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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅱ『魔法少女は暴れない』
24/25

第24話 ロドキア教と、その密度

「……見てて心が痛むぜ」


 飛行船内にてそう呟く男性はカーキの作業服に身を包み、サイドから中央に掛けて寄せ気味にしたミディアムヘアは狐色と主張するには苦しい程度まで焦げたトーストのような色合い。


 男性はそのマルーンカラーの瞳で大勢の女子生徒達が乗るモーフィアス号が襲撃される様を船内のモニターから眺めていた。


「警察どもには洗い(ざら)い話せばいい。それが可能な契約だ」


 (かたわ)らには顔上部を覆う形状の金属マスクを付けた男も。


 背は作業服の男性の方が低く、この場に紙通(かみどおり)湯雨(ゆう)がいれば両者の間に入ると一目で判るほど仮面の男は長身だった。


 仮面は銀色だが頭部から全身を覆うローブもまた金属的な光沢を放つ銀色で……ローブの所々には水色の部分が見られ、両手を覆う皮手袋の色はネイビーブルーの中でも鮮やか。


 そんな男性二人を乗せた船は光学迷彩と機械的なスキャンへのステルスを実現するシステムを展開しており、事前に正確な位置を把握していなければ容易には看破出来ない程の代物。


「金はもう受け取ったんだ。傭兵稼業の身としてはサボれねぇ……しっかし罪の無い奴らがこうも一度に……」

「罪ならある。奴らは離脱(りだつ)主義(しゅぎ)の概念を(むさぼ)るだけの存在……離脱主義の在り方が正しく在る為にはジェイナ女学園の生徒どもは害悪でしか無いのだ」


 作業服の男性がぼやくように発言したのに対し、仮面の男の声には熱が(うかが)えた。


デパート(Depart)ヒューマン(Human)か……」


「フィリップ……だったか。お前もロドキアの信徒ならば思う所があるだろう」

「フリッツだが……フィリップと呼ばれるのも慣れたようなもんか。まぁ俺はロドキア教徒って程じゃ無いけどな……この教典と言う名の絵本は昔から好きだぜ」


 そう返した作業服の男性の手には子供が持つにはやや大きめサイズの書物。


 その本はロドキアの教えを示した書の中でも一般的なものと言え、ネジや歯車に水車、果ては爆弾や銃火器などの兵器……様々な機械的なものを題材にした物語が幾つも綴られている。


 それらの物語を通して機械に使われる部品の重要性や扱い方並びに整備の仕方を幼少期に学ばせようという目論見があり、それらの機械や部品はロドキアの使徒である……というのがロドキアの教義。


 フィリップと呼ばれた男性のように機械の構造に興味を持つ事で整備士の道を歩み、教本ではなく愛読書に成り下がる場合もあるようだ。


 そんな彼の名はフリッツ・パップリンなのだが、このフルネームを曖昧に思い出せば「フィリップ」となってしまうのも判らなくも無いと感じ続けた結果、今では自らの愛称という認識に至っている。


「我々は余りにも長くヒトという器に囚われ続けたのだ。そのような歴史に終止符を打つ為の存在となる事を我々は目指し、その先に行かねばならぬのだ」


 熱く語り始めたのは仮面の男だが、少し前にあった『離脱主義』とは惑星ヴェリオンでは比較的多く見られる思想形態……『デパート・ヒューマン』というスローガンにその理念が詰まっており、多様な解釈と在り方が見られる。


 デパートメント(department)ストア(store)の略称では無い、このデパート(depart)という英単語には「その場所から去り、異なる場所に移る」という意味があり、それが離脱主義という概念を著しく表す。


 故にデパート・ヒューマンとは人類からの逸脱。出発という意味を汲めば人類という在り方からの旅立ち……『ヒトという肉の牢獄からの脱却』を目指す運動と言えなくも無い。


 サイボーグとは生物の肉体の一部を機械に置き換える技術だが、あらゆる機械はロドキアの使徒であり、その機械を通してロドキアが信徒の行いを見ている……というのならば。


 ロドキア教徒にとってサイボーグになるという事は自らの体を使徒に置き換え、より多くのロドキアの寵愛を受ける事になる……実際そう考える者も少なく無い。


 その中には自身を機械に置き換えて行く事は自らを神へと近付ける一体化行為だと捉える者も。


 ジェイナ女学園の生徒達ならばフルダイブ行為への抵抗が少ない。


 そう言ったのはベック社の社長フィオナ・メロイドだが……ロドキアの教えに触れた者達の多いジェイナ女学園では機械と一体化する事に対し、憧れや特別な感情などを抱く生徒達が育まれ易いのも事実同然か。


 神と共に在る――それが何を意味し、どのような自己を実現するかは個人によって受け取り方も異なる事だろう。


 仮面の男のようにロドキア教徒は離脱主義の考えを持つようになると位置付ける者も珍しくは無いがロドキア教徒で無くとも離脱主義に至る者も数多い……仮面の男は後者に当たり、彼にとってロドキア教は研究行為という傾向が色濃かった。


 ロドキア教の始まりは地球(ヴァース)にあるとされる宗教文化を学ぶ一環として独自要素を盛り込んだ上でのサンプルを作成するという目的から。


 宗教文化を体験するコンテンツを望む声が当時盛んだったわけでは無く、大戦後の復興に尽力したAIのトップがある日突然創作し、世に発表した。


 そんな経緯と事実によりロドキア教を「AIというプログラムが生み出した造り物のデジタル作品」、「AIを始めとする機器の構造を理解しメンテナンスを行える者を確保させたいが為だけに作ったマニュアル」と揶揄する者も多々。


 そうかと思えば、「AIがロドキア様の存在を算出した」と言う者もいて、人間では捉える事が出来なかったロドキアという存在をAIはこの世界から導き出し、AI主導で教義が広まったのはロドキアの意志だと力説するほど。


 ロドキア教が惑星ヴェリオン(この星)全土で認知されているのは確かだが、信者と言える程の信仰と教義の実践を何処まで行っているかで条件を厳しくして行けば、ロドキア教徒の人口は急激な下降を見せる。


 ジェイナ女学園周辺の地域は低所得者層が多く、心の拠り所をロドキアに求める者や何か困った際に気持ち程度に(すが)る対象として留める者が(ほとん)どで……先程、胴体を切断された女子生徒まで敬虔になるケースはごく僅かと言えよう。


「だというのにジェイナ女学園の生徒どもはどうだ! 離脱主義に理解を示すような素振りをチラ付かせるだけでその実、何の行動も起こさない……ロドキアの教えに触れておきながら、まるで辿り着いていない!」


 仮面の男の発言は続いており、更なる熱を帯び声量も得ていたが……それを眺めていたフィリップが漠然と呟く。


「人類はヒトを越えた存在となるよう努めるべきだ……だったか?」

「そうだ。全ての人類にその志が灯れば、模索の果てに人類は新たなる在り方に辿り着く。全身の機械化、肉体の中のもの全てをデジタルデータに変換……それらなど不完全な進化であったと明るみになる程の人類の在り方を我々は見出せずにいるのかもしれぬのだ」


 こんな感じで人類を越えた存在になろうという姿勢や考えが離脱主義ってヤツなんだよな、と思いながらフィリップが佇んでいると仮面の男の熱弁は更に続いた。


「よって我々はより優れた志を抱く離脱主義者を残し、誤った者や半端な者は排除する。優れた離脱主義者たちだけになれば、その素晴らしさに賛同する流れが波及して行き、やがてこの星の住民全てが離脱主義者となろうぞ」


 そう語る仮面の男の思想もまた離脱主義の在り方の一つでしか無いのだが……少なくともフィリップは感銘を受け無いまでも、こうは思っていた。


 高い報酬に目が眩んでここまで来たが……テロ組織のリーダーをやってるだけの事はある、こいつはマジだ。


 フィリップが報酬目当てにテロに加担するのは今回が初めてでは無いが、今まで会って来たテロ組織のリーダーは結局は金儲けと組織維持がしたいのだという本音を(もっと)もらしい大義名分を掲げて誤魔化しているだけだった。


 そんな中、仮面の男からは揺るぎ無い程のカリスマ性と偽りの無い信念が力強く伝わって来る……賛同は出来ないにしても次のようにフィリップは感じていた。


 コイツを見ていると、言ってる事を本当に実現しちまいそうな気がして来るぜ。


 この船に乗っているのはフィリップと仮面の男の二人だけでは無い。仮面の男に賛同する何名もの部下達が次の命令に備え待機している。


 突入命令が下れば、ジェイナ女学園の生徒達を殺して回る存在となるだろう。


  ◆


「報告。全フルダイブ機器のシステムチェックを行いました。全て正常です」


 モーフィアス号の船内にて、ドリーは常時システムの異常の有無をスキャンしているのだが、今回はその内容を護衛である程よく暗いネイビーブルーのミドルヘアをウルフカットにした南国肌の女性――カーラ・アボケイに伝えていた。


 作業用ロボットがいるとはいえ学園関係者を除けば人間は自分ともう一人の護衛だけという状況と共に引き続き船内を過ごすカーラだったが……暫くして何処かの部屋で爆発でも起きたかのような音を耳にする。


「ドリー! 一体何が!」


 そう叫ぶカーラは応答が未だに来ない事から緊急事態に直面している事を察す。


「ドロシー! そっちはどうなってんだい!」


 咄嗟に専用の通信機器で今回の仕事を共にするドロシー・カリフと連絡を取ると此方は直ぐに返事が来た。


「ドリーが機能停止しています。加えて先程の爆発音……サーバールームに爆弾が仕掛けられていた可能性がありますので見て来て下さい。私は教師の方々の許へ向かいます」

「あいよ!」


 船の心臓部であるドリーを搭載したサーバールームへと一直線に向かったカーラだったが……部屋に辿り着くや、単に爆弾が仕掛けられただけとは思えぬ程の光景がカーラの視界に雪崩れ込む。


「こいつぁ……何だってんだい」


 異常に熱せられた室内を見渡せば、派手な爆発跡を見せる周辺機器がショートしており、肝心のサーバー本体は斜め方向に両断……溶融する切断面はまだ多くの熱を持っていた。


 程無くカーラは、通路を駆け抜ける間に耳にした奇妙な音と船内全体の温度が上がっていた事への疑問の正体を目の当たりにする。


 カーラの足元から高出力と思われるレーザーが噴き出し、曲線を描き始めた。

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