序章「願い-幼子の願い1」
まさのりと申します。空いた時間を利用して、書いています。
拙い文章で恥ずかしい限りですが、もし良ければ読んでください 人( ̄ω ̄;)
暗闇の中、つづら折りの道、加也子は小さな懐中電灯を両手に持ち、怯えた表情で一人、山中の林道を登っていく。
タヌキだろうか?きつねだろうか?時折赤く光る目やガサリと鳴る茂みからの音にビクビクしながらも、その歩みを止めようとはしない。
『早く黒龍さまにお願いに行かなきゃ・・・』
まだ雪が降るには早い季節ではあるが、山の冷気で吐く息は白い。寝間着の上にジャンバーを着て、靴下も履いているものの軽装感は否めない。
子供用懐中電灯の弱々しい明かりを頼りに、加也子は黒龍神社の参道入口を目指していた・・・。
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今から4時間前、加也子の母、美奈子は一本の電話に愕然としていた。
「事故って?・・・うちの主人がですか?え?なにかの間違いじゃないですか?」
電話の内容は、夫が建設現場で事故に遭った知らせだった。
美奈子の夫、尾瀬悟は、この黒渕沢村の出身である。村の主な産業は農業であり、悟も先祖代々受け継がれてきた田畑を守るため妻子をつれて5年前に村に帰ってきた。
秋の終わりから春前までは雪で農業がままならないため、その期間は大学卒業後から実家に帰るまで在籍していた建設会社の雇われ現場監督をしていた。
家業を継ぐことを理由に8年勤めた建設会社を辞める際は、先輩、上司から遺留を強く請われた。しかし、悟の父親の突然の死、代々守り続けた田畑と一人でそれを守ることになろう母親の存在、そしていつかは村に帰り家族で静かに暮らしていきたいという思いは、業務の合間の雑談から先輩、上司にとって周知の事であり、最終的には気持ちよく送り出してくれたのだった。送別会の時に、業務が立て込む時期と、農業の手の空く時期が重なることから、その間だけでも手伝えないかと上司から誘われ、この5年は冬から春先にかけて臨時の現場監督を務めてきた。
今年割り当てられた現場は村から遠く、都市部にあったため、家族と離れ単身者用アパートに住み込みをすることになった。
「クリスマスに休みを貰えたら、気の利いたものを買って帰るわ」
そう言って家を出たのは1週間ほど前のこと。いつもは定時連絡のようにかかってくる悟からの電話が、今日は遅いなと思っていた矢先の電話が、夫の事故を知らせる電話であった。救急搬送先の病院から元上司が一報を入れてくれた。
聞いた限り、怪我の容態はかなり悪い。美奈子は血の気が引いて倒れそうになりながらも連絡をくれたことに感謝を述べ、早々に電話を切った。
「なにかあったんかいね?」
ただならぬ美奈子の気配に、悟の母親である絹江が声をかけてきた。
「お母さん、悟さんが事故に遭いました。容態は、、か、かなり悪いようです。出来ればこれから病院に行こうと思うからお母さんも支度してもらえますか?」
「なんとな!・・・でもこんな時間じゃ町まで出て電車に乗っても今日はたどり着けんよ?」
そう、この村は陸の孤島と揶揄されるほど交通の便が悪い。ここから町の駅まで車で山中の道を抜け2時間はかかる。さらに新幹線の駅まで出るのに2回の乗り継ぎが必要だ。新幹線の終電時間には間に合わないだろう。
絹江は美奈子の震える手を両手で握り、諭す。
「美奈子さん、加也ちゃんも連れていくんやろ?こんな慌てた気持ちで、私だけならまだしも、あんたたちまでなんかあったらどーする?悪いことは言わん。悟なら大丈夫や、あの子は芯の強い子やから、、きっと大丈夫よ!」
美奈子は手を握られて、絹江の手もまた震えているのがわかった。その上での冷静な大人の判断だと、素直に従うことにした。
暫くして平静を取り戻し、美奈子は加也子の通う小学校の3年生担任に連絡をとり、明日の学校を休む旨を伝えた。
絹江は親戚に連絡をとり、早朝に車で町の駅まで送って貰うこととなった。
「出たよー。」
ちょうどその時、寝間着姿の加也子が長風呂から出て、バスタオルで髪をわしゃわしゃ拭きながらテレビの前に座った。
父親が風呂から出たときと同じ所作をする娘に、
「加也、明日お父さんのところにいこう。学校休むよ。」
「えー?なんで?」
加也子は明日、学校で絵描きクラブがあること、放課後は友達と遊ぶ約束があること、それが「とーっても楽しみにしてたのにー」であることを母に伝えると、「土日に行けばいいじゃない?お父ちゃんにはもうちょっと寂しーの我慢してもらお?」などと自分の都合が良いように提案した。・・・『おりょ?』
加也子はそこで、いつもと違う母の雰囲気を感じ取った。いつもならこんな会話の時は「んー、どうしよっかな~」からの言葉のキャッチボールが始まるはずなのだが・・・。『なんか怒らせること言ったかな』、様子をうかがう加也子に、
「・・・お父さんね、、事故に遭ったんだって。ひどい怪我なんだって。だから、、会いに行くよ。明日の朝、4時に棚田の叔父さんが車で迎えに来てくれるから、今日はもう寝るんよ?」
「え?」
なんのことだ?きょとんとする娘に
「お父さん、ひどい怪我をしたらしいの。だから、みんなで元気になるよう励ましにいこう。明日は早いから、さあもうお布団に入り」
「・・・わかった」
何だか難しい事を言われた気がする。が、母のいつもと違う気迫を感じ、居間を出る。
加也子はとてとてと自分の部屋に向かう途中、何かの聞き間違いかと思い、廊下を戻り、居間のドアを少し開けて中を伺う。
中では居間の食卓に座る母と祖母が見える。母は手で顔を覆っており、祖母は母の肩を抱き、寄り添うように隣に座っている。
「ダメだったらどうしよう?あの人がいなくなったらどうしよう?」
「大丈夫、・・・大丈夫よ?あの子は簡単には死にはせんよ。あんたはお母さんなんやから、しっかりせんと」
二人の会話は小声であったが、そのやり取りはしっかりと聞こえた。さらに言うなれば二人の纏う雰囲気から、父の逼迫した状況を感じとることができた。
音をたてないよう後退りすると、てててっと自分の部屋に入り、ばばばっと布団に潜る。
『お父ちゃん、死んじゃうの?』
ついこの間まで一緒にお風呂に入っていた。
「明日からお父ちゃんお仕事でいなくなるけど、ちゃんと朝起きれるか~?」
「大丈夫よ~。私これでも出来る女なんだから」
「え?お前どこでそんな言葉を覚えてくるんよ?」
「平沢のお姉ちゃんから」
「平沢さんとこの娘さんて5年生の?最近の子はおませさんだな~」
父親と一緒に入るお風呂は楽しかった。その日に起こった出来事を加也子があーだこーだと言い、悟が自分の体験談を絡めて受け答えしてくれる。ついつい長風呂になってしまって母親に、父親共々怒られる。お祖母ちゃんが「ははは、カラスの行水よりましやわ」と美奈子をなだめる、「今日も怒られちまったな」と小声で言ってくる父親に、にひひと笑い返す。・・・そんな日常が消えようとしている。
『どうしよう?』
漠然とした不安感に締め付けられ、いつもと違い布団の中に冷気を感じる。
「あ」
思い出した、お風呂での父親とのいつかの会話。
「どうしても自分の力では何ともならないと思ったら、黒龍さまにお願いに行ってみるか?」
勉強をなんとかしないで済むように、自分が持つ文章力の最大出力を用い、父親を篭絡しようとしていた時の会話の断片だった。
「黒龍さまって、夏と冬に子供達だけでお掃除にいくあの神社?」
「そうそう、神主さんと三人の巫女さんがいてな」
「主様と猫巫女さんと狐巫女さんと蛇巫女さんだよね?」
「へー、今もそうなんだ」
知らないの?と意地悪っぽく加也子が聞くと、
「大人になると、大事なお願い事でもない限り参道をくぐっても、不思議とお社までたどり着けないんだよ。子供だって奉仕作業以外はそうだしな。お父さんも子供の頃お掃除に行った以外は、たどり着けなかったな。」
「お願い事に行った事あるの?」
「おお、大学受験の時にな。お祖母ちゃんから作法を教えてもらって、ちゃんと覚えていったんだが、はは、たどり着けなかったよ。祝詞も覚えたんだぞ、かけまくも~ってな」
「かけまくも?なにそれ?おまじない?」
「祝詞、神様にお願いするときに言うセリフみたいなもんだ。まあ、今思えば神様にお願いすることでもなかった気もするし、怒られなかっただけ良かったのかもしれんなぁ」
「神様、怒るの?」
「おお、失礼な事をしたり、自分勝手なお願いばかりしてるとバチを当てられるぞ!っていう言い伝えだ。お祖母ちゃんから聞いたことないか?」
「あー、詳しくはあんまりない。ね、どうやってお願い事すればいいの?」
「んーとだな、参道入口に黒い石畳があるだろ?あそこでな・・・」
加也子はバサッと布団をはね上げる。
『思い出した‼』
子供用タンスの中から靴下を出し、いそいそと履くと、学校から帰った時に脱ぎ捨てたジャンバーを寝間着の上から羽織る。机の下の非常時持ち出しバックから懐中電灯を取り出すと、カチカチ点けてみる。
『うん、よし!』
自分の部屋を出て、そーっと廊下を歩き、居間の前を通る。ちらっと扉の隙間から、先程の状態と変わらない母と祖母の姿が見える。抜き足、差し足・・・
玄関で自分の靴を履くと、これまたそーっと扉を自分が通れる分だけ開けて外に出る。扉を閉める前に、誰にも聞こえないような小声で、
「これから黒龍さまにお願いに行って来るからね~。心配しなくていいからね~。」
と囁くと、ゆーっくりと扉を閉める。カラ・・カラ・・カラ。閉まるときの音に気付かれないかドキドキする。
家の前の道に出ると、『よし!』と覚悟を決め、加也子は山に向かう道を走り始めた。
***************
「あとちょっとー、あとちょっと~。」
誰もいないのは分かっているが、声を出さないと心細くなるため、加也子は息づかいが荒い上でしゃべりながら林道を登っていく。
「この大杉越えたら~、もう着く~。、、、、ひぃ!!」
目指していた参道入口、その前にぼんやりと揺らぐ明かりが一つ。月明かりを大杉が遮り、真っ暗の中にゆ~らゆらとオレンジ色の淡い光を発していた。ぶわっと身震いをする。
『出来る女も~!、オバケはキライ~!』
自分の最大限の大声を心の中で叫ぶ。そうこうしていると、オレンジ色の光はこちらに近づいてきた。
加也子はぎゅっと目をつぶり、小さな懐中電灯を両手で持ち、前につき出す。心の中で『お父ちゃん!お母ちゃん!』と叫ぶが、逃げ出そうとはしない。逃げるわけにはいかないのだ。
「お前は、、麓の家の加也子か?どーした?こんな夜更けに。」
オレンジ色の光が、こちらに問いかけてくる。
加也子は、そーっと片目だけ目をあけ、声の方を伺う。
ぷはーっと息をはくと、全身の力が一気にぬけた。
「主様~!ビックリした~!」
加也子は目指していた黒龍神社の参道入口にたどり着いた。
やっと主人公を出すことが出来ました。(^_^;)
分かりづらい表現や、回りくどい言い回しがありますが、、許してください。今の私にはこれが精一杯。話の展開が遅いのも徐々に治していければいいなーって思っています。
長い目で見ていただければ有り難いです。