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54 かぐや姫の凱旋?(壱)

 その目で(みかど)のおわす清涼殿(せいりょうでん)を見れる。

 それに関しては若干、楽しみではなくもない扶久子だった。


 しかし、前世宮仕えをしていた記憶のある亜里沙はハラハラである。


 亜里沙は扶久子が本当に帝やら他の貴族に見初められて身動きが取れなくなってしまうのではと懸念していいる。

 何といっても扶久子には既に心から想う相手がいる訳で今更どんな高貴な相手が出てきたところで迷惑千万なのである!


 望むは前世からの主人(あるじ)、そして現世では親友で主人(あるじ)である『扶久子の幸せ!』

 それは前世からぶれない亜里沙の一縷(いちる)の望み!


 しかし、それはそれ。

 右大臣家としては()()()()ともなれば無視できない。

(解説※宣旨:勅令を伝える為に弁官や外記局などから発布される文書)


 渋々ながらも、扶久姫が恥をかかぬようにと最高の支度を整える。

「ああ、やはりお着物は今から新たに仕立てたとしても元より姫がお持ちの物以上のものはこの京の都をくまなく探してもありますまい」


「あ、芙蓉の御方(ははうえ)様、大丈夫です。いつもので行きますので…あれは素材が軽い生地で出来ているのでいざという時、普通の着物より走って逃げやすいと思うので」と、扶久子は真剣に言っている。


「さ、左様でございますか?そ、そうですわね?いざという時にはとにかく走ってでも逃げるしか…」

 拳を握りしめコクコクと頷く芙蓉であった。


 そして園近が意を決したように息子の両肩をつかみ見据えるように言った。

「いざとなったらこの父が許す!義鷹!姫を連れて逃げるのじゃ!其方の祖父がいるかの山にでも…」


 その真剣な言葉に義鷹は驚きその目を真正面から見返し、芙蓉は感嘆の声をあげた。

「まぁっ!それは良き考えにございますわ。さすがは大殿!」


「でも父上。それでは右大臣家がお咎めを受けるのでは?」


「なぁに、元々、婚姻予定の姫君と逃げたとて大したお咎めなど出来る筈も無い…。横恋慕してくる凛麗の君が悪いのは明らかだ。其方自身はもしかしたら一旦は除籍されるかもしれないが、これまでの功績などを考えれば、帝は賢きお方なのだから、いくら身内である凛麗の君の我儘を聞いたとしても其方ほど優秀なものを野に放ったままになど出来ぬだろう。それに少なくともこの天下の右大臣家をお取りつぶしにまではいくら帝といえども出来まいて!それにな、私もまだまだ隠居するまでには程遠いのだから焦らずとも、ほとぼりも覚めて子でも成したら帰ってくればよい」


 そんな父、園近の言葉に義鷹も扶久子も胸が熱くなった。

「「父上(様)!ありがとうございます!」」


「大殿!さすがは私のお慕いする大殿ですわ!」と、芙蓉も夫の頼もしい言葉にうっとりとしながらも感動で涙した。


「本当にさすがは天下の右大臣家のご当主様であらせられます。そこまで大殿様がご覚悟を決めて下さり義鷹様が、いざという時には扶久姫様を連れて逃げて下さると言うのならばこの亜里沙も全力でお二人に助力させていただきます」


「亜里沙っ!頼りにしてるわっ!いざとなったら山里にもついてきてね?」と扶久子がすがるような眼差しを亜里沙に向けて亜里沙がそれをしっかりと受け止めて頷く。


「当たり前ですわっ!お二人の御子さまの面倒まで見る予定でございますれば!」と亜里沙が拳をあげて誓ったのだった。


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