1-15 守神教の聖女
side:ディーン・ファミネ
ロゼ、ルミ、ジュリア、コラリーの紹介をした後、四人に対してオリヴィアの紹介をする。とは言っても、ジュリアは彼女のことを知っているようだが。
「こいつはオリヴィア。貴族じゃねえから姓はない」
「オリヴィア。よろしく」
オリヴィアがちょこんと頭を下げる。
「守神教っていう新興宗教の聖女様……ようするにお偉いさんだ」
「そんな人がどうしてここにいるの?」
ロゼの疑問も最もだ。何も知らない人からしたら、権力者がここに来るのはおかしいだろう。
それこそ、聖女なんて下手したら教皇と同じくらいの地位だし。
だが、それは守神教がちゃんとした宗教団体だったらの話だ。
「守神教はマジで腐った組織だからな。こいつの恰好も性欲にただれた奴を入れやすくするのが目的だし」
「ん。本当に腐ってる」
「こいつと知り合ったのも、貴族と癒着してる守神教の司祭を告発したからだからな」
あの女狐がいる大陸一の聖神教はちゃんと清貧に暮らしているのに、それに対抗心を燃やす守神教は煩悩まみれに暮らしてる。そこが、一般の人に嫌われるゆえんだ。
「ついに逃げたんだろ?」
「ん。たぶん今頃、向こうは大変なことになってる。いい様。嫌いだったから野垂れ死んでくれたら嬉しい」
オリヴィアがふふふふ……と笑う。
まあ、彼女が一番守神教のこと嫌ってたしな。
「……まあ、聖神教の聖女が私の結界魔法と同じものを使えるようになったのが一番の原因だけど」
「なに?」
また、あの女狐が?
「うん。利用価値が減ったから、教皇や枢機卿のおっさんたちがこのパーフェクトドスケベボディを狙ってきたの」
「自分で言うなよ」
「ドスケベって言ったのはディーン」
「……こりゃ一本取られたな」
アッハッハッハと笑おうとしたら、凍てつくような視線を感じた。
「……それセクハラだから」
「……人間性を疑うです」
じとーという二人の視線から目を逸らす。
いや、あれは酒のせいだから。言葉には出さないけど。
「わ、私もおっぱいとお尻大きいですよ!」
「わかってるよ。だから落ち着け」
「……むー。捨てないでくださいよ」
ロゼは俺のことをどう思ってるんだろう?
女をとっかえひっかえするクソ男だと思ってんのかな?
「えー! オリヴィアもディーンとヤッたんですか? 私と一緒ですねー。友達です!」
「……ルミは黙っといてくれ」
ロゼ――彼女の前世であるアリアの時もそうだったけど、なんでこいつはこういうことで喜ぶんだ。普通は独占欲とかがあるんじゃないのか?
「にしても、さすがは世界一の宗教の聖女様だな。相変わらずチートだ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺の治癒属性の上位互換だし」
上位互換なんてものじゃない。
「あいつの神聖属性は、治癒属性、支援属性、浄化属性、光属性が極められた属性だ」
「私の結界属性もね」
さすがに盛りすぎだと思う。
「それよりも、ディーンはどうしてここにいるの? アマノカ王国に閉じ込められてたんじゃ?」
「色々とあったんだよ。簡単に言うと、バカが出してくれた」
「私と一緒なんだね。これは結婚すべき」
「おーう。それよりも、あれが村か」
軽口を聞き流して、見え始めた家々を指さす。
そのまま、村の中に入り探索をする。
「そうっぽいね。でも、廃墟ばっかだね」
「ですね。これはリフォームをしないといけません。ディーンが」
「俺が働くのは確定なんだな」
まあ、いいけどさ。どうせ、一軒建てれたら、それでいいだろうし。
とはいえ、解体するのは骨が折れそうだ。
……べつに解体の必要はないか。ほとんど、探索に出てるだろうし。
「あ。でも、一軒だけ綺麗な家があるわ」
ジュリアが、一番奥にある家を見て言う。
確かに、この村で一番大きい家――屋敷といってもいい建物だけは綺麗なままだった。
このダンジョンに来た冒険者が手入れしてたんだろうか。
もしくは、あの双子か。
「あの家で休むか」
「はいです! もう疲れたです……」
コラリーだけでなく、みんなも頷いたので早速、唯一無事な家に入る。
……とりあえず休もう。あのペルディアスというボスについても考えたいし。
◇◇◇
この家は、外見通り結構広かった。
何がいるのかわからないので、みんなで一つの部屋を探索していくことにする。
「ここはリビングか」
「何もないね」
ソファどころか、調度品の一つもない。
生活感という者が一切感じられなかった。
ずっといても仕方ないので、次の部屋に移動する。
「ここはダイニングキッチンか」
「うん。テーブルもないけど……キッチンだけはありますね」
ここには、ルミが言ったようにキッチンがあった。
「……キッチンなのこれ?」
「私が知ってるのと全然違う」
「え?」
「そうなんですか? 私はキッチンなんて見たことないからわからないです」
ジュリアとオリヴィアがキッチンを見て、疑問に思う。
「……確かに! これIHだ!」
少し観察してみると、確かに違和感があった。
IHなど、俺たちの世界(地球じゃない方)にはなかったはずだ。
「ここの文明レベルは高かったんですね」
「……ダンジョンには独自の文明があると聞いたことはあるが……どうやら、相当高度な文明を持っていたようだな」
俺たちがいた(地球ではない方の)世界も魔道具とかあるけど。でも、電気で料理できるような技術力はない。
「横に使い方が書いているわ」
「これはここを攻略しに来た冒険者のものだろうな」
俺たちの世界の言葉だし。
「……もしかしたら、前に来た冒険者が記したの他にあるんじゃない? たとえば、このダンジョンに出る魔物のこととか」
「一理あるな。地図とかもあるかもしれねえ」
なんせ、この辺で過ごせるのはこの家だけだしな。荷物とかはここに置かざるを得ないだろ。
「ここにはもう何もなさそうね」
「そうだな。次の部屋に行くか」
結局、ここにあったのもキッチンだけだった。
廊下に出て別の部屋に行くことにする。
トイレやお風呂場などの普通の部屋ばかりだったが、一つだけ気になる部屋があった。
「ここは書斎?」
「ぽいね。でも狭い部屋だね」
見つけたのは、本棚が二つと机が一つの部屋。二つの本棚には本がびっしりと詰められている。
部屋の大きさは四畳半もない。
「ドーワ語じゃない」
「そうね。見たことのない文字だわ」
本を手に取ってみると、ドーワ語(俺たちの世界の共通語。言語の神ドーワから名付けられた)ではない文字で書かれていた。もちろん、日本語でもなければ英語でもデンマーク語でもない。
「でも、どっかで見たことがあるんだよなぁ」
「うん。私も見覚えがあるよ」
俺とロゼが本を見て首をかしげる。
だが、どれだけ見てもわからなかった。
「チキュウとやらの世界の言葉じゃないの?」
「うーん。でも、私は一切見おぼえないんですよね」
「ルミが知らないんだったら、俺らも知らねえわ」
「だね。私たちの勘違いなのかも」
俺ら三人の中で一番頭がいいのはルミだ。こいつが知らないんだったら、俺らも知らないはずだ。
唯一、科学……特に医療分野においてはロゼの方が詳しいけど、文字には関係ないし。
「まあ、この世界独自の言語があったということがわかっただけでも進歩だ」
「解読できたら、一気に攻略が進みますからね。それに、文字があるということは絵もあるでしょうし」
そう言って、俺たちは書斎を後にした。
……そういや、あいつも狭い部屋で本読んで勉強するのが好きだったな。
ふと、そんなことを考えながら。
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