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古の守護者と砂の牢獄 再会

「くっ、これではキリがありません!」


サンは、次から次へと溢れ出るマミーと戦っていた。


マミーといえば、包帯でぐるぐる巻きの人型のアンデッド、つまりは不死属性の魔物である。


しかし、アンデッドというものは、生物的な死が無いというだけで、倒す方法はいくつか存在する。


マミーの場合は依代となる包帯を燃やす方法、もしくは光属性で浄化をする方法、もう一つは形を成す事が出来なくなるくらい体を細かく切り刻む方法と存在する。


前者は比較的簡単なため、レベルの低い冒険者でも可能だが、後者は高い戦闘技術が必要となる。

マミーは動きは緩慢だが、その力は侮れないものがあるためだ。

ひとたび掴まれたら、鋼鉄の装備でも軽く握り潰してしまう程の握力を誇る。

生半可な防具で防げるものではない。


だが、サンは人並み外れたスピードを持ち味とした戦闘を得意としている。

愚鈍なマミーに掴まるようなヘマはしない。


ましてや、日光の届かない古代遺跡の地下へ潜ってからは水を得た魚である。

これまでの不甲斐なさを払拭するべく、張り切っていた。


びゅんびゅんと、上下左右に目にも留まらぬ速度で飛び回り、岩で出来た壁や天井を跳ね上げ、敵を縦横無尽に切り刻む。


細かくなった包帯のかけらから、依代を失い憑依出来なくなった瘴気が抜けていく。


その光景には、アラミスも舌を巻いた。


「まさか、これほどの力を隠していたなんてね。砂漠でグッタリとしていた君とは別人の様だよ。」


爽やかな笑顔で、素直にサンを褒め称えた。


しかし、それでも次から次へと際限無く溢れ出るアンデッドに、流石に辟易していた頃である。


ガコンッ!


遠くで不穏な音を立てたと思ったら、突然、二人が立っていた地面の床が抜けてしまったのである。


近くに居たマミー数体も道連れに、奈落の底へ落ちていくサンとアラミス。


真っ逆さまに落ちるのではなく、するすると、まるで滑り台を滑り落ちるように、真っ暗なトンネルを右へ左へと滑っていく。

途中、いくつかの分岐が見えた気がしたが、あっという間に通り過ぎてしまうので、頭の中でマッピングをしようにも追いつく暇もなかった。


滑り坂の角度が穏やかになってきたのか、速度が緩やかになる。

途端、視界が明るくなったかと思うと、ひらけた場所へ放り出された。


「痛てて…ここは…?ほんのり明るい?」


アラミスは不思議そうに周りを見渡す。

先程、周りに居たマミーも見当たらず、魔物の気配もない。

おそらく落ちる途中の分岐で別れたのだろう。


天井や壁には、薄く白や緑に光を発する発光体が所々に存在し、辺りを照らしていた。


人工的な灯と比べたら少し薄暗いが、真っ暗闇に比べれば格段に活動しやすくなる。


「これは洞窟なんかに生える夜光茸です。あ、こっちは翡翠苔だ。珍しいなぁ」


サンは壁を触りながら感心している。

植物に対しては妙に知識がある少年だと改めて感心し、先程の戦闘も含めて、非常に頼りになる相棒だと見直したアラミスであった。


「うわわわぁーーーー!!お助けをーー!!」


二人の耳をつんざくような悲鳴が舞い込む。


二人は弾かれるように駆け出した。

先へ進むと、大きな扉が道を塞いでいる。


耳を当ててみると、扉の奥で何者かの悲鳴が聞こえた。


「わわわ、どんどん来ますよ。ひいぃ、お助けーー」


扉の向こうで、魔物に襲われている様子だ。


「人?助けなくちゃ」


扉は一枚岩で出来ているようで、かなりの厚さがあるが、取っ手らしきものも見当たらない。

何か仕掛けがあるのか、どうやって開けるのかと、サンが扉を子細に観察していると…。


「どいて。」と、一言だけ告げたアラミスは扉の前に立った。

両足を肩幅まで開き、腰を低く落とす。

左腕を突き出し手のひらをゆらりと扉へ向け、右手の拳を強く固め腰の位置で構えた。


瞳を静かに閉じたアラミスは、深く息を吸込み、また深く吐く。

独特の感覚で呼吸を整える。


遺跡の地面から、どっしりと根付いた足へと、“土”の気脈が流れ込む。



「この世界には、世界を構成する7つの属性が存在するんだそうだ。私はドワーフの血を引き、土の精霊の加護を色濃く受けている。だから土属性の肉体強化魔法と相性がいいんだ。」


サンは旅の途中、砂漠の真ん中で野営をした際にアラミスが教えてくれた台詞を思い出していた。

彼女自身も、知人の魔道士から聞いた話だと言っていた。

サンが自身の魔法適正や属性について、相談していた際に出た台詞であった。


アラミスの体中に重い魔力が満ちていく。

ビキビキビキッ、と全身の筋肉が隆起し美しい造形を象る。


両目をカッと見開き、扉を見据える。


「え…まさか…アラミスさん?待って待って…嘘でしょ?!」


「ハアッ!!!」という掛け声と共に右拳を真っ直ぐに突き出した。

拳圧でサンの前髪がたなびく。


ドゴオオオオンッ。


轟音と共に巻き起こる粉塵。

辺りは途端に砂のヴェールに包まれる。


しばらく後、ようやく砂埃が落ち着いてくると、広がる光景にサンは感嘆の声を漏らした。

あれほど頑丈そうにそびえ立っていた岩扉が、正拳一つで跡形も無く消し飛んでいたのだ。

肉体強化の魔法を併用していたのだろうが、それにしても凄まじい威力である。

元々のアラミスの肉体、攻撃力が強くないと、ここまでの威力は通常出ない。



「ただの正拳でこれ…はは、すごいや」


粉々になった扉の向こうには、おそらくは扉の裏に居たであろう魔物の残骸が散らばっている。

巨大な百足の足がいくつも散乱していたのだ。



「けほっけほっ。相変わらずの馬鹿力だねえ、アミス殿。助かったよ」


砂埃が去った先、向こう側から漏れる声と現れた二つの人影。

その人物に二人は驚きを隠せなかった。


「貴方は…!ソッロさん?!」


アラミスはどうやら見知った顔であるらしい。

今、アミスって言わなかったか?と引っ掛かりを覚えたサンだが、それよりもその容姿に目を奪われた。


二足歩行で歩く姿形は人のようだが、腰にはふわふわの尻尾、顔には丸眼鏡をかけているが、その顔は狐そのもの。

頭には尖った耳。


「き、狐さんが喋った!」


「相変わらずですね、狐人族を見たのは初めてですか、サン君」


突如として現れた狐人族の男の後ろから、さらにもう一人、現れた人影を見てさらに驚くサン。


その暖かく、優しく諭すような声には聞き覚えがあった。


眼前には初老の男性が立っている。

不安そうな子犬のような瞳、少し困ったような顔。

立派に蓄えられた白髭。


「あー!アインスさん!!…え?でも…ええ??」


混乱する頭より先に、涙が溢れ出していた。


「アインスさん!死んだんじゃ…なかった…の?」


アインスは自身を心配して泣きじゃくる子供のような少年を愛おしく感じ、困ったような顔をして笑いながら彼の頭を優しく撫でた。


これまで研究一筋で、唯一の例外である姫様という存在はあれど、他者に興味のなかった自身にとっての大きな変化に気付き、戸惑いつつも嬉しくもあった。


「はは。お化けじゃないですよ。確かに処刑される寸前の危ないところでしたが、彼に救われてなんとか生き長らえてます。

君も無事で良かった。

ということは、姫様もご無事でしょうか?」


お互いの近況を手短に伝え合い、再会を喜びあった。


アラミスが、ヘザー が探していたアミス だと知った時は驚いたが、彼女もまたヘザーの近況にはひどく動揺していた。


どうやら、ソッロと呼ばれた狐人族の男とアインスは“ある目的のため”に二人で遺跡へ潜っているそうだ。


そして巨大な百足の魔物に遭遇した所へ、サンとアミスが登場した。

という話だった。


「いや、びっくりしましたよ。アインスさんが処刑されて死んだって聞いてたから…」


「そこは、このソッロ先輩が…」


先輩?この狐さんはアインスさんより年上なのか?

そしてアラミスさんとも知り合いみたいだし…何者なのだろうか。

不思議そうに見つめる視線に気付いたソッロが名乗る。


「やあ、はじめまして。私はソッロ ノーチェ。

魔術を研究するしがない魔道士だよ。

君がサンだね。アインス殿から話は聞いている。

生者の身でありながらアンデッドとなった非常に興味深い対象だとね。」と、興味深げにサンを頭の先から一通り視線を送り、アミスへと向き直る。


やはり、アラミスはヘザーが探していたアミスという人物と、同一人物なのだった。

その事実に気付き、驚くサン。


「そしてアミス殿。あのローランド殿の処刑では災難であったな…

突然、飛び出して来たものだから肝を冷やしたぞ。

なんとか彼と共に命を拾えて良かったものを…」


言葉を聞いた途端、声をかけたソッロの言葉を遮るように我を忘れて肩を揺するアミス。


「いまなんて?!彼と共にって言ったの?」


「待て待て、落ち着くのだ。

気を確かに聞いてほしい、アミス。

まず、彼は…ローランドは生きている。

詳細は省くが、あの処刑場にいたのは彼の身代わりの人形で、彼は死んでいないのだ。

無事にとある場所へ逃してある。

今は、再起を図るべく力を蓄えているところだよ」


ソッロの言葉は最後まで聞こえなかった。

“彼は生きている”その一言だけが、彼女の心に火を灯した。

その火は、頭の整理がつくまでは今にも消えそうに儚く揺らめき、だんだんと確信に変わった時、激しい炎へと変わる。


“彼は生きている”!!


アミスの瞳に力が宿る。


「彼に合わせて!」


次の瞬間には、彼女の口からその言葉が飛び出していた。

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