第16話 ~ありがとう?~
「うっ……ここはどこだ?」
俺は暗くジメジメしているところにいる。頭がぼんやりする。
天井に吊るされてあるランプの光でやっと周りが見れるくらいだ。この部屋はそんなに大きくなく10mぐらいの部屋だ。
俺は空に宙ずりにされており身動きが取れない。服装はパンツだけを履いている。
俺はどうしてここにいるんだ? 記憶を遡っていくにつれ意識が鮮明になり、この状況に焦った。
「楓達は!? ここはどこなんだ!?」
「やっと起きたか、兄ちゃん。あのスキルの反動はエグいんだな」
部屋の奥の暗闇から、ハラが笑いながらこっちに寄ってきた。
「おい! ここはどこなんだ!?」
「まぁまぁ、落ち着けや。ここは魔王城で、あんたは囚われている。そして、カエデちゃん達は無事……だと思う」
俺が答えてほしい返答が全てかえってきた。
「楓達は無事なのか……だったら良かったが……じゃあ、何故俺は囚われている?」
「何故って、兄ちゃんが危険人物だから契約書を書かせようと」
ハラは自分の体の中に手を入れ紙を出し、俺の目の前に出した。
泥の体の中にあった紙なのに紙は汚れていなかった。
「契約書って何で俺が書かねぇといけねぇんだ?」
「そりゃ勿論、兄ちゃんが魔王軍を脅かす存在だからだ」
確か……契約書は絶対。破ったら死ぬとザイザルは言っていたな。
「契約内容は?」
「兄ちゃんは生涯魔王様の利益になる事しかしない。生涯魔王軍の重要人物として働くこと。生涯魔王様の配下にいる事。この3つだ」
ニタァと笑いながら言ったハラ。
「それは、人間を敵に回すということか?」
「そりゃそうさ。後、カエデちゃん達とも殺りやってもらう事もあるかもな」
この契約書にOKしたら、楓達と敵対するということか……だから俺は迷わない。
「無理だ。意地でも絶対に書かない」
「そう言うと思ったぜ。それはそれ相応の覚悟があって言っているんだな?」
「ああ。覚悟は出来てる」
「だとよ、お前の出番だよ《悪魔の尋問》さん」
ハラは俺に背を向け出口に歩いていき、扉を開けた。開いた扉の向こう側に人影……いや化け物が入ってきた。
口を糸で縫い合わせている人物。
真っ赤なショートカット、髪の毛は寝癖が酷い。
目は流血でもしてるんじゃないかと思う程真っ赤な目。腰にはシャーペンぐらいのデカさのハサミや、ナイフなどのものがいっぱい入っているポケットをしていた。身長は160cmぐらい、背中にはテレビで見たことある悪魔の翼が生えている。
性別は女なのか、男なのか分からない。
「兄ちゃん。早く契約書にサインを書くのをおすすめするぜ。これから自分の身におきるのは、本当にキツいぞ」
そう言いハラは出ていった。その後ガタン! と大きな音を立てドアは閉まった。
目の前の人物が俺の目の前まで歩いてきた。
「んんんん! んーーー!」
頑張って喋ろうとしているが、口が糸で縫ってあるので喋られないようだ。どうやって意思疎通をしたらいいんだ?
そう思っている時、突然目の前の人物が口を無理やり開けた。
「ンンンンンンンンンふばぁぁぁぁぁ! ア"ア"ア"ア"ア"! 痛いの気持ちぃぃぃぃぃぃ!」
目の前の人物は口に縫ってあった糸を、口を無理やり開けてブチブチと不快の音を出しながら口を開いた。口の周りの肉は全部、裂けている。普通ならば、悶絶するほどの痛さだが、目の前の人物は絶頂な顔をしている。
「だけど、この痛みは無くなってしまう。なんて悲しいんだろう。そんな事を言ってるそばから痛みがァァァァ! 無くなるなぁァァァお願いだよォォォォォォ」
そう言いながら地べたに倒れ込み、泣き出している。何だこいつは? と俺が困惑するのと同時に、恐怖を覚えた。すると、突如にゅるっと起き上がり俺の目前まで顔を寄せた。
驚く事に口の傷はもう再生しており、傷の跡は何も無かった。
「君がアイチくんだね? 私はヤマで~す。君の噂は聞いてるよ? カエデちゃんの仲間なんでしょ? カエデちゃんは私のお気に入りでね。カエデちゃん可愛いよね? 私1回食べられちゃってね。その時の興奮は今も忘れなくて……思い出すだけで……はぁ~ゾクゾクする~」
ヤバい奴だ。生涯絶対に関わってはいけない奴だ。
「え? 無視? それは酷いね? お仕置きだね?」
ヤマはいきなり俺のお腹にパンチをしてきた。
「がはっ!」
みぞおちだ。痛い、痛すぎる! 内蔵が全部裏返ったようだ。だが、その痛さと同時に恐怖を覚えた。俺の耐久はこの世界の5歳児と同じだ。ヤマは俺より高レベルだろう、そんな奴に攻撃されたら一瞬で死ぬ。
だが、俺に適度な痛みを与えた。
俺はこの世界に来てからダメージを受けたら失神か死んでいた。そのため俺の体に適度の攻撃をしただけでこんなにも痛いのかと恐怖を覚えた。
「どうしたの? 怖いの? 私は怖いのは嫌いなんだよね。だって恐怖って、痛みがないじゃん? 痛みがない事って全て全て意味が無い」
ダメだ、ヤマは精神が狂っている。
「まぁ、今回は君の拷問をするって命令されてるからね。この契約書に同意してくれないと、ずっと拷問は続くよ?」
無表情で言ってくるヤマ。
「契約書に同意する? それだけは絶対にやらない。その前に死んでやる」
舌を噛み死んでやる。何故か死ぬ恐怖はない。俺が王都で強くなった時に死ぬ恐怖が消えてしまった。だが、それ以外の恐怖はある。凄い不思議な感じだ。
「舌を噛むんでしょ? そんな事させないよ? 拷問魔法『繋がる体』これで私と君の体は繋がった。この魔法はね、2人の5感が全てながる代わりに、君が傷を負っても私が無傷なら自然に君の傷が治るんだ。だけど、君の体を全身潰したりしたら流石に君は死んじゃうけどね? 後は……回復までに時間がかかるんだよね?」
ヤマはポケットからナイフを出しそのナイフで俺の首を切った。
スパッという気持ちいい音が聞こえた後、痛みが体の全身を走った。
「アッ……グアッ……!」
耐え難い激痛が体に走った。視界は暗くなりずっと暗闇にいる音も聞こえない。なのに痛いという感覚はある。殴られるよりも全然痛いいや……痛いじゃない、熱い熱すぎる。首に細いハリを満遍なく刺されているそんな、錯覚をするような痛さだ。
そして、体の血が抜けていく感じがする。体は動かせないなのに血が出ている感じがする。
「ア"ア"ア"ア"ア"! 痛い! 痛い! 首がぁぁぁぁ! キモヂィォィィィィィ! やっぱりこの魔法は……気持ちよすぎるねぇぇぇぇ!?」
首を切られ何分経ったか? 痛みで時間の流れが永遠に感じる。すると、首の傷が治り始め痛みもなくなった。
「あー、痛かったね? これからこれがずっと続くよ? 君が契約書に同意しない限りね?」
「やめろ! もう嫌だ! あんな痛みもう!」
「そうか~じゃあ、今度は足を切断しようか」
ヤマがポケットからハサミをヤマが取った途端ハサミがデカくなり……ハサミを広げ……
「やめてくれぇぇぇぇぇ!」
「やっぱりここに居た。やっぱり兄ちゃんが痛めつけられてるのは嫌か?」
ここは魔王軍の監視所。全ての部屋を見る事が出来る。そこに愛地の拷問をずっと見ている女にハラは話しかけた。
「そんな事はないニャ……。いや強がってみたけど、やっぱり辛いニャ」
顔を苦くする彼女。顔の裏には色々な感情が渦いているのが誰でも分かる。
「だったら見なきゃいいじゃねぇか」
彼女から目を離し、愛地が拷問されているのを見るハラ。
「無理ニャ。コレを見ないとダメな気がするニャ」
「まぁ、《獄炎の魔獣》さんが言うなら間違いないんだろうけどな」
ハラはそう言いながら笑い去っていった。
「私は私の仕事をしますニャ。それまで、我慢してくれニャ……マスター」
ーー1週間後ーー
「チリリリリリリリ! チリリリリリリリ!」
拷問部屋にベルが鳴り響いた。休憩の時間だ。
「もう休憩だね。じゃあご飯食べて休憩してね」
ヤマはそう言うと部屋を出て言った。
毎日1回だけの20分の休憩。その時間の殆どが食事の時間だ。俺は宙ずりから解放され地面に着いた。
ろくに立てない体。体が重い。最初は楓達が助けてくれるんじゃないかと期待したが、ここは魔王城、助けは絶対にこない。
また、王都のようにあのスキルを使いたいがいつの間にか指に付いてる指輪がそれを防いでる。指輪を外そうと試みたが全然外れない。
そんな中!拷問部屋の扉が開いた。
「「お兄さん、今日も私がご飯持ってきたよ~?」」
メラとラメだ。こいつらは魔王軍幹部の筈なのに何故か俺にご飯を持って来てくれる。
「ありがとな」
体に力がはいらなくなってきており、声に張りがない。
「「お兄さん、ヤマさんの拷問よく耐えてるね? 私なら1日も耐えれないよ」」
「何でたろうな? 俺もなんでこんなに耐えられてるのかが分からないよ」
俺はご飯を食べつつ話す。メラとラメは20分間俺と話してくれる。それが俺の心の救いだ。
「「ねぇねぇ、お兄さん。私たちがのどっちがメラかラメだと思う?」」
俺は瓜二つのメラとラメを見分ける事が何故か出来る。動作も容姿も同じメラとラメだが何故か俺はどちらがメラかラメかが分かる。
「右がメラで、左がラメだろ?」
「「正解! やっぱりお兄さん凄ーーーい! 私達の違いなんて誰もわからないのに!」」
跳ねて喜ぶメラとラメ。コレを来たたび毎回聞く。これが面白くて毎回来るんだろう。
メラとラメは強さは一流だが、何故か精神年齢が低い。歳は幾つなんだろうか?
「そんなに気づいてもらうのが嬉しいなら、見分けがつくようにすればいいじゃねぇか」
「「本当は私達もしたいんだけど、戦闘になると瓜二つじゃないとスキルとかが弱くなるんだよね」」
ちょっと寂しそうにいうメラとラメ。
「じゃあ、知られたい奴だけにお前達の見分けを教えたらいいんじゃねぇか?」
「「知られたいひとか~。そんな人いないな~。じゃあ! お兄さんだけに教えてあげるね!」」
「まぁ、俺はそんなの知らなくても分かるけ……ど聞いとくよ」
「「私達の唯一違うところはここ」」
メラとラメは俺の手を握ってきた。メラの方が手が暖かく、ラメの方が手が冷たい。
何故だろう俺はこの違いを知っている気がする、いや気のせいか。
「分かりずらいなこの違い」
俺が笑うと、メラとラメも笑った。俺は気になったことがある、なぜメラとラメは俺に対してこんなに親しくしくれるのか?
命令されてやっているのか、素でやっているのか……。
「なぁ、何でお前らはそんなに俺に親しくしてくれるんだ?」
「「何でかな? 私達も分からないけど何かお兄さんと一緒にいると落ち着くんだ」」
メラとラメの表情も動きも感情もいつも全部同じだが、今だけは2人の表情も動きも感情は違った。
メラは微笑み、ラメは照れくさそうに。メラは俺の手をぎゅっと握り、ラメは手を離し後ろに手を組んだ。この時だけは1人の女の子の様に感じた。
「チリリリリリリリ! チリリリリリリリ!」
返答しようとすると休憩が終わりのベルが鳴った。すると俺は見えない力によってまた宙ずりにされた。
「「じゃあ、お兄さん頑張ってね~」」
メラとラメは立ち上がり、手を振り部屋を出ていった。普段通りに戻ったメラとラメは部屋を出ていったと同時に、ヤマが入ってきた。
「さぁ、アイチ君……拷問の時間だ」
ヤマの姿を見ると吐きけがするようになった。だが、ここで吐いたらご飯が勿体無い。吐かないように努力をする。
「私を見ると吐き気がするって酷いな~。それはお仕置きだね?」
必死に隠したつもりだが一瞬で見破られた。ヤマはゆっくりと俺に近づき……ヤマは俺の手首を手刀で切った。
「グァァァァァァ!」
痛みには慣れない、だからあの休憩が恋しい、あの一時の幸せが恋しい、早く早くメラとラメと喋りたい。
「あっ、言い忘れたけど今日から休憩無し。だからこれでずっとずっと痛めつけられるね?」
ーー1週間後ーー
「はぁ……はぁ……はぁ……」
休憩が無くなってから、拷問が更に酷くなった。もう、何故俺が契約書に同意しないのかが分からない。だが、何故か俺は同意しない何故だ? それは俺にも分からない。
「何か痛みに慣れてきちゃったね。そろそろあの魔法を使をうかな~」
「魔法……? これ以上酷くするの……か?!」
「うん! そうしよう! 拷問魔法『痛覚増加Lv2』」
何だ? ヤマが魔法をかけた瞬間、肌がヒリヒリする。何もされていないのに? 魔法の言葉で何をしたか大体想像がつくが、脳が答えを見つけるのを拒んでいる。
「そして、新しい拷問道具を使うね? 私が作った、ゴロゴロ虫痛いぞ~? 道具だよ?」
そう言いながらヤマはポケットから消しゴムサイズの丸いものを出した。
そしてヤマは拷問道具をサッカーボールの大きさにした。
「これをデカくしすると、棘がいっぱいあるのが分かるでしょ? これをアイチ君に投げちゃうよ?」
ボールいや、ダンゴムシの形をした物。
ダンゴムシは丸まっており外殻には棘がいっぱい付いてる。
それを俺に投げた。
「グァァァァァァァァァ! 取ってくれェェェェェェ!?」
今まで生きてきた仲で一番痛い。首を掻っ切られた時よりも、内蔵を全部出された時よりも痛い。ダンゴムシは俺の肩に刺さり棘から小さいダンゴムシが増殖し俺の体の中で小さいダンゴムシが増殖している。しかも、ダンゴムシはうねうね動く、しかもさっきの魔法のせいで痛みが……!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! この拷問道具キモヂィィィィィィィィィ! 中でいっぱい動いてゥゥゥゥゥゥ!? 血が……血がァァァ!目から口からいっぱい出てくるーーーー! 気持ちいいよ?」
そのダンゴムシは俺の全身に周りずっと体を連続で切り刻んでいる感じだ。俺の体から血がドバドバと出まくっている。駄目だ……死なたい、そんな感情が体の底から湧き出ふる。
ーー1週間後ーー
「ふわぁぁぁ~。眠いね? 2週間も寝ずに拷問すると疲れるね? でも、痛みがこんなにも続くって幸せだね?」
「何が幸せだ? もういいだろ!? 解放してくれよ!?」
「無理だね? 魔王様命令だからね? でもアイチ君が契約書に同意したらいいんだね?」
「分かった! 契約書に同意す……」
何故か言葉詰まった。もうこの拷問は嫌なのに、何故こんなにも体が同意するのに拒否をするんだ?
もう……いいじゃないか! 俺は頑張った! なのに何でこんなにも魔王軍に入りたくないんだ? 分からない! 何故だ? 何でだ!
「まだ我慢するんだね? じゃあ、拷問魔法『痛覚増加Lv5 』 固有スキル『悪魔の尋問』発動ね? 僕の固有スキルは尋問専用だけど、拷問にも対応出来るんだよね? 効果は尋問の時に相手を潰しても、相手は死なずに痛みだけを与えるんだよね? しかも、その痛みは痛覚の限界を超えるんだよね?」
ヤマはポケットからハンマー取り、そのハンマーをデカくし俺を潰した。
ーー半月後ーー
「…………ぶはぁっ! はぁ……はぁ……はぁ……!」
今俺の下半身は片足を切られ、内蔵をを全て取り出し、体全身を浅いギズで埋め尽くされている。しかも、俺の血で水槽を満たしそこに顔だけを入れるを繰り返している。これが体感で5日以上続いている。
怪我をしても体は回復する。その度俺は体をズタズタにされる。もう、限界だ。これ以上は無理だ。
「分かった! 今度こそ! 俺は契約書に同……」
まただ、何故こんなに体が拒否反応を起こすんだ?
「まーた言葉に詰まっちゃったね? こんなに僕の拷問に耐えた人は君が初めてなんだよね? だけど早く契約書に同意しないと……」
無言の圧力。ここでまた契約書に同意をしなかったらまた拷問で苦しめられるだろう。
だがそれでも拒否反応を起こす体、じゃあもっと拷問を続けるのか? 否もう無理だ。俺には分かる。これ以上続けたら死ねない体でも絶対に死ぬ。
そこで俺は思いついた。言葉が言えないのならば行動に移せば良いのではと考えた。そしておれはコクリと顔を動かした。
「本当に? やっと同意してくれるの!? じゃあ、ここに早く血判して!」
ヤマは俺の親指の腹をナイフで切った。この程度の痛みはもう感じられない。
これで楽になれる、解放されるんだ!
俺は躊躇をしないで押そうとした瞬間……
「やぁ、愛地君。凄い久しぶりだね」
「チャラ神……なのか?」
ここは神の間だ。目の前にはチャラ神がいる。
体が痛くない。体が動く。それを実感した瞬間大粒の涙が出てきた。
目から一杯出てきた。ああこれでいい方向に事が進んでくれる!
「まぁ、神は特定の人以外干渉出来ないから愛地君を救うのは無理だよ?」
それを聞いた瞬間聞き間違いかと思った。だが、声色から冗談を言ってないのが分かる。
じゃあ、何でチャラ神は俺をここに呼んだのか?
その疑問が浮かんだがそれより助けてくれないんじゃあ、俺はまた拷問を受けなければならない。さっきまでは頭がどうかしていて血印を押そうとしていたが、今考えると寒気がする。押したら今度は楓達と戦うんだ、楓達と戦うより死ぬほうがましなのに!
だが、心の何処かであの場所に戻ったらすぐ押してしまいそうだと思っている。
そんな事を考えていたら自然に足が震えてきた。椅子に座っているが腰が抜け地べたに倒れてしまった。今度は恐怖の涙が出てきた。ダメだずっと拷問の事を考えてしまう。
何だこの気持ち……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「そんな恐怖の心の声を出さないでよ。耳障りだ」
「じゃあ……どう……すれば……いいんだよ……!」
恐怖のあまり声が出ない。
「魔法だったらその恐怖無くしてあげるけどどうする?」
チャラ神が人差し指を回しながら言った。
魔法でこの恐怖は治る……?
「そうして……く」
まただ、言葉が詰まった。何故だ? この恐怖が無くなるのなら俺は何でもすると思ったのに?
何故だろう何でこんなにこの恐怖に勝たないといけないと思ってるんだ?
「どうするんだい? 魔法をかけて欲しいのか? 嫌なのか? はっきりさせて欲しいな~」
また指を回しながら言うチャラ神。
「ヴッ!」
恐怖がまた大きくなった。吐き気が凄い。寒気が凄い、心臓がバクバクして破裂しそうだ! もうダメだこのままじゃ……死ぬ。早く恐怖を無くして欲しいって言うんだ。
「……言え……ない! 嫌だ! 魔法なんていらねぇ!」
何でたろう? 本当は怖くて怖くて仕方がないのに、こんなにも恐怖で視界が回っているのに、何故俺は拒否したんだ?
「どうしてなんだろうね? 」
分からないだけど、この恐怖を味わっておかないと楓達に合わせる顔がないと思った。
あいつらはあんな短期間に強くなった。じゃあ、どれくらい恐怖を味わった? 俺は味わっていないのに楓達はこの恐怖を味わったはずだ。
拷問部屋に戻ったら確実に契約書に血印を押してしまうだろう。そしたら楓達と戦う事は絶対にある。だからこの恐怖味わっとかないと、同じ土俵には立てない。楓たちとは戦いたくない、だけど戦うとしたら俺もそれ相応の覚悟をしないといけない。だから俺はこの恐怖に耐える。どれだけ辛くても。
「そう思っているのなら見せくれよ君の勇姿を?」
「分かった……見てろよ……俺の……勇姿を!?」
俺は震える腕を地面に付け立とうとした。だが腕が震える、腕に力がはいらない。
「そんなの……関係ねぇ!」
俺は震える腕を力づくで動かした。
そして足を地面につき震える足。立てそうに思えたが……
「クソッ……!」
ドン! と音を立て倒れてしまった。やっぱり無理なのか? もう俺の体力は0に近い。
たつ気力すらない。そんな時何処からか声が聞こえた。
(愛地はそんなところで諦める人じゃないよー? 愛地はどんな時でも諦めない人だよー!)
楓の声だ。今俺の前には楓達が見える。皆が俺に手を差し伸べている。今は楓が励ましてくれている。それだけで……こころの恐怖が無くなっていく感じがした。
(愛地君は私を救ってくれた、勇気ある人だ。君はそこで倒れている人じゃない。立ち上がり人を救う人だよ)
かっこいい言葉を言っても似合う小豆先輩。
その優しさに救われた事はいっぱいある。
(愛地さん、そこで倒れていていいんですか? 貴方は私を守ってくれるって言いましたよね? じゃあ、敵でもいいから早く私に会いに来てください)
ある意味鬼の様な言葉だけど桃さんの言葉にどれだけ勇気をもらったか?
(渡辺、お前がそこが限界だと言ったら私は手を差し伸べてやる。お前があの時やってくれたように)
俺は幸先生に手を差し伸べた事なんてないが、貴方のその強さでどれだけ俺を導いてくれたか?
(アイチ様そんなところで倒れていていらっしゃるのですか? 滑稽ですね。助けてあげましょうか?)
お前は黙れ!
何処から嘘でしょ!? とういう声が聞こえたが気のせいだろう。
俺はこんなにも楓達に救われているのにここで負けたらみんなに顔向けできない。
こんな恐怖はもう怖くない。
「立ってやる! 立ってやるよ!」
震える手なんて関係ない。俺は立つんだ!
俺は地面に手を着いた。
「こんな恐怖、に勝たねぇと楓に顔向けできねぇ!」
腕にめいいっぱい力をいれ体を起こした。
「ここで俺は立って、小豆先輩に言ってやる! 男装してみないかって!」
震えている足に力をいれ体を少し立てた。
「桃さんがあんな事言ってくれたんだ! 俺は、桃さんに会いにいってやる!」
足にめいいっぱい力を入れた。
「幸先生に俺は強くなったと見せてやる!」
俺は立った。
「立った!立ったんだ! 俺は恐怖に勝てたんだ……!」
「おめでとう愛地君。これで君も半人前になったよ」
「これで半人前かよ……。1人前になる時には死ぬんじゃねぇか?」
立ったら脚の震えも何故か無くなった。さっきまでの恐怖は嘘のように小さくなった。
だが、まだ俺の心の底には恐怖が渦巻いているが何故か楓達のお陰でさっきまでの恐怖は感じられない。
俺は息を大きく吐きながら椅子に座った。
《ユニークスキル『恐怖に抗う者』を習得しました。恐怖への耐性が付き、自分、周りの人達の恐怖を吸収し魔法が扱えます》
「何かまたユニークスキルを覚えたな」
「超絶レアスキルじゃないか? 扱いも難しいし、用途も限られる使いずらいスキルだよ」
「スキルの名前はかっこいいし、超絶レアスキルなのに使いずらいの!?」
俺のツッコミに笑うチャラ神。
「いつもの愛地君に戻ったね。あと、そのスキルを獲得出来たのは僕のお陰なんよ? 感謝してね?」
「うん? どういう事だ?」
「僕が恐怖を50倍にしてたんだよ」
「えっ……? 嘘だろ?」
「嘘じゃないけど? それがどうしたの?」
「いやいやいや! お前本当にどうかしてるぞ!? 危うく俺は恐怖に負けて廃人になるとこだったぞ!?」
俺は思わず椅子から立ち上がりチャラ神の目の前まで顔を近づけた。
「そんなに近づかないでおくれよ、照れるよ?」
「可愛いけど! お前男だからキュンとしねぇよ! 絶対に許せないからな!?」
「本当はキュンとしたんでしょ?」
「したけど……って何言わせるんだよ!」
「はははははっ! やっぱり愛地君は面白いね。でも本当は感謝してるんでしょ?」
腹を抑えながら笑うチャラ神。
チャラ神の言葉を否定出来ず俺はグッ……と黙り、席にゆっくりと座った。
「ほらね、図星じゃないか? 」
「もう、いいわ! それより俺をここに呼んだ理由は他にないのか?」
「あーそれが本当の本題なんだけど……心の準備は出来てるかい?」
急に声色を変えるチャラ神。さっきのが本題じゃないとすると今から話すことはさっきの事より凄いことなのだろうか?
そんな不安を抱えつつ俺は返答した。
「ああ、さっきを超える事なんて事は多分ないだろ?」
「じゃあ、本題に入ろうか。君をここに呼んだのは血印を押す前にこの話をしようと思ってね」
その真剣の声色に思わず姿勢を正した。
「君を魔王軍に売った人がいる」
「魔王軍に……売った? つまり俺をあんな状況に陥れた奴がいるってことか!?」
俺はまた思わず席を立ち声を荒らげてしまった。
「そう、居るんだ君を陥れた人が」
「誰なんだ!? そいつは!?」
「ザイザル・マーフォンだ」
「は?」
間抜けな声が出た。
皆様お久しぶりです! 1ヶ月以上ぶりの更新です!当初は拷問シーンは1万文字ぐらい書くつもりでしたが、こんなにも短くなりました。多分後後拷問シーンを増やすつもりです。次は多分1い週間後に会いましょう!
byやる気に燃えている犬三郎