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20 サラの魔法講座

ちょっとだけ説明回が続きますが、ご容赦ください。

「で、オークとやらはどこにいるのよ。ぶっとばそうにも場所がわからなきゃどうしようもないわ」


 あれから持参したお弁当をサラにも分けて、全員でお昼ご飯を食べ終えたあと。

 サラは何処からか拾ってきた大きなとんがり帽子と長い杖を手に持ち、ぶかぶかなローブを翻しながら僕達にオークの居場所を聞いてきた。

 どうやら、さっきの“余裕”というのは、ぶっとばすって意味だったみたいだ。


「余裕で解決するというなら、それも何とかしてほしいのですが」


「ふんっ!」


 そんなクリスさんの言葉に、サラはプイッとそっぽを向いてから頬を膨らませた。

 うーん、まだまだ仲良しには遠いのかも……。

 僕はさりげなく2人の間に立ってから、クリスさんへと話しかけた。


「えっと、僕はサラしか見つけられなかったけど、クリスさんは何か見つけた?」


 とりあえず、会話の矛先を僕に向けて、サラの機嫌を――


「ふっ、実のところオークは既に捕捉済みです。今から件の洞窟まで行きますので……今度は約束を破らないように、いいですね?」


 ひぃ、こっちにも罠があった!?

「自慢げなクリスさん可愛い」なんて思ったのも束の間、僕はクリスさんの迫力ある笑顔に何度も頷きを返すことになった。


「では、行きましょうか」


「う、うん」


 次は怒らせないようにしよう……。

 そう誓いながら、先導するように歩き始めたクリスさんを追いかける。

 すると、サラがトテトテと着いてきながら、僕を見上げて話しかけてきた。


「そういえば、縁ってあたしの魔法に随分と驚いてたけど……もしかして魔法の事、よく知らないわけ?」


「よく知らないどころか、属性の種類も中級も上級も何にもわかんないよ」


 何故かは知らないんだけど、帝国では魔法の事を全然教えてもらえないんだよね。

 クリスさんの使う水魔法と風魔法のことは『身体能力を強化した上で、“物の重さを変えられる”魔法ですよ』って教えてもらえたけど、それだけで。

 実はわかりやすい魔法を見たのは、サラの魔法が初めてだった。


「帝国は何を考えてるのよ。魔法を知らないなんて人生の大半を損してるわ!」


 僕の言葉を聞いたサラが頬を膨らませながらクリスさんをにらみつける。

 クリスさんはサラの言葉にむっとした表情で振り返ると、不機嫌そうに言葉を返した。


「貴方、会ったばかりの癖に厚かましくないですか?」


「知らないわよ。あたしは当たり前のことを言ってるだけだもの」


「当たり前って、はぁ……。貴方の考えは知りませんが、こちらの方針は使えない魔法教育よりも戦闘技術を優先しろと、上からの命令でそういうことになっているんです。帝国自体が魔法を得意な国ではないので、教育が難しいというのもありますけど……ともかく、そういう命令なんです」


 え、魔法教育って止められてたの?

 確かに、僕が魔法の事を知っても意味があるかわからないけどさ、だからって最初から何も教えないなんて……。

 そんな風に帝国の方針にちょっとだけ不満を感じていると、サラは納得ができないとばかりにクリスさんへと反論した。


「まぁ、縁の魔力はあたしにも視えないし、魔法を教えても無駄って気持ちは理解できるわ。でも、魔力が無いなんて普通じゃないんだから、むしろもっとよく考えるべきよ。実は縁の魔力は誰にも視えないだけで、特殊魔法にしか使えないってことだってあるかもしれないのよ?そうなれば基本の知識は絶対に必要になるし、もしそれが腐ったとしても、理解をすること自体に意味があるはずだわ」


「「え?」」


 子供っぽいサラが言ったとは思えないほどの言葉に、僕とクリスさんの声が重なる。

 けれど、瞳を輝かせながら意気ごむサラを見て、僕は何となく察してしまった。


「だから帝国がやらないなら、“あたしが縁に魔法を教えるわ”。それでいいわよね?」


「え?えっと、それは構いませんが――」

「それなら最初は属性の種類と魔階級について教えてあげるわ!」


 多分、サラは魔法が大大大好きで、話す相手に飢えていたんだろうなぁってことを。


「ありがとう、サラ」


 その様子が何だか微笑ましくて、気付けば僕は笑顔で頷きを返していた。

 そうして、サラは自慢げに魔法を解説――


「あぁ、最初に言っておくけど魔法は才能が全てだから。あんたがいくら学ぼうと練習しようと既存の魔法を使えることは絶対にないわ。それだけは理解しておいて」


「……あ、はい」


 ……多分、これもサラの優しさなんだよね、うん。

 急激に気持ちが沈んだ僕には目もくれず、サラは今度こそ魔法についての解説を始めてくれた。


「まず基本的に魔法とは『属性魔法』の事を指すわ。属性魔法には“火水風雷”の通常属性が4つ。それと“光闇”の“特殊属性”が2つあって、その中で更に初級、中級、上級と3つの魔階級に分かれてるの」


 なるほど、『火よ』とか『雷よ』ってやつは属性魔法なんだね。

 そういえば火水風雷って……暦もそうだったよね?

 あれって魔法の属性を表してたんだ、なるほどなぁ。


 うんうんと頷いてみせると、サラは満足そうに言葉を続ける。


「属性魔法以外の魔法には“内燃魔法”や“時空間魔法”なんてものもあるけど、こっちは本当に特殊ね。異端と言ってもいいわ」


 じ、時空間魔法!?

 どうしよう、雷魔法よりもそっちの方がカッコいいかも……。

 気付けば、僕は身を乗り出して質問していた。


「ねぇねぇ、時空間魔法って時を止めたりできるの?それとも加速するとか、相手を遅くするとか、そんな感じなの?」


「んー、確かパパ――師匠が使ってた時は、物や魔法の動きを完全に止めてたわね。あとは世界が遅くなるとか、少しだけなら物が直るとかなんとか……まぁ、あんたのズル技と似たようなものよ、多分」


 ズル技って、多分、リバージョンの事だよね?

 んー……。


「それなら雷魔法の方がカッコいいかなぁ。リバージョンって、地味だし」


「どうしたらそうなるのよ。頭おかしいの?」


 どうやら、サラには伝わらなかったらしい。

 でもいいんだ、カッコよさは正義なんだもん。


 拗ねる僕に対して、サラは呆れたように溜息をついてから説明を再開させた。


「はぁ、まぁいいわ。ちなみに、さっきクリスが使ってた魔法が内燃魔法よ。一応、これも属性魔法なんだけど、魔力を外に出さずに自分の体へと通わせて魔力の属性によって体や触れる物に効果を付与するっていう、特別な才能と技術が必要な魔法らしいわ」


 ただ、その中には聞き逃せない単語があって――


「一歩制御を間違えれば魔力を通わせた場所が爆発して死ぬし、師匠でも使えない魔法だって聞いてたから、さっきは驚いたのよね」


 え?死ぬ?

 驚いてクリスさんを見ると……なんか、口笛を吹いて誤魔化そうとしていた。

 そんな怪しすぎる反応にサラは目を細めると、責めるような口調でクリスさんを指差した。


「しかも、あたしを化け物と判断できたってことは魔力を“視た”って事よね?目に魔力を通わせて魔力を視る――内燃魔法の中でも一番危ない“魔力視”を使うなんて、どう考えても正気の沙汰じゃないわ。ねぇ、クリスって本当に人間なの?内燃魔法って頑丈な魔人族にしか使えない魔法だって本には書いてあったわよ?」


「さっきから自然に呼び捨てていますけど失礼だとは考えないのですか、まったく……。確かに、私の師匠は魔人族でしたが、この私は正真正銘の人間です。訂正してください、“サラ”」


 あぁ、なるほど。

 師匠が魔人族だったから、クリスさんは亜人っぽいサラでも平気だったんだね。

 いつの間にか、名前で呼び合う関係にもなってるし、このまま仲良く――って、ちょっと待って?


 もしも、魔力視が危険な魔法なら。


「サラも僕の魔力を“視た”って言ってたけど、同じにはならないの……?」


 今の説明だとサラも内燃魔法を使っていることになる、よね?

 そう思って質問してみれば、サラはまるで何でもないかのような感じで答えてくれた。


「ん?あぁ、あたしのは“生まれつき”だから。別に内燃魔法を使ってるわけじゃないわ」


 生まれつきで魔力が視えるとか、耳が長いところとか。

 それは完全に人間じゃないような――いや、疑うのは悪いのかもしれないけど、うん。


「っと、そろそろ到着ですね」


 そんなことを考えていたら、いつの間にか目的地に到着していたらしい。

 前方に目を向けると、岩壁に裂け目ができたような洞窟がそこにはあった。


「さて、入る前にですが、今度は私の話を聞いて貰いますね。何故かサラはオークの事を知らないようですし……魔物の事を改めて教えておこうかと思います」


 魔法の次は魔物講座かぁ、楽しみだなぁ。


 ――なんて、思えたのは最初だけで。


 ここからクリスさんによる“地獄”の魔物講座が、幕を開けるのであった。

ようやく本格的な魔法の説明が入りました。

ガチガチに魔法理論を組み立てるつもりはないので、

『魔法は1度に1つしか使えず、イメージ通りに発現する』程度の、ふんわりとした理解で大丈夫です。

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