活のある日は必ず桐谷と話せてるんだけど…。
桐谷は必ず、部活が終わったあとに帰り支度をしに教室に戻ってくる。
当のあたしといえば…。
そんなあいつをいつも寝ながら待ってる…とは言えないから
勉強してるフリをする。
桐谷が出て行った後の教室はいつもガランとしてる。
とりあえず桐谷の机に座ってみたり…するものの。
…なんか座ってるだけで恥ずかしくなってくる。
でも、あいつが通るまでは座ってなくちゃ…。
桐谷の席は窓側。
当然、外の見晴らしも格段に良いし下を通る人もよく見える。
…あ、来た。
「桐谷ーーー!!」
下を通った桐谷に手を振る。
いつもこの時間。
教室であたしが桐谷を起こして少したった頃。
あいつはいつもここを通る。…んだけど…。
全く反応なし。
気づいてないのかなぁ…?
こんなことをかれこれ何週間か続けてる。
あぁ〜あ、あたしも本当に進歩しないなぁ。
―――――――――――――――――――――――――
「桐谷ー!」
「んん…?」
いつもの俺を呼ぶ声。
あいつは決まって俺を見放さず放課後の部活の前に起こしてくれる。
こいつは、俺の隣の席に座ってる栗田雪。
名前の順が近いだけに何かと縁がある。
「早く起きなよ!部活始まっちゃうよ?」
分かってるよ!
つか、少しでもお前と話してたいんだよ!
いい加減気づけ!
「あぁ…もう放課後か」
しゃーない。
そろそろ起きるか。
寝起きでふぁ、っとあくびをする。
その光景が可笑しいのかいつもあいつは俺があくびすると笑う。
その笑顔だけで俺の顔が赤くなってることも知らずに。
あー、でもやっぱりマジで可愛い…。
顔を見られないようにロッカーに学ランをとりに行く。
「じゃあ、起こしてくれてサンキューな!」
熱い顔が冷めないまま俺はいつも教室をでる。
教室が見えない位の距離にくるとほっと一息つく。
でも、よく毎日こんなに人が恥ずくなるようなことしてくれるよな…。
って、勝手に俺がお前を好きなんだけど。
学ランを肩にかけて、靴に履き替える。
するとまた聞こえてくる声。
「桐谷ーーー!!」
俺がここに来ると、また俺を起こすときみたいに名前を呼ぶ。
まだ赤い顔をさらに赤くする。
その時の俺を呼ぶ栗田はさらに可愛くて。
振り向いたりなんかしたら絶対に好きだってことバレる。
だから俺はいつもあいつの声に背中で対応。
(いや、実際には聞こえないフリ)
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「んじゃ、解散ーー」
俺の部活が終わった頃はもうすでに時刻は六時半を回ってる。
季節的に暗くなることはないけど。
でも、俺にとって心配なことが一つ。
教室でいつも勉強してるあいつもこの時間に帰るってこと。
教室に帰ると決まってあいつは俺の席でノートを広げてる。
いや、実際にノートの方はいつも真っ白なんだけど。
しかも寝てるし。
完全に寝る体勢でいつも気持ちよさそうに寝てる。
はっきり言ってその行動に俺は結構困ってる。
いや、寝てるのも構わないしその姿見れるって言う特権もなかなかないんだけど…。
なんと言ったって俺も高校生。
時には魔が差す。
好きな奴が無防備に寝てたらそりゃ魔ぐらい差すだろ。
俺の席はいつもあいつが座ってるから俺は栗田の席に座ってる。
あぁーあ、今日も見てるだけか…。
あいつがこんなに無防備だから、何度かキスしてやろうかと思ったけど
さすがの俺にもそこまで度胸がないと言うか、まずあいつに嫌われたくないし。
いつもこうして、栗田の寝顔を見つめてる。
…だけのはずだったのに。
「……き……に……」
ん?寝言?
「…………桐谷………」
…え?えぇ?
今、こいつ俺のこと呼んだ??
寝言とは言えメチャクチャ嬉しいんだけど!
一人テンションを上げながら栗田を見つめる。
……マジで可愛いんだけど。
見てるだけで赤面ってどんだけだよ俺。
少しだけイスを栗田に近づける。
目にかかってる髪の毛を少しだけはらう。
こんなささやかな幸せ、他にないよなぁ。
今回で何度目だろう?
魔が差したのは。
でも、もう今回はちょっと止まりそうにない。
栗田の唇にかかった長い髪を払う。
少しずつ顔を近づける。
後、数センチ…って所で。
お約束っつーんだっけ?こーいうの。
栗田が目を覚ました。
「き、桐谷っ!!?」
そりゃ驚くよな。うん。
って…納得してる場合じゃねぇよ。
ずっと言えなかったあの言葉、言っちまえよ。俺。
「俺さ…」
あと少し。
「えっと…「あーー!!」
は?
俺の声に栗田の声が重なる。
と、思った瞬間栗田が机の上においてあったノートを閉じる。
「…読んだ?」
「へ?」
「だから、ノート!…読んだ?」
ノート?あの真っ白の?
読むも何も全く何も書いてなかったんですけど。
「読んでない…けど…?」
栗田の抱えてるノートを見る。
「それっ俺のノート?」
ちょっと間があったけどこくりとうなずく。
「えっと…ちょっと魔が差して…」
「なんか書いたの?」
「そ、それは…」
栗田は分かりやすい。
これは絶対に何か書いたって顔だ。
「見せろって」
「う…ん」
栗田が恥ずかしそうに返事をしながらページを開く。
そこに書いてあった言葉。
『スキかも』
……………。
「えっと…マジ?」
「…マジ」
これはえっと、喜んで良いんだよな?
理解するのにだいぶかかったけど完全に理解したときたぶん俺の顔は真っ赤だっただろう。
「…桐谷?」
「ははっ…俺と同じだ」
たぶん俺が栗田の立場だったら同じことをしてただろう。
「え?」
「俺も魔が差した」
「…何したの?」
「栗田にキスしかけた」
「…………えぇ!?」
「でも、これってしても良いってことだよな?」
栗田が頷くのを確認する前に、俺は唇を重ねた。
―――――――――――――――――――――――――
あの日からあたしは、放課後勉強をしなくなった。
だって、
「桐谷ーーー!」
「おう!今行く!」
窓からの声も
「んじゃ、帰るか」
一緒に帰れるようにもなったから。
でも、一つだけ不満。
あたしが桐谷に満面の笑みで笑いかけると返してくれない。
てか、全く違う方向むいちゃう。
…なんで?
(あー、やべぇかわいー…)
全く違う方向を向いて俺はいつも赤面する。




