1-6 家の完成(半日で)
前話、ちょっとだけ変えました。
side:ディーン・ファミネ
「ああああああああ!」
今は夕方。家づくりの準備も終え、さあ夢のマイホームを建てようと意気込んでいた俺は絶叫を上げていた。
「グオオオオオ!!」
「うおっと!」
俺の前にいるのは一匹の巨大な熊だ。
俺の身長が一七〇後半なのに対し、熊は俺の三倍はある。巨大なのにも関わらず、擬態のつもりか毛の色は緑色だった。
熊のぶん殴りを身をかがんでかわす。
その可愛らしい手は、可愛らしくない音を上げて木をへし折った。
――俺は剣術は苦手だが、鋼鉄を切るだけの腕力はある! だが、ここの木はそんな俺でも切れない! つまり、ここの木は鋼鉄よりも硬いということだ!!
建築を始める前に言った言葉を思い出す。
俺の言葉とさっきの熊の攻撃を考えると、あの拳には鋼鉄を簡単にぶち破る威力があるということだ。
「前世の俺ならともかく、今の俺が喰らったらただじゃ済まねえな!」
攻撃をかわしながら、そう悪態をつく。
「ハッ! やっと大物が来たな。さっきから遭う魔物たちじゃそれすら壊せなかったからな。家の耐久テストにちょうどいい!!」
実はこいつが現れる前にも魔物は何種類か出てきた。
というか、俺がチェンソーの音でおびき寄せてたんだがな。
目的は熊に言ったように家の耐久テスト。このダンジョンの魔物の強さがわからない以上、家をつくったところで壊されないかが心配だった。それに、家ができたから安心と根拠のない油断をするよりも、魔物には壊せないことがわかって安心と根拠のある油断をした方が断然良い。
「グオオオオオ!!」
「てことで頼んだぜ!」
熊の一撃に加工済み木材を合わせる。
理想通り、熊の攻撃は木材にクリーンヒットし――一切の傷を負わすことはできなかった。
「いよっし! これで家は安全だ!」
よっしゃー! これで安心して眠れる!!
「お前が来てから、ここら辺の近くにいた魔物たちが引いていった。てことは縄張りから動けないっていうボスを除けば、お前がこの辺で一番強いんだろ! たぶん!」
中指を立てながら熊の魔物に告げる。
「アーススピア」
地面を槍状にして突き出させる。RPGでよくある罠みたいな感じだ。
「グオオオ!?」
土の槍がいくつか刺さり熊の魔物は怯むも、槍を破壊して突進してきた。
最大限魔力を込めたはずなのにこうも簡単に壊されるとは……こいつBランク相当の魔物なのかも知れない。
「ガオオオオオ!!」
「ま、関係ないけどな。ウォーターボール。アースドロップ」
水の塊を放って怯ませ、虚空に土の塊を創り出して、それを熊の頭めがけて落とす。土の塊は、熊に防御行為を許さずに頭を潰した。
「キャー! ディーンかっこいい!!」
「キャー! さすがディーンですわ!!」
ロゼとルミが駆け寄ってきて、俺の腕にしがみつく。
二人の豊満な胸がぎゅにゅうと押し付けられるのは悪くないが……
「あ。また魔物」
「「ギャー!」」
俺が前を指して言うと、二人は俺を前に突き出した。
「……お前ら」
「……い、今のは違うよ!」
「……そ、そうです! いきなりでびっくりしたというか……!」
二人をにらむと、彼女たちは焦り始めた。
「いや、いいけどさ。お前らがそういうやつだってのは知ってるし」
「「そんなことないよ!」」
「お前ら仲いいな」
出会って一日も経たずに息ピッタリな二人に呆れてしまう。
「大変そうです」
遠くから眺めていたコラリーが、心底同情したようにそう言ったのが聞こえる。
「まったくだわ」
それに続くように、ジュリアが紅茶を飲みながら言う。
「よし。脅威は去ったことだし、家づくりを再開するか」
「うん。頑張ってね!」
「私たちも応援してます!」
俺は木材を担いで、すでに出来上がった床を囲う壁をつくろうとする。すると、ロゼとルミの二人は、ジュリアとコラリーの方に向かった。そこには、ルミの《異世界ショップ》で買ったお洒落なガーデニングチェアが四つ、丸いガーデンテーブルを囲んで並んでいる。
それに座って、四人は出来上がるのを待っているのだ。優雅に紅茶を飲みながら……。
「……まあ、いいけど。あいつらに木材で組み立てろってのも、腕力的な問題で無理だし」
俺たちってどちらかと言うと魔法使い型ばっかなんだよな。俺も魔法戦士(魔法メイン)だし。
四人の会話を聞きながら、俺は家を組み立てていった。
…………ああ。俺も優雅に紅茶を飲みたい。
◇◇◇
「完成だ!」
「「やったー!」」
「立った半日で建てれるはずがないくらい立派だけどできた! 誰にもツッコミはいれさせねえ!!」
「すごい言い訳ですね!」
「言い訳にもなってないよ!」
そう言いあって、俺とロゼとルミは笑いあう。
「あら、中々いいわね」
「私もこんな豪華な家で暮らせるですか? 魔法使ってただけですけど……」
ジュリアは満足げに頷き、コラリーは申し訳なさそうにしている。
そんな美少女たちを見てたら、半日で家を建てるなんていうのはどうでもよく感じるな。
「コラリーの加工魔法がなかったらこんなに早くできてねえよ。……本当に疲れた。てか、もう眠い」
もう日も完全に沈み、明かりとなるものは《異世界ショップ》で買った照明と月明かりだけの夜。
遂に完成した家の前で俺は感慨にふけっていた。あと疲労がピークで眠気がえぐい。
たぶんみんな忘れてると思うけど、俺って長期休暇前のパーティーで寝てしまうくらい眠いんだよな。色々ありすぎて眠気も吹っ飛んでたけど、さすがにもう限界。
「それにしても、本当に一日でできるなんて」
「ま、耐震性とかはないけどな!」
「さっそく入りましょう!」
ルミが《異世界ショップ》で買ったドアノブを捻って、玄関の扉を開ける。
そういえば、《異世界ショップ》には買い物以外のサービスもあった。ドアノブを買った時、『5P払うと自動で取り付けできます』という文字が画面に出てきたのだ。それにはいと答えると、自動的に扉にドアノブがつけられたというわけだ。ドアノブ買ったはいいけど取り付け方がわからずあたふたしていたので、ちょうど良かった。
塗装も何もないので外見は簡素だったが、中は新築のログハウスらしくとても綺麗だ。《異世界ショップ》で買ったLEDの照明もいい味を出している。
「窓があれば良かったんだけどね」
「しょうがないさ。あの熊の魔物は、ロゼが強化したガラスでも壊せるだろうし」
そうなんだよ。強化済み木材は大丈夫だったが、それ以外のものは耐久性の問題で組み込めなかったんだよな。
そういう会話をしていると、突然ぐ~という可愛らしい音が鳴った。
音の発生源を見ると、コラリーが恥ずかしそうにおなかを押さえていた。
「……ご、ごめんなさいです」
「みんな疲れただろうし、そろそろ飯にするか。一応お風呂もあるし、入りたかったら言ってくれ。お湯を張る」
アマノカ王国……というかこの大陸では浴槽に入るよりも、水やお湯を体にかけるだけが主流だ。浴槽を張れるだけのお湯をつくるには、水魔法の中級魔法『エリア・ホットウォーター』を使う位しか方法はないからだ。一応、お湯を沸かす魔道具はあるが、それも日本で言うケトルみたいなもので、そんなに多くの量を沸かすことはできない。
そして、中級の魔法を使える者は意外と少ない。俺のように魔法を生業とする奴らならできるようになるが、魔法にそれほどかかわりのない人たちには初級で十分なのだ。魔道具を使うのは、魔法学では無属性に分類される子どもでもできる簡単な魔力操作だし。
「で、飯なんだが、一応、熊はポイントに変えずにあるけど……普通にポイントで買った方が安いっちゃ安いぞ」
難しいところだ。
この世界では強い動物ほど美味しい。逆に低ランク(売却額は安い)の魔物は食われないように進化した結果なのか軒並み美味しくない。高ランクの方が魔物は美味しいのが多いのだ。ドラゴンとか。
「でも、熊は旨いだろうな。Bランクくらいの強さだったし」
「じゃあ、今日は熊さん食べませんか? 異世界初日に地球のもの食べるのもどうかと思いますし」
「うん。前にBランクの魔物食べたら、すっごく美味しかったし」
「私も久しぶりに高ランクの魔物を食べたいわ」
「私も食べてみたいです!」
「じゃあ、今日は手作りだ!」
四人が賛同したことだし、今日の夕食は熊の魔物を食べることになった。
にしても、熊の魔物って長いな。後で名前を付けよう。
「で、誰か料理できるのか?」
「「「「…………」」」」
「……なるほど!」
一度頷いて、みんなに言う。
「手作りは諦めよう!」
俺の言葉に、四人は力強くうなづいた。
「にしても寒いな」
昼はそうでもなかったが、夜に近づくにつれて寒くなってきた。
「せっかくですし暖炉でも買わない?」
「そうだな。頼むわルミ」
「わかりました。……一応エアコンもありますが、いかがなさいます?」
「安い方で」
「じゃあ暖炉ですね」
ルミが暖炉を買い、追加で五ポイントを払ってリビングに備え付ける。
「薪とってくるわ」
そう言って外に出ようとする俺にロゼが待ったをかける。
「そういえば、ここの木って燃えるの? 衝撃に強かったから普通の木じゃないし、燃えない可能性もあるよね?」
ロゼの質問に確かにと頷く。
火を使う魔物も存在するので、家の耐久的な意味でも試しておかなければならない。
「確かめてくるわ。その間に服でも買っておけ」
女子は服を選ぶのに時間をかけるからな。
元婚約者のアメリア嬢もロゼもルミもみんな服に時間をかけていた。
余談だが、アメリア嬢は時間と同じくらいお金をかけていたので、俺の領地経営がうまくいってなかったらマジで餓死するところだった。
……今の婚約者様は大丈夫だろうか。たぶん、彼女の新しい婚約者はカルロス殿だろう。彼の生家サエンコ侯爵家とアメリア嬢の生家キャンベル伯爵家は昔から懇意にしていたらしいし、カルロス殿も女にだらしない上に傲慢な性分のせいで婚約者できなかったらしいし可能性は高い。婚約破棄の時に隣にいたし。
ま、サエンコ家は侯爵のわりには資金難らしいし、さすがのアメリア嬢も自制していることだろう。
そんなことを考えながら、俺は余った木材――後で罠に使おうと思ってたもので、強化魔法は施されていない――に掌を向ける。
「ファイアボール。ギャアアアア!!」
俺の掌の先から放たれた火球は、本来のそれよりも圧倒的に強い火力で木を燃やし始め……なかった。
「……ぜ、全然燃えねえな」
俺は右腕の痛みにこらえながら、呆然と呟く。
さすがにこの結果は予想外だ。
物理的攻撃に対する耐性と同じように炎に対する耐性もあるとは思っていたが……。
「俺の火属性は特別威力高いんだがな……」
自分の右腕を見て、そうひとりごちる。
視線の先にあるのは右腕というよりかは、右腕だったものと言った方がいいのかもしれない。黒色になり、ボロボロと崩れていく。つまり、完全に炭化してしまっているのだ。
普通の火魔法使いなら、自分の魔法で燃えるなんてことはないのだが……。
だが、俺の火魔法は初級の『ファイアボール』でも右腕が燃え尽きてしまう程、制御がうまくいかない。
その代わりに普通のよりも圧倒的に火力が高いんだけど……使い勝手は土や水の方がいい。
「ヒール」
右腕を元の状態に戻す。
「魔法による火に燃えないのか、普通の火に燃えないのかわかんねえな」
魔法には魔力がこもるので、同じ火でも魔法で作ったものとマッチで点けたものとでは微妙に違う。詳しい話は後にしよう。
「仕方ない。摩擦で火を起こすか」
俺は前世のサバイバル訓練でマスターした原始的な火の起こしかたを試した。
◇◇◇
「魔力の有無は関係なく、ここの木は耐火性が高い……というか、燃えないと」
結局、魔法ではない火でも試してみたけど、木が燃えることはなかった。
焚火とかには使えないけど、火事の心配はなさそうだ。
「ただいまー」
玄関を開けて中に入る。
「……買いすぎじゃね?」
靴を脱いでリビングに入った俺は、膨大な量の服を見て呆然と呟いた。
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