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1-10 見捨てない

side:ディーン・ファミネ



「あいつの属性は呪だ」

「のろい?」

「ああ。まあ、俺も全貌を把握しているわけではない。呪属性の魔法について俺が知っているのは三つだけだ」


 指を三の形にする。


「一つ目はポイズン・カース。対象が食べる飲食に毒を入れる魔法。

 二つ目はロスト・カース。対象の方向感覚を乱す魔法。

 そして、三つ目にしてお前の属性を変えた魔法、チェンジ・カース」


 大国がスカウトしただけあって、あの女の魔法は強く、使い勝手が良い。


「まあ、まず間違いなく発動するための条件はあるがな」

「そうなの?」

「無条件でできるなら、お前を見逃す理由がない」

「……私を見逃したのは祝福の魔法が欲しかったから……」

「ああ」


 彼女の言葉を肯定するために頷く。

 こいつの属性の詳細は知らないが、自分たちに敵対し、殺しても問題ないのに生かす理由があるとすれば、俺と同じように属性が有用な時だけだ


「それに、あいつらが俺と契約したのは、世界に三人しかいないという治癒系の属性である治癒属性が欲しかったからだ。そのことから、奴の呪属性は強力かつ使い勝手がいいが、条件は厳しいと言える。バンバン使えるなら、適当な奴が当たりをだすまでやり続ければいいからな」

「……そうね」


 まあ、その条件をさらす程、アマノカはバカじゃないから考えても無駄だろうが。


「じゃあ、お前の属性を元に戻すぞ」


 ジュリアの過去もわかったことだし、そろそろ本題を始めよう。


 俺の言葉にジュリアはごく……とつばを飲み込んだ。


「私はどうすればいいの?」

「服をたくし上げろ」


 パン! と頬を叩かれた。痛い。


「へ、変態ッ! 淑女に向かってむ、胸を見せろなんて……!」

「お、俺が女好きでも言わねえよ。いや、女好きじゃないけど。普通に鳩尾あたりまででいいよ」

「本当に?」

「本当に」

「……そ、そう。それはごめんなさいね」

「じゃあ、上げてもらってもいいか?」


 頬をさすりながら、もう一度頼む。


 ジュリアは、言葉通りに寝間着をたくし上げていく。

 その頬は紅潮し、恥ずかしそうに目を泳がしている。ゆっくり上げていくせいで、治療のためなのにエッチな気分になってくる。


「……ッ!」


 やがて、シミ一つない白い肌が露わになった。恥辱に彩られた表情とくびれた腰が劣情を煽る。


「触るぞ」

「ひゃん!」


 ジュリアが変な声を上げるが、気にせずに続ける。

 可愛らしいおへそを中心に魔力を流す。

 すると、彼女の全身に紋章が浮かび上がった。


「こ、これは?」

「呪印。あいつの魔法にかかった奴はこれを刻まれる。魔力を流すことで視認できるようになる。それじゃあ、治癒魔法をかけるぞ。ディスペル・ヒール」

「うっ、うぅ……」


 ジュリアの苦しそうながら色っぽい悲鳴を無視して治療を進める。


 そういえば、ユーリはオロフに魔法を習っていたな。

 オロフの指導の成果か、今回の呪魔法は昔治療した(呪属性の強さを確かめるためにオロフが自主的にかかった時)に比べて時間がかかった。


 ……たった一年でここまで強くなるなんて。やはり、アマノカ王国は底が知れない……クソ!


「……終わったぞ。ついでに魔眼も取り除いた」

「そうなの? 全然、何かが変わった気がしないけど」

「あとで鏡見てみろ。左目が紫に戻ってる」


 先ほどまでのオッドアイと違い、今の彼女の瞳は両目とも同じになっている。


「何なら試してみるといい」

「う、うん。ブレシング」


 ジュリアが紅茶に向かって魔法をかける。

 すると、紅茶の上で虹色の球体が踊るように浮かび、カップの中に入った。


 それを懐かしそうに見ていたジュリアは、その瞳に期待を含まさせて飲んだ。


「……ありがとう」

「あ、ああ」

「本当に……本当にありがとう」


 ジュリアが泣き始める。

 あいにくハンカチを持っていないので、俺は彼女の涙を手で拭うことしかできなかった。


「安心しろ」


 いや、もう一つできることがある。

 言葉をかけることだ。


「またお前が誰かを傷つけられそうになったら俺が護るよ。俺はそう簡単には死なないからな」

「……えぇ」

「そんでもって、お前が自分の意志と関係なく人を傷つけようとしたら俺が避雷針になってやる。俺はちょっとやそっとの怪我じゃ怒んねえから」

「……えぇ」


 なんせ、ついさっきモザイクから生還し、一切怒らなかったんだ。説得力はダンチだろう。


「お前が俺の敵じゃない限り、俺は絶対にお前を見捨てない」

「……うん」

「ただし、敵になったら容赦はしないからな」


 これだけは言っとかないと。


「そういや、お前の祝福魔法で何が変わったんだ?」

「食器にかけると、飲食がいつもより美味しくなるのよ。ちなみに、荒野に使うと緑豊かに、農地に使うと作物が枯れなくなるうえに品質が上がるわ。値段を十倍にしても完売できる程度には」

「……それはアマノカが欲しがるはずだ」


 最初のはともかく、後の二つはどの国でも欲しがる属性だ。なんせ、凶作というものがなくなるのだから。


「確かに最近ウルリア王国の野菜とかが高値で売られてるのを見たことあるな」

「それは私のおかげよ。褒め称えるがいいわ」

「おー、すごいすごい」


 にしても、ジュリアがいなくなったウルリア王国は大惨事だろうな。


「ま、とりあえずもう寝とけ。今日は昨日よりも動いてもらうんだから」

「ええ。久しぶりにいい夢が見れそうだわ」


 椅子から立ち上がり、んーと伸びをしてからジュリアは美しく笑った。


「貴方は寝なくていいの?」

「俺はもう完全に目覚めちまったし、このままみんなが起きるのを待っとくよ」

「わかったわ」

「じゃ、おやすみ」


 紅茶のおかわり注ぐか。


 そう思い立ち上がると、俺の前にジュリアがやって来た。


「どうした?」

「…………」

「おーい」


 え、え? 本当に何?


 無言で見つめてくるのにどうしていいかわからず、立ち止まってしまう。


 ジュリアはそんな俺を無視してジーと見つめた後、ハアとため息をついた。


「なんでもないわ。おやすみなさい」

「あ、ああ」


 本当に何ともなさそうにされた就寝の挨拶に生返事を返してしまう。


「何だったんだ……?」


 思わず出た疑問の声に返ってくる言葉はなかった。


◇◇◇


side:ジュリア・エーデルワイス



「…………」


 思わず早歩きで部屋まで向かってしまう。


「うぅ……」


 自分の頬が紅潮しているのがわかる。


 さっきは誤魔化せたとは思うけどバレてないかしら。


「ありえないわよ。今日初めて会ったうえに、あんな二股かけてるような男に……ッ!」


 口はそう言うが、胸の動悸が止まらない。

 手を当てるとドッドッドッと聞こえる。


「……あ」


 そのことから目を逸らすように歩いた先には、さっきまで一緒にいて、私の心をかき乱している男の部屋があった。


「不用心ね」


 開けっ放しになっている扉を閉めようと近づくと、彼の寝具に眠る二人の女の姿が見えた。


 ロゼとルミ。

 同い年の彼女たちは、どちらも非常に可愛らしい顔をしている。私もリリー……ユーリが来る前は世界で一番美しいと言われてきた自負(あんな奴らに褒められても嬉しくはないが)があるから、顔に嫉妬したりはしない。

 でも、確実に負けている部分が一つだけある。胸だ。


「…………」


 自分の乳房をなぞる。

 最後に測ったときはIカップだったし、今はそれよりも確実に大きくなっているはずだ。十分大きいし形も悪くないと思う。あの男が巨乳好きでも問題な……ってあんな奴はどうでもいいの!

 ともかく、大きさには自信のある私の胸も、この二人には勝てない。

 卑猥な下着に包まれた胸はそれぐらいのレベルだ。


「……負けないもん」


 無意識に呟いた言葉に対する言い訳も思いつかないまま、私は自室まで歩いた。


◇◇◇


side:ディーン・ファミネ



「貴き剣か……」


 ジュリアがリビングから出たので、俺は“剣嬢”――コラリーの元主人たちについて考えていた。


「あいつらにはああ言ったが、Aランクは普通に強いからな」


 『Aランクなんざ、ダンジョンを攻略してない一般冒険者だからな』と言ったには言ったが、俺だってダンジョンの攻略経験はないんだ。


「分かっているのは、つい最近Aランクになったこと。そして、オーソドックスな六人パーティーだということ」


 剣士の“剣嬢”レティシアを筆頭に、槍使い、盾使い、弓使い、火魔法使い、暗殺者のパーティー。それが貴き剣。

 全員が貴族の子息子女で、そのことから莫大な資金援助を受けている。その資金を使って、幼い頃から高ランク冒険者に手ほどきを受けたり、F級の時から強力な武器やアイテムを所持している。典型的なボンボンパーティーだが、高ランクの冒険者に師事していただけあって実力は本物だ。


「王道には有効な策はねえし、純粋な力の差で勝負は決まるか……」


 俺自身“貴き剣”のことは伝聞でしか知らねえし、コラリーも個人の性格は知ってても細かい癖とかは知らなかったし、事前に打てる手は少ない。

 まあ、高ランクの冒険者パーティーなんてそんなもんだ。俺も冒険者だった頃に組んでたパーティー“蠱毒な星屑”の時は互いの弱点を補い合うようにしてたしな。


「っと、そういやこれ潰さねえと」


 俺はずっと握っていた右手を開ける。


 そこには、眼球があった。

 瞳の色は赤――先ほどまでジュリアの左目だったものだ。


 それはすでに生命の光は失っており、何もしなくても無害なものだ。

 けれども俺は潰す。ありったけの憎悪を込めて。


「……俺はどうするつもりもねえ。護りたい奴らがいるから」


 ロゼとルミ。

 俺が今護りたい思う少女たち。もしかしたら、護りたいと思う奴は増えるかもしれない。

 そいつらのことを考えたら、俺が手を出すなんてことはありえねえ。


 だけど――


「来るなら来い……今度こそは地獄に堕としてやる」


 グチャッ! という音をたてて、赤い目――オロフの魔眼が潰れた。


「オロフ……いや、アマノカ!」


 そうして、ダンジョン一日目の夜が終わり、波乱の二日目が始まった。

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