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46 戦争に向けて

 スタネアさんとの話が終わり、聖堂から出た直後。

 僕はスキップをしながら、自室への帰り道をルンルン気分で飛び跳ねていた。


「ふんふふーん」


 セーノさんと別れたあの日から、実はスタネアさん達は悪い人なんじゃないかってずーっと疑ってたけど……。

 話を聞く限り悪い人には思えないというか、むしろ悪いことを見逃せないって言う人が悪い人なわけないというか。


「戦争を早く終わらせれば、前みたいにセーノさんと一緒にお喋りできるようになって、立派な勇者になったって褒めてもらえて……えへへ」


 スタネアさんの話が本当なら、やっと勇者としての仕事ができるかもだし、人の役にも立てるかもだし。

 まさに良いこと尽くめ、頑張らないとって感じだし。


 これは、気合を入れるしかないのでは?


 よし――


「えいえいお――」

「あんた、なにしてるのよ……」


「うぇ!?」


 突然聞こえてきた冷たい声に、はっとして前を向く。

 すると、そこには呆れているサラと怖い笑顔を浮かべたラーファが、僕の行く手を阻むかのように立ちふさがっていた。


「うふふ、何か嬉しいことでもあったのですか?是非、是非、是非、わたくしにも教えてください」


 え、何で2人がここにいるの?


 慌てて周囲を見渡せば……そこは既に、自室の前で。

 その状況から、“浮かれるあまり部屋に着いたことに気付いていなかった”という恥ずかしい事実が伝わり――僕は顔を押さえながら地面へと蹲った。


「スタネアとかいう怪しい司祭と何処に行っていたのか、何をしていたのか。気になってしょうがないんです、ねぇサラちゃん?」


「そうよ!あんたがいないからお菓子食べられなかったじゃない!どうしてくれるのよ!」


 さっきの姿をツッコまれなくてよかったけど、なんか怒っている理由がそれぞれ違うような……?


「えぇと、とりあえず部屋に入ろう?ちゃんと説明するから……」


 ただ、サラはいつものことだとしても、ラーファまで怒るのは珍しい。

 ここはちゃんと説明した方がいいかもしれない。


 僕はプンプンと怒る2人を連れて部屋へと入り、さっきまでスタネアさんと話していた内容を2人に伝えることにした。


「――って、ことがあって。僕も戦争に参加することになったんだ」


 リベリアが魔王を復活させようとしてることや、帝国をイジメていること。

 そして、それを止めるために戦争をすること。


 その全てを話し終えてから、反応を待つと。


「魔王って英雄が倒したやつよね?死んだ奴が生き返るわけないじゃない。バカじゃないの」


「半分嘘で、半分本当というところでしょうか?まぁ、魔王に関してはお母様が倒したので嘘に決まってますが」


 サラはそっぽを向いて腕を組み、ラーファは呆れたように溜息をつきながら。

 そして、共に不機嫌そうな声音で、それぞれ言葉を返してきた。


「えぇと、うーん……?」


 その断固とした言葉に、僕も一瞬悩んじゃったけど。

 ただ、2人とは違って明るい声を漏らす人もいて――


「おぉ、流石勇者様!勇敢です!」

「よくご決断されました、皇帝陛下も喜ぶことでしょう!」


 サラとラーファとは違い、二番隊の騎士さん達にとっては嬉しいニュースだったらしい。

 2人の騎士さんは涙ぐみながらお互いの肩を抱き合って、嬉しそうな様子で僕を褒めてくれた。


「えへへ」


 そんなに喜ばれると、僕も嬉しくなっちゃうなぁ。

 しかも、『勇敢』なんて言われたの初めてだし、むふふ。

 そうして騎士さん達の褒め言葉に、ついつい嬉しくなってしまっていると。


「ぐぬぬ、不覚でした……」


 突如、ラーファが視線を険しくさせて、悔やむような口調でボソボソと呟きを漏らた。


「まさか、祈りの時間に行動を起こされるなんて……。こうなるなら、“子供ができることに目をつむって”でも同じベッドで一緒に寝るべきでした」


 なんだろう、悔しがるポイントがおかしい気がする……というか、子供って何の話?

 不思議に思いながらも「じゃあ今日は一緒に寝る?」と言いかけたタイミングで、今度はサラが上機嫌な様子で声を上げた。


「なんでもいいけど、敵はリベリア王国ってことでいいのよね?ふふん、あたしに任せておきなさい!全部潰して灰にして、さっさと終わらせてあげるわ!」


 相変わらず物騒すぎる。

 ただ、今回はいつもと違う感じだし、サラには特に注意しておかないと。


「協力してくれるのは嬉しいけど、あんまり危ないことしちゃダメだよ?今回は魔王復活を目論む英雄さんが敵にいるらしいから――」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!英雄が敵ってどういうことよ!?」


「うえっ!?」


 そ、そういえば、それは言い忘れてたっけ。

 僕は詰め寄ってくるサラからの肩を掴みながら、スタネアさんから聞いた説明をそのまま伝えた。


「え、えいゆうカインが、うそよ……」


 すると、サラはびっくりしたような表情で固まり……そのまま虚空を見上げてフリーズしてしまった。


「英雄カイン・リジルが魔王復活、ですか。真偽を確かめねばなりませんね――ヴァン、お願いします」


 一方、ラーファはサラのようにショックを受けた様子はなく、軽く手をあげながら窓の外へと命令を出していた。

 一瞬だけ、黒い影が見えたけど……多分、あれがヴァンさんだよね。


「さて、後は待つだけですが……サラちゃん、そろそろ起きてください。お菓子抜きにしますよ?」


「はぁ!?お菓子抜きなんて許さないわよ!」


 あ、戻ってきた。


 ラーファの非情な発言にサラは目を見開くと、脊髄(せきずい)反射で抗議の声を上げ始めた。

 すると、ラーファは何処からか袋を取り出して――


「えい」


「――むぐっ!?もぐもぐもぐ」


 うわぁ、完全に餌付けされてる。


 口にクッキーを無理やり詰め込まれたのに嬉しそうな表情を浮かべるだけとか、もう中毒だよ、お菓子中毒。

 今後チョコを渡すのは控えよう、うん


「さて、わたくしも準備をすることにしましょう」


「え、なんの準備?」


 お菓子中毒者と成り果ててしまったサラから視線を外して首を傾げると、ラーファは胸の前で手を合わせながら笑みを浮かべた。


「戦争の準備ですよ。わたくしも参加しますから、当然です」


 当然、なの?

 戦うって話なのに大丈夫かなぁ。


「もしかしたら危ないかもしれないし、止めた方がいいと思うけど……」


「わたくしは縁様に着いていくって決めましたから。ですから、どんな決定も、決断も。騎士様がそれと決めたのなら、それがわたくしの望みになるのです」


 ラーファの言うことは相変わらず難しくて、よくわからない。

 ただ、今のラーファからは聖都を出ていく時と似たような雰囲気を感じるし……説得はできなさそう、かも。


「僕も頑張って守るけど、危なくなったら逃げてね?」


「はい、どこまでもお供します!」


 また会話が噛み合ってない気がするよぉ……。


 こうして、僕達の久しぶりに楽しい時間はあっという間に過ぎていき。

 窓の外が暗くなって、騎士さん達がランプをつけ始めた頃。


「では、わたくし達はこれで」


「新魔法、楽しみにしてなさい!」


 サラとラーファはそう言って、満足気な表情で自分の部屋へと帰っていった。

 あとはご飯を食べて寝るだけ――あ、そうだ。


 不意に思いついたことを試すために、僕は勇気を出して壁際にいる2人の騎士さんへと話しかけた。


「ねぇねぇ、サラはどうだった?」


「どう、とは?」


 最初は何だか嫌な感じがしたから、ちょっと避けてたんだけど。

 アスカルさん曰く、二番隊の人は亜人への偏見が強い“典型的”な帝国人らしくて、それでサラの事をよく思ってないってことだったらしい。


 つまり、帝国ではこの態度の方が普通で……むしろ、三番隊の方がおかしいってことになるんだけど。


 ただ、『三番隊は地方出身と元他国領の出身が殆どで亜人と関わりを持っている人が多いのです』ともアスカルさんは言ってたから。

 この話が本当なら、今からでもお互いに知り合っていけば、ちゃんとわかり合えるって事だと思うんだ。


「サラは魔法の知識も凄いし、いい子だから……そんなに嫌う必要もないんじゃないかなって思って」


 そう意気込みながら、ちらりと騎士さんの様子をうかがう。

 すると、騎士さんは……何だか難しい表情で何かを思い出しながら、答えを返してきた。


「確かにあのエルフは勇者様の管理下にあるため無害でしょう。しかし、亜人というのは全てにおいて人間より強大な力を持ち、どう猛で野蛮な受け入れがたい敵であります。あれを受け入れては人間は滅び、この大陸は秩序のない世界へと変貌するに違いありません」


 まぁ確かに、サラは強いし、若干暴走気味なところはあるけど……ちゃんと、話せばわかるのに。

 騎士さんの言葉に悲しい気持ちでいっぱいになっていると、もう一人の騎士さんがさっきの騎士さんの頭を叩いてから慌てたように話しかけてきた。


「馬鹿野郎、空気読め――いえ、勇者様。私はあのエルフ、嫌いではありませんよ。敵陣を焦土にする発想は好感が持てますし、戦力としては申し分ないと三番隊のアホ共から聞かされましたので、えぇ!」


 ほら、やっぱりわかってくれる人もいる!

 僕は嬉しくなりながらサラの事をもっと2人に自慢することにした。


「サラはね、魔物も料理して食べちゃうんだよ!」


「そ、そうですか……」

「ははっ、亜人らしい……」


 その自慢を2人は黙って聞いてくれて。

 最後には「あのエルフの事は理解できた」と言いながら、2人共笑顔で退室していった。


「ふふん、皆で仲良くが一番だよね」


 2人がわかってくれたのが嬉しくて、上機嫌のままベッドへと飛び込む。

 騎士さんとサラも仲良くなれそうだし、きっと……噂の英雄さんも説得できるよね?

 1週間後の戦争、それをふんわりと思い浮かべながら。


 僕はまぶたを閉じて、夢の世界へと旅立った。


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