40 閑話:恋バナ(?視点)
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暦は水後月の末となり、季節的に夏へと差し掛かった頃。
ジグレイ帝国首都――帝都の中心に位置する王宮内にて、3人の少女達の歓談が陽だまり降り注ぐ中庭で和気藹藹と響き渡っていた。
「急なお誘いだったので心配していたのですけれど、集まっていただけて安心しました」
透き通るような美しい水色の髪をたなびかせた聖都の姫『ラーファ・エル・マルグリッド』が、その言葉と共に机を挟んだ先にいる2人の少女に微笑みかける。
それはまさに次代の聖女たるに相応しい所作であったが、一段背の高い椅子に腰かけた金髪のガキ――『サラ』は顎に手を突きながら興味がない様子でその言葉に呟きを返した。
「それで?一体何の用なのよ。魔法訓練の途中だったし、早く戻りたいんだけど」
「ちょっと、サラ!失礼ですよ……というか、だらしないです。しゃきっとしてください」
そんなサラの態度が許せなかったのか、隣に座っていた赤髪の少女『クリス・フォン・ラインハルト』はサラの首根っこを掴み、上へと引っ張り上げる。
「にゃ!?ちょ、ちょっと!やめなさいよ!」
「ほら、背筋を伸ばして座る!まったく、縁殿がいたら“お菓子禁止令”を出して貰っていたところです」
“お菓子禁止令”という言葉が出た途端にサラは動きを止め、次の瞬間には掴みかかるような勢いでクリスに詰め寄った。
「はぁ!?お、お菓子は関係ないでしょ!いくらクリスでも許さないわよ!」
どうやら、サラにとってお菓子はとても重要な物らしい。
ともすれば魔法を撃ちそうな様子で怒るサラだったが、そこにラーファが“ある物”を手渡した。
「ふふふ、サラちゃん。これで機嫌直してください」
「え?……あっ、ワッフルじゃない!むふふ、あるなら先に出しなさいよー」
差し出されたワッフルを素早く奪ったサラは一口でそれを頬張る。
まるで猿のような振る舞いだが、ラーファにはそれが嬉しかったようだ。
ラーファはニコニコと微笑みながら、紅茶とお代わりのお菓子を自らの手で用意し始めていた。
「それで、ラーファ様。わざわざ縁殿を除外しての今回の集まりは、一体なんの用件で?使用人の姿も、どうやらないようですし……」
あまりにも残念なサラの様子を見て流石に呆れたのか、クリスはサラを意図的に視界から外しながらラーファへと本題を切り出す。
確かに、人払いまで済ませたこの集まりは異様に見えることだろう。
けれど、その質問にラーファは満面の笑みを浮かべると――平然と、何のことでもないようにその目的を明言した。
「女の子を集めてやることなんて、恋バナに決まっているじゃないですか」
「こ、恋バナ……」
ラーファの返答を受けたクリスは頬を真っ赤に染め、逃げるように紅茶を飲む。
どうやらその手の話に耐性が無いようだが、令嬢としてはともかく騎士としてそれでいいのだろうか?
「どうしたのよ、クリス。熱でもあるの?縁を呼んでズル技してもらう?」
そんなクリスの様子が気になったのか、サラは大好きなお菓子を食べる手を止めると、クリスの額に……お菓子で汚れたままの手を当て、心配そうな眼差しを向けた。
「だ、大丈夫ですから!縁殿は呼ばなくても平気です!」
クリスは慌てながらもサラの手を優しく断り、ラーファへとにらむような視線を向ける。
それなりの威圧を伴ったその視線をラーファは軽く受け流すと、余裕を感じさせる雰囲気のまま、ニコニコとクリスに微笑みを返した。
「安心してください、別にふざけているわけじゃないんです。これは必要なことでして……ねぇ、サラちゃん。サラちゃんは縁様のこと、どう思ってますか?」
「へ?縁のこと?うーん、そうねぇ……」
突然の質問にサラは驚いていたようだが、そこまで悩むものではなかったらしい。
次の瞬間には何故か自信満々な笑みを浮かべ、きっぱりと答えを言い切った。
「一言でいうなら、便利なやつね!」
サラの発言に2人は何を感じ取ったのだろうか。
ラーファもクリスもお互いの顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。
「サラ……それ、縁殿が聞いたら泣きますよ?」
「まぁ、サラちゃんらしいといえば、らしいです」
しかし、その反応はサラにとっては面白くないものだったようで。
サラは少しだけ頬を膨らませると、一生懸命に言葉を続けた。
それは、答えというより説明――縁との思い出と、その時に感じた想いの羅列で。
「詳しく話すと、そうね……。縁はあたしの話をちゃんと聞いてくれて、魔法訓練にもいつも付き合ってくれて、喧嘩になることもあるけど最後にはいつも優しくて、昨日もマッチ?とかユビスマ?っていう手を使う遊びをしてくれて、それでね――」
あの破天荒なサラが目を伏せながら大事な宝物を扱うように縁のことを語り続けるその姿は、2人にかなりの衝撃を与えるものだったらしい。
半ば放心状態となってしまった2人に、サラは満足した様子で言葉を締めた。
「まとめると、便利なやつね!」
結局はそこに戻るのかという、ツッコミはさておくとして。
「わ、私が知ってる縁殿と違う。私の方が長い付き合いなのに、一緒に遊んだりなんてしたことないのに……」
「ぐぬぬ、まだ仲良しな友達って感じですけど、将来が怖いです……」
2人はサラの話にショックを隠せない様子で肩を落としていた。
「ふふん、勝ったわ。もぐもぐ」
そんな2人の雰囲気に勝利を確信したのか、サラはお菓子を食べる作業に戻ると幸せそうに笑みを綻ばせた。
「……とりあえず、サラちゃんのことは置いておくとします。それで、クリス様はどうですか?」
「え、えぇ!?私もですか!?」
まさか自分にまで話が振られるとは思わなかったのだろう。
クリスは慌てながら、両手をワタワタと動かす。
「私は女というより、その、騎士ですし、家には兄上もいるので婚姻は必須ではないというか、するとしても父上次第なのでよくわからないというか……。それに縁殿のことについても異性というよりは友達だと、そう思っていて、ですね」
「クリス様?」
暗い様子で言葉を止めたクリスに、思わずといった様子でラーファが声を掛ける。
クリスはラーファの方をちらりと見てから重々しく言葉を続けた。
「こういったことは言わないと縁殿と約束したので、本当は言いたくないのですが……実は最近、やはり私は縁殿の友達として相応しくないのではないかと、考えるようになってしまって」
「え、それは……は、話を聞かせてもらっても?」
最早、恋バナどころではない重苦しい雰囲気の中、クリスはラーファから目を逸らしながら呟くように言葉を漏らす。
「詳しくは言えませんが、私は――いえ、私達は縁殿の良心を利用していると、そんな風に感じてしまうことがあるんです。そして、それはサラにも同様でして。私は、本当にこのままでいいのかと、悩んでいて……うぅ」
「あ、あわわ、まさか、そっちの方面に思いつめているとは……サラちゃん、どうしましょう?」
泣き出しそうな雰囲気を感じてか、ラーファが慌ててサラに助けを求める。
サラはクリスの様子を見てぎょっとすると、今度は手についたお菓子を落としてからクリスの頭を撫で始めた。
「友達に相応しいとかはよくわかんないけど、あたしはクリスのこと友達だと思ってるわよ?部屋くれたし、ご飯も用意してくれるし、旅好きっぽいし、嘘つかないし、何より役に立つし。少なくともあたしは利用されてるなんて思ったことないから、気にする必要ないんじゃない?」
「さ、サラあぁ……!」
「うぇっ!?ちょ、くっつかないでよ!?」
自分より二回りも小さいサラに抱きついたクリスは、泣きながらサラの薄い胸に顔を埋める。
「にゃぁあああああ……」
最初は抵抗していたサラだったが、自分より力強いクリスに敵うはずもないと悟ったらしく、途中からはされるがままになっていた。
「ふむ、これなら心配する必要も無さそうですね。となれば、問題は帝国の上層部ですか……」
そんな2人のやり取りを見て、ラーファは安心したような表情で呟くと、
「じゃあ、最後はわたくしの番ですね!!!わたくしにとって騎士様はですね!?それはもう――」
誰も聞いていないというのに大声で縁に対する想いを吐露し始めた。
最初の穏やかな雰囲気はどこへやら、一切収拾のつかない事態になったところで――
「さて、そろそろ止めに行くか……」
“俺”は暴走を始めたお茶会――主にラーファを止めるために、闇魔法の隠蔽を解除しながら3人の元まで歩み寄っていった。
――とある獣人の記憶より。
次回から新節となりますので、どうぞよろしくです




