序章「願い-母の願い1」
今回は表現が難しそうだなーと思いながら、書いては直し、書いては直ししてます。
チビリチビリ・・・
クピクピ・・・
ナルタと三人の巫女は大きな盃を囲み、清酒を嗜んでいる。
大きな盃から竹の柄杓で、それぞれ持つ盃に取り分ける。大きな盃には二升の清酒がなみなみと注がれていた。昼間に家族で御礼参りにやって来た者達からのお供え物だ。
社の縁側に座り、夕日を眺めながら皆で一日の終わりを迎えている。
「加也子ちゃん、ちゃんと祝詞、覚えてきはったですねぇ。」
ウネビは3人の巫女達の中でも大の酒好きで、おっとりとした口調、ゆっくりとした動作からは想像出来ないくらい早いペースで酒がウネビに飲まれていく。
「ねー!主様!何で会ってあげなかったのー?あの子、何度も振り返ってたよー。主様にお礼言いたかったんじゃないかな~?ねぇ、ナギも会って話したかったんじゃないの~?」
イザナの顔はほんのり赤く、すでに目がすわっている。イザナも酒好きだが、こちらは酒に飲まれるタイプのようだ。
「~♪」
ナギはチビチビ飲みながら上機嫌のようだ。鼻歌混じりに自分の盃におかわりを注ぐ。
「実に旨い酒だな。」
ナルタはしみじみと呟く。
「加也ちゃんすごく喜んでたにゃ。あと悟坊も、、」
ナルタ達にとって御神酒の味わいは、その酒の味ではない。その酒に込められた感謝、尊敬、畏怖、信仰心の思念を味わいとして感じている。それこそがナルタ達の主食とも言うべきものだ。
今回の場合、家族からの感謝の念がこれでもか!と言うくらい込められた御神酒だ。極上の味わいである。
「ナギ。今日は夕食はもうよいぞ。」
ナルタ達には基本的に食事が必要では無いのだが、ナギがどうしても皆で食べる時間が欲しいとねだり、質素ではあるが、朝昼晩に皆で食卓を囲む。
「そーですにゃー、今日は飲み終わったらもう寝ましょうか?」
「えー、あとちょっとしかあらへんやん。」
「はいはい、狐はん、飲み過ぎやないの?御国言葉が出てはりますよ?」
「!、、言って無いもん!」
「言ってたにゃ~。」
三人の巫女の他愛のない掛け合いを聞きながらクスリと笑い、ナルタは盃を口に近づける。
「・・・ん?」
一瞬にして真顔になったナルタはピタリと止まる。何かを感じ取ったようだ。
「・・・もう、なんにゃ~!」
「なんや、ようわかりまへんけど、何かが入り込んで来なさったみたいやね~。」
「無粋なやっちゃな~。こんな時に入ってくるなんて」
すでに3人とも感じ取ったようだ。先ほどまでと違い、すでに目は笑っていない。ナルタを含め4人の視線は境内の先、鳥居入口に注視されていた。
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黄昏時、それはユラユラと石段を登ってきた。その身はナルタの結界を無理やり入ったことにより炎で焼かれている。両手で自分の身体を抱くようにして少しでも炎からその身を守ろうとしている。かなり苦しいはずで、ふらふらとしながら鳥居をくぐる。
「何?迷い人?、、不浄な身の分際で、、」
冷ややかな言葉を発したのはイザナだ。随分とご機嫌ななめなのは普段、境内の掃き掃除はイザナが行っているからだ。落ち葉や砂埃などならさっと掃けば終わりだが、迷い人の歩いた後には思念が残る。
ナルタ達が迷い人と呼んでいるのは、死を向かえ肉体を失った後も、未練の大きさから輪廻の理から外れた者達。安らかな眠りを拒絶した者達を指す。所謂幽霊と呼ばれるものたちだ。その者達の残す思念は大概が自己の欲にまみれた物で、ナルタ達の忌み嫌うものだ。
「そんなになってまで此所まで来たとは、大した未練ね!褒美にその魂、、、滅してあげるわ!」
イザナはその両手に狐火を燻らせる。その目は冷酷な笑みを浮かべていた。
迷い人はふらふらとしながら鳥居をくぐり社の前まで歩んで来た。その魂はすでに結界の炎で焼き付くされようとしており、イザナは止めの一撃を見舞おうと両手の狐火を迷い人に向ける。、、と、その時、倒れ込むように社の前の黒い石畳の上に座り、両手を膝の前についた。
迷い人は黒い石畳に額をつけ、何かを言っているようだが、肉体を持たないものは声を発することが出来ない。
「むっ?」
ナルタは目を閉じ、耳を澄ます。
「無礼な!自分の未練を願い事にする気か!」
イザナの目は怒りでつり上がる。まさに両手の燃え盛る狐火を迷い人に叩きつけるその時、
「待て、イザナ。静かに!」
ナルタはイザナを制すと、迷い人に手を向け横に払う。すると、迷い人焼いていた炎がスゥと消える。その魂はボロボロになっていた。すでに生前の姿を留めていない。
黒い石畳を通じナルタにだけ、か細い声が届く。
『・・・・タスケ・・・コドモ・・オネガ・・シマス』
「・・・む?」
スッと目を開けたナルタの横で、イザナは不機嫌極まりない目をして『待て』をしていた。
「イザナ、そう怒るな。この者はお前もよく知っているものだ。高田 恵未。覚えておらんか?」
「恵未?恵未、、、、、!、えっちゃん!?」
イザナの表情は、驚きと悲しみの混じったものになった。
イザナの知っている者のようです。