閑話 戦う理由 〜Case Glenn〜
【グレン・パーカー】
age:23 / 種族:純人族/ 職業:冒険者 剣士/ 冒険者ランク:サファイア
背中に身の丈を超すほどの大剣を差して、全国を渡り歩く孤高の冒険者。
群れる事を嫌い、どんな難関クエストもソロで挑む事を信条としている。
単独で竜を討伐した事から竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の二つ名で呼ばれている。
冒険者ランクは12階位ある内の上から二番目であるサファイア。かなりの高ランク冒険者として有名である。
そんな男のモノローグ……。
「俺は戦場が好きだった。」
俺の名前は、グレン パーカー。
冒険者稼業で飯を食っている。
傭兵、用心棒、金になりそうな事は大概やった。
場合によっては、ヤバい仕事にだって手を出した。
一端の冒険者になった今では、ようやく仕事を選ぶ事が出来る様になった。
あー、何の話だったか…?
そうそう、あれは数年前の出来事、傭兵時代の話だった。
俺は、戦場が好きだった。
戦塵が吹き荒ぶ中、開戦の狼煙と共に、がむしゃらに先陣を切って飛び出す。
一番槍ってやつだ。
先に大将首を取った奴が勝ちだし、なにより、一番金が貰える。
馬よりも速く駆け、ペガサスより高く跳んだ。
俺の内側に渦巻いているモヤモヤした何かに押しつぶされそうだったんだ。
それを忘れるように、何も考えずに暴れ回り、目の前の敵をぶっ叩く。
後は、次々と押し寄せてくる目の前の敵を切る。切る。切る。
黙々と。
ただ、ひたすらに。
むせ返るような死の匂いと血煙の中、その事だけに集中すれば、戦場では余計な事は考えずに済んだ。
気がついた時には、辺りは一面屍の山だ。
ふとした時に、頭をよぎるのは、故郷の村に一人残した病弱な妹の事。
それと、これまで無数の命をその手にかけてきたという罪悪感。
それらから逃れるように、毎度、危険な戦場へと足を推し進めた。
幾度も敵と切り合い、幾度も生き延びる。
生き延びる、その一点に集中し、そのために幾人もの敵を切る。
そのうち、周りの景色が色彩を少しずつ失い、頭の中が真っ白になった頃には、大抵、戦は終わっている。
戦争の理由?
国同士が争う理由なんてもんは、俺には関係ない。
政治的な思惑や、領土だとか、資源の奪い合いだとか色々とあるんだろう。
だが、俺たち傭兵の思考は、至って単純だ。
戦場においては、目の前の敵を殺らなきゃ、殺られる。
ただ、それだけだ。
できるだけ多くの大将首を獲り、人よりも多くの武勲を挙げる。
それだけで、大金が手に入る。
俺のような碌に教育も受けていない、育ちの悪い餓鬼が金を稼ぐには、悪事に手を染めるか、傭兵になるくらいしか道が無かった。
戦があると聞けば北へ南へと駆けつけ、勝ちそうな方の傭兵になり、暴れ回る。
勝ちそうな方ってのが大事だ。
勝ち馬に乗るってやつだな。
どんなに敵の首を取っても、戦に勝たなきゃ金は貰えない。
そこで一番重要なのは、情報だ。
必要な情報が手元にある奴は強い。
そんな事を繰り返しているうちに、懐の暖かさと比例して身体の傷は増えていった。
戦でついた傷は、“男の勲章”だなんて呼ぶ奴もいるが、俺とっては弱い奴の証であり、恥じるべき汚点に過ぎない。
自分の傷を見るたびに、怒りが込み上げた。
傭兵稼業を続けるうちに、仲間と呼べるほどの顔馴染みも増えた。
時には、戦場で命を落として顔を見なくなる事もあった。
この戦争が終わったら…なんて希望に目を輝かせていた奴ほど居なくなっちまう。
結局の所、弱いから死ぬんだ。
死は、誰の上にも平等に訪れる。
そこには貴族も平民もない。
今日もまた、死神が気まぐれに回すルーレットで誰かが死ぬ。
死神って奴は天邪鬼なのか、単に俺が嫌われてるだけなのか。
俺は幾多の戦場を生き延びた。
その度に、また仲間を失う。
生き延びれば生き延びる程、敵を殺せば殺すほどに、懐には大金が残った。
でも…足りない。
もっと、もっと金がいるんだ。
あいつの為に。
何故、そんなに金がいるのかって?
俺には、歳の離れた妹がいる。
俺と違って、気立ての良い、可愛い妹さ。
妹は、幼い頃から病気がちで、体が弱かった。
さらに運悪く、石化病にかかってしまった。
足の筋肉と骨が硬化して、徐々に石のようになってしまう病気なんだという。
医者の見立てでは、コカトリスの卵にでも触れてしまったんじゃないかって話だ。
幸いにも病気の進行が遅く、症状も足に限定されるため、激しい運動は出来ないが、杖をつけば、辛うじて日常生活を送れる事が、せめてもの救いだった。
不治の病って訳ではないが、かなりの難病だ。
村の薬師も、匙を投げた。
誰も彼もがお手上げだった。
妹の病気を治すために、「薬を探してくる。」
両親は、そう言い残して村を出たきり、ついには戻ってこなかった。
はじめは、親に捨てられたのかと思った。
不安で眠れない夜が続いた。
後になって分かった事だが、大きな薬屋のある隣街への道中、盗賊に襲われて命を落としたんだそうだ。
別段、珍しくもない。
今のご時世、よくある話だ。
残された病気の妹のためにも、俺が稼ぐしかなかった。
妹を近所の婆さんに預けた俺は、13歳で村を飛び出した。
学もなく、コネもない俺が稼ぐには、傭兵か冒険者しか選択肢が無い。
生まれ育った村は、田舎で貧しく、農業の手伝い以外でまともな職なんてあろうずがない。
俺は大きな隣街に行き、そこで冒険者になった。
初級冒険者の定番といえば、薬草や素材の採取などがあるが、そんな依頼には見向きもしなかった。
稼ぎが少な過ぎるためだ。
俺は、高額の仕事を斡旋してもらえるよう、ギルドに頼み込んだ。
だが、受付嬢の反応は、非常に冷ややかなものだった。
静かに首を横に振るだけ。
そりゃあそうだろう。
駆け出しのガキが吠えてるだけ。
誰も相手になんてしてくれない。
仕事を斡旋した所で、死人が増えて任務失敗とくれば、ギルドの信用に関わる。
理解はしているが、納得する訳にはいかない。
そこで、俺はギルド長を待ち伏せして、直談判した。
「何でもやる!金が必要なんだ!」
「いいぞ。今夜、俺の部屋へ来い。」
考える間もなく、ギルド長は二つ返事で了承してくれた。
野良犬のような、ギラついた目が気に入ったらしい。
いつだったか、酒の席で思い出話に花が咲いた時、「あの時は、すぐに死ぬだろうと思ったがな」と、笑いながら話していた。
ギルドには、表に出せない依頼も来るものだ。
そんな裏の仕事をこなす汚れ役も必要という事だ。
はじめに受けた仕事が、近隣を荒らし回っていた凶悪な盗賊団の討伐依頼。
命の保証もない、危険な仕事だ。
でも、その時は、凶暴な魔物を相手にするより、人間の方がマシだと思ったんだ。
だが、相手は、盗賊団として近隣の村々を略奪して暴れ回っている連中だ。
これまでに何人も殺しているし、誘拐、人身売買、強盗、強姦と、やりたい放題だったもんだから、かなりの額の懸賞金がかけられていた。
街の衛兵程度ではどうにもならず、住民はすっかり困り果てていた。
王都へ救援依頼をかけても、こんな田舎の盗賊団如きに王国の騎士は来てくれやしない。
そこで街の元老院と商工会は、賞金をかけ、冒険者ギルドへと依頼をだしたのだった。
毒をもって毒を制すってやつだな。
俺は盗賊団の事を入念に調べあげ、奴らが寝ぐらにしているアジトを突き止めた。
早速、夜襲をかけたのはその夜だった。
アジトは、街から少し外れた廃村にあった。
廃村の一角、一際大きな宿屋。
そこが奴らの寝ぐらだった。
強盗でもした後なのだろう。
奴らは、呑気に酒盛りをしていた。
やる事は、動物の狩と一緒だ。
群れから離れた者から一人ずつ、一人ずつ確実に殺していく。
出来るだけ静かに。
そして、速やかに行わなければならない。
用を足しに、一人、また一人と宿の外へ出てくる所を狙うのだ。
手と膝の震えが止まらなかったが、相手は酔いが回っている。
息の根を止めるのは、簡単だった。
そうやって次々と手にかけた者の内、一人が首にかけていた首飾りが、ふと、目に入る。
一見、なんの変哲もない翠色に輝く首飾りだった。
輝いて見えるのは宝石では無く、翠玉蟲という虹色のように輝きを放つ緑色の虫だ。
その輝く羽を加工して、装飾品として仕上げている。
宝飾品なんて物に、縁の無い俺でも知っていた。
当然だ。
それは、祖母が手作りで拵えた品で、母の形見だったからだ。
元々、翠玉蟲の装飾品は、俺が生まれ育った村の名産だった。
その美しさだけでなく、禍いを跳ね返す魔除けとしての意味合いもあり、それなりに需要はあった。
その独特な輝きと意匠を、俺が見間違えるはずもない。
両親は、この盗賊団に殺されていたのか、と、今更ながらに怒りが込み上げた。
そこからは、不思議と手の震えは止まった。
既に事切れてしまっている屍から、形見の首飾りを引きちぎり、自らの首に結び直す。
頭も妙に冷静になった俺は、淡々と暗殺をこなしていった。
夜が白み出す頃には、アジトの中には盗賊団の死体が無数に転がっていた。
手には、真っ赤に染まった剣が握られている。
ふと、全身の力が抜ける。
しかし、強張った手からは、剣が離れてくれない。
剣を握りしめた右拳の、指を一つ一つ丁寧に剥がしていく。
まだ、乾き切っていない血糊が糸を引いていた。
ようやく手から離れた剣は、からん、と、渇いた音を立てて地面に転がった。
盗賊団のアジトの奥には、略奪の限りを尽くして貯め込んだのであろう品々が隠されていた。
金貨が詰まった袋に、剣や鎧。
錆びてしまったものから、子供用の玩具まで。
金になりそうなものは、全てを奪ってきたのだろう。
本来は、押収した品々の報告を行い、依頼書に定められた取り分を受け取るのが、討伐規則となっている。
しかし、俺はそれらを報告せず、全て頂く事にした。
冒険者ギルドに報告した所で、これらの金品は略奪された村や遺族には渡らない。
街の貴族や、元老院のじじい共の懐に入るだけだ。
初めて人を殺したというのに、もう恐怖は感じなかった。
両親の仇討ちという大義名分と、手にした大金が人を殺めた罪悪感を打ち消した。
その金を元手に、それなりの装備を揃える事が出来た俺は、
それからは何も考えないように、次々と目の前の依頼に没頭した。
金は最低限の生活費、装備などの諸経費を抜いて、全て妹の元へと送った。
しがらみが嫌いな俺は、誰ともパーティーを組まずにすむ傭兵稼業を請け負う事が多くなった。
たまに、冒険者ギルドからの依頼があった時には、ソロで依頼を受け続けた。
単独でいる理由は、依頼料を一人占め出来る事と、誰にも裏切られずに済む。
この二つが大きな理由だった。
稀に、臨時でパーティーを組む事もあったが、誰とも馴れ合う事はなく距離を置いた。
仲間内で揉める原因なんてもんは、大抵が、金か女、この二つが大半を占める。
---「ドラゴンの鱗と胆嚢から作られる秘薬で、石化病が治るかも知れない」---
そんな噂を聞いた時は、胸が高鳴った。
本物のドラゴンといえば、そうそう出会える存在ではない。
一生の内に一度、出会えるかどうか。
ドラゴンは、冒険者の憧れであり、畏怖の象徴だった。
俺の目標は定まった。ドラゴンだ。
その後も傭兵稼業と冒険者稼業の二足のわらじを履き続け、各地でドラゴンの情報を探し回った。
そんな折、隣国で暴れていたレッドドラゴンの討伐隊募集の報せを耳にする。
隣国のルワルナ王国には、ドラゴンが多数生息していた。
理由は分からないが、世界的にも特殊な環境なのは間違いない。
そんなルワルナ王国が誇る、竜騎士隊だけでは心許無い程の巨大で邪悪なドラゴンなのだという。
俺は一も二もなく参加した。
参加するにも厳しい基準があったが、高ランク冒険者になっていた俺は難なく参加を許された。
だが、王国が編成した隊列には加わらず、俺は山の中を単独で駆け回り罠を張り、機を見て夜襲をかける事にした。
何故なら、ドラゴンの素材を持ち帰らなければ意味がないからだ。
誰にも邪魔されずに単独で討伐し、ドラゴンの素材を採取する必要があった。
巨大ドラゴンを相手に、流石に無謀だと感じてはいたが、どこかで、自暴自棄になったいたのかもしれない。
これで死んでもいいとさえ思っていた。
妹のために伝説の魔物であるドラゴンに挑んで死ぬんだ、それなりに格好はつく。
しかし、結果は自分でも意外なものだった。
俺が運良くドラゴンを発見した時には、既にかなりの手傷を負っていた。
一体、誰にやられたのか…。
こんな巨大なドラゴンを痛めつける事が出来るやつなんて、指で数えるほどしか俺は知らない…。
それでも、ドラゴンの防御力、殺傷力は凄まじく、俺は身体中に一生残る傷痕が出来た。
しかし、よくよく死神に嫌われているらしい俺は、ドラゴン討伐に成功し、また生き延びた。
そのドラゴン討伐の時、やたらと瞳をキラキラさせた駆け出しの女騎士がいたっけな。
アイツは、一端の騎士になれたのだろうか。
アイツのおかげで何とか討伐出来たようなものだ。、
---単独の冒険者がドラゴンを狩った---
噂には羽でも生えているのか、一晩経った翌日には、王国中が知るところとなっていた。
面子を潰された王国竜騎士団の面々は、いい顔をしなかったが、巷では、“竜を狩る者”などと、もてはやされ、名声と仕事の依頼がまた増えた。
こっそり回収したドラゴンの素材を、錬金術師の下へ持ち込んだ。
その錬金術師は、街の外れにひっそりと居を構える爺さんで、何処となく浮世離れした雰囲気を纏っていたが、錬金術や薬の調合の腕は、一流という噂だ。
以前の仕事で知り合った彼に、秘薬を調合してもらい、その足で妹の待つ村へと急いだ。
あくまで噂。
この薬で妹の足が治る確約はない。
それでも、それでも走った。
走らずには、いられなかった。
すると、奇跡が起きたんだ。
薬を飲んだ妹の足は、少しずつだが、確実に良くなった。
最近では、たどたどしいが、杖なしで歩けるまでに回復した。
俺が親の代わりにもっと沢山稼いで、妹を幸せにしなくては。
勝手にそう思っていた…。
だが、ある夜、妹に泣きながらこう言われたんだ。
「お兄ちゃん、危険な仕事はもう辞めて。
村で一緒に暮らして欲しい。
いつも、このままお兄ちゃんまで帰って来ないんじゃないかって…。
不安な気持ちのまま、独りで待つだけの日々なんて…もう、嫌なの…」
妹は、金なんか望んでいなかったのだ。
涙を流しながら懇願する姿には、胸が痛んだ。
可愛い妹の涙には弱い。
村で静かに暮らす…。
それも、いいかも知れないな。
最近は、ふと、そう思う事が増えてきた。
そこへきて、今回の依頼だ。
大したことない依頼だと思ったんだ。
これが終わったら、一度、故郷へ帰ろうかなんて思っていた。
それがどうだ。
なんて事ない街道で、魔物はやたらめったら出現しやがるし、ルワルナ王国のお姫様なんて、大層なもんが現れやがるし。
そうかと思えば、そのお姫様はいきなりぶっ倒れる始末だ。
半分魔物なんだかよく分からない、妙な小僧は現れるし、“呪い”だの“王族の陰謀”だの、話がでかくなって怪しい雲行きになってきた。
全く、面倒な事になったもんだ。
そう思いながらも、いつの間にか俺の口元が笑っている事に気付いた。
「グレンさん、あの、剣の稽古をつけてもらえませんか?」
声をかけられて、ハッと我に帰る。
その件の小僧であるサンから、稽古をつけて欲しいと言ってきた。
例のぶっ倒れたお姫様の回復を待つ間、ワラビー村に滞在していた。
ワラビー村の高台にある草原で、物思いにふけっていたようだ。
改めて、声をかけてきたサンを見やる。
小柄な体に、綺麗な顔。
一見、女だと言われても分からないだろう。
こうやって見ると、どう見ても普通の少年に見えるのだが、歴とした不死者なのだという。
外に出るためにフードを目深に被り、露出した部分を呪符でぐるぐる巻きにして準備していた。
太陽の光に当たれないこいつは、昼間外出する際には常にこういう格好なのだった。
稽古か…面倒だとも思ったがお姫様が回復して動けるようになるまでにはまだ時間がかかるらしい。
暇つぶしにいいだろうと思い、引き受ける事にした。
それに、この少年サンの剣の腕にも多少の興味があった。
村の高台にある丘で二人は立ち会う事にした。
距離をとって向かい合い、お互いに構える。
ダガーを逆手に握ったサンが先に仕掛ける。
低い姿勢から地を這うように駆け出す。
かなりの速度で、目で追うだけなら厳しいものがある。
俺には相手の剣筋が手に取るように解る。
ガキン! ガイン!
金属が激しく擦れ合う音が響く。
サンの攻撃を軽くいなす。
飛び込んで切りつけ、攻撃が弾かれる度にくるくると飛びのいて再度距離をとる。
俺の周りを絶えず動き回り隙を伺っている。
攻撃と後退を繰り返す、ヒットアンドアウェイである。
小さな体と得意の俊敏さを前面に出した戦法だ、なかなかに悪くない。
だが、人間を相手に戦った経験が浅いのだろう。
技が粗く、剣筋が大味だ。
いくつもの戦場を切り抜けてきた相棒の大剣をどっしりと構え、足をゆっくりと開く。
最小限の動きで、次々と降りかかる攻撃を軽くいなす。
武器同士が触れ合う瞬間、少しの力とベクトルを加え、重心を崩した。
体勢が崩れた瞬間を逃さず、サンの腰目がけて蹴り飛ばす。
「うわっ!」と、地面に倒れこむサンに目がけて、すかさず大剣を振り下ろす。
ブンッ!
ぴたっと目の前で寸止めをして、試合終了だ。
「お前はもっと駆け引きを覚えた方がいい。短剣は間合いが短いしお前の攻撃は軽い。いかに懐に入るのか、いかに死角を作って急所を突くのか、それを考えて動け。虚の動きをもっと入れるんだ。」
自然と見えた問題点を指摘していた。
目の前の少年は俺の言葉に真剣に耳を傾ける。
「はい!ありがとうございます」
屈託のない、人懐っこい笑顔を見せるサン。
深くお辞儀をして、村長宅へと戻って行った。
俺が他人に助言だと?
ふっ、と自嘲する。
あいつにはつい甘くしてしまう。
妹に少し似てるからかも知れない。
傷つきやすくて泣き虫で、太陽のようによく笑う。
丘の中腹に腰をかけ、ふと故郷に残した妹を思った。
「グレンさんって、いつもは怖い顔してるけど、サン君には優しい顔するんですね。まるで兄弟か親子みたいだ」
物思いにふけっていた俺は、唐突に背中から声をかけられた。
振り向くと、ロイドが笑みを浮かべて立っている。
「あいつ、故郷に残した妹に・・・似てんだよな。ほっとけないんだよ。」
と、頭を掻きながらポツリと答えた。
言ってすぐに照れ臭くなる。
「えー!全然似てないよ。グレンさんとサン君じゃ。顔の大きさとかもぜんっぜん違うし」
ロイドの後ろにいたウェリントンが、ひょこっと顔を出して失礼な事を言う。
「うるせえな!俺だって昔は可愛い顔をしてたんだぞ!」
「嘘だー。」と、けらけらと笑うウェリントン達。
「ハーブクッキー焼きましたよー。休憩してお茶にしましょうよー」
丘の上からサンが顔をのぞかせて声をかけてきた。
「やったー!」
真っ先に走り出すウェリントンの背中を見ながら、パーティを組んだ経験は無かったが、こういう時間も悪くはない。
素直にそう思った。
サアサアと、丘を駆け降りてきた秋風が、心地よく頬を撫でて去っていく。
閑話休題




