表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/18

1-11 貴き剣の現状(貴き剣side/微ざまぁ回)

 前回ちょっと休むと言ったんですが、この話だけ投稿します(次の話はちょっとだけ待ってください)

■栄火の孤島



 ディーンとジュリアが話している時、彼らとは別の集団が洞窟の中でギャアギャアと騒いでいた。

 コラリーが奴隷として所属していたAランクの冒険者パーティー“貴き剣”である。


「だああああああ、なんで侯爵の俺がこんなまずいもん食わなちゃいけねえんだよ!! 誰か料理くらい作れよ!!」

「はあ!? なんで料理なんていう平民がやることをしないといけないんだ!?」

「私だって嫌だからね! 肌が荒れるし!!」


 そんな将来を期待されている新進気鋭のパーティーは、醜く言い争っていた。


 彼らは皆、オルロス王国の貴族の生まれだ。それも、爵位に関係なく裕福な家に生まれている。

 そのお金で装備を整え、高位の冒険者に師事を受けてきた。

 そのこともあって、ほとんど失敗したことがなかった。


 ――昨日までは。


「……飯はコラリーが作ってたしな」

「はあ!? 私たちが、あの乳臭いガキに劣ってるっていうの!?」

「い、いや。そうじゃねえよ……」


 彼らは、ずっと貴族として生きてきたので生活能力は低かった。

 それでも、まがりなりにも冒険者としてやってこれたのはコラリーがいたからだ。


 装備が壊れかけてもコラリーの加工魔法で素材さえあれば修復できたし、料理も一瞬で出された。

 彼らは、一流のシェフが作ったものばかり食べていたので、コラリーの魔法によって作られた料理をマズいと感じていたが、それでも今食べている保存食の何倍もマシだった。

 荷物持ちや見張りといった雑用もすべてをコラリーが拙いながらもしていた。

 しかし、彼女がいなくなったせいでそれをする人がいなくなり、彼らの雰囲気は最悪だった。


「……やっぱり、コラリーを殺すのは攻略した後でも良かったんじゃ」


 そう言うのは、この中で最も爵位の低い盾使いの男。

 男は無意識に呟いた直後、「あ、やべ」と慌てて口をふさいだ。


「ダメに決まってるでしょ! 私が間違っていたと言うの!?」


 パーティーメンバーである四人が緊張の面持ちで眺め、それに応えるようにヒステリックに叫んだのは一人の美しい女性だった。

 彼女の名前はレティシア。オルロス王国の中でも一、二を争う権力を持つアーデルハイト公爵家の令嬢で“剣嬢”の異名を持つ冒険者だ。


「わ、わりい……」

「……私たちの英雄譚に、あんな売女は相応しくないわ」


 レティシアの言葉が、彼女たちがコラリーの四肢を切り落とした理由だった。


「だが、誰が荷物を持つとか夜の見張りとかは決めた方がいいんじゃないか?」

「んなもん、低位貴族の奴らが持てばいいじゃねえか!! それよりも飯だ飯!!」


 パーティーの一員である暗殺者がそう提案するが、すぐに槍使いが反対する。


「もう持ちたくねえよ!! ていうか、お前の家だって我が家との交易で儲けてるんだろうが! お父様に言って、取り消してもらうぞ!」

「な、なんだとぉ……!!」

「わかったなら、お前がやれ!!」


 槍使いの言葉に盾使いが反論する。

 槍使いは顔を赤くして怒るが、言われた言葉も事実であるため、碌な反論ができなかった。


 Aランクのパーティーとしては考えられない程の無様な様子を展開する“貴き剣”。


「おい。コラリーを助けた奴らを見つけたぞ」

「おかえり、キース」


 そんな中、偵察に出ていた弓使いのキースが戻ってきた。


「それで、どうだったの?」

「……家を建てていた」

「はあ?」


 弓使いの言葉に、剣嬢だけでなく、他の四人も首を傾げた。


「コラリーの魔法で木材を作り、それを組み立てて家を建てやがった。扉とかもコラリーの魔法で作っていた」


 その言葉に、“貴き剣”の面々の顔が赤くなっていく。


「ふ、ふざけんな!」

「高貴な私たちが洞窟で寝泊まりするっていうのに、平民どもは家ですって!?」


 自分たちが追放したコラリーが、自分たちよりもいい暮らしをしていることを知って、彼らの頭はどうにかなりそうだった。


「……決めたわ」


 そんな阿鼻叫喚の中、レティシアが口を開く。


「明日の朝、あいつらを倒すわ。そうして、物資を奪う……いいえ。奪うというのは不適切な言葉ね。平民が貴族に奉仕するのは当然なんだから」

「んで、あいつらを奴隷として扱き使うってことだな?」

「あいつらを肉壁にしてダンジョン攻略ね!」

「くくく。男を除いて全員、顔と体は良かったからな。性処理として使うのもいいかもしれない」

「決まりだな!」

「はーはっはっはっは! あいつらも俺たちのために死ねるなんて、大出世じゃねえか!」


 六者六様、醜く笑い合い、彼女らは訪れるであろう栄光に思いを馳せた。結局、平民だと思い込んでいるディーンたちに無意識に頼っていることにも自覚せずに。


 彼女たちを祝福するように朝日が昇る。


 ――それが、彼女たちを破滅へと導く焔とも知らずに。


◇◇◇


side:ディーン・ファミネ



「くしゅ!」

「どうしたの? 風邪?」

「いや……何か、途轍もなく不快なことを言われた気がしたです」


 朝、コラリーが起き、その後、意識を飛ばしていたロゼとルミが目覚めた。

 ジュリアはまだ寝ている。まあ、夜遅かった……というか寝たのがついさっきだから仕方ない。


 起こすのもあれなので、俺たちは紅茶を飲みながら、コーンスープとふわふわな食パン、そしてヨーグルトを食べていた。

 和食を好むルミは不服そうだったが、どうしても洋食にしてほしいと俺とロゼが頼み込んだ。この世界のパンは大体が硬いのだ。柔らかいのもあるっちゃあるが、それは元平民の俺らからしたら目が飛び出るような値段だ。貴族になってからも、俺は国を出れた時用にお金を貯めていたし、ロゼは一人暮らし費用でほとんど消えていた。

 だから、どうしても柔らかいパンが食べたかったのだ。


「このパンすごく柔くて美味しいです! この黄色いスープも味があるです! スープって味があるんですね!」


 コラリーなんか感動して、俺とルミにキラキラとした視線を向けていた。

 どうして、ルミだけじゃなくて俺にもそういう視線を送っているのかというと、俺が三人の中では一番強くてリーダーだからだそうだ。

 その証拠に――


「ディーン様ぁ。コラリー、体は小さいけどおっぱいとお尻は大きいんですよ」

「見たらわかるが……それで?」

「よく見たら、ディーン様とってもイケメンですぅ。そのキリッとした目とかぁ、えーと、その鋭い目つきとかぁ」


 こうして猫撫で声で媚びへつらってくる。


「もう一声」

「え? あう、えーと……鷹のような目とかぁ」

「コラリーは人と話す時、ちゃんと相手の目見てて偉いな」

「えへへ。褒められちゃったです」


 目フェチかもしれないコラリーの頭を撫でると、彼女は目を細くして喜んだ。


「ていうか、べつにそんなことしなくても飯抜いたりしねえよ」

「本当ですか!?」


 おお。そんなに驚かなくても。


「媚び売って損したです。お詫びとしてパンもらっていくです」

「おおい!」


 食パンを強奪される。


 いや、何やってんだ。


「ダメだ、返せ!」

「嫌です。すぐに食べちゃうです」

「かーえーせー」


 久々のふわふわパンだ。渡すわけにはいかない。

 一瞬で口に入れようとするコラリーから食パンを奪い返す。


「う……」

「う?」

「うわああああああん! 私のパンなのー!」

「うおっ!?」


 すると、コラリーが駄々っ子のように泣き始めた。ようにというか、駄々っ子そのものだ。


「パン欲しい! ほーしーいーのー!!」


 地面で転げまわるコラリーを不憫に思い、彼女の皿の上にパンを置いた。


「ほら、あげるから落ち着け」

「う、うぅ……くれるんだったら最初からくれたら良かったのに」

「お前、実は俺のことなめてるだろ」


 感謝の言葉くらい述べろ。


「スラムにいた時やご主人様たちと一緒にいた頃とは比べ物にならないご飯です」

「やっぱりスラム出身だったんだな」


 そうだと思ったわ。

 あの意地汚さはスラム特有のものだし。


「ま、俺もスラム出身だし気にすることねえよ」

「ほえ? ご飯食べてたから聞いてなかったです」

「おい!」


 こいつどんだけ食い意地はってるんだ。

 ……いや、俺らもかつてはそうだったわ。


「というか、スラムにいたんだね。アマノカ王国に来る前の話は教えてくれなかったよね」

「ん? まあ、面白くないからな」


 話していいことないからな。

 でも、序盤は面白いかもしれない。劇にもなってるし。


「それで、今日はどうするんですか?」

「まあ、普通に探検だろ。できればアーティファクトかボスの縄張りを見つけたい」


 ルミの質問に答える。

 彼女のスマホからわかるように、アーティファクトは非常に便利で強力だ。俺の今の実力ではSランクの魔物も倒せない以上、ボスと挑むためには必要なものだ。一応、戦える(最低でもAランクの冒険者並みの実力を持つ奴)仲間がいてくれたらやりようはあるが、今このダンジョンにいると判明しているのは俺らを除けば“貴き剣”だけだ。

 “貴き剣”は実力は申し分ないと思うが、ぶっちゃけいい噂を聞かない。というか、典型的な貴族至上主義の集まりらしい。はっきりと言って、奴らと組むのは無理だ。ボスを倒した後に後ろから刺してきそうだし。そうじゃなかったとしても、コラリーの件があるし。


 ボスの縄張りは、普通にどこにあるかわかっている方が探索の時にびくびくしなくてすむからだ。余計なストレスは抱えたくない。


「それにここは栄火の孤島。森じゃなくて島だって言うんだから、他の自然環境もあるかもしれない。それこそ、鉱山とかあったらお金持ち間違いなしだし、ポイントもじゃんじゃん交換できる」


 入るまでどんな環境かわからないダンジョンだが、それには当たりはずれがある。

 その中でも一番の当たりが鉱山型だ。オリハルコンやミスリルのような魔金属(鉱石に大量の自然の魔力が蓄積されることでできる新たな鉱石を製錬したもの)を大量に入手できるから、攻略した後は大金持ち確定の宝の山だ。ガチャで言えばSSR。

 逆に大外れは荒野と砂漠型だ。まじで何もないらしい。まだ、木材や草花がある森林型の方がましだ。

 ちなみに孤島型のレアリティは変動する。場合によってはハズレで構成されている島もあれば、当たりで構成されている島もあるからだ。


「おはよう」


 そんな話をしていると、ジュリアが起きてきた。

 彼女の前に朝食が置かれる。


 よし。彼女が朝食を食べ終わるまで、食後の紅茶を飲むか。

ブクマ、特に評価で応援していただけると嬉しいです。

少しでも【面白い】、【続きが読みたい】と思いましたら広告↓にある☆☆☆☆☆を★★★★★で評価ができますのでお願いします!


作者の励みになるのでぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ