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6/9

切断

 十七歳、高校生。


 もう女性なのか、まだコドモなのか。紗菜自身はよくわからない。だがきっと、大人からはコドモに見えているだろうと思っていた。


 しかし、『女の子』。

 ヒュウガは紗菜をそう呼んだ。



『君は、自分が女の子だってことを自覚したほうがいい。そうホイホイと住所なんか話すんじゃないよ』


「……なんで? それがなにか、失礼なことなの……?」


『逆だ。紗菜、あのな……』


 ヒュウガはしばらく、言葉をつかえさせていた。

 能弁な彼が、こうして逡巡するのは珍しい。


『……あのな。なんて言ったらいいか――』


 黙りこまれてしまうと、ヒュウガの様子がわからない。顔が見えないのだ。ただ待つしかない。


 ――やがて、彼は言葉をつづけた。


『俺は男だぞ』


 紗菜は目を閉じた。


 散々待たされたあげく、ようやく聞こえたヒュウガの言葉には何の衝撃も無かった。

 すんなりと耳に入り、すとんとお腹の中に落ちてくる。


 紗菜はわかっていた。

 勘違いをしているのはヒュウガだ。

 なにもわかっていないのは彼のほう。

 紗菜はもう、そんなこと、言われるまでもなくわかっている。


 紗菜は言った。


「ヒュウガさん、好き」


 ヒュウガが息をのむ気配――

 続く彼の沈黙は、先ほどの何倍も長かった。何十秒も待たされて、彼はやっと、言葉をくれた。


『俺も、紗菜が好きだよ』


 紗菜はすぐに言った。


「あなたに逢いたい」



 彼はまた沈黙した。

 紗菜はまた、辛抱強く待ち続けた。


 一分、三分、五分――十分――

 

 携帯電話をあてた耳が、熱を持つほど待ち続けて――

 不意に、聞こえてきたのは無機質な機械音だった。


 プツン、と回線の切れる音。

 ツー、ツー、ツー。何のぬくもりもない音。かけ直してみる。いくらコールしてもつながらない。

 二度、三度。四度目はコール音すらしなかった。


 着信拒否、という言葉を、紗菜はもう知っていた。 



 紗菜は携帯電話を置き、かわりに、ノートを開いた。

 

 ――ヒュウガさんの好きなもの――


 ルーズリーフに、そう題されたものを読み上げる。


「ヒュウガさんの好きなもの」


 冬の朝。ブルーベリージャム。インクの伸びがいいボールペン。

 タイピングの音。天井の高い部屋。一人用のソファ。


 この三か月間で書き連ねて、ずらりと並ぶヒュウガの『好き』。

 書いた覚えがないものも多い。話しながらメモをしているためだ。電話を切ったあと読み返すのは、とても楽しい時間だった。


 何ページにもわたるノート、その最後に、新たな文字を書き込んでいく。


『サナ』


 書いてすぐ、紗菜はペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶした。

 途端に涙が出てきたが、拭い取る気力もない。枕に突っ伏して黙って泣いた。


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