㊹息子の結婚~By園近(四)
春の夜風に舞い散る花びらにまみれながらも義鷹を心から愛おしそうに迎える姫の様子に私の心は歓喜に震えた。
我が息子が!あのように素晴らしい姫に心から受け入れられていると姫君のあの表情を見て心から納得できたから!
私は数多の神々に感謝の祈りを心の中で叫びまくっていた!
神よ仏よ感謝いたします!息子のこれまでの不遇はこの姫と言う最高の幸せと出会えるが為の試練であったのかと思うほどの喜びである!
そんな気持ちをかみしめ、息子の幸せを祈りつつ、これ以上はお邪魔虫だとその場を退こうとした時だった!
なんと!三人の賊が!
しかも真ん中にいるその賊の頭と思われる人物は!
帝のお従弟様に当たられる、藤中納言時盛様!『凛麗の君』ではないか!
なっ!何て事だ!
許嫁だった件の三の姫だけでは飽き足らず、今、かぐや姫と巷で噂の芙久子殿にまで目をつけたというのか?
何て事だ!身分、財力、そして見た目!どれをとっても息子には叶わぬ厄介な相手。
私は内心愕然とした。
しかし、どうやって我が屋敷に忍び込んで…。
しかも、あの着衣!我が右大臣家が兵にのみ与えた家紋入りの…!
そんな事を考えていると他家に忍び込んでいながら何と凛麗の君は、悪し様に義鷹を罵ってきた!
「義鷹!見損なったぞ!嫌がる姫君を無理やり娶るなど悪の所業だ!姫君っ!この私、藤中納言時盛がお救いに参りました!」
そう言ってきたのだ!
ぐぬぅっ!盗人猛々しいとはこういう事をいうのか?一体どの口でそんな事をっ!
いや、まぁ自分もそれに近い心配をしていた事は否めないが、あの姫の息子への想い溢れる眼差しがわからんかぁぁぁぁ!と心の中で叫び腰にかけている刀に手をかけ、身構える。
例え帝の御従弟様でも息子の唯一を奪うなど許せん。
いざとなったら、息子に加勢し三人とも倒し山にでも埋めてやるとばかりに親馬鹿が暴走してしまった私は、息を殺して飛び出す瞬間を待っていた。
すると何と扶久子殿の口から凛麗の君へ痛快な言葉が発せられたのだった。
「っ!何なのですか!義鷹様に失礼すぎますっ!帝の甥御様だか御従弟様だか知りませんけどあんまりです!義鷹様は人の弱みに付け込むような方じゃありませんっ!」
おお!姫君!そうですとも!わかってらっしゃる!
さすがは『かぐや姫』と私は涙ぐんだ。
しかも姫君は、相手が帝の従弟…つまり義鷹よりも身分が上な事も、あの美しい(※扶久子的には白いカバ)見た目な事も分かった上でそう言っておられるのだと再認識した!
その姫の頼もしきお言葉に
「な!なんと、貴女はこの男を庇うのですか?」と心底、驚いたように言う凛麗の君。
そして、姫君はトドメの言葉を発せられた。
「はぁ?庇う?貴方様こそ耳がお飾りではございませんか?私は義鷹様さまをお慕いしております!誰が何と言おうと義鷹様だけをっ!」
…。
私は思わず声をころして号泣した。
ああ、もう、儂、今死んでもいい。
家督は義鷹に任せた!
あの姫に支えられたなら義鷹は立派な当主になる!
もともと文武両道に秀でた子なのだ。
この園近!妻に頼まれずとも姫を!扶久子殿を息子の正室に必ずや据えてみせますぞ!
そう誓った瞬間だった。
その時の私は不敬にも、例え帝を敵に回してでも!と思うほどのという勢いであった。




