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1-14 双子の住民

今回から毎週日曜日更新にします。

side:ディーン・ファミネ



 とにかく走った。

 あの炎の鳥から逃げるために走った。


「あの爆発は!?」

「ガソリン缶です! 買いました!」

「私の魔法で容器を燃えにくくして、逆にガソリンの爆発の威力を上げたんだよ!!」

「でも、あんな重いのをよく投げれたな?」

「これです!」


 背中にいるルミが、俺の目に前に金属バットを垂らしてくる。

 正直邪魔なんだけど。


「金属バットの打つ力を強くしたんだよ!」

「お前の強化魔法って本当に便利だな!」

「えへへ。褒めて褒めて」

「ちょっと今そんな余裕はないかな!」

「なんでそんなに暢気なの!?」


 ロゼがむぎゅむぎゅと胸を押し付けながら耳元で嬉しそうに囁いてくる。彼女はルミと同じように背負っている。ルミが右側で、ロゼが左側だ。

 そんな俺たちの様子を見て、俺に前から抱き着いているジュリアが叫ぶ。

 ちなみにコラリーはコアラのように側面にぶら下がっている。


「大丈夫なの? あの魔物」

「大丈夫か大丈夫じゃないかなら、大丈夫じゃねえなぁ! だから、逃げてるんだけど!!」


 正直言って勝てる気がしない。


「だから、今の目的はアーティファクト集めだ。道具頼りなのは情けねえが、かと言っていつまでもここにいるわけにもいかねえからな」

「……それもそうですね。ただのサバイバルならともかく、ずっと魔物に囲まれて生活するのはストレスも溜まりますしね」

「それにアーティファクトなら、私の魔法で強くできるもんね!」


 そう話し合いながら走っていると、ついに森の終わりが見えてきた。


「よし! 森を……あいつの縄張りを抜けるぞ!」

「ふーん。やっぱり、何もわかってないんだね」

「うおっ!?」

「あはは。何? 今の声」


 いきなり聞こえた声に慌てて四人を下ろし、戦闘態勢にはいる。


 声の方向――出口に生えている木の上に目を向ける。

 そこには、まだ一〇歳くらいの少年がいた。


「しょうがないよ。まだこの人たちはここに来たばっかりだし。村にも行ってないだろうしね」


 その逆方向の木に、少年と同い年くらいの少女がいた。

 二人は双子なのだろうか。共に青白い顔をしており、まるで死人のようだ。


「……お前たちは?」


 四人を庇うように位置を取りながら、謎の少年少女に質問する。


「僕はモータル。イモータの兄だよ」

「私はイモータ。モータルの妹だよ」


「「このダンジョンの住民だよ」」


 二人が重ねて言った言葉に首をかしげてしまった。


「住民?」

「うん。そうだよ」

「私たちはここで生まれて育ったの」


 ダンジョンに人が住んでるなんて聞いたことがないぞ。

 いや、住んでるだけなら攻略途中の冒険者がいると思うが……どう見ても子どもだよな。


「ねえ、男の人の名前はフシチョウノディーンだっけ?」

「……ああ。それが?」

「女の子たちの名前はなんだっけ?」

「ロゼだよ」

「ルミといいます」

「……ジュリア」

「コラリーです」


 それぞれが自己紹介して会話が続く。


「フシチョウノディーンたちはさ、まだここのこと何もわかってないよね」

「……不死鳥はつけなくていいぞ。それはあだ名みたいなものだからな」

「へえ、そうなんだ。変わったあだ名だね。僕のあだ名はモータっていうんだ」

「俺の戦闘スタイルでつけられたんだよ。火魔法と治癒魔法からな。昔は土と水は使ってなかったし」

「ふーん。ペルディアスみたいだね」

「ペルディアスがどんなのか知らないが……あの炎の鳥みたいなものだ」

「そいつがペルディアスだよ」


 あいつはペルディアスっていうのか。


「よく知ってましたね?」


 ルミが二人に尋ねる。

 確かに、ボスの名前なんて普通は知り得ないのに、良く知ってたな。


「すごいでしょ? 私たちは何でも知ってるんだよ」


 イモータが答え、二人はお互いに見合って笑い合った。まるで、悪戯を企んだ子どものようだ。実際に子どもだが。


「何でも知ってるんだったら、あいつの弱点でも教えてくれないか?」

「「うーん。弱点ねえ……」」


 モータルとイモータが考えるように指を顎に当てて、すぐに閃いたように手を叩く。


「「そんなものはな~いよ。あはははははは」」


 そう言って、二人はくすくすと小馬鹿にしたように笑う。


「だよね。モータ」

「そうだね。モータ」


 頷き合った二人は、楽しそうな顔のままこちらを向いてきた。


「他の情報を教えてあげてもいいけど~」

「ただであげるのもね~」

「そうだな~」

「ノディーンたちがゲームで勝ったら、ペルディアスに関する情報をあげるね~」

「ノもいらない。それよりもゲーム?」


 ゲームって何するんだ? ポケ○ンとか?

 マリ○カートなら勝ち確なんだが。


「かくれんぼだよ」

「私たちを一回見つけるごとに、情報を一個あげるね」


 スイ○ンみたいなやつか。


「ス○クンみたいな感じですね」


 ルミも同じことを思ったらしい。


「範囲はこの島」

「海には出ないよ」

「……こちらにデメリットは?」

「そんなのないよ」

「私たちが遊びたいだけだもん」


 そう言って、二人は木から降りる。

 とんと跳ぶのではなく、するするーとロープを滑るみたいな感じだ。


「参加賞として一つだけ教えておいてあげるね」

「あっちに行けば村があるよ。もう誰もいないけど」


 そう言って、イモータが右方向を指す。


「こっちに行けば女の子が倒れてるよ。綺麗な銀色の髪の女の子が」


 そう言って、モータルが左方向を指す。


「も~、それも教えちゃうと二つになっちゃうよ」

「あ。本当だ」


「「あはははははは」」


 二人がそう笑い合うと、突然目の前が真っ暗になった。


「じゃあ逃げよ。モータ」

「そうだね。モータ」


 二人が走る音が聞こえる。


「ッ!? アースウォール!」


 咄嗟に土壁を発動させて、攻撃に備える。


 しかし、暗転した視力は数秒で元に戻った。


「……いない」

「隠れたんでしょうか?」


 たった数秒だったが、それだけで二人の姿は綺麗になくなっていた。


 足跡も、魔力の残滓もない。


「わかったのは、あいつらのあだ名がどっちもモータだということだけか」

「そこ気にするところ?」


 わかりにくいと思う。


 それよりもみんなの安全確認が先か。


「全員いるか?」

「うん」

「はい」

「問題ないわ」

「いるです」


 とりあえず全員いるようだ。良かった。


「一応、こっちに行ってみる?」

「女の子がいるっていう方?」

「うん。本当だったら大変だよ」

「……それもそうだな」


 ロゼの言う通りだ。


「じゃあ行くか」

「わーい。おんぶおんぶ!」

「……自分で歩け」


 さすがに自分で歩いてほしい。

 疲れはしないけど動きにくいし。


◇◇◇


「……本当にいたな」


 左に進んでいると、モータたちが言っていたように銀髪で傷だらけの少女が倒れていた。


 すごい美少女で、胸もロゼとルミに負けていない。

 ……俺、胸ばっかり見すぎじゃない?


「つーか、どっかで見たことある顔だな」

「ええ。私も見覚えがあるわ」

「そーなの? 私は知らないけど」

「私も知らないです」

「私は……そもそも、この世界の人のことを全然知りませんし」


 うーん。どこかで見たことあるんだよなぁ。


「宗教勧誘とかじゃないの? この人、シスターっぽいし」

「シスター?」

「うん。修道服というにはエッチな服だけど」


 そう言って、もう一度よく見てみる。

 確かに着ている服は黒色の修道服だが、明らかに大きな胸やお尻が強調されたものになっている。谷間は開いていて、スカートには深いスリットがはいっている。非常に扇情的な格好だ。


 この神にケンカを売ってるとしか思えないエロ衣装……間違いない!


「こいつオリヴィアだ。守神教の聖女」

「あ~」


 俺の言葉に、ジュリアは合点がいったという風に手を叩く。


「……ん」

「あ。起きた」


 どんな人物なのか話そうと思ったら、オリヴィアの目が覚めた。


「……ディーン?」

「ああ。よくわかったな」


 こいつと会ったのって、一三歳の時の一回だけだし、オリヴィアが俺を覚えていたのに素直に驚く。


「……最後に見れて良かった。ん」

「何してんの?」


 突然、唇を突き出すオリヴィアに素で返してしまう。

 しかし、それは無視されて、思い切り頭を掴まれたかと思うとキスさせられた。

 唇と唇を合わせる接吻である。それもディープでフレンチなやつだ。


「……何してるの?」

「……何してるです?」


 ジュリアとコラリーの視線が痛い! 二人ともなんか怖い!


「うわーうわー。エッチー」

「ちょ、ちょっと! ハーレムはいいけど、せめて言ってからにしてよ! ……もしかして、私に飽きちゃった?」


 ルミは楽しんでるし、ロゼは被害妄想であわあわしてるしで、全然状況がまとまらない。


 というかキス長くない?


「ぷはっ」

「ん。どうして放すの?」

「聞きたいことがあるから」

「……? 死ぬ前の幻が何を話すの?」

「ヒール」


 キョトンとした顔のオリヴィアに向かって治癒魔法を使う。

 それは見事に彼女の傷を治した。


「……え? ほ、本物?」

「ああ。わかったら、なんでお前がここにいるのか聞かせ――」


 聞かせてくれと言う前に、オリヴィアが頭を抱える。


「う、ううううう。恥ずかしい……」


 ……これは、少し間をおいた方がいいかもな。

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