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戦う理由 〜Case Heather〜

【ヘザー ルワルナ リヒテンシュタイン】

age:17/ 種族:純人族ピュリスム/ 職業:王女 / Style:魔法剣士マジックナイト


さらりとした金髪を靡かせる美少女。

ルワルナ王国第1王女であるが、王宮で暗殺未遂に合い現在は逃亡中の身。


暗殺の黒幕に父である国王や、それを裏で操っている魔族の存在を感じており、反撃の機を伺っている。


姫君でありながら幼少期より自由な冒険者に憧れており、武芸の稽古に励んでいた変わり者である。


初級の治癒魔法と電撃魔法が扱え、剣の腕はかなりのもの。

私には自由がなかった。



今夜もこの狭い鳥籠のような部屋から夜空を眺めながらため息をつき、自由を夢見るのだった。


夜空には眩く輝く星々が星座を象り、美しい物語を紡いでいる。


窓枠には鉄格子がはめられており、下を眺めると季節の花が咲き誇る美しい庭園が広がっているが、全身鎧甲冑フルプレートを着込んだ衛兵が複数名闊歩しており、定期的に此方の部屋を覗き込み、私の生存を確認しているの。


まるで牢獄のようだわ。


もちろん、私にだってお城での暮らしが一般の民草と比べて贅沢なものである事は理解しているつもり。


だから、産まれた時から〝お姫様〟という役を与えられた私は、常にその役割を演じてきたの。


王宮の自室からは自分の意思で一歩も出る事を許されず、自室を出る事が出来るのは、王室の式典や習い事の時間くらい。


暇潰しに読む本でさえ教師と侍女が選定したものの中からしか選べない。自分で選ぶ自由さえ許されなかった…。



貴方は誰かに護られる存在で、他の民とは命の価値が違う。


ずっとそう教えられてきた。


私自身、その教えには疑問も持たなかった。

あの人に出逢うまでは。


我儘を言えば、すぐに実現したし、手に入らない物など無かった。


お菓子が欲しい。

猫が欲しい。

珍しい花が見たい。

異国の香水が欲しい。

全てがすぐに叶った。


しかし、そんな私でもこの世で思い通りにならない物が二つだけあった。


父である国王カインの存在と、私自身の自由!


お父様は、私がどんなに我儘を言っても、私の為に時間を割く事は一切無かった。


お母様も王宮内での贅沢な暮らしで忙しいらしく、仲睦まじい親娘の時間など記憶に無い。


二人とも政務に忙しいのかと思えば、そんな事はなく、国の政治は周りの大人達に丸投げだったように思う。



今にして思えば、魔族の侵入を許す前から、既にこの国の政治は腐敗していたのだろう。


お父様は、私や他の息子達には一切の興味を示さない人で、お母様をはじめとした王宮内に囲っている数ある女性達のみに執心だった。


毎日、今夜は誰と過ごそうか、そればかりを考えている絵に描いたような暗愚な王だった。


妃を15名も娶り、各地に愛人も存在しているらしい。

王宮に住んでいる跡取りは私を含め19名。

全国各地には、隠し子も相当数いるとも噂されている…。


お父様への尊敬の念などは、幼少期から早々に打ち砕かれ、私はこの狭苦しい鳥籠である王宮から外の世界へと憧憬を馳せた。


勝手に蔵書室から拝借した英雄譚を読み耽り、夜更かしをしては侍女や執事を困らせたものだった。


そんな牢獄に繋がれた私が憧れたのは、王子様に救い出されるお姫様なんかではなく、悪い竜や魔物を相手に縦横無尽に戦う自由気ままな冒険者達の話だったの。


野山を走り回り、藁のベッドで眠り、旅先で困っている村人を助ける。


そんな冒険譚を盗み読んでは、頭の中から溢れ出る妄想を膨らませていた。


中でもお気に入りは、ルワルナ王国創生記。


遥か古、太古の昔。

この世は混沌が支配していた。

闇を払うように現れたのは五つの種族。

彼らは自らが王になろうと争いを始める。

その大戦で活躍した七人の純人族ピュリズムを七英雄と呼び、彼らが創り出した聖剣を“七聖剣”と読んだ。


純人族ピュリズムバアルであった巨人と竜族のバアルが魔王を封印し、世界には一時の平穏がもたらされる。


純人族ピュリズムと竜族は争いを避けるべく、盟約を結び、新しい国造りをはじめる。


その後、血の交わりは亜人を生み出し、獣人や昆虫人といった多種多様な人種を生み出していった。


それから数千年だか数万年だかの年月が経ち、種族事に棲み分けがなされ、今また種族間での差別や対立が生まれているというわけだ。


ルワルナ国創設後の七英雄についての記録はなく、その後、彼らがどうなったのか聖剣が現存するのか、全ては謎となっているみたい。


私には神様の子孫って事になるのかしら…。


胡散臭いけどね。


こんな話が大好物だった私の我儘の対象が、お菓子やアクセサリーから武具や魔法へ移るのは当然の事だったように思える。


魔法を学ぶため、家庭教師に有名な魔術講師を呼び、並行して乗馬や剣術を学ぶ事にした。


もちろん礼儀作法などを学ぶ時間や、式典にお飾り役として参加する時間は減らす事は出来ない。


そうした王女としての役割さえこなせば、お父様は何も口を出す事は無かった。



剣術については竜騎士団に混じって一般騎士と共に稽古を受けた。


剣は王宮の宝物庫に眠っていたものを適当に見繕ってきたものだ。

箱にも入っておらず、端の方でぽつんと忘れ去られたかのように埃を被っていた物なので大したものではないのだろうと思っている。


自室に持ち帰り、汚れを落として鞘を磨いて多少は見られるようになった。

刀身は不思議と錆びてはいなかったが、お忍びで城下町の腕利きの鍛冶屋まで研ぎに出したりもした。

柄は私の手の大きさに合わせて新調してもらった。


初めての自分の愛剣である。

流石に愛着が湧き、寝室に持ち込んで一緒に寝ることさえあった。


竜騎士団の訓練に混じって、剣術や陣形の訓練に参加し出したのもこの時期だった。

筋骨隆々な男達に混じって汗を流す。

とても新鮮な時間だ。

ただし竜騎士団は本来、女人禁制。

団員達を刺激しないようにと強く言い含められていたため、事情を知る一部の団員達と隔離される形で参加していたのだ。


でもこの時、竜に触れ、馬に触れ、初めて外の世界に触れた気がしたんだ。


鳥籠の外に出られる事も嬉しかったけど、色々な事を語り合う友達が出来た事が何よりも嬉しかった。

竜騎士団長のローランド、副団長のアミスらともこの頃打ち解けた。

特にアミスとは秘密を打ち明け合い、色々な話をした。

初めは綺麗な顔をした男の子だなぁ、と思っていたもんだから、女の子だと打ち明けられた時には余りにも驚いてしまった。


彼らとは訓練の合間に様々な話をしたものだった。

王宮の人間とは違い、土地に根ざし、生きている者の話は全てが新鮮で驚きの連続だった。

王宮にいては決して届く事のない、国民の生きた声を初めて聞いた気がしたのだ。

この生活を守らなくてはならないという、曲がりなりにも王族としての自覚が芽生えたような気がした。


一度だけ、騎士団の遠征に紛れ込んだ事がある。

近隣で暴れていた邪竜の討伐隊だった。


決して許されるものでは無いと確信していた私は、コッソリと変装をした上で下っ端の竜騎兵として紛れ込んだ。


勿論、後でこっ酷く怒られる事になるのに。


その時に見た景色が今も忘れられない。


あまりにも美しく、残酷なその景色を。


その日は特に寒く、昨夜から続いた雪が未だ降っており、街中が雪に覆われていた。


一般兵の甲冑に身を包んだ私は、誰にも気づかれることなく、隊の中腹に紛れ込む事に成功し、竜の討伐へ出発した。


しかし、途中の山道でうっかり足を滑らせてしまい、隊列から逸れてしまったのだ。

山道の脇は崖になっており、崖下へと滑落してしまった私は、その衝撃で気を失ってしまったようだ。


気付いた時には、辺りはすっかり暗くなっていた。

人の気配など何処にもない、純粋な闇がそこには広がっていた。

方角も分からず、心細い思いと重い足を引きずり、道無き道をひたすら歩く。

綺麗な満月が夜空を照らしており、少しは夜目が効いた。


遠くで狼の遠吠えが聞こえる。

一般兵が着る甲冑が肩に重くのし掛かり、焦る足をもつれさせる。


歩く気力もなくなりかけた頃、遠くに灯りが見えた。


突然、夜のしじまを引き裂くように獣のような声が響き渡る。


「グギャアアアアアオオオオオオオオッッ!!!」

聞いたこともない声と共に、熱風が吹き荒れ、辺りの木々を激しく揺らす。


熱い。一体何なの?



恐怖心もあったが好奇心が勝り、声のする方へと歩を進めた。


森を抜け、開けた丘へと出た。




雪に覆われた一面の銀世界。

その丘の上に、〝彼〟は立ち尽くしていた。


空からは白い淡雪が降り注ぐ中、月夜に照らされ、孤高にも一人佇む彼は少し寂しそうにも見えた。

鎧に包まれたその全身は返り血で真っ赤に濡れ、足元には既に絶命した、巨大で、これまた真っ赤な鱗で覆われた竜が横たわっている。

彼の周りだけが真っ赤に染まり、月の光を一身に受けて輝いていた。


真っ白い色彩を奪われたキャンパスに、真紅の絵の具を無造作にぶちまけたような幻想的な景色。

一枚の美しい抽象画を見ているようだった。


私は残酷にも美しい色の対比に、心を奪われた。


こちらに気付いた彼が声をかけてきたが、何を話したかこの時の記憶がない。

恥ずかしながら腰が抜けてしまった私は、結局彼に抱えられてその場から移動する事になった。


男性に抱きかかえられるという仕打ちの余りの恥ずかしさから、心臓が口から飛び出すかと思った。

殿方に体重を預けたのは幼少期、執事におぶさって以来の事だったからだ。

それもセバスという初老の執事だぞ。


彼が竜の角笛を鳴らし、他の討伐隊に場所を知らせる事になった。

他の隊員が到着するまでの間、色々な話をした。


彼の名前はグレン。竜騎士団に所属しているわけではなく、ソロの冒険者なのだという。

今回は大規模な討伐隊のため、他にも多数の冒険者が混じっていたのだそうだ。



「寒いだろう」そう言うと即座に薪を集め、焚き火をした。

慣れた手つきで簡易的なスープを温めてくれ、手渡してくれた。

彼はというとスープと干し肉を一通り腹に収めると、すぐに寝転がり夜空を見上げていた。


なんて自由なんだ。

やはり冒険者とはこうでなければならない。

私は本の主人公にでも出会ったような気がして興奮していた。


一つ、聞いてもよいか?


恐る恐る訊ねる。


「どうすれば貴方のように強くなれる?」


「俺は…強くなんか無いさ。

誰にでも守りたいものが一つはある。

それを守れる強さがあれば、それでいいんじゃないか?!

あんたは何を守りたいんだ?」


口数が少ないながらも、彼は真摯に答えてくれた。


「私は……」


「ここにいましたか!姫様!」


突然、背後からガチャガチャと甲冑を鳴らしながら複数の竜騎士兵が現れた。

その中には血相を変えたローランドやアミスもいた。

どうやら、私が城を抜け出して、討伐隊に紛れ込んだという情報が入ったのだろう。



邪竜討伐を祝う凱旋パレードが王都で行われた。

恐らくはあの冒険者も招かれているのだろう。

竜を単独で討伐したなど、前代未聞の事だ。

当然だろう。


私は王宮の自室から外を眺める。

窓には鉄格子。

耳をすますと、遠くからパレードの喧騒が漏れ聞こえる。

つんざくようなファンファーレと、規則的に奏でる馬の蹄の音。



私は何を守りたいのだろうか…。

何と戦うべきなのか…。


彼の問いかけに答える事が出来る、そんな機会がいつかあるだろうか。


中庭の庭園から、薄桃色に色づいたルクリアの花が風に流されて入り込む。


私の心と部屋の中が桃色に華やいだ気がした。



…………………



そして今、紆余曲折あって王宮を飛び出した私は彼の隣を歩いている。

あの時は変装もしていたし、再会を果たした彼は私に気付いていないだろう。


街道には出店が多数出ており、様々な食べ物が誘惑してくる。


王宮での暮らしとは比べるべくもないが、前を歩く彼を見やる。

露店でチーズ入り揚げパンを購入し、口一杯に頬張っていた。

しかし揚げたてだったらしく、「あち、熱い」と格闘している彼を見ながら、思わず笑みがこぼれる。


こんな日が来るなんて、思いもしなかった。


これから始まる魔族との抗争、王である父との対峙。

それは下手をすれば、国家転覆も起こりうるような戦いに身を投じるという事だ。


周りから見れば立派な反乱軍勢力レジスタンスだろう。


でも、くよくよしても仕方ないじゃない!

大切な何かを守るため、戦う事を決めたのだから。




「ねぇグレン。私は今、最高に冒険してるわ!」



振り返り、夕日に照らされた満面の笑みを彼に向ける。

西日が金色の髪をすり抜け、新しい色を創り出す。


突然あどけない笑みを向けられたグレンは、そのあまりの可愛らしさから彼女を直視出来なくなり…、「ん?あ、あぁ…そうだな。」と、顔を横に向けたまま答える。

何を伝えたかったのか、言葉の真意も分からないが曖昧に頷く事にした。

右手に掴んでいた木製のグラスを傾け、ぬるくなったエールを口の中に流し込んで誤魔化した。


彼女と同じく夕日に照らされた彼の表情は、はっきりとは見えなかったが、おそらく真っ赤に染まっていた。

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