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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅰ『魔法少女は――』
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第5話 今日は穏やかで在れ

「今日の朝食はまなちゃんが作ったベーコンエッグが食べたいな」


 メイがそう言ったからアタシは普段メイお抱えのシェフが使う厨房でフライパンを手に朝食作り。


 アタシの料理の腕前は並もいい所で食材を台無しにせずに作れるくらいまで……それなのにメイはたまにアタシの手料理を食べたがる。


 目に映る食材全てが高級なんだろうけど、普通に作ろう。まずはフライパンに油を敷くけど、これだってお高いオリーブオイル。


 アタシ流だと先にベーコンを焼いて、その染み込んだ肉汁と油を使って目玉焼きを作って最後に塩と胡椒なんだけど……ここで唐突に昔話。


 フェンリールとアヌビスが同じ内容の商品を我先に発表しようと開発してた事があって……互いの進捗を調査し合い、タッチの差でアヌビスが先になりそうな状況だった。


 アヌビスの方での開発は当時企業の間で一番人気の科学者夫婦が担ってて、その二人の主導だったからプロジェクトは軌道に乗ってた。


 だからフェンリールは女性の方に気付かれないようにそういう事して、男性の方にも送り込んで……女性の妊娠と男性の浮気発覚が同時になるように仕組んでアヌビス側の開発ペースを大きく乱した。


 その結果、発表はフェンリールが先になり特許も取得し、その年に関してはフェンリール社が業界トップ……しかもアヌビス社と大きく水を開ける形で。


 ところで男性科学者の方に送り込まれた女性の名前が愛行(まなみち)玉輝(たまき)。こういう時の為にフェンリールに雇われた女性……そんな風にいいように使われ続けるもんだからアタシを産んでから何年かして治安の悪い派遣先で死亡。


 アタシの(ゆら)って名前は玉輝と決まるまでに候補に挙がったボツネームだって話をしてた時のお母さん、悪気無さそうだったなぁ……そんなアタシをメイが引き取ると言ってくれたおかけで、今こうしてるわけ。


 ちなみにアヌビスはアヌビスでフェンリール社の機密情報を盗み出す際に死人を出してたりするから、両社共にドス黒い血の応酬が繰り広げられがち。


 さてアタシは今メイに料理を作ってて、丁度粉末を入れようとしてるところ。


 フェンリール社に恨みがあるなら毒の類を盛る大チャンスなわけだけど……実際に振り掛けたのは岩塩と粗挽きブラックペッパー。


 何を考えてるのかよく解らない事も多いメイだけど、気に入った子には仲良く接してくれるし、かれこれ十年以上の付き合い。


 ある日突然メイがアタシに飽きて捨てられる可能性は常にあるものの、こないだみたいな事はこれから先も起きるだろうし、そんな日が来るまで長く生きられるか何て……分かったもんじゃ無い。


 例えこの先メイに捨てられても、今までありがとうって言いながら笑顔のひとつでも手向けられれば、もう上出来――


 将来はお母さんみたいに利用されるだけになって、例えそれで死ぬ事になろうとも十分お釣りが来るくらい、メイには今まで楽しませて貰ったし。


 こんな日々がずっと続くんだったら、それ以上何て思い浮かばないよ。


 そう考えてる内に味付けも終わり、出来たベーコンエッグを食卓まで運んだ。


「今朝からの気分にピッタリな味だなぁ。まなちゃんありがとー」

「メイがその顔なら今回も何とか上手く行ったみたいだね」


 毎度の事だけど食材パワーが大き過ぎて、どこまでアタシの実力か判らない。


 いつものシェフが作ればこのテーブルにはもっと見た目共に豪華な料理が並んでるんだけどなぁ……釈然としない朝食を終え、メイの手でツインテールにされたアタシはメイと一緒にメリウスへ登校。


 しばらくは武装ヘリ通学だから落ち着かない……メイと徒歩で登下校するの好きなんだけどなー。クマ子やハルカと喋りながら歩く事だって出来るし。


 でも今は学校の皆にとっても非常事態。ノワルに収容されてた凶悪犯罪者が何人か脱走してしまったから、のんびり歩き回るのは不用心ってヤツ。


 自動操縦だとハッキングがあるからとメイドさんが操縦してるんだけど、この手の乗り物の操縦はメイも出来るんだよね……銃の扱いも手慣れてる。


 メイドさんは住み込みの用心棒として雇われた人間で、普段はメイドをするようにとメイに言い付けられ、今じゃ屋敷内指折りの優秀メイド。


 特に何も起こらず校舎屋上に着陸し、メイドさんと軽い挨拶を交わして教室へ向かうアタシとメイはいつものように手を繋ぎながら廊下を歩いてたんだけど――


「きゃあ」


 パーソナルデバイス片手に操作に夢中だった女子生徒がメイと衝突……ぶつかった相手がメイだと見るや、女子生徒は血相を変えて、


「も、申し訳ございません!」


 許しを乞うように叫んで来た。この学校、富裕層の世話役の子供も一緒に通ってるから、こういう展開になると何を言い渡されるか分かったもんじゃ無い……こういう反応になるのも無理ないね。


 縦長板状で片手サイズのデバイス画面にはアタシも知ってるゲームの画面が表示されてて、敵からドロップする素材アイテム集めの最中だったみたい。


 重課金キャラな事から、これは主人のデバイスで代行プレイ……おかしな操作が行われ無いようにこのデバイス画面は遠方で監視されてるだろうね。


 今は戦闘終了直後だけどゲームへの復帰が遅れればキャラが死ぬ事になるから、女子生徒は慌ててデバイスを拾おうと手を伸ばすけど、


「ねぇ」


 メイが声を発して、その口が更に動いてからおよそ十分後――


「ふぇ、フェンリール社の最新ハンディレーザーガン、只今セール中です! よ、よろしくお願いしまぁーす!」


 そこにはメリウス校門前でビラを配るさっきの女子生徒の姿が……ホームルームも無しにいきなり一限目が始まる内の学校だけど、まだ三十分は時間がある。


 さっきメイが校門前でビラを配る許可を取って女子生徒に指定データを印刷させたんだけど……メリウスでの自由時間中はこれくらい好き勝手出来るし、むしろ空き時間に何もせずに持て余す方が悪だとされてるくらい。


 宣伝してるのはこないだ突き付けられたレーザー銃の最新型だけど、相変わらず発振器はメイのアルマのレーザー出力と同じ三段階目(クイーン)


 発振器に使われる素材には非常に適した物質があって、結晶化に成功した際にどの性質が何処まで引き出せたかによって名称が変わる。


 安定した強度とそこそこの半導体性質を得た二段階目『ノーブル』とそれに満たない一段階目『リトル』。ノーブルでも鮮明な立体映像を描画するには十分な出力のレーザーが得られるけど、兵器出力となると耐熱性に乏しい。


 三段階目の『クイーン』になればレドロを含む生物の体に風穴開けられる出力のレーザーを無理なく撃てるようになり、四段階目の『ロイヤル』は大抵の合金製なら余裕で切断出来るレーザー出力になるものの撃ち続けてると耐熱限界を迎える。


 五段階目が物質名でもある『エンプレス』……よく解らないけど、大抵のものは一瞬で蒸発させるレーザー出力が実現出来るらしい。ロイヤルの出力でどれだけ長時間撃ち続けてもレーザー兵器全体の加熱が全然起きないんだから凄い。


 この場合リトルはお子様って意味合いで、貴族、女王、皇族、女皇と身分が高くなって行くネーミング。


 地球(ヴァース)の地殻に一番含まれる元素は酸素で、あとはケイ素、アルミニウム、鉄と続くみたいだけどアタシたちが住む星ヴェリオンでは二番目に来るのがエンプレス。


 そして目当ての段階の結晶に成らなくても出来た結晶をまた素材にする事が出来る……ただ、それをやるとノーブル止まりに成り易い。


 クイーンは比較的出来る見込みはあるけど、超高温範囲での急激な温度変化を繰り返すとかそれを大規模にやらないとダメだとか……コスト面でのハードルが高い上に必ずクイーンが出来るわけじゃない。


 ロイヤルを作るとなるともっと条件とコストが跳ね上がる。どんなに条件を整えてもノーブルとリトル以下のものになるばかりで慰め程度にクイーンが出来るのが関の山……基本的に赤字になる結果にしかなら無い。


 例えばある溶液にある粉末状の物質を入れて掻き混ぜれば特定の結晶が出来るって前提があるなら、毎回同じ掻き混ぜ方をすれば毎回同じ結晶が同じ量だけ出来る事になる。


 なのに毎回同じ掻き混ぜ方をしても毎回違う結晶が違う量だけ出来るのがエンプレスの生成事情の乱暴な例え。


 この謎のバラツキによって、どの企業も安定したエンプレスの製法を確立出来ずにいる。一時期はアヌビスと特許を取り合いになった、今もフェンリール社で使われてる製法だってそこまで突出した成功率じゃ無い。


 とりあえずノーブルでもトパーズとコランダムの間くらいの硬さだからガラスみたいに使うだけでも便利。各段階のエンプレスは基本的に無色透明だけど、たまに色が付く事がある……それも出来とは無関係に全色相とあらゆる濃さの範囲で。


 だから発振器として使えない小粒でロイヤル以上のものは宝石市場に出され、これがなかなか大人気。有色のエンプレスが出た日には大騒ぎだろうなぁ。


 そういえば地球(ヴァース)では炭素が星全体の千分の一くらいしか無いって話だけど、こっちは何パーセントかあったから……アタシの記憶がどんなに曖昧でも二十倍以上はある事に。


 いつどこでレドラが発生して遭遇するか知れない中、更なる不安材料が出たのでレーザー銃はお昼までの間だけで、富裕層寄りの生徒たちに順調に売れてたね。

 

 当初の予定では次話の内容含めて5話だったのですが、今回の情報量だけで1話分のボリュームを満たし、後半部の文字数も内容も1話分のボリュームがあるのでここで話数を区切る事にしました。

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