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1-9 ジュリアの過去

side:ディーン・ファミネ



 保有属性が変わる。

 それは本来ならありえない話だが、実は似たようなことはできなくもない。


 減らすだけなら、ダンジョンに眠るアーティファクトや普通のアイテムでも簡単にできる。

 たとえば、凄腕の魔法使いの犯罪者には《属性封印の手錠》というアイテムで捕まえるが、これは魔法の属性を封じ込めるものだ。

 増やすことはできないが、生まれつき持っている属性をどうこうするのは意外と難しいことではないのだ。


 では、属性を変えるのは?

 俺は一人だけ、それができる奴を知っている。


「ジュリア……」

「どうしたの?」


 ジュリアを見る。


 彼女には隠しきれない高貴さがある。それに、昼間に着ていたドレスも高位貴族じゃないと着れないものだ。

 彼女がやんごとなき身分なのは確かだ。なのに、どうしてダンジョンにいたのだろうか。さっき思い浮かんだ人物と合わせて考えれば、答えは自ずと出てくる。


「お前の話を聞かせてくれ」

「…………」

「お前が国を追放された理由を」

「……どうして?」

「お前の属性が変わった理由を確かめるためだ」

「……わかるの?」

「ああ」


 俺がそう言うと、ジュリアは一瞬息をのむ。そして、ぽつぽつと語り始めた。


「あれは、ちょうど一年前の話――」

「ぐああああああ!!」

「ええ!?」


 しかし、冒頭とともに俺の右腕が破裂したことで俺が悲鳴をあげ、途切れてしまった。


「ご、ごめんなさい! やっぱり私は――」

「ヒール。問題ない! 話を聞くうえで、これは避けては通れない道だ。むしろ、壁じゃなくて俺の体でよかった!」

「えぇ……」


 彼女が引いている気配がするが、こっちも死ぬほど痛いのだから許してほしい。


「お前のそれは魔眼のせいだ」

「魔眼?」

「ああ。通常、魔法を使うにはどれだけ極めても魔法名を言う必要がある。だが、魔眼持ちは視界内に限ってはそれを必要としないんだ。しかし、使い慣れていない奴は感情が昂ると暴発してしまうことがある。今、それが起こっているだけだ」

「私はそんなもの持ってないわよ!」

「植え付けられたんだ。たぶん」


 魔眼を植え付ける方法なんて知らないが、あいつらならできるという確信がある。


「じゃ、じゃあ、この話はやめといたほうが……」

「ダメだ。属性を戻すのと魔眼を取り除くという、外傷ではないところの大きな治癒をするにはその原因を知る必要がある。辛いだろうけど頼む」

「……うん」


 よし。彼女の覚悟は固まったらしい。あとは俺が耐えるだけだ。


「あれは、ちょうど一年前の話――」


◇◇◇


side:ジュリア・エーデルワイス



 私、ジュリア・エーデルワイスは大国ウルリア王国の公爵家令嬢として生まれ、五歳の時に王太子の婚約者に選ばれた。


 エーデルワイス公爵家はウルリア王国の中で最も強大な貴族だ。

 そこの長女として、そして、王太子妃として恥ずかしくないように厳しい教育を施された。

 幼少期はずっと泣いてばかりだった。

 一挙手一投足を監視され、何か一つでもダメなところがあると酷い叱責を受けた。

 立ち居振る舞いが美しくない。言葉遣いが綺麗じゃない。頭がよくないといけない。


 ――この国のために尽くせ。


「ひぎゃああああ!! 右目が潰れた!! リ、ヒール!」


 ……泣けば、公爵令嬢に涙は相応しくないとさらに叱責される。


 女として。

 大国ウルリアの民として。

 貴族として。

 高位貴族として。

 公爵令嬢として。

 王太子妃として。


 それでも一五にもなったら、何も言われなくなった。

 かつてウルリアを建国した女王が言ったということわざ『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』を代表する淑女だと、みんなが褒め称えるようになった。


 今思うと、あの頃の私はバカだったわ。

 ずっと疎ましく見ていたのに……ずっと避けてたくせに……ずっと興味なさそうに見ていたのに……ずっとずっとずっと! ……でも、そんな人たちに褒められただけで認められた気になった!! なってしまった!!


「ああああああ!! 両方の脇腹が抉れたあああ!! ハイヒール!」


 ……それでも、私は嬉しかった。その時まで敵しかいなかったから、表面上でも味方ができたのは嬉しかった。


 でも、その気持ちも長くは続かなかった。


「おおおおおお!! いきなり暗くなったと思ったら、両目が潰れたのか!? ハイヒール!」


 ……大丈夫なの?


「も、問題ない!」


 ……じゃあ続けるわよ。


 あの日。学園に入る直前に出会ったあの子がすべてを奪った!


「うぎゃああああッ! 足がッ! ヒール!」


 リリーという女が家に来てから変わった。

 同盟国ニッカミナからの留学生だった彼女は殿下や高位貴族の子息に取り入り、多くの人間を魅了した。


 婚約者の王太子は一瞬で虜にされた。

 兄上も取り込まれた。

 幼馴染みだった別の公爵家の子息も、私を護ると誓ってくれた騎士も、一生仕えると言ってくれた執事も、みんな彼女の虜になった。

 私を慕ってた令嬢たちも彼女の引き立て役になった。

 使用人たちは私を無視して、彼女の世話ばかりをするようになった。

 父上も母上も私には折檻するだけで、彼女の言う事ばかりを聞くようになった。……奴隷として売った方がいいとまで言われてしまった。

 国王陛下も王妃様も彼女が王太子の婚約者だったら良かったと小言を言うようになった。


 みんな彼女に奪われた。

 死にたいほどの努力の末に手に入れたものをすべて!


「ひぎゃああああ!? 四肢ぜんぶ破裂した!? あ、あらゆる歪みよ、あるべき姿に回帰せよ!! ハイエストヒール!!」


 そして、一年が終わった終業式。

 それまで、なんとかギリギリ私の立場を保っていた祝福属性が、あらゆるものを破壊するものに変わっていた。

 国を発展させ続けていた魔法は、国を荒らす魔法になった。


 ついに私の限界がきてしまった。立場的にも、精神的にも……。


 それまで嫌々ながらも感謝してくれていたのに、たった一回の失敗で怒り狂う国民に枯れたと思っていた涙が流れた。そのせいでさらに破壊の魔法が発動された。

 私を死刑にすべし! と声高に叫ぶ婚約者、友人たち……そして父上と母上。情なんてなくなったと思っていたのに涙が止まらなかった。


「ぐぎゃああああッ!? 両手両足に両目と両耳がぶっ潰れたッ!! あ、あらゆる歪みよ、あるべき姿に回帰せよ!! ハイエストヒール!! ……クソッ! 足りねえ! ハイヒール!」


 ……死刑目前だった私を助けたのは意外にもリリーだった。

 私が堕ちていくのを嗤っていた彼女は、急に国外追放で許してあげるべきと進言しだした。


 もう、彼女の奴隷と化したみんなはリリーの言葉に何の逡巡もなく従い、私を縛って国を追い出した。


 わかる? 私を破滅させた人に情けをかけられたのよ!

 私の十七年の人生すべてが否定されたのよ!


 それが、私のこれまでの話。


◇◇◇


side:ディーン・ファミネ



「…………」


 ジュリアの話を聞いて、俺は何も言うことができなかった。

 クソ! 誰だよ、『どんな悲劇も取り返しがつくことなら、笑って語ってりゃ喜劇になるさ』なんてバカなことを言ったのは!!


 ……つーか、これもう取り返しつかなくね?

 向こうが反省しても、ジュリアは姿を見ただけで吐くだろ。許す許さないの問題じゃなくなってるわ。


「……えっと、大丈夫? モザイク必須の姿になってるけど……」

「ば、ばんじんじろ……(安心しろ……)」

「なんて?」


 ちなみに喋れない一番の理由はの痛みだ。次点で喉が潰れた、だ。声がかすれるなんてレベルじゃねえ。


「ぢ、ぢがばぎー(ヒール)」


 とりあえず、この状態では詠唱は不可能なので喉だけを治癒させる。


「あー、あー。喉治ってる? これ? 耳も潰れてるから聞こえにくいっ」

「…………」


 なんとなくジュリアが引いてる雰囲気を感じるが、今は無視する。


「ま、治ってるか。あまねく歪みよ、あるべき形に回帰し、その命を癒したまえ。パーフェクトヒール」


 治癒属性最上級魔法を使う。

 まさか、死以外の重傷ならなんでも治せるこの魔法を使うことになるとは思わなかった。


「で、さっきの話だが……」

「すっと入ったわね」

「言っておくが、今でもすっと痛いからな。治癒できても痛覚がなくなるわけじゃねえんだから」


 時々いるんだよな。すぐに治せるし痛みなんて感じないんだろって言う奴。

 そんなわけねえだろ。痛いもんは痛いわ。


「で、さっきの話だが」

「何か分かったの?」

「ああ。そのリリーの正体とお前の属性が変わった理由がわかった」

「本当!?」


 ジュリアがグイッと身を乗り出す。


「ああ。リリーの本名はユーリ。アマノカ王国のスパイで俺と同じ転生者だ」

「アマノカ王国? それに転生者って……」


 ジュリアが言葉を一つ一つ飲み込むように反芻する。


「彼女はニッカミナ王国からの留学生だったけど」

「今のニッカミナは実質アマノカ王国の植民地だ」

「そんな! あそこはウルリア王国との同盟国よ! アマノカが征服なんてしたら、ウルリアが黙ってないわ!」

「ああ。だから、“実質”植民地と言ったんだ。表立っての交流はない」

「い、いつの間に……」


 ジュリアが驚く。


「ユーリの出身がニッカミナだ。あいつはそこでも高位貴族を誑かし、国をめちゃくちゃにした。そこをつけこんだのがアマノカだ」

「そんなことがあったの? 王太子妃としてニッカミナに行ったことがあるけど、そんな雰囲気感じなかったけど」

「お前が行ったのがその前だったのか、もしくは終わった後だったのか……」

「終わった後ならさすがにわかるわよ。下まで芝居させるなんて不可能――」

「――不可能じゃない」


 言葉を遮る。

 その時、自分の拳に何かが流れる感じがした。


 ……強く握りすぎたせいで出た血だった。


「アマノカ国王エメリヒの非公式の側近、通称“四天将”の一人、オロフ。あいつだったら、お前に違和感を感じさせないようにするのは簡単だ」

「どうして?」

「オロフの属性は洗脳。数千、数万の人を一気に洗脳するのは無理だが、お前含めて視察団の感情をコントロールするのなら容易い」


 本当に忌々しい能力だ。


 手を口に当てて驚くジュリアを尻目に、話を続ける。


「で、その時にアマノカはユーリの精神性、保有属性、そして、転生者として生まれ持ったアーティファクトに目を付けた」

「精神性はなんとなくわかるわ。あの、自分が気に入らない人が堕ちていく様が心底嬉しそうな目。あれだけで、どんな人間かわかるわ」


 ジュリアが忌々しそうに吐き捨てる。


「それで属性とアーティファクトはどんなのなの?」

「あいつが持つアーティファクトは乙女之瞳。相手の自分に対する好感度と選択肢が見える義眼だ」

「好感度はわかるけど、選択肢とマップって?」

「ゲーム……つってもわからねえか。選択肢は、会話において三つのセリフが浮かぶスキル。セリフは、好感度を下げるもの、無難なもの、好感度を上げるものだ」

「……だから、私がイラつくことをいちいち言ってきたのね」


 ジュリアがハアとため息をつく。


「少しだけ、溜飲が下がったわ。フフフ。あいつら、アイテムに絆されて、スパイを国に入れてバカみたい」

「それは良かった。いや、良くはないけど」

「私からしてみれば、リリー……ユリよりも今までの繋がりを簡単に切った家族や元婚約者、友人たちの方が嫌いよ」


 フフフフフフと妖しく笑う。

 相当ため込んでいたらしい。


「それにしても、選択肢という能力は危険ね」

「アマノカにはそういうアーティファクトがたくさんある」


 アマノカは忌々しいことに冒険者ギルドも取り込んでいるし、そもそも国力――四天将のローランドとマリーのどちらかだけでダンジョンを攻略できるので、アーティファクトの保有数が桁違いだ。


「それこそ、俺が国を出る手段としてランダム性の高い転移の魔石を選んだのも、国内なら誰でも位置を把握できるアーティファクトがあるからだ」


 今、エメリヒの奴は隣国を訪問している。だからこそ、アメリア嬢たちは追放する日に今日を選んだのだ。

 だが、奴は明日には帰ってくる。当然、誰かが奴に報告するだろう。そうなると、俺たちの位置は捕捉されてしまう。だから、奴らも気軽に手を出せない他国に飛んだのだ。


「それにしても、女スパイもあれだけど四天将の方が危険ね。貴方もそんな情報を持ってるなんて……もしかして、結構高い地位にいたの? ただの男爵ではなく」

「四天将の下に八咫烏っていう組織がある。俺はその中の一人だった。ちなみに俺の後釜は確実にユーリだ」


 ユーリという名前にぴくっと、ジュリアが反応する。


「ま、逃げれて良かったじゃない」

「ああ。アメリア嬢やクロード殿下には感謝だ」


 本当に……逃げれて良かった。


「本当だったら殺したいんだけどな……」

「何か言った?」

「いや」


 この話はもういいか。


 次はあいつの属性についてだな。

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