表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/19

6日目 呼ぶ女


 金曜日の朝。

 

 あの女、今朝も居る。

 こうも連日ともなると、この女は空き地の備品か何かの気がしてきた。

 

 俺は、あいも変わらず早朝から空き地にしゃがみ込んでいる女に話しかける。


「おはよう、ダンゴムシは採れてる?」


 女は俺を見返すと、不機嫌そうに口を尖らせる。


「おはよう。社畜さんはダンゴムシは無限に沸いてくると思ってるでしょ?」

「ああ、思ってる」

「私くらいの熱心なコレクターがいる場合。この程度の空き地だと、たまに禁漁区を設けないと。今日は見るだけ」


 なるほど。

 それがダンゴムシ業界の常識らしい。


「何事も休養が大切なんだから。社畜さんも週休0日とか続けてると、すっからかんになっちゃうよ」

「それが……なんか土日は職場に来なくていいって言われたんだ」

「あれ、良かったね。ブラック企業がグレーくらいになったの?」

「昨日の会議の途中、なんか小腹が空いたんだけど」

「あー、会議。あれってお腹すくよね、うん」


 うんうんと頷く女。

 ……こいつ、絶対に分かってない。


「で、スーツのポケットに君から貰った麩菓子が入ってるのを思い出して。会議中に食べ始めたら……なんか土日は行かなくていいことになったんだ」


 女は凄く微妙そうな顔で俺を眺める。


「……良く分からないけど。それって喜んでいいことだよね」

「まあ、土日は家で仕事できるから楽になったかな」

「え。結局家で働くの?」

「ほら……最近、テレワークとか流行ってるでしょ? うちの会社も週末は段階的に導入していこうかって話が」

「テレワークってそんなんだっけ」


 そうだけど、そんなんじゃない気もする。


「まあいいか。じゃあ社畜さん、あと一日頑張ってね」

「……前から気になってたけど。なんで俺のこと社畜さんって呼ぶの?」

「だってあなた、社畜でしょ?」


 女は不思議そうに俺を見返す。


「社畜だね……間違っては無いけど」

「めんどくさい人ね。じゃあ名前で呼んで欲しいとか」


 ……名前か。

 この女に名前で呼んでもらう―――


「……いや。見知らぬ人に名前を教えるとか危険だな。社畜さんのままでいいよ」

「……社畜さん、微妙にあなた失礼ね。そっちこそ、私のこときみって呼んでるでしょ。あれも大概よ」

「心の中では“ダンゴムシの人”と呼んでるけど。そっちが良かった?」

「……きみでいいわ」


 女はため息をつくと、我慢できないのかダンゴムシをつついて丸くする作業を始めた。


 さて、俺も駅に向かうとするか。

 

「それじゃ、行ってらっしゃい」


 手を振る娘。


 ……今日一日だ。

 越えれば週末、会社に行かなくていいのだ。


 俺も手を振り返す。



「それじゃ、行ってきます」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 土日は出てこなくていい、って。 それ、そろそろコイツやべえって思われただけよね…? まあテレワークの時点で何の解決にもなってない上に、給料発生しているのかも怪しいのだが?
[良い点] 女の子が可愛い。虫愛でる姫君というのは、男の本能に訴える不思議な魅力がある。ただ、個人的には、虫は虫でも、よりグロテスクなキワモノの方がぐっとくる。ヒロインには、もっと歪んで壊れていて欲し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ