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22 オークとの戦闘 1

「え、なにこれ」


 サラを追って洞窟に入ると、何故か入ってすぐのところに竜巻が発生していた。

 こんなところで竜巻なんて起きるわけないし、多分、風魔法だと思うけど……。


「縁殿、私は偵察に行きますので、サラの事はお任せします」


「あ、うん。わかった」


 僕が返事をするとクリスさんは松明に素早く火をつけて、洞窟の奥へと進んでいってしまった。

 『サラの事はお任せします』ってことは、つまり……?

 何となく察しながら、僕は竜巻に目を向け――リバージョンを発動させる。


「ひぅっ!?なんで制御が途切れたの!?」


 すると、竜巻は見たこともない青い粒子に変化して、粒子の中には案の定、怯えた表情でしゃがみこむサラの姿があった。

 この粒子の事は後で考えるとして、今はサラをどうにかしないと……。


「サラ、大丈夫だよ!外には何もいないから!」


 安全がわかるように身振り手振りをしながら声を掛ける。

 サラは怯えながら周りを見渡し、すごい勢いでこちらに近づいてきた。


「ワームは嫌、脳喰い虫も、ゴーレムも嫌。風魔法で周りが見えなくなるのも嫌ぁ、うぅ……」


 サラが竜巻の中にいた理由は、やっぱりクリスさんのせいだった。

 多分、魔物を防ぐために風魔法で防御をしていたんだろうけど……周りが見えないのは、それはそれで怖いよね。

 幽霊が怖くて布団を被ったけど逆に怖くなって外が見れなくなった事は僕にもあるし、何とかできないかなぁ。


「バリアみたいな魔法があればよかったんだけど――」

「“ばりあ”!?よくわからないけど、それよ!それを教えなさい!早く!」


「うえぇ!?」


 教えろって言われても、バリアなんてどうやって――ん?

 その時、僕の脳裏にとある魔法が思い浮かんだ。


「風魔法で竜巻を出すんじゃなくて、空気を固定して壁にする、とか」


 空気を固定する。

 それは前世の漫画や小説でたまに見た魔法だ。

 問題はそれができるかだけど……よく考えたら、空気を壁にするって意味不明な気がする。

 どうしよう、適当なこと言っちゃったかな……。


 不安になりながら、ちらりとサラの様子をうかがう。

 すると、サラは両手で握りこぶしを作り、


「クウキって風のことよね、多分。やってやる!やってやるわよ!!!」


 と、気合を込めた表情で声を張り上げ、その場で集中し始めた。


 本当なら早くクリスさんを追った方がいいんだろうけど、また魔物解説が始まったら嫌だし……。

 合流するのはもう少し後でもいいよね、うん。


 そんな感じで待つこと、数分後。


「よし、いくわよ!」

 《――風よ、我が身を守る壁となり、万物を阻む砦と化せ!》


 叫びと共にサラが魔法を詠唱した瞬間、僕達の周囲から音が消えた。

 何事かと思ってサラを見ると、サラは頬を染めながら飛び跳ねるように喜んでいた。


「や、やった!やったわ!クウキを固定して壁にする!できたわ!」


 で、できるんだ……。

 いや、提案したのは僕だけどさ……魔法、インチキすぎない?


「制御がきつすぎて魔力を攻撃に回せないけど、透明だし、虫程度ならはじけるし、この魔法は便利ね!」


 制御とか魔力はよくわからないけど、ともかくこれで先に進めるってことだよね。

 じゃあ、さっそくクリスさんを追いかけて――ん?


「……何か、息苦しくない?」


 さっきから妙に圧迫感があるというか、空気が悪いというか。


「確かに苦しいわね。何でかしら?」


 僕の言葉に首を傾げるサラを見て……猛烈に嫌な予感がした。


「サラ、バリアの魔法って、どんな形にしたの?」


「形?上から下まで完璧に全方位を囲むように展開したけど、それが何なのよ」


 ……うん、どう考えても酸欠だよね。


「多分、密閉してるからだよ。地面からちょっと浮かせば解決――」

「それじゃ脳喰い虫を防げないじゃない!」


 サラにとって脳喰い虫は酸欠よりも怖いらしい。

 まぁ、空気が何かわからないんじゃ仕方ないよね。

 僕はサラに酸欠と、ついでに空気とは何かを説明して、ちょっとだけ隙間を作ってもらった。


「よし、それじゃあ今度こそクリスさんを――あ、サラ、松明に火をくれない?」


 松明と火打石を取り出しながら、不安そうに周囲を警戒していたサラへと声を掛ける。

 火をつけるのって難しいし、「火魔法があるならそれを使いたい」と、そう思って。


 けれど、サラは僕の言葉に全力で首を横に振ると、怯えた様子で言葉を返してきた。


「“魔法を使ってる最中は他の魔法が使えないの”。だから無理よ、ばりあを解除したくないもの」


 あ、そんな制約があるんだ。

 ただ、魔法を解除したくないって気持ちは、すっごくよくわかるんだけど……。


「辺りが暗いと魔物が地面から出てきた時に――」

「《――火よ》《――風よ》これでいいわよね!?」


 まだ言い切ってないのに、松明には火球が放たれ、バリアは再展開されていた。

 魔物パワー恐るべし、次はクリスさんから火をちゃんと貰っておこう。

 僕は未だに怯えるサラの手を握ってから、松明の明かりを頼りに洞窟の奥へと進んでいった。


「縁、明かりが見えるわ!」


 そうして5分ほど歩いた頃だろうか。

 道の先に見え始めた仄かな光にサラが嬉しそうな声を上げた。


「魔物が出なくて良かったね――って、サラ?引っ張らないで!?」


「もう暗いのは嫌なの!さっさと行くわよ!」


 反論なんて許さないとばかりに、サラは僕を引きずるように光の方へと走り出す。

 その必死さに押されるようについていけば、急に開けた場所に出て――


「綺麗ね、こんなの初めて見たわ……」


「うん、僕もだよ……」


 サラの言葉に頷きながら、僕は思わず感嘆の息をつく。

 天井から差し込む光が洞窟の中を流れていた川に反射して、すごく綺麗で。

 洞窟と言うより秘境と言った方がいいような、そんな風景が目の前には広がっていた。


 見たことがないような秘境を探索なんて、すごく冒険っぽいかも……。


「あ、クリスがいたわ。何してるのかしら?」


「岩の後ろに隠れてるみたいだね。何してるのか聞いてみよう」


 そうだ、感動している場合じゃなかった。

 サラにバリアを解除してもらってから、僕達はクリスさんに近づいて声を掛けた。


「クリスさ――」

「しっ、隠れてください」


 わっ!?どうしたんだろう?

 厳しい表情で唇に人差し指を当てたクリスさんを見て、僕はとっさに自分とサラの口を押さえた。

 何事かと思いながら、クリスさんがにらむ先を見てみれば……。

 そこにはピンク色のでかい何かが4体、のしのしと元気に動き回っている姿が見えた。


「……あれがオークなの?」


 小さい声で確認をすると、頷きを返された。

 うわぁ、僕達、今からあれと戦うの?


「ぷはっ――あたしの魔法なら一気に倒せるけど、やっていいかしら?」


 え、一気に倒せるの?

 思わず振り返れば、サラは自信満々に頷きを返してきた。

 やっぱり魔法使いは頼りになるなぁ、剣より魔法だよね、うんうん。


「じゃあ、サラにお願いして――」

「ダメです。あれは縁殿が1人で倒すのですから」


 ……はい?


「き、聞いてないよ?」


「それはそうです。言ってませんからね」


 いやいやいやいや!?

 『言ってませんからね』、じゃないよ!

 クリスさんもサラもいるのに僕だけが頑張るの?嘘でしょ!?


「実はアスカル隊長からも頼まれているんです。まだまだ縁殿には慣れが必要だと、その一環です」


 アスカルさんに頼まれてって、まさか鶏殺しの延長ってこと?


「つまり、これも訓練ってこと……?」


「ファイトです、縁殿。大丈夫、あのつらい訓練の日々を思い出すのです」


 訓練の日々?

 “疲れない”って特徴を把握されたせいで模擬戦、模擬戦、指導、模擬戦をさせられ続けた3カ月の日々のこと……?


 ……そっか、オークって人型かぁ。


「ねぇ、縁の眼が虚ろなんだけど……大丈夫なの?」


「騎士であれば全員が通る道なので平気です。まぁ、縁殿は勇者ですが、指導役は“あの”アスカル隊長ですからね」


 クリスさんとサラが何かを話していたみたいだけど、今の僕には何も聞こえていなかった。

 なぜなら僕の頭はもう……オークの事でいっぱいだったからだ。


「相手は全員素手、体は大きいけど弱点は人と変わりない。リバージョンがあれば、大丈夫かな?」


 訓練の日々を思い出しながら、オークとの戦闘を思い浮かべる。

 毎日毎日、僕が教えられ続けたのは対人戦闘――つまり、人型との戦い。

 そのせいなのかよくわからないけど、今は素手のオークを見ても怖いというより――


 自信の方が勝っていた。


 ……おかしい、僕ってこんな性格だったっけ?


「確かに大丈夫そうね。ほら、さっさと倒してきなさいよ。危なくなったら支援ぐらいしてあげるわ」


「うん!じゃあ、行ってくる!」


 サラに言葉を返しながら岩から飛び出す。

 いけるいける、僕ならやれる。

 高速で過ぎ去る景色の中で、僕は一番近くにいたオークへと飛び掛かった。


「凄い速さ――ですが、あれは力が入りすぎですね」


 クリスさんが遠くで何かを言ったような気がしたけど、僕の体はもう止まらない。

 頭のてっぺんから真っすぐ下に、僕はオークを真っ二つにするように剣を振り下ろし――


「っ!?」


 肉を切り裂き、骨を砕く音。

 破れた風船のようになったオークから噴き出す、血と臓物。

 そして、手に残る確かな感触に。


 僕は堪らず、その場にうずくまって……胃の中の物を吐き出した。

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