1-7 カレーライス
side:ディーン・ファミネ
「……三八、三九、四〇。全員一〇着ずつか」
「う、うん。普通でしょ?」
「お前らここがダンジョンだってこと忘れてない?」
俺は、見るからに高そうな服を一着持ち上げながら、呆然と呟いた。
「これ一着いくらだった?」
「「「「…………」」」」
「怒らないから言ってみろ」
なるべく穏やかに聞く。
すると、この中では付き合いが長いロゼとルミが顔を背けながら口を開いた。
「そのね。本当に申し訳ないって思ってるの」
「そ、そうです。ちょっと調子に乗っちゃったていうか、どれも可愛かったていうか……」
二人に続いて、ジュリアとコラリーも口を開いた。
「王都の一流デザイナーにも負けない服が合ったからつい」
「もちろん私たちが悪いのはわかってるです。だけど、こんないい服を作る人が一番悪いと思うです」
結局、誰もいくらだったかは言わなかった。コラリーに至っては責任転嫁をする始末……どんだけ高かったんだ?
「それで値段は?」
「そ、それよりもご飯食べない!?」
「ディーンもおなかすきましたよね!?」
「そ、それがいいわ!」
「私もおなかすいちゃったです!」
「おーい」
埒が明かないので、ルミからスマホを取り上げることにした。
確か、討伐した魔物の分も入れて、服を買いに行く前にあったポイントは8000くらいだったが……
「さ、3085!?」
一気に五千ポイント使っとる!
「おいッ! これ一着一〇〇ポイントすんのか!?」
服は三ポイントって言ってたじゃん! それの三十倍以上なんだけど!!
「俺らが買った中で一番高い暖炉は何ポイントだった?」
「……ご、五〇……」
「暖炉の二倍て」
こいつらは疑問に思わなかったのか?
金貨五枚って高位貴族が着るレベルだぞ。
「まあ、いい。俺も後で三ポイントの服を買っておこう。それよりも薪を買ってもらっていいか? ここの木は一切燃えなかったんだ」
「ディーンの火魔法でも?」
「ああ」
俺の火属性について知っているロゼが、驚きの表情を浮かべる。
「あとは今日の夕食とベッドが必要だ」
ロゼの魔法で薪を強化して持続時間を伸ばし、それを燃やす。
そして、ルミに買ってほしいものを告げて、俺の服を買おうとすると、ルミがバッとスマホを隠した。
「い、今下着買ってるので!」
「……ほどほどにな」
……自分の部屋で今わかっていることをまとめておこう。
◇◇◇
このログハウスは、リビング・キッチン(使う予定なし)・トイレ(《異世界ショップ》で買った)・お風呂(浴槽のみ)の四部屋と各人の部屋でできている。頑張った。
「今いるダンジョンの名前は栄火の孤島。今のところ火の要素はない……いや、木に異常な火耐性があったな」
俺は自室(この家でトイレの次に小さい。四畳半くらい)で、今の状況をまとめていた。部屋にはベッドくらいしかない。
「で、確認できている魔物は九種類。魔獣型のムササビ、リス、オコジョ、梟、鷹、狼、熊。魔人型のゴブリン、オーク。毛が総じて緑色だったな。てことは外にいるのとは違う魔物か……」
こっちの魔物の名前も考えた方が楽だな。同じ熊とかでも、さっき戦ったのと同じくらいの大きさのビッグベアと爪が長くて硬いクロウベアのように違う種類のもいるかもしれないし。
「毛が緑だしグリーンなんちゃらでいいか。うん、それがいい」
「そのまんまだね」
「ディーンって単純な名付けしかしないですもんね」
「うおっ!」
一人でうんうんと頷いていると、後ろから急にロゼとルミの声が聞こえた。扉閉めてたんだし、ノックくらいはしてほしかった。
「選び終わったのか?」
「うん!」
「今夜は楽しみにしといてください!」
「ん? ああ」
楽しそうな二人に返事をして、無地の服とズボン、靴下、下着を三着ずつと防寒着を一着買い、部屋に置いておく。ダンジョンだし、これでいいだろ。
「じゃ、飯を食うか」
「うん!」
「はい!」
俺の腕に彼女たちの腕が絡められる。
よくあることなので特に反応もせず、二人を連れてリビングに向かう。気分は両脇に抱えた女性に乳首を弄られながら街中を闊歩する歌舞伎町のホストだ。
「ねぇ~。もう疲れちゃった~」
「えへへ~。リビングまで連れてってください~」
惚けた顔で腕を絡める二人の頭を撫でて、俺は歩き始めた。
◇◇◇
《異世界ショップ》で買ったテーブルの上に料理を並べていく。
今夜はカレーライスだ。どうしても食べたかった。
「見た目はあれだけど……美味しいわね」
「はむはむ。もぐもぐ」
カレーを食べたことのない二人が感動して食べている。コラリーなんて無言で必死に食べていた。
「やっぱり、現代の料理で異世界の人の心をつかむのはテンプレですね……ディーン、ロゼ?」
「う、うん。そうだね……」
「え? あ、ああ……なんだこれ。涙が止まらねえよ」
「元地球人の心を一番つかんでる!?」
俺とロゼのカレーの上に透明な液体が落ちる。
しょっぱくなった。
「やっぱりカレーはうまい……!」
流石は国民的料理。心が温まっていく。
「……今思ったんだが、コラリーの魔法で作れるんじゃないか?」
「ほえ?」
ひとしきり泣いた後、今思いついたことをコラリーに聞く。
コラリーはカレーを口周りにつけながら、あほっぽい顔で聞き返してきた。ほえて。
「いや。料理も加工だろ? じゃあ、お前の加工属性で作れるんじゃねえかな」
「……はい。できるですよ。やったことあるです」
「やったことあんの!? 熊の時にさっき言ってくれよ!!」
ええええ!? さっき俺、料理できる人はいますか? て聞いたよね!?
「……でも、そんなに美味しくはできないですよ。ご主人様たちは美味しくないっていつも殴ってきたし」
「お、おう……それは悪かったな」
とはいえ、沈んだ表情のコラリーに何も言えなくなる。
にしても、こいつの元主人である剣嬢はどんだけ過激だったんだ。
「美味しくなくていいから、明日からは作ってくれねえか? ポイントはできるだけ節約したいんだ」
「わかったです」
よし。これで毎食買うという浪費生活は避けられる。
「あ。それと服とかも作れるですよ」
「ええ!? じゃ、じゃあ、さっき使われた5000ポイントは!?」
「いえ。買った方が可愛いし、材料もないですので……どうやら、あのすまほ? とやらには鎧とか剣とかは売っていないようなので、材料さえあれば作れるです」
「マジか。加工属性めっちゃ便利だな」
汎用性がえぐい。
これ、普通に働くんだったら引く手あまたなんじゃ……。
「だったら、さっきのグリーンベアはポイントに変えるんじゃなくて、毛皮で防寒着とか作ってもらった方がよかったな」
「グリーンベア?」
「さっきの熊の魔物だ。毛が緑だからグリーンベア」
「そのまんまね」
「そのダサいネーミングセンスは置いといて、毛皮だけじゃ作れないです。材料が全部そろってないと……」
「それは魔法が下級しか使えないからだろう。……今ダサいって言った?」
意外と言うなこいつ。
「まあいい。教えるから中級は使えるようになってくれ。今後の生活はコラリーの魔法にかかってるといっても過言じゃねえからな」
「わかったです」
「……私だって。本当だったら……」
コラリーが真面目な顔で了承したのに対し、満足気に頷くと、ジュリアが小声で呟いたのが聞こえた。
「ん? どうした、ジュリア?」
「……ううん。なんでもないわ」
「本当か? 仲間なんだから、言いたいことは遠慮せずに言えよ」
「……わかったわ」
なんか歯切れ悪いな……。
まあ、本当に大切なことなら向こうから言うだろ!
「じゃあ、お風呂沸かしてくるわ」
「もうクタクタだもんね」
「いや。お前らは途中から座ってただけじゃねえか」
なんて図々しいんだ。
……いや。いきなりダンジョンに飛ばされるのは辛いことなのかもしれない。俺はそうでもないけど。
「シャンプー類は今のうちに買っておけ」
「シャンプーなんてどれも一緒じゃない?」
「シャンプー初めてです」
ジュリアの言う通り、この世界のシャンプーはどれも同じようなものだ。しかも、どれも安っぽい。
それでもコラリーのように平民からしたらシャンプーとかボディソープを使えるだけでありがたいんだけどな。
「地球のシャンプーはえぐいぜ。めっちゃ泡がすげえからな」
「なんでディーンは泡で判断するの?」
「え? シャンプーって泡がすべてじゃねえの?」
初めて知ったわ。
「ま。そんなわけで楽しみにしとけよ。マジ、世界変わるから。初めてのアニメと同じくらい」
「アニメって何?」
「面白いもの」
俺はそう言い残して、お風呂場に向かった。
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