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48 独断専行

「これが砦……」


川を飛び越えた僕の目の前に広がったのは石で作られた大きな壁。

見るからに頑丈そうで巨大なソレは思わず作るのに何年掛かったのかを想像してしまう程に雄大で、自然と足を止めて見上げてしまうほど圧倒的だった。


これ、壊せるの?


僕の中に焦りが生まれる。

けれど、次の瞬間――


「きゃぁ!?」


突如、僕の立っていた位置から20メートルほど離れた場所に大きな火球が直撃した。

爆発音と衝撃、続いて“何か”が崩れるような音が聞こえてきて、恐る恐る目を開く。


「うわぁ……」


さっきまで一面には壁しかなかったのに……。

視線の先では大きな穴1つと石の瓦礫(がれき)が積み上がっていた。


余裕でぶっ壊せるとは言ってたけど、まさか本当にできるなんて。

つくづくサラは滅茶苦茶というか、魔法がすごいというか。


「って、そんなこと考えてる場合じゃない!」


こうしている間にも兵士さんは……。

頭の中にさっきまでの凄惨な光景が広がる。


「うぇっ――ぐっ」


こみ上げてくる吐き気をどうにか抑える。

今は、吐いてる場合じゃない。


僕は荒い息をつきながら、サラがあけてくれた穴へと走りこんだ。


「な、子供!?今の爆発はコイツか!?」

「魔人族かもしれん!殺せ!」


すると、砦の中には獣人(?)みたいな人が大勢いて……。

彼らは叫びと共に剣や杖を構えて、一直線に僕の元まで走ってきた。


「ひぃ――」


思わず悲鳴を上げそうになった、けど!

僕は必死に悲鳴を飲み込んで、獣人さん達に向けて突撃した。


「ごめんなさい!」


叫びながら、不壊の剣を横薙ぎに振るう。

僕としては牽制のつもりだったんだけど、想像とは違って獣人さん達は剣を避けられず、簡単に吹き飛ばされてくれた。


近衛騎士さん達よりも弱いし、クリスさんよりも遅い!

これなら僕でも突破できる!


「えーい!」


剣の腹で叩くことを意識しながら、襲い掛かってくる獣人さん達を次々と打ち倒す。

もしかしたら、怪我とかしちゃってるかもだけど……でも、早く先に行かないとだから、ごめんなさい!


「くそ!見た目に騙されるな!」

《――火よ、彼の者を吹き飛ばせ!》


飛んでくる魔法をリバージョンで打ち消す。

サラの魔法より遅いし、小さい。

これくらいなら問題なしだよ!


「えい!」


火魔法を撃ってきたローブを着た人を素手で吹き飛ばす。

ちょっと、嫌な音がしたような……?

えぇと、うぅ、ごめんなさい!


「し、失礼しましたー!」


包囲を突破して、全速力で駆けだす。


目指すは元英雄、ただ一人。

僕は道の先をにらみながら、砦の中を走り続けた。


――そうして、砦の中を逃げ回ること数分後。


「や、やっと見つけた……」


砦の中を散々走り回った僕は、ようやく王都の方角に抜けられる門を見つけることができた。


あとはここを通れば……。

僕は門の扉を手で押して――え、あれ?


「あ、開かない……!?」


大きな扉で閉ざされた門は手で押してもビクともせず、開く気配が一切ない。

鍵が閉まってる(?)みたいなんだけど、門の開け方なんてわかるわけないし……。


ど、どうしよう、早くしないと誰か来ちゃうかもしれないのに!


「えぇと、えぇと――そうだ!」


通れないなら、壊せばいいんだ。

僕は不壊の剣を大きく振りかぶり、力をこめて扉に振り下ろした。


「おぉ……」


勇者パワー恐るべし。

僕の攻撃により扉は大きく(きし)み、大きな亀裂をその身に走らせ始めた。


「よーし!」


目に見える成果にやる気を沸かせながら、剣を扉に叩きつけていく。

2回、3回と数を重ねるごとに扉は歪み、亀裂は増して――


「やった!」


5回目の攻撃で扉は崩れて、人ひとりが通り抜けられる程の穴を空けてくれた。

僕は喜ぶ感情を抑えながら門を通り抜け、目の前に広がる森を見据える。


この先に全ての元凶――元英雄がいる。


「あんなひどいことは、絶対に止めないといけない」


あれが戦争だというのなら、絶対にそれを認めることなんてできない。

スタネアさんは『戦争は正義を決める戦い』だと言って、クリスさんは『国のために死ぬことが誇らしい』なんて変なこと言ってたけど、人が死ぬことが正しいなんて……あり得ないんだから。


正義の為だろうと何だろうと、戦争なんて起こしちゃいけない。

僕は覚悟を決めて、森へと踏み出して――


「ゆかりー!待ちなさいよー!」


……え、サラの声?どこから?


突然聞こえてきた声に周囲を見渡す。

けれど、周りには誰もいない。


僕の視線は自ずと空へと向かい――


「むぎゅ!?」


空を見上げた瞬間、僕の顔に柔らかいモノがのしかかってきた。


「やっと捕まえたわ。あんた、いきなり飛び出していったから……クリスとラーファが怒ってるわよ?」


「――ぷはっ!」


僕の顔に抱きつきながら普通に話し始めたサラを、何とか引きはがす。

すると、僕の周りにはいつの間にかクリスさんとラーファもいて……。


しかも、何故かすごく怒ったような表情で僕の事を見ていた。


「指示もないのに急に飛び出して……。何を考えているんですか」


「え、えぇと……」


怖い顔で距離を詰めてきたクリスさんから後退(あとずさ)る。

すると、逃げ道をふさぐように、今度はラーファが頬を膨らませながら詰め寄ってきた。


「そうです!あんな危ないこと……もっと、自分の身を大事にしてください!」


自分の身を大事にって、お姫様なのにこんな所まで来るようなラーファに言われたくないんだけども……。

って、そうじゃなくて。


「何で皆がここにいるの……?」


「そんなの、あたしの風魔法で運んだからに決まってるじゃない。ふふん、練習したおかげで結構使いやすくなったのよ?」


聖都の時は地面スレスレで、しかも2人しか運べない魔法だって言ってたのに……。

相変わらずサラはすごい――ん?あれ?


「さっき風魔法は危ないって言ってたよね?大丈夫だったの……?」


「それに関しては問題ありませんでした。縁殿の行動が、その、結果的にうまくいってしまったので……」


え、僕が……何を?


「縁殿が――というか、サラの魔法が砦の壁に大穴を空けたおかげでリベリア軍は混乱。しかも、縁殿が砦内部を荒らしまわったせいか指揮系統もおかしくなったようで……今、敵は総崩れとなっております」


どうやら、僕の動きが帝国にとっては良い方面に働いたらしい。

けれど、クリスさんはまったく嬉しそうじゃなくて、むしろ悲しそうな表情で言葉を続けた。


「結果的にお手柄と、言わざるを得ませんが……もう、勝手な行動はやめてくださいね?一つ間違えば死んでいたかもしれないんですから」


「ご、ごめんなさい……」


クリスさんの様子に思わず罪悪感が込み上げてくる。

きっと、本気で心配してくれたんだと思うから。


だけど……。


「……でも、僕は元英雄を捕まえないといけないから、王都に向かうよ」


人が死ぬのを止めないといけない。

原因を捕まえて、この戦争を終わらせないといけない。


僕は皆に背を向けて、駆けだそうとした。


「ダメです」


けれど、そんな言葉と共に、クリスさんが僕を後ろから抱きしめてきて。


「せめて理由を言ってください。こっちは何にもわかってないんですから……」


「……っ」


その言葉と雰囲気に、自然と僕の体は動きを止めてしまった。

本当なら今すぐ王都まで走っていきたい、元英雄を探しに行きたい。

でも、この腕を拒絶してしまったら、捨てちゃいけないモノを捨ててしまう気がして。


僕は胸の奥からこみあげる気持ち悪さを一旦脇へと置いて、飛び出した理由を皆に説明することにした。


「戦争を止めないといけないから、元英雄を捕まえようって思って……」


「何故戦争を止めると?縁殿も頑張ると言っていたではないですか」


「それは、知らなかったから……!人がいっぱい死ぬってわかってたら、協力なんてしなかった!」


正義を決めるとか奴隷制を無くすとか、人が死ぬのに比べたらどうでもいい。

僕は神様に助けられたけど、本当なら死んだらそこで終わりで、その先は何もないんだよ?


どんな言い分があっても、どんな理由があっても。

人を殺すことを許しちゃ、絶対にダメなんだ。


「だから英雄を捕まえるっていうの?もし相手が本当に英雄なら、あんたなんて瞬殺されるわよ、瞬殺」


僕の言葉にサラが溜息をつく。

確かに、落ち着いて考えてみたら、僕の実力じゃ勝負にならない……と思う。

でも、諦めるなんて、絶対にできない。


そう思って、サラを見れば――サラはいつものようにドヤ顔で胸を張っていて、自信満々に言葉を続けた。


「まぁ、あたしがいればそんなことにはならないけどね!過去の英雄を倒してから始まる冒険……アツいわ!」


何となくわかるのが、ちょっと悔しい。

サラの言葉に何とも言えない気持ちになる中、サラに続くようにクリスさんとラーファも口を開いた。


「サラが何を言っているのか理解できませんが、そういうことなら私も行かせてもらいます。やめる気もないようですし、何より私は縁殿の護衛騎士ですから……許可は、後で取ります」


「わ、わたくしも行きます!ヴァンからの許可は事後承諾でも良いので!」


僕の勝手な行動についてきてくれるのは、純粋に嬉しいし。

正直、僕だけじゃできないことが多すぎたから、すごく助かるのも本当だ。


だけど、さっきの――あの惨状を見た時の、皆の反応を思い出すと……。


「……ありがとう」


ううん、考えすぎ、だよね。


皆は優しくて、いい子なんだから。

オークの時みたいに皆で協力すれば、今回も大丈夫。

僕は深呼吸をしてから3人の方を向き、一緒に行こうと微笑みかけた。


――それが次の地獄を生むなんて、思いもせずに。

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