103.御仏の手のひらで…(弐)
扶久子が語るその話に皆が驚いた。
そして、にわかには、信じられなかった。
「そ…それは…でも、それは夢…なのですよね?」と、亜里沙は恐る恐るそう尋ねた。
義鷹も定近も息を飲んだ。
そして扶久子がそれに答える。
「御仏は、私たちの望みを叶えるとお約束下さったのです。私は若槻の尚侍…亜里沙の幸せを祈りました。亜里沙…そして貴女は私の幸せを祈った。そうでしょう?」
「そ、それは勿論!私の想いは姫様の幸せです。これまでも、これからも」
「ふふっ。やはり、亜里沙は前世の記憶があったのですね?」
「姫様も前世の記憶が?」
「私が、前世の記憶を取り戻したのは、つい先日のことです。夢でみたのです。あの天からの雷
が東宮殿を襲ったあの日の事を…」
二人が周りを置き去りにするように話していると定近が、割って入った。
「ま!待て!一体、何を言っているのだ?それでは、其方たちは前世、この世界での女東宮と、女東宮を支えし尚侍だったというのか?」
「いえ、正確には、この世界にとても良く似た世界…というべきでしょうか?確かに、前世ではこの世界と同じ平安と呼ばれる時代の世界で女東宮という立場を賜っておりましたが、身分など関係ない平成という時代に生まれたのです」
「えっ?よくわからないんだけど、前世でこの世界のこの時代にいたんなら今まさに、この世界に亜里沙殿と扶久姫が東宮殿にいらっしゃるという事に…」と、義鷹が混乱したように言うと定近が、さらに言葉を重ねる。
「つまり、似て非なる世界という事なんだな?」
「それは、そうです。この世界は時代を越え縦の世界と少しづつ違う横の世界が無限に広がっているのだと思われます」確かめる定近に、亜里沙が答える。
(多次元世界の観念は、扶久子より亜里沙の方が強かった)
「つまりは本当のところは、わからない…と?」
「はい。もしかしたら無限ではないかもしれないし、無限かもしれない。或いは、こうしている今もまた新たな世界は生まれ続けているのかもしれない…それは神のみぞ知る…といったところでしょうか?」
「で、では、お二人は世が世なられっきとした殿上人!しかも扶久姫は女東宮で…」と義鷹が頭を下げた。
扶久子は焦ったように義鷹の手を取り怒った。
「おやめください!義鷹さま前世の私はともかく今世では身分などない世界で生まれたのです。そして今は貴方様の妻ではございませんか」
「そう、そうだな。其方が嫌だと言ってももう私は其方なしでは生きていけぬ」そう言って義鷹は扶久子を抱きしめた。




