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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅰ『魔法少女は――』
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第3話 誰でも無い二人

「ここが渋谷(しぶや)か……」


 声色から男性と思える人物の目の前に広がる景色は、無機質に舗装された灰色の路面と高く伸びたビルの群れ……コンクリートの質感が目立つ建物が多かった。


 男性らしき者の全身は鎧で覆われ、手にする剣と盾はどちらも大振り。すぐ傍には同じく鎧姿の者がいて、次いで発した声色もまた男性を彷彿とさせる。


「あれが噂の忠犬ハチ公像か。再現に気合入ってんなぁ」


 共に男性という仮定を続け、最初に発言した男性の鎧が全体的に暗い色調で重たい印象を受けるのに対し、隣の男性の鎧の色は全体的に明るく前者の鎧に比べれば軽い雰囲気……後者の鎧は光をコンセプトにデザインしたものか。


 軽い鎧の男性の視線の先にあるのは大きな土台に乗った銅像。秋田(あきた)(いぬ)という犬種を知る者ならば、それを(かたど)った像である事が判るだろう。


「こんな目立つ像があるなら待ち合わせには持って来いだな」

「データがあるとはいえ、このゲームは本当に作り込んでるよなぁ」


 発言する二人が男性であると断言出来ないのはここがオンラインゲームの中であり、プレイヤーがゲーム内ボイスを自らの性別と同じ設定にするとは限らない。


 そんな二人がプレイする『ドゥ・イグゼス・オンライン』はDIOもしくはイグゼスという略称が一般的で、暗い鎧のプレイヤーは戦士(ファイター)、明るい鎧のプレイヤーは聖騎士(パラディン)というゲーム内の(クラス)を選択し育成している。


 今日二人が集まったのは忠犬ハチ公像周辺に出現するボスモンスターの落とす、ゲーム内でのお宝と言える品――レアアイテムの収集。


 弥の国は惑星『ヴェリオン』にて数ある国の一つだが、同じ惑星内の(いず)れかの国から二人はゲームにアクセスしていると言えよう。


 イグゼスの舞台は二十三世紀半ばの地球(ちきゅう)と呼ばれる惑星。『22XX』と表記しドゥ・イグゼスと読むのが公式で、英語に直訳するとツーズ・エックシズとなる。


 惑星ヴェリオンの記録にある地球に関する情報……データベースやアーカイブなどと統一された呼称は無いその情報領域には様々なデジタルデータが存在し、そこにあった情報を掻き集めてゲーム世界を構築したのが(Deux)(Ixes)(Online)


 その徹底した再現性が高く評価され今も世界一プレイされているオンラインゲームの地位を保持しており、地球(ちきゅう)にあるとされる島国――日本(にほん)の内陸部の地形に至っては完全再現と謳われるほど。


 日本以外の地球の国々は有名処の名所を重点的に再現し、日本エリアも各地域の連続性が飛び飛びになりがちだが、他の国々のマップは本当に所々しか作られてい無い為、地球の地形がそのままゲームの中にあるとは到底言い難い。


 それでもイグゼスが果たした再現と構築は充分に凄まじく、地球に関するデジタルな情報資料が潤沢に得られる事を意味している。


 そんなイグゼスのプレイを通して地球に関する多少の知識が惑星ヴェリオン内で一般常識レベルにまで浸透していると豪語しても過言では無いだろう。


 ではアーカイブにあるデータは何処まで正確で何処まで事実に基づくものなのだろうか。惑星ヴェリオンに住む、自らを人類と称する人々の中でそれを確認出来る者は一人として存在し無い。


 童話のような前置きをしよう。白兎が住む村と黒兎が住む村は互いに離れて暮らしていた。


 ある日、黒兎が白兎の村に果物を持って来た。その果物は白兎の村には無く、白兎の誰一匹として見聞きした事の無いもの。黒兎はその果物を『リンゴ』と呼び、育て方を白兎達に教えた後、自分の村へ帰った。


 (しばら)くが経ち、白兎の一匹が黒兎に感謝の気持ちを伝えようと黒兎の村まで出向いたが……村は焼け野原で黒兎達は一匹残らず絶滅していた。


 この時、今も白兎達が育てている果物が『リンゴ』であると証明出来る者は白兎の村の中に存在するのか?


 その果物の色が赤だろうと緑だろうと、果肉が黒かろうが血のように真っ赤だろうが、白ウサギ達の間ではその果物を『リンゴ』と呼んでいる事だけは確かである。


 アーカイブから読み取れる地球という存在及びそれら情報群は、そのアーカイブ情報を投影したものに過ぎず、惑星ヴェリオンの住民達が誰一人として実物の存在を証明する事が出来無いデータ上に浮かぶ何処までも虚像的な存在。


 故に惑星ヴェリオンの住民達はアーカイブから読み取った地球に関する情報全ては虚像的で仮想上のものであるとし、そんな仮想的(ヴァーチャル)な存在である地球(アース)に対し住民達は『ヴァース(Vearth)』という呼称を設けた。


 黒ウサギという存在の記録も無しに惑星ヴェリオン(白ウサギの村)(もたら)されていた地球(リンゴ)


 地球(ヴァース)の歴史データは二十三世紀半ばで途切れており、そこで地球(ヴァース)が終焉を迎えたという創作的アイデアを盛り込んだのがDIO――イグゼスというゲームである。


 二人がいるイグゼス内のゲーム空間もまたデジタルデータが織り成す虚像による仮想世界と言えるが……先程から戦士と聖騎士が戦っている相手(エネミー)は背の低い犬獣人――コボルドの高レベルタイプ。


 イグゼスでは各地のエネミーのレベルと種類が日替わりの為、常にマップ移動を迫られ、その結果としてメインマップである日本への興味関心が培われて行く。


 そんなネットゲームが長年に渡ってトップで在り続けた為、日本に関する知識が豊富なゲーマーは増える一方である。


 二人が戦うコボルドの群れの中には戦士(ファイター)魔法使い(マジシャン)僧侶(プリースト)とゲーム内の基本的なクラスに分岐したものが次々と現れていた。


 雑魚戦と言うには押され気味の末に勝利という場面が目立ち、二人にとって互角のエネミーが出現するレベル帯の場所と(うかが)える。


「集計時間中に通常モンスターを倒せば倒すほど、集計初期化タイミングでボスが出現する確率が上がって行くが……ここの敵は手強いな」

「回復アイテムは十分持ったし、俺の聖騎士は回復職(ヒーラー)寄りに育ててる……ガンガン倒すぞ!」


 途中現実世界でのニュース速報にリズムを乱されるも遂に目当てのボスが出現。


 銀色とコバルトブルーが絶妙な割合と分布でデザインされた毛皮に覆われる全長三メートルはあろう狼で、その瞳は獰猛な赤で(きらめ)いていた。


「まずは一体目だ……行くぞ!」

「周囲のモンスターの湧きも止まらないのが辛いぜ……あぁ、気合入れるぞ!」


 それから三十分以上。何度も窮地に陥る中、聖騎士の回復と援護により幾度も立て直し、ボスの撃破に至る。


 本来はもっと大人数でやるのだが、この二人は少人数で狩るのを好み、この生成マップ自体が今回専用のパスワード設定……教えなければ誰も入って来ない。


「ドロップは……ハズレだな」

「ま、景気付けにはなったろ。一旦セーフエリアまで行って休憩するか」


 その提案に戦士は賛成し、先程流れて来たニュースの詳細情報を確認する。


「魔法少女現る――これまた大した見出しだ」

「場所は弥の国、猊帝(ゲーテ)か」

「マギア何て都市伝説だろ? アルマやレドラと違って発現者が本当にいるか疑わしいぜ」

「マギアになれば不老不死の肉体を得るって話だが……酷い尾ひれにしか聞こえないよな」


 動画も貼られたニュース記事を戦士が一通り眺め、再度発言。


「本当にマギアなら、こいつは炎使いだが……お、見ろよこのニュース」

「核融合発電。実現への道、一歩前進――か。毎年言ってねぇか、これ?」

「いや違う。その下のニュースだ」


 二人は同じニュースサイトを開き、ゲーム内で呼び出すウィンドウに表示しているのだが……聖騎士が該当記事に辿り着く。


「リヴァイアサン社。幼少期のゴマフアザラシ型豪華客船『タイニーホワイト』を発表――甲板部に北極の光景を描画……随分とまぁ」

「ゴマフアザラシの赤ちゃんの白さと愛くるしさ……いいデフォルメだよな」


「軍事企業の豪華客船て……レールガン式連装砲辺り積んでそうだな」

「アヌビスやフェンリールじゃあるまいし、リヴァイアサンは造船メインでまともな軍事事業は生産請負程度だろ」


「何だかんだでずっとナンバー3を維持してるよな、あの会社」


 軍事企業『リヴァイアサン』は第三勢力と言うには上位二社と比べ企業力が大きく見劣りするが、トップ争いに参加しないが故の安定性により1と2の間で順位が目紛しく変わる二社に対し、不動の3位を実現してはいる。


 その主な実態に関しては先程の会話に出た通りで充分と言え、企業機密の流出を気にする事の無い条件で製造される廉価な兵器を量産する体制を世界各地に敷く。


 会話を終え、イグゼスのプレイヤー二人は先程のボスが出現するエリアへと戻り……十四体目にやっと待望のアイテムが来たと思えば十五体目もレアドロップ。


 以降も休憩を挟みながら狩り続ける両名だったが、日付が変わっても二人が最初に閲覧した記事にあった『炎の魔法少女』の話題を再びする事は無かった――

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