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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅰ『魔法少女は――』
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第4話 誰かでは有る二人~炎の魔法少女Ⅰ~

 ラーメン屋『(たつ)()』。


 猊帝(ゲーテ)に出店されている数あるラーメン屋の中でも老舗中の老舗。地球(ヴァース)の二十世紀初め辺りで起きたとされる世界大戦中に製造された天龍てんりゅうがた(けい)巡洋艦(じゅんようかん)の二番艦『龍田(たつた)』がそのまま店名となっている。


 開業(オープン)当時は小麦粉代わりに片栗粉を用いた鶏の唐揚げ料理――竜田(たつた)揚げを出す店として早くも注目された。


 ラーメンの方では初代の味のみを守るのでは無く、それぞれの代が創意工夫したレシピを(のこ)して行き、竜田揚げもそれぞれの代の味を注文する事が可能。竜田揚げの味には初代から定評があり、小腹を満たしたい時は竜田揚げだけ食べに来る客層の多さも初期の経営を大いに支えた。


 開業当時は龍田のシルエットらしき絵に抜き文字で店名という横長看板だったが今代では店舗が龍田全体の形状を可能な限り忠実に再現したものとなっている。


 そうなる事が初代から受け継がれて来た夢だと先代がいつものように零した時の客がリヴァイアサンCEOだった事から話が一気に進み……実際にリヴァイアサン社の手により龍田を建造した際に使う材料と設計を(もっ)て通気性とも両立した構造を持つ店舗が今のラーメン屋『(たつ)()』である。


「四代目醤油豚骨ラーメンお待たせしましたー!」


 五代目に成るべく修行中の店員が四代目が作ったラーメンを運んで来た。頼んだのは鮮やかな朱色の髪を長く伸ばした人物で、竜田揚げは先程食べ終えている。


 四代目醤油豚骨ラーメンは肉厚のチャーシューが大盛りで、(いず)れの代よりも一際値が張るものの、濃厚な豚骨と程よい醤油味が絶品と称える者が後を絶た無い。


 湯気が舞う中、熱々の麺を(すす)っては肉厚の叉焼(チャーシュー)を堪能する朱色髪の人物。


 地球(ヴァース)のアーカイブには世界各地の料理とレシピも幅広く充実し、その料理の誕生秘話を諸説交えて記録されているものも目立つ。


 地球(ヴァース)で食材とされる動植物は惑星ヴェリオンにも同様のものがあり、その互換性は100%。地球(ヴァース)に有って惑星ヴェリオンに無い食材や遺伝子資源は存在し無いと断言出来てしまう程。


 二十一世紀初頭の地球(ヴァース)で解析を終えたとされるヒトゲノムの内容さえ、惑星ヴェリオンの住民たちのものと過不足無く一致。医療に関する知識をそのまま流用出来るという事実と結果が今日も積み重なって行く。


 惑星サイズも概ね同じで重力に至っては等しい地球(ヴァース)とヴェリオンだが、惑星内の成分比率が地球(ヴァース)とは大きく異なり、海と陸地の比率と分布は全く違った。


 にも(かかわ)らず地球(ヴァース)で使われていたとされる太陽暦を惑星ヴェリオンで何の支障も無く流用出来るのは驚異的と言えるのかも知れない。


 先程ラーメンを頼んだ朱色髪の人物は後はスープを残すのみとなり、(どんぶり)を両手で持ち上げ、直後に閉じた瞳は金色だったが……スープの香りを楽しみながら最後の一滴まで飲み干そうとした末、成し遂げた。


「ぶはぁっ! 美味(ウマ)過ぎて味わうのに夢中になっていたな」

 ラーメン(どんぶり)を置くと共にそう発し、既に支払いは済ませてあるので店主に感謝の言葉を述べ、


「じゃ、帰るか」


 呟いた朱色髪の人物が店を出るや何やらメイド服姿の女性が近付いて来るが……正確にはメイド服を着た女性の姿をそのままモチーフに機械化したような、金属から成る人型ロボットだった。


 外見と挙動が人間同然のロボット――アンドロイドの量産自体はこの星の人類の現技術を以てすれば問題無く出来るが、アンドロイドの製造は国際的には歓迎されていない。


 肉眼で人間とロボットかを判断出来無い事から懸念される問題とそれを危惧する声が根強いが故に。


 店の前に現れたロボットは人体を適度にデフォルメした造形が特徴的だが、それ以前にメイド姿そのものを機械化し、大きな両眼は斜めに傾いた形状で左右対称と生身の人間と見間違う要素を探る方が難しい。


 このような判別配慮が大いにされた機体はシルエットが人型であろうと世間からは『ロボット』と呼ばれる傾向が強いようだ。


 フェンリール社が兵装の製造に注力しているのに対し工業用、個人用、兵器用の人型ロボットの製品開発に重きを置いているのがアヌビスという企業……この女性メイド型ロボットもアヌビス社の製品である。


「また脱獄がてらラーメン屋に寄って、その足で帰って来るのかジェイク。毎度の事ながら呆れるぞ」


 音声はメイドロボから発せられたが、通話時のように遠方にいる人物からの肉声が発信され、その声の主はジェイクと呼ばれた人物がよく知る相手だった。


「何だ? 本当に脱獄して欲しいのか、グレイ」

「いや、帰って来い。何だかんだで貴様は重罪人だからな」


「今回はジムまで脱獄したんだよなぁ……流石に周辺住民の気が知れんぞ」

「目下捜索中だ。ようやく所内でレドロが湧いた時に散った脱獄犯どもを全て捕え直したというのに……一ヶか月半も経たぬ内にとんだ人災だ」


「その時、俺が食ったのは()(あぶら)ラーメンで、最初は具がほとんど見えなかったんだが……まさに雪景色だったな」

「ラーメンの名前は『白雪姫(しらゆきひめ)』……いや、これは店名だったか?」


 猊帝(ゲーテ)に在る刑務所『ノワル』は世界各地の凶悪犯罪者を収容する監獄。金さえ払えば子供でも重火器の使用が認められる猊帝(ゲーテ)では脱走犯の銃殺が円滑に行え、各種兵器のシステム支援を得る事も容易なので投獄先として人気が高い。


 短期間で優良監獄としての地位が失墜したかに見えるノワルだが……実際の所、レドロ発生時は九名が脱走を試み四名が成功し残る五名はレドロに捕食ないし惨殺された末に脱獄者は全員短期間で再逮捕。


 今回の脱獄は分厚い合金による隔壁を炎らしきもので一瞬で大穴を開けられたという既存の如何なる監獄であろうと対処出来ない事項の為、世間がこれをノワルの落ち度と捉えるかという問題になる。


 大掛かりな兵器の存在を見落としていたのであれば起きな過失だが、実際に監視カメラが捉えたのは牢を隔てる壁の傍に人影が現れ、次の瞬間大穴……武器の類は無かった。


 映像には可愛らしいデザインの服を着た少女が過去のテロ事件の幹部数名を連れ去る様を捉えていた。情報規制により限られた者にしか閲覧出来ない一連の光景は少女がマギアの発現者である事を示す。


 正義の為に行動するとは思えない魔法少女の出現――


 その事実を認識した先刻グレイと呼ばれた者は自らが看守長を務めるノワル所内の一室にて溜め息を吐くのだが……その直後、護送されていたジェイクが到着。


 途中から武装メイドロボも合流した為、人影の数は三つ。グレイがモニター越しに朱色髪で長身の人物を眺めているとノワルの中へ入って行くのを確認する。


 帰って来たか、とこうなるのが当然かのように心の中で呟いたグレイは席を立ちジェイクと呼んでいたジェイカーク・ステファン・ヒルバードという男性を出迎えに行った。

 

~ちょっと用語解説~

・ロボット

 ボディが機械で構成され、主に特定の作業を目的に作られ、その形状は様々。


・アンドロイド

 ロボットの中で人型を為すもの。機械のボディの者もいれば、人間と外見が変わらない者もいる。

 人造人間と訳される場合があり、語源的に女性型アンドロイドはガイノイドと呼ぶのでは? という見方もある。


~本作でのロボットとアンドロイド及びAI~

・ロボット

 ボディが機械で構成され、主に特定の作業を目的に作られ、その形状は様々。

 内臓するプログラムにより自らを制御するタイプと、プログラムの入っていないハード(ボディ部分)のみの外部制御のタイプがあり、本作では後者のロボットの数が圧倒的に多い。


・アンドロイド

 本作に登場する技術力で「人間に似せたロボット」を作ろうとした場合、表面は生体組織で内部は機械という条件で作ったとしても、その外見だけで人間とアンドロイドかを判別するのは無理ゲーレベルになる……常に誰もがアンドロイドかが判る装置や機材が手元にあるわけでも無し。

 その為、人間に似過ぎないようにしたり、今回のメイドロボのように一目でロボットと判るようにデザインする事が国際的に推奨されている。

 自らを制御する内蔵プログラム型と外部のプログラムから制御されるタイプがあるのはロボットと同じである。


・AI

 デジタルデータから成るプログラムによる人工知能。

 ロボットにインストールされていたり、中身(ソフト)の入っていないロボットを外部から制御するタイプがいて、本作では後者が大部分で大抵のロボットはAIによる制御である。

 具体例として、一つの工場内の全てのロボットの制御を一つのAIが担う光景辺りを想像して頂ければ。


 ……後書き何だから砕けた口調で書いてもよかったかなぁ。

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