㉟平成(ぽい)世界の婚姻~一夜目~ By義鷹
「姫…貴女のお言葉が真ならばどうか私の妻に!この義鷹一生、貴女だけを愛する事をお誓い申し上げます」
私はとうとう父の忠告すら無視して自分の想いを告げた。
そして扶久子姫は「はい、喜んで」と笑顔で答えてくれたのだ。
私はもう感極まりながらも恐る恐る姫を抱きよせた。
「不快ではありませんか?」そう尋ねる私に姫はうっすらと頬を染め小声でこたえてくれた。
「いいえ…は、恥ずかしいだけです」
何と可愛らしい!堪らない可愛らしさに私は気が遠くなりそうになったが、こんな幸せ…何か落とし穴があるのでは?と不安になり探るように姫に問いかけた。
「姫…今さらの確認ですが、お国元には許嫁…とかはいらっしゃらなかったのですか?思いを寄せる方も…」
そんな、情けない嫉妬交じりの問いかけは、男を下げるだけだというのについ口から出ていた。
けれど姫はそれを最後まで聞く間もなく答えてきた。
「そんなものはいません!」
きっぱりと言い放つ姫の言葉と眼差しには、一点の曇りもなかった。
私の心は期待に大きく膨らんだ。
もしかしてこれは本当の事なのか?現実なのかと。
それでもまだ信じきれない私に姫はこれでもかと思いがけなくも嬉しく心ときめく言葉を私に投げかけてきた。
「私が殿方に想いを寄せるのは生まれてこのかた義鷹様ただお一人です!」
ああ!もう!何だこれは!嬉しすぎる。落ち着け義鷹!こんな事、現実である筈がないだろう?
そうだ!これは夢だ。そうか!違いない!
そう思った私は、そっと姫にわからぬように自分の手の甲をつねってみた。
そしたら何と!痛かった。
そして姫の瞳をまた見つめる。
その瞳はきらきらと輝きを増し嫌悪の光なぞ露ほども感じさせない眼差しだった。
そして姫は言いつのる。
「何度でも義鷹様が信じて下さるまでお伝えします。お慕いしています義鷹様だけを!」
「っ!」
その言葉に私はトドメを刺されたように押し殺していた気持ちがもう取り返しのつかない所まできてしまったと思い知る。
これはもう私が『勘違い』したとて姫が悪い。
ここまで言われて勘違いしない男などいるものか!
いや、しかし…と最後の髪の毛一本ほどに残した理性は姫の方から回された手によって崩壊した。
なんと姫の方からも私をひきよせ私を迎え入れるように我が背に手を回してきたのである!
私は頭を片手で支え片方の手を頬に当てて引き寄せ姫の唇をかすめた。
ああ、やってしまった。
もう取り返しがつかない。
嫌われたか?そう思って姫の様子を薄目を開けて見てみる。
だが姫は目を閉じてソレを受け入れてくれていた。
そう見えた!
嫌がってはいない事を確認し私は天にも昇る気持ちだった。
心臓が早鐘のように鳴り響く!
そして思わず呟いた。
「ああ!夢のようだ。どうか夢なら覚めないでくれ」
そして姫は頬を熟れた桃のように薄紅色に染め私に為されるがままにその身を私に預けてくれていた。
私は確かめるように何度も口づけた。
徐々に私の中で押さえていた姫への想いが暴れ出すようだった。
まるで姫が自分をどこまで受け入れてくれるのかと確かめるかのように何度も口づけた。
触れるような口づけから徐々に深い口づけになり、初心な姫は私の腕の中で真っ赤になって気を失われた。
よもや、やはり私の事が嫌で?などという考えも、それまでの姫の言葉や表情から直ぐに打ち消された。
自分の事を嫌がってならば顔色は赤くなるのではなく青くなろうと言うものだ。
「なんと純真で穢れなき姫君なのか…」
そんな無垢な姫に私は益々心惹かれ、胸が締め付けられた。
大事にしたいと心から思い、その夜は口づけだけで男女の契りは交わさず姫を包み込みように引き寄せてひとつ布団で眠りについたのだった。




