古の守護者と砂の牢獄 講義
遺跡の探索中、休憩中の出来事である。
アインスがおもむろに講義を始めた。
「属性について話して置きましょう。
今、この世界には7つの属性が存在し、それぞれの精霊の力が調和を生み、世界の均衡を保っています。
木火土金水 の五行。そして理から外れた光闇の二行。
合わせて7つの力です。
それぞれに精霊が宿り、恩恵を受ける種族が存在します。
(木)植物の精霊。森の守人であるエルフが特に加護を受けてます。
(火)火の精霊。火炎を司る竜族。アミス君の精霊竜であるサラマンダーもこれに該当します。
(土)大地の加護を特に受けるのはドワーフ族などです。アミス君もそうですね。
(金)神から金属を与えられたとされる純人族(人間族)が恩恵を受けやすいです。
(水)水を操る人魚族やウンディーネが。
(光)魔を滅する使命を帯びた天使族。
(闇)光を嫌い、闇に蠢き暗躍する魔族などが当たります。サン君は闇属性の眷属なので相性がいいでしょう。
それぞれ精霊の加護を受ける代表的な種族と言われていますが、さらに個人差によって適正属性があり、得意な属性と不得手な属性が存在します。
次に、属性の相関関係があります。
相関とは相生と相剋というものです。
“相生”は相性が良く、力を増幅させる作用を持つ属性の事。
“相剋”は相手の属性に打ち克つ力、打ち消す力の事です。
相生の関係性は、木火土金水の通りに、木→火→土→金→水→木と続きます。
『木が燃えて火を生む。
火が燃え尽きると灰が生まれて土となる。
土の中では金属が精製される。
金属である鉱石は水脈を作り水を生み出す。
水が樹木を育てる。
光が強いほど、影は力を増して色濃くなる。』
このように属性の魔素はお互いに影響し合い、絶えず循環を繰り返しています。
そして、打ち消す力である相剋とは、
『木は土から養分を吸い取り、金属(斧)で切り倒される。
火は金属を溶かして成型し、水によって消される。
土は水によって渇かず、木に養分を取られる。
金は火に成型され、木を倒す。
水は火を消し、土によって堰き止められる。
光を覆い尽くすものは暗黒であり、闇を払うものはまた光。』
と言った、何かの属性には強く効果を発揮するが、反対側の力にはひどく弱いものです。
このようにして、世界は微細なバランスと秩序を保ち、薄氷の上に成り立っているのです。」
「へー」
「へー」
流石は幼い頃より王女にも師事しており、宮廷で魔術研究の第一人者と謳われた学者である。
合わせて感嘆の声を漏らしたサンとアミスの2人は、すっかり授業を受けている生徒のように、行儀よく膝をついて座り、思わず聞き入っていた。
「ではアインス先生、私の弱ってしまったサラマンダーは、やはり火の精霊の加護で力で取り戻すという事でしょうか?」
「はい。この古代遺跡には水の精霊と火の精霊が祀られているという伝説がありますからね。アミス君の狙いは間違いじゃなかったと思いますよ。」
先生に褒められ、素直に嬉しくなり、頰を赤らめるアミス。
サラマンダーの力を取り戻した後は、万全の体制で王国の魔族共へ復讐しようと考えていたのだが、ローランドの生存を聞かされた今となっては、目的がかなり変わってきていた。
それでも、自分のわがままから傷付けてしまったサラマンダーは、今にも消え入りそうな状態であったため、なんとか元気を取り戻して欲しかった。
「では、次に魔物について学びましょうか。」
離れて話を聞いていたソッロが口を挟んだ。
いたずらそうな耳をピンと尖らせている。
その表情は、不適な笑みを浮かべ、口元は歪んでいた。
「不死者という存在について、あなたはどう思いますか?」
試すように、サンへと質問をするソッロ。
「…よく、わかりません。」
「本で読んだ知識では、死なない魔物だと…。
無念を残したまま死んだ人間の怨念から生まれるとされる死霊や、死そのものを刈り取る死神、夜を統べる吸血鬼が一般的でしょうか。
死の国を司る悪神、ベルゼビュート・バアルに魅入られた者が不死者となるもの記述もありました。
本当にそんな国があるのでしょうか?」
サンは率直な疑問をぶつける。
彼自身、ずっと考えてきた。
己の身が不死者となってから、アンデッドとはなんなのか。
「君は、不思議に思った事がないかね?
生物的な死から逃れてはいるが、消滅させる方法や祓う方法はいくらでもある。
それは十分、死と言える。
一体、彼ら…君らか。君らは何から逃れているのか。
死体から産まれるゾンビや屍鬼は、新たに子を宿す事もない。
繁殖がないのなら、それは種としての欠陥とも言える。
生物でないのなら、何故この世に存在する?
吸血鬼は、よく血を飲んだ相手を眷属とすると言われているが、それは間違いなんだよ。
実際には、血を与えている。
その行為は、いわば命を分け与えていると言い換えてもいい。
そして君は、吸血鬼でもなければゾンビでもない。
契約により、生きたまま不死者となった稀有な存在。
非常に興味深い。
新しく産まれる方法があり、死がないのなら…
“何故、増え続ける不死者で世界は溢れないのか?”
君は、考えたことがあるかい?
」
難しすぎる質問とも言えぬ言葉に戸惑うサン。
彼を覗き込むその目は、ぽっかりと空いた大きな穴のようであった。
何を考えているのか、全くわからない。
サンは恐怖さえ覚えた。
「君は本草学に通じているとアインス殿から聞いているが、独学かね?」
「はい。本を読んだ知識と、森で暮らしていたので、実践した経験則で…薬草は至る所に生えてましたから」
「ふむ。本草学とは健康のための学問。君にはそこから発展した魔法薬学を教えていきたいと思っている。そういった魔法調合技術を総称して錬金術と呼ぶのだよ。興味はあるかね?」
「本当ですか!?宮廷魔術師のソッロさんに師事してもらえるなんて夢みたいだ!」
サンは目を輝かせて喜んだ。
「明確には、今は宮廷魔術師ではないのだが。そう言ってもらえると光栄だねえ。私としても優秀な弟子が増えるのは、喜ばしい事だからねえ」
ソッロはすぐに、いつもの飄々とした涼しい微笑をたたえた表情へと戻った。
ソッロは思った。
これまでの道中、遺跡の中は魔物の巣窟であった。
うようよと湧いて出てくる巨大な虫の魔物達。
フンコロガシに百足、巨大なミミズ。
しかし、どれもこれも非常に弱い魔物しか出ないのである。
ソッロが言うには、侵入者を迎撃する目的とは思えず、何か別の意図で魔物が発生する仕組みが作られているのではないか、と言うのである。
例えば…そう食用とか。
「これ程の数である。この仮説が事実ならば、余程巨大な何かが遺跡内で飼育されているはすである。そう、遺跡の守護者として」
巨大な魔物と聞いて、ワラビー村で遭遇したデュラハン、ホーンデッドを思い出していた。
サンの背筋をゾクゾクとした寒気が走る。
杞憂である事を願い、不安を振り払うように力強く石畳を踏みしめ、歩を進めた。




