52 断罪の行方(参)
励ましの感想をありがとうございます。
感想で凹むこともあるけれど、逆に嬉しくてやる気が出る事もあります。
嬉しいコメントに気を良くして今日は、前話から続けてもう一話、更新させていただきます。(この前の話と次のお話)
励ましの感想に感謝を込めて~
是安は是延に伴われて芙蓉の方のいる東の宮を訪れた。
庭先から御簾越しに頭を深く下げ是延がまず声をかける。
「大殿様。芙蓉の御方様。お召しにより父是安を伴い参上いたしましてございます」
すると中から紅葉と楓が出てきて是延親子を隣の部屋に案内した。
「「どうぞこちらへ」」
二人は案内されるままに隣の部屋に上がり座らされる。
そして左右に別れた紅葉と楓が仕切っていた襖を恭しく開け放った。
「「おおっ」」
そこには主人である園近と芙蓉の御方、そして義鷹と扶久子…それに亜里沙までもがそこに勢ぞろいしていた。
まるで美しい絵のような光景に是安も是延も眩しそうに瞬きをした。
扶久子はこの世界に来た時に着ていた”泡沫夢幻堂”で着ていた『なんちゃって十二単』を着ていた。
…と、言うのも、その日は生理二日目だし体がだるかったので着脱がしやすい割に軽いこの着物を敢えて選んで着ていたのだ。
特に意識したわけではないものの見た目が写真撮影用だっただけに色も鮮やかで豪奢にみえるその衣装はこの世界のものから見れば一線を画す、それはそれは素晴らしい匠の技物の衣装に見えた。
(※何度でも言おう!平成の世界から言えば単なるプリント柄のミシン縫いの安物で或る!)
是安は扶久姫のいで立ちをみて即座に思った。
あの衣装…女御様(帝のお妃様)でもお持ちではないような素晴らしいご衣装…。
やんごとなき姫君…というのは真であったか!
是安はまず、一つ目の疑いを払拭した。
正直、高貴な身分を偽ったニセ貴族ではなかろうかとさえ疑っていたのである。
(※実際、平安時代ではど庶民な訳だから当たらずも遠からず…と言ったところではあるのだが、平成世界の安物のプリント柄の布地をみて何だかイイ感じに誤解してくれたようだ)
ちなみに是安は骨董品や芸術品、紙や布地に至るまでの『目利き』という評判で本人もそれを自負していたので自信満々で扶久子が身にまとうソレを只人が、いくら千金万金を積んだところで手に入らぬ得難き物として評価したのだった。
(※もの凄くしつこいようだが、プリント柄のミシン縫いで、ついでに言うなら挙句の果てに飾り紐なんて絹とかじゃなくてナイロン製だ!そりゃあもういい光沢だったりする)
そして否が応にでも目を奪われたのはその髪だった。
なんとも美しきサラサラの御髪だが、なんと背中ほどまでしかないではないか。
是安は、直接、姫君に声をおかけする訳にも行かず、思わず困惑した面持ちで顔を伏せ、息子に小声で尋ねた。
「是延…姫君の御髪は一体…」
「え?あ、あれ?そう言えば…最初にお会いした時は長かったはずで…」
さもありなん。
最初は泡沫夢幻堂で鬘をつけていたのだから…。
すると、気まずそうにしている是安と是延に気づいた芙蓉の方が、姫君の旅路にて苦労をされて、男姿に身をやつして髪も切りこの京までたどりついたという話(扶久子の口から出まかせ)を涙ながらに語った。
…そして是安は泣いた。
号泣で或る。
何の事はない。園近の事を『人が良すぎる!』だなどとほざいていたものの、所詮、是安もそんな右大臣家の家司!めちゃくちゃお人好しなのである!
悲しいかな…現代でもいるだろう。『私は騙されない!』なんていっている人ほど大口の手口に騙され、ありもしない投資話にのって大損したり、ねずみ講みたいな手口にひっかかるなんて心清き人達が…。
まんまと思いつきで言った扶久子の口から出まかせのいい訳を信じた是安が、それはもう扶久子に同情し、たらいに一杯水がたまりそうなほどの号泣だった。
是安は二つ目の疑い…右大臣家の財産を狙う女狐という線もすでに頭にはなかった。(チョロすぎである)
女の命とも言われる髪をばっさりと切ってしまう女性が色仕掛けなど思いつく筈もないとそう思ったのだ。(本当にチョロすぎである)
しかも召使を供ではなく友だと言っていたという話を芙蓉の方から聞いてそれにも感動しまくっていた。
(…チョロすぎる右大臣家の面々だった…大丈夫なのか?右大臣家!)
さすがにこれには扶久子も良心がチクチクと痛んだ。
『うわぁ~ごめんなさぃぃぃぃぃ~』ってな感じである。
あくまでも心の中で…ではあるが。
(ちなみに亜里沙は平気そうである!安定安心のスーパードライな亜里沙である)
「あ、あの…大丈夫です。今は…こうして義鷹様みたいに優しくて誠実な素敵な方に出会えて…私、本当に幸せで…」と扶久子はぽっと頬を桜色に染めながら少しだけ持っていた扇をずらし是安達に笑顔を見せた。
そして是安は全て自分が間違っていとあっさりと認め土下座して謝り倒したのだった
扶久子の化粧っ気のない…それでいて透き通るような白い肌。
愛らしい桜色の唇。
ふくよかな面差しも何もかもが眩しすぎて目もあけておられぬほどにその美しさに度肝をぬいたのだ。
こんなにも美しい御方がこの世にいらっしゃったのか!
こんな御方ならば殿方など選び放題なはず!
そう!女御様の中にもこのように輝くような美しき方はおられぬ!
それでも敢えてうちの若君が良いとお選び下さったのだ!
そう思うや否や、もう是安は目が溶けて涙と一緒に落ちてしまうのではないかと心配されるぐらいに泣き続け、果ては芙蓉の方や紅葉に楓。園近までもがもらい泣きをはじめ、扶久姫や義鷹は慌てて皆を苦笑しながら慰めに回った。
亜里沙はにまにま笑いながらも涙をふく手拭いを手渡していくのだった。




