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魔法少女は暴かない  作者: 竜世界
Occasion Ⅰ『魔法少女は――』
11/25

第11話 炎の魔法少女LAST~包まれるもの~

「随分と……ふざけた色の炎ね」


 そう言われたけど、実際ふざけてる。


 その燃え盛るように揺らめく様は例え緑色でも炎の印象を放つには充分だけど、炎と言えば内側から外側に掛けて白、黄色、オレンジ、赤の順番で綺麗なグラデーションを描きがち……それを踏まえてアタシの緑色の炎を見たら違和感が凄い。


 だって全体が緑色で形状的に陰影が出来そうな所だけが青緑色……半透明なのも相まって炎じゃなくてゼリーを見てるような気分になっちゃうし。


 そう考えると『レッドインフェルノ』と名乗る魔法少女の姿をした女性が放つ炎の色は至って自然……アタシの炎はあの杖の宝石の色を思い出すから何だか心地いいけど、他の人が見たら絶対異様に映るよね。


 ……向こうが前方に放射して来た炎がアタシに迫ってるから跳んで(かわ)そうか。


 今はお互い天井で逆さまになって浮遊した状態。こんな風に一旦上に飛んですぐに着地し直す素早い動作は緑色の炎を使わないと出来無いなー……向こうは時折、足で移動するもののジャンプはしない砲台スタイル。


 とりあえず女の子もどきもアタシもこの天井に重力があるかのように振る舞って逆さまの世界を演出してるね。


 再び魔法少女の手の平から広範囲の火炎……アタシの前方が塞がれてる内に背後へ回る気のようだけど、今のアタシの視界は360度。


「殺気でバレバレだよ」


 まずはそう言いながら回避……すぐに同じ攻撃が繰り出されたね。


「いい反応。まるで後ろにも目があるみたいね」


 そう言われたから確信していいのかな。


 魔法少女……というかマギアになれば皆こうして視界が強化されるものかと思ってたけど……少なくとも目の前の女性はそうじゃ無いみたい。


「殺気は無駄にあるけど……威力は大した事無いなぁ」


 ちょっと挑発してみたけど、刺激し過ぎてモールの客たちに攻撃が向かわないように気を付けなきゃ。


「だったらこれを、喰らいなさい」


 言葉と一緒に車一台呑み込めそうな大きさの火の玉が返って来たので、アタシは怯んだかのようにやや後退する。


 戦闘開始からずっとアタシを包んでる緑色の炎は使う度に適度に補充してるから突然尽きる心配は無し。


 じゃあアタシは火の玉を観察しつつ片手で払うような動作と共に、緑色の炎の壁を展開して……。


「くっ!」


 咄嗟に炎の壁で防御しました、と焦った感を演出してご機嫌取っとく。


 アタシが繰り出したこの壁も、大型トラックが通るには厳しい車高くらいの規模にはなってるね。


 炎の球が激突すると、アタシが展開した壁の大きさは徐々に狭まって行き……向こうの炎を完全に相殺し切る頃には最初の三分の一くらいまで量を失ってた。


 これで相手の攻撃に関しては見当が付いたし、ちょっと反撃してみようかな。


 どうもアタシの緑色の炎は生成直後にそのままぶつけてもダメージを与えられ無いみたいで……さっき消化用に使った緑色の炎も何もしなければ炎を消す事が出来無かったみたい。


 そんな炎をモール内の大部分に浴びせたから、目立って燃えてる箇所はここからだと見当たらないね……これだけ消えてれば例え消し損ねた箇所があってもお店のシステムの方で対処可能かな。


 アタシの緑色の炎は出す前か出した後、設定みたいな事をする必要があるみたいなんだよね……飛ばした炎の一つから視界を取得出来るのはその為なのかも。


 そんな緑色の炎でちゃんとした攻撃をしたい時はどうすればいいのか。昔アタシがメイとした会話が結構その答えになってる――


「なんでメイちゃんの会社はビームじゅうを作らないの? レーザーじゅうは作れるのに?」

「ビームはねー。すっごく小さな弾丸をいっぱい飛ばすみたいな事するから、レーザーとは全然違うんだよー……すっごく小さい弾って事はどういう事かな?」


「当たってもいたくないー」

「そうだねー。痛くする為には速度が必要なんだけど、ビームで使う弾丸はすっごく軽いの。普通の銃の速さで撃っても全然痛くない……じゃあ、どうすればいいと思う?」


「すっごいはやさでとばすか、だんがんをおもくするー」

「そうそう。そしてビームだと速く飛ばしたいんだけど、亜光速くらいまでの速度で撃って、やっと売り物になるくらいの威力が出る感じなの」


「はっしゃそくどを光のはやさくらいまで上げないとダメなのー?」

「そうそう。まなちゃんが持てるくらいの大きさの銃で亜光速を実現するのは無理があるし、既に凄い威力のレーザー銃がある……そんな中、今ウチの会社が売ってるレーザー銃と同等のものをわざわざ作る意味は……?」


「ぜんぜんなーい」


 適当に思い出してみたけど、事細かには合って無いかもなぁ……物心付く頃にはアタシ、メイに引き取られたし一桁年齢の頃の話になるはず。


 その時期から既にメイは兵器に関する科学知識を学んでて、アタシがちょっと聞いたらアタシの解る言葉で説明出来るくらい理解してたね。


 当時のアタシには難しかった漢字もスラスラ覚えては使いこなしてたなー……というわけで今アタシがやるのは速度がそこそこで威力が熱量頼みなビームの発射。


 今受けた火球ほどじゃないけど、まず大きめサイズの緑色の炎を前方に生成し、それに温度と発射速度を設定……あとは狙った方向に直線状に放つだけ。緑色の炎に熱を与えたら全体が内側から外側に掛けて黄緑、緑、青緑の炎に変化した。


 これなら炎と主張出来なくも無いのかも……どれも鮮やかな色だけど、よく見たら黄緑色の前に黄色味と明るさが両方増した黄緑色もあるね。


「ていっ!」


 何か微妙な掛け声出しちゃった……どうも事前にパラメーターみたいなのを決めておけば一瞬で出来るみたいだね。そのパラメーター内容を覚えてればまだ設定してない炎に反映させる事も可能だけど……何だか設定済みのでも出来るっぽい。


 お試しビームの直径は拳大くらいになったけど、待ち構えてた女性は突き出した右手に頭くらいの大きさの火球を生成。


 その火球でアタシの放ったビームを防ぎ切る……つもりだったんだろうけど、少しだけ受けてたと思ったらビームが一気に突き進み、伸ばしてた右手の上腕部辺りが消し飛んだね。


 緑色の炎にはそこそこの質量があるようだけど……この場合、熱量で焼き切った感じだね。温度に関しては少し込めただけで、どんどん上がってた。


「ふぅん……」


 何やら得意気な声が返って来た。この様子だとその無くなった腕部分……再生すると考えてよさそうだね。


 それにしても、どうやらアタシは魔法少女の中でも『特別製』みたいだなぁ。


 能力(メルム)の存在を知ってから、レドラやアルマを目の当たりにするまで直ぐだったけど……マギアを見るのは今回が初めて。


 でも同じレドラのレナ先生とクマ子を見れば判るように、能力(メルム)の内容には個人差があり、レドラやアルマだからって誰もが強大な力が備わるわけじゃ無い……それはマギアも例外じゃ無いって事なのかな。


 とりあえずアタシが吹き飛ばした右腕部分はやっぱり再生して元通りなんだけどマギアになれば(みんな)魔法少女みたいな姿になるのかなぁ……でもアタシと目の前の女の子もどきを見ただけでそう考えるのは早計過ぎる。


「私もやってみようかしら?」


 軽い意趣返しがしたくなったのか、女性は再び車を呑み込むサイズの火球を作り出すと前方に集中させて放った……直線形状に収束し切れてないからビームと言うよりブレスだね、これ。


 気付いて無いんだなぁ――


 ブレスもどきは消化に使った時と同じ設定の緑色の炎を軽く浴びせて対処。


 もう確定していいかな……魔法少女レッドインフェルノは、人間と同じ視界しか視えて無い。となるとアタシの視界は完全に人間を辞めちゃってる事に……。


 アタシの視界には赤外線情報に基づくものなのかはさて置き、熱分布を色で可視化するサーモグラフィーみたいなモードがあるんだよね。


 切り替えて無くてもどれくらいの熱量がそこにあるか感覚的に分かるような感じだし……その感じ取った量の分布を表示したものなのかな。


 だから女性が繰り出す炎の温度の分布と変遷も、さっきからずっと丸わかり。


 あのねぇ、そこの魔法少女さん……その炎で遠距離攻撃しちゃダメだよ。だってその炎って――


「はぁっ!」


 だからそんな威勢のいい声出しながら炎を飛ばしたって、発射する事自体が間違いなんだってば。


 貴方の炎は『減衰式』。発生時に最大の熱量と威力があり、その火力を維持する時間がとても短い。


 サーモグラフィーな視界越しだと生成時は凄い温度でそこから一気に下がる様がありありと映ってたよ。この視界モードはアタシが直接()ている事が条件みたいで緑色の炎の方には備わって無いね。


 自分が出す炎の性質に気付いてれば、体術を磨くとかして常に近距離を維持する戦闘スタイルを目指す事も出来たでしょうに。


 何だか溜め息吐きたい気分になって来た……呆れてるのかなぁ。


 アタシは新たに大量の緑色の炎を出したけど、慣れれば手をかざさなくても起点を指定出来るんだね。


 放った緑色の炎が女の子もどきの足元に広がったのを見たアタシはその炎の一部を動かし始める。アタシの炎は好きな方向に動かせるだけじゃなく好きな形に変形させる事も可能。


 今回はまず後頭部に多少集めて……そのあと背面全体に広げる感じでいいかな。


 とりあえず今は後頭部の炎と天井にある炎の間でこうすれば――


「あら?」


 アタシはもう逆さまになるの、やめたから……直立して足を床に向けてる状態。


 今や天井に張り張り付いた女の子もどきだけど、それを見上げる位置にアタシはいるわけで……その唖然とした表情がよく見える。


 流石にこんな女性(ヒト)でも気が張って無い時の表情はあどけなさ全開で可愛いね……顔は子供っぽいんだし。


「何よ……これ。動かせ、な……」

「貴方の可愛さに天井も惚れちゃったんじゃない?」


 そんな適当な言葉を返して、アタシは魔法少女レッドインフェルノに狙いを定める……この場合、熱量は要らない――


「どうやら本気を出すみたいね。でも魔法少女は不死身……私の再生する様を飽きるまで見続ける事になるだけよ」


 そのはずなんだけど、さっきから……こうすれば倒せるって気分が押し寄せて来るんだよね……だからそれをやってみる。


「貴方が見た目だけじゃ無くて考え方も可愛ければ、こんな事出来なかったんだけど」


 残念がった声が出ると思ったんだけど、語気に少しだけ怒りが(にじ)み出たような感じがあって……あぁ、怒ってたんだアタシ。


 それじゃあ設定済みの緑色の炎を吐き出し続けよう……天井関係の方も補充しながら。


 頭上のテロリストに浴びせる緑色の炎は凄い量だけど、すぐに使い切っては同じだけ吐き出すから、流石に力を消費してる感触が伝わって来る。


「それにしても、手足がビクともしないわね……これじゃ、まるで――」


 メイの為に死ぬ覚悟は一緒に暮らすようになった早い段階から出来てた……メイの為に誰かを殺す覚悟だって、その時に決めた。


 それなら自分が誰かを殺す覚悟は出来てたって言えるのかな。


 レドロを殺しても殺人じゃ無いのなら、クマ子やレナ先生みたいなレドラを殺しても殺人じゃ無い……何て詭弁(リクツ)がまかり通るなら、魔法少女を殺しても殺人じゃ無いって事になる。


 特にアタシみたいな事が出来る魔法少女と言うかマギアは人間と主張出来るかは自信が無いにも程があるけど……気持ちの問題だ何て感情論でいいなら、今からアタシがやる事はちゃんと数に入れようか。


「しゃべ……ま……ね」


 喋る暇も無いわねって言ったのかな? ……どうでもいいか。


 そんな魔法少女レッドインフェルノの肉体は文字通り破壊と再生が繰り返されてて、さっきから肉体部分が六割弱の状態を維持気味。


 今回の炎って人体の正面目掛け浴びせてるから、どの部分がどう抉れるかはまぁ想像可能……だからこそ直視は避けてるものの、炎を通して伝わって来る――


「あ、ぐぁ……」


 女の子もどきの再生力が低下し続けてるのがね……ここまで弱まったんだし出力上げてもいいかな。


 何だか緑色の炎を使える量がそんなに多くは残されて無いって実感が湧きつつ、足りるって確信がある。


 ずっと炎を浴び続けてるのはミスリル合金で作られてるであろう天井も同じで、とっくに穴が開いてそうだけど……別に何の変化も起きて無い。


 アタシがこの炎を目の前の魔法少女のみを対象にしてるからと言ってしまえばそこまでだけど、この緑色の炎は対象が増えた分だけ消費も大きくなるんだよね。


 だから対象を限定する節約機能が備わってる感じなのかな。


 ……何て考えてる間に呻き声ひとつ聞こえなくなったけど、まだ緑色の炎の中には僅かだけど反応みたいなのを感じる。じゃあ――


 これで終わりだね。


 アタシはそう思い浮かべると同時に今回の緑色の炎の出力を一気に上げた。そのほぼ直後、少しだけはあった反応すら一切感じなくなる。


 それからしばらく待ったけど……やっぱり再生が起きる気配は無し。


 拘束用の緑色の炎の補充もやめたから、そこにはまだまだ小綺麗な天井があるだけで、他には何も無い……って事だね。


 これがアタシの初めての殺人になるわけだけど、例えアタシが彼女をヒトと認識して殺していたとしても。


 魔法少女レッドインフェルノはヒトとして死ねた事になるのかな?


 人間として扱うかどうかは自己満足で誤魔化せるけど、ヒトとして扱えるかどうかとなると言い逃れが出来ないくらい……アタシたちマギアはあらゆる面で人類と掛け離れている。


 魔法少女レッドインフェルノが人間じゃ無いって根拠を追求しようとすると――それはヒトとは到底主張出来ないアタシに返って来る。


 この視界、便利だけどさ……生物の感覚器官の概念をかんっぜんに無視してる。


 目を閉じても視界が鮮明なままなのがね……任意でオフにする事は出来るけど、それは目を開いたままでも出来る始末。


 とりあえず目を閉じて視界をオフにしてみたけど……こんなの、わざわざ人間の振りをしてるって事に。そう思ったら――


 何だか喪失感のようなものが心の内側のあちこちから滲み出す感じで続々と広がり始めて……物悲しい気分が溢れて来た。


 姿だけでも人間に戻りたい……そんな願いは凄く簡単に実現出来るって気がして来たから、戻る前にちょっと緑色の炎を放つ。


 こうして建物の天井にいながら各階を見て回れる第二の視界は便利でしか無いんだよなぁ……あそこなら監視カメラに突然現れても不自然さは薄いかな。


 移動先は決まったし、次は盛大な目眩ましだね。


 両手を合わせ気味にしたアタシは光量だけを高くした緑色の炎の出力を高めて行き……大きく膨れ上がった末に吐き出した時にはモール内全体を炎と言うか緑色の光で埋め尽くす事が出来た。


 眩しくて何も見えないけど、これって熱が無いからサーモグラフィー視界にすれば周囲の状況は結構拾えるんだよね。


 そう思いながらアタシは緑色の光が続いてる間に、見定めた場所へ移動。


 ……形ばかり元のアタシの姿に戻ってもさ、人間に戻れたって言えるのかな。



 

 ここまでお読み頂きありがとうございます。


 今回は魔法少女グリーンブレイズがどういう事が出来るかよりも「どういう事を起こせるのか」に重きを置いてお送りました。

 ですから今回の内容が理解出来無くとも「こういう事が起きた」と認識して頂いていれば既に望外の域です。


 もしも今回の内容を理解しようとする方がいれば、公開情報がまだ不十分なのである程度アタリを付ける程度で十分な段階とお伝え致します……結構露骨にぼかした箇所が多々ありますし。


 今回のような感じの要素もSF要素も、共にお楽しみ頂ける作品となっていましたら幸いです。

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