プロローグ
絵本や物語で語り継がれるほど、誰もが知る伝説がある。
紛争…
大飢饉…
疫病の蔓延…
国家滅亡…
大災害…
魔族大侵攻…
有史以来…数々の絶望的状況に追い込まれてきた、我々人類。
そういった時代の転換期となるその節々に現れる男がいる。
何処からともなく現れるその男は…自らをサンジェルマン伯爵と名乗った。
だが、彼の年齢や出自といった一切が不明。
名乗った名前すら、本名なのか疑わしいものだった。
世界中の様々な国に、そして様々な時代に突如として現れては様々な逸話を残していく男。
現存する最古の文献は--------------
1028年もの昔、古代ロマネスト時代にまで遡るという。
各国の王侯貴族とも親交があるとされており、王宮での舞踏会や貴族の晩餐会での目撃例も記録に残っている。
また、時代を超えて世界各地での目撃談が後を絶たないため、非常に高度な魔法使いではないかとの声もある。
そういった逸話から、不老不死であるとも、時空を超える術を持っていたとも云われる。
では、残された文献を紐解き、彼の数々の逸話を紹介しよう。
ある国では隣国との戦争を予言し、民衆を扇動し悪政を強いていた王国を転覆させて数多くの命を救った。
またある時には、国中に蔓延していた原因不明の疫病を鎮めて回った。
病に伏して今にも命が尽きそうであった者でさえ、彼が手にしていた薬を飲むと、たちどころに命を吹き返して回復したという。
またある時には【世界の災厄】と呼ばれ、世界各国を暴れ回っていた伝説の魔獣をまるで犬か猫のように手懐けたという。
山を焼き、近隣の村々を蹂躙し尽くした最悪の魔獣。
当時の人々に恐怖を刻みつけた魔獣でさえ彼の前では借りてきた猫のようであった。
またある国では、伝説となっていた超古代文明の謎を解き明かした。
数々の遺跡やアーティファクトを発掘し、考古学の常識を覆した。
彼の功績により、考古学の歴史を数百年は進めたという。
またある時には、ひとつの大国を一夜にして滅した事もあるという。
--------------それは
神が遣わしたもうた救世主か…、はたまた稀代の大魔王か。
彼に対する評価は、歴史学者の間でも真っ二つに割れている。
残された文献を信じるのならば、彼はあらゆる学問に精通し、宮廷学者も敵わないほどの知識を有していたとされる。
魔術、科学、文化、宗教、医学、歴史、果ては錬金術に至るまで、あらゆる知識をその身に宿していた。
不思議な事に彼は一切の歳をとらず、とある友人が数十年ぶりに彼に再会した際にも、以前と変わらぬ同じ容姿であったとの逸話も残されている。
噂では、彼は不可能とされていた不老不死の霊薬を創り出した伝説の錬金術師で、数百年とも数千年とも言われる悠久の永い刻を生きているのだという。
---曰く、人の生き血をすすり永遠を生きる吸血鬼である。
---曰く、世界を混沌から救うべく遣わされた神の使いである。
---曰く、悪魔の生まれ変わりで世界を終末へと導く厄災そのものである。
謎に包まれた男についての確かな情報は一切無く、噂は噂を呼び、人々は口々に憶測を口にした。
一つだけ確かな事は…その男が現れる時…、
それは重大な危機が世界に訪れている節目に他ならないのである。
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「不死の錬金王の伝説」
ソッロ ノーチェ著 より
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