⑳義鷹の両親 By父 園近
義鷹の父、園近は思っていた。
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ふむ…自分が心配していたような女狐の類ではなさそうだ…。
この右大臣家当主である私にあたら媚びを売る風もなければ、芙蓉や女房達が言っていた美貌を見せつける風もなく慎ましやかに扇で顔を隠されている。
(※息子の義鷹はまだ、園近が十六歳の時の子である。つまり、園近はまだ三十四歳の男盛り、本当の女狐ならば息子よりも現当主の自分に媚びを売ってくるはずだと、園近は思っちゃったりなんかしていたのだった)
まあ、この右大臣家にたかる悪女とかではなかったのは良かった。
それに、顔は見えずとも、その手の白さやふくよかな様子から芙蓉達が大げさに言っている訳ではなく本当になかなかの美姫なのだろうと思われる。
ふむ…一目見てみたい気もしなくはない。
しかし、義鷹をだまそうとしている訳では無いにしても息子の事を恋い慕っている訳ではあるまい。(←断定かい!)
故郷から遠いこの京まで来て心細かったところを保護されて心から感謝している。
あくまでも、それだけの事なのだろう。
それを証拠に、姫君は息子が結婚を申し込んだらどうするという問いにしどろもどろになりそれはもう動揺した様子だったではないか。
( ※いや、そりゃあね、気になる人の父親からそんなこと言われたら動揺するのが普通なんだけど、このおとっつぁんたら、息子に惚れる女子がいる筈ない!っていう前提で物事考えちゃってるいるのだった!)
「あっ!あのっ、義鷹様の事は尊敬していると申しますか、てっ天下の右大臣家の若様に、そそそそそんな、恐れ多くも…って言うか私などに結婚を申し込んでくださる筈もないですしっ」
この姫の慌てよう…。
やはりな…。
狼狽えながらも、『自分など立派な義鷹には勿体ない!』とへりくだりつつもお断りしているではないか!
何やら肩までふるふると震えて…気の毒に…。
よほど嫌なのだろう…。
さもありなん。
我が息子は、親としての愛情を持ってしても庇いきれないほどの不細工なのだから。(←そこまで言うか?)
我が子可愛さに、罪もなき姫に無理強いをさせては人の道に劣るというものだ。
ここは、親である私が今一度、義鷹に言い聞かせ芙蓉や女房たちにも余計なお節介をせぬようによく言い聞かせねば。
そんな事を思っていた。
***
しかし姫の真横に座っていた芙蓉の方や、少しばかり斜め後ろに控えていた紅葉や楓には、扶久子の耳まで真っ赤になった表情がまざまざと見て取れていて、
(((まぁ、何と初心な可愛い姫君でしょう。あんなに照れてらっしゃる)))と、ほっこりしていた。
(※はい!こっちが正解~!)




