72.マジですか?
隆様とは、うまく話しあえたものの、肝心の定近の事をすっかり忘れていた亜里沙はかなり焦っていたが、隆は何でもない事のように機転をきかせ定近に話しかける。
「定近様を呼びにきたんですよ。若様がお嫁様を連れてお越しですよ。この女性はそのお嫁様の女房で亜里沙殿です」
「なにっ!義鷹に嫁がっっ!それはめでたいっ!そりゃ急いで帰らにゃ!」と、満面の笑顔を見せて館に走った。
走ると言っても、ほんの数百メートルのところである。
隆と亜里沙も定近を追って屋敷に戻る。
そして皆が顔をそろえたのだった。
そして、屋敷で一息をついた扶久子と亜里沙は、驚きの連続だった!
まず、屋敷の中は、聞いていたようなゴミ屋敷ではなかった。
寧ろ、綺麗に整理整頓され塵ひとつ落ちてはいない。
しかも、もう日も暮れてきたというのに部屋の中は、煌々と明るかった。
そう、なんと蛍光灯の明かりが灯っていたのだ!
屋敷の中では、平成の時代に見かけたよりもより高性能っぽい『ル○バ』が縦横無尽に走り回っている!
そう、あのお掃除ロボットのル○バが部屋の隅々までお掃除をしまくっているではないか!
ゴミを見つけては多少の段差をものともせず、廊下を渡って掃除していく。
そしてエアコンやら空気清浄機が…。
いや、もう何コレ!と扶久子は顔がひきつっている。
亜里沙は、隆がこちらに来た時に車いっぱいの商品をつんでいたと聞いていたが、それでもどうやって電源を?といぶかし気だ。
亜里沙はこそこそと、扶久子に隆の事を説明し、隆には自分達の素性は内緒にしいて話を合わせてもらう事にしたが、隆自身はこの屋敷の当主、定近に”迷い人”認定されていてほぼ、ありのままで受け入れてもらえているらしいことを説明した。
扶久子はそのありそうもない事実に扇で口元をかくしながら『なんでもアリかいっ!』と小声で亜里沙に突っ込んでいた。
「いや~納品予定の電化製品が、見本市展示用のソーラーシステムやら掃除機、冷蔵庫に洗濯機、まぁ、新築家庭に必要なもの全部くらいあったんだよね~。研修で、ソーラーの組み立てもやってたし、もうどうせ帰れそうにもないし、全部、有効活用しちゃってるよ~」と隆が笑いながら言っている。
いやもう、ほんっとに何っにも隠してないよねあんた!と亜里沙も心の中で突っ込みまくりである。
「いや~、相変わらず、隆さんのからくり道具はすごいですねぇ?」となんと、義鷹までもが、なんとなく受け入れているようである。
「いや~、私など、妖術かと最初はびっくりしましたが」と、是延も笑って話に混ざっている。
『何なんだ!』『いいのか?』『大丈夫なんだ?』と、扶久子も亜里沙ももう頭の中はプチパニックである。
自分達のあんなに、この時代にあわせたキャラクター設定は?
自分達の苦労は何だったのか?
と、少しは思ったものの、実際、よくよく考えてみれば、扶久子はお姫様設定だったからこそ右大臣家の嫁として認められた部分もある。
二人はもう、その事に関しては考えるのを放棄した。
今更である。
そしてもう一つ驚いたのは、定近が思いのほか若かったことである。
義鷹をそのまま大人のおじ様にしたら、こんな感じ?と思われるような、定近様はなんとまだ38歳の男盛りであった。
(まぁ、若いとは言っても扶久子や、隆から見ればおっさんではあるが)
そう、つまり見た目のせいで、定近様は結婚もままならず、従弟にあたり園近を養子にして右大臣家を継がせていたという事なのだから驚きである。
思いがけず若く雄々しい祖父イケオジな定近なのであった。
生まれ落ちた世界が扶久子らのいた世界であったなら今頃モテモテで、世のご婦人方がほうってはおかなかったであろうに…。
それで、こんな人里はずれたところに忍んで暮らしているのか?と理解した扶久子と亜里沙は思わず泣きそうになるほどいたたまれぬ思いをしたことは内緒である。
そんななのに義鷹の結婚を心から喜んで笑う定近に、扶久子は涙し、亜里沙は心から感心し尊敬の念を抱くのであった。




