Have a good kiss
ぼくの唇には、傷がある。
下唇の右端に。
とても小さな傷なので、よく見ないと、そこにあるかどうか、わからないほどだ。
確かにそこには小さな傷がある。
時々疼く。
高校二年生の時、先輩がつけてくれた傷だ。
その人は、一つ上の先輩女子。
その先輩女子が卒業する時
『後輩君、君に呪いをかけてあげる』
先輩はぼくの目を覗き込んで、意味ありげに笑った。
『君があることをするとね』
と言って、先輩女子はぼくの唇に顔を寄せ軽くキスをしてくれた。
『痛!』
ぼくは、小さく声をあげた。
先輩女子がぼくの下唇の右の端を噛んだからだ。
一筋の血が流れた。
先輩女子はそれを舐めとると
『それはね、いつか、もしかして、後輩君に大切な人が出来て、その人とキスをかわす時、もれなく、あたしのことを思い出してしまう呪いよ』
先輩女子は卒業した。
その呪をぼくは、確認していない。
それ以来、ぼくはキスをしてはいないから。
時たまその傷が疼く。
そのたび、先輩女子のことを思い出す。
いまだに、ぼくはわからない。
この傷は
呪いなのだろうが
それとも
祝なのだろうか。
Have a good kiss
あなたは素敵なキスをかわしていますか?