さぁ、ゲームを始めよう。
…10年ほど前から流行り続けている人気のボードゲーム、『無限の戦争の輪舞』通称 バトロン。
このゲームの売りは専用端末によって、撮った写真に映るものから情報を読み込むと、ユニットと言われる様々なゲームとコラボしたキャラクターが生まれてくる。
そして生まれたキャラクターと契約を結び、自身の契約したキャラクターのスキルカードや、攻撃するためのコマンドカードでデッキを組み契約者はそのデッキで争い自身のキャラクターをゲーム界の頂点である『皇帝』にする、という対人戦のゲームだ。
元々は違うジャンルのボードゲームだったのだが、合同で出すこととなってこういう形で売り出したところ、どうやらヒットしたらしい。
しかし、専用端末がスマホの端末3台分ほどかかるし印刷用のカードも専用の為、初期費用がかなりかかっていたようだが…
「やった…やっと手に入れたぞ!これで俺もバトロンを始められる!」
自分の端末を両手で持ち、櫻井 創太は高校1年の夏、今まで貯めに貯め込んだ小遣いやお年玉、家に落ちている小銭すら拾い集めたすべて使い、家族に「全世界1位の銭ゲバ」とか「金さえ積まれれば殺しもしかねない」とか散々な事を言われながらも、ようやく最新の専用端末…ではなく1世代前の専用端末を手に入れることが出来た。
3世代ほど前からスマホに取り付けるタイプの端末が生まれ端末費用も安く、ルールのアップデートもアプリを使えるため参加者を爆発的に増やしており、元々は対人戦がメインのヘビーユーザーが多かったが、戦うだけでなく自分のユニットを見るためや、世話をしてユニットとの触れ合いを楽しむという遊び方がメインのユーザーも出てきた。
まぁ、俺もそれがメインなのだが、ともかくこれで俺も妖精を愛でることが出来るようになったってわけで…。
「えっと⋯説明書読もう、確か最初の妖精って特殊な扱いされるって話だよな…?」
このバトロンの特徴は1端末に契約できる妖精は3人だけ尚且つ、最初に契約したキャラクターは端末操作の際のサポートやチュートリアルの際の説明など強制的にリセットでもしない限り変更不可の固定キャラとなり、同じ端末で同じ妖精とは再契約が不可となる仕様である。
ランキングでもそのキャラと自分がアイコンに使用されるようになるので、最初に契約したキャラクターとはとても長い付き合いになる大切なパートナーになるということで最初に好みのキャラと出会うまでリセットを繰り返す人が多い(リセットした回数も端末には保存されているらしく、リセット反対派と賛成派の二極化が激しい)。
「せっかく自分のところに来てくれるって言うのなら大切にしたいなって思うんだけどなぁ⋯ま、こんなん言っても仕方ないし、早速俺も自分のパートナー探しに!」
「あら?どっかいくの?ちょうどいいわ、あたしのコーヒーと、なんかそれに合う茶菓子でも買ってきてくれない?」
「なあっ!?」
玄関でお気に入りのスニーカーを履いていざ出ようとした矢先、Tシャツ短パン姿でボサボサ頭を掻きながら俺の服の裾を思いっきり床に踏みつけて立ち上がろうとしていた俺は勢いでバランスを崩して扉に頭を打ちつける羽目になった。
痛みに堪えながら犯人は誰だ!と思いながら振り返ると、姉の真由がそこに立っていた。
容姿は綺麗なのに中身はほとんどオッサン、部屋は気付けばゴミ屋敷になるし料理は普段は優しい母が般若の様な表情を浮かべて使用禁止と言われるほど壊滅的な家事のセンスをしている。
その分投資をしていたり、別で何かの仕事をしていたりと詳しいことは何もわからない謎が多い人だけど金回りがよく本人も「家事が出来ない分稼げるだけ稼いでいんだからいいのよ、将来は家事出来る男捕まえればいいんだから!」と半ば開き直っている。
出不精で「陽に当たったら40分で死ぬ、無理」と言って家を出たがらない為いつもパシリにされているが、お釣りが多めになるように金を渡してくれたり、スマホ自体の契約もしてくれたりと色々世話になっているのも事実だからある意味逆らえない存在である。
「えー、いつ帰れるかわかんないけど。それでもいいなら…」
「何?彼女でも出来てデートか!?コノヤロー!青春してるねぇー!」
「ちげーよ!やっと端末買えたから俺の相棒見つけに行くんだよ!つか、ねぇちゃん俺の学校でのあだ名知ってんだろ!?」
「あぁバトロンジャンキーだっけ?あとは銭ゲバ?⋯まったくもってその通りじゃない。二次元の嫁探しでも、恋人とのデートでもなんでもいいから、そのついでにあたしのコーラ2リットル5本よろしく〜、新規バトロン参加のお祝いでお釣りはちゃんとあげるからさ!」
そういって姉さんは俺に1万円渡してきた。あからさまに多いが姉なりの俺へのお祝いなのだろうと思って俺は出かけていった。
「てか、姉さんもバトロンやってたのかよ、こういうゲーム興味ないと思ってたのに。」
部屋を閉じる直前、姉の部屋の隅に初期型の端末があることに驚きながらもあまり気に留めず俺は家を後にした。