撤退
僕はレーヴァテインを構え、ザガンを見据える。何でだろう? ヘルガーさんと同じ魔王なのに、以前ほどの圧倒的な差を感じられない。ヘルガーさんより弱いからなのか? それとも僕が前より強くなったからなのか。
「え、えっと、あの……」
そういえば彼女の事を忘れていた。確かカグヤだったかな。だけどザガンから目を話すわけには……
「魔王だと。それにワンディールまで……」
何だか考え事をしているみたいだから今の内なら。
「カグヤ、僕の手に掴まって」
「え、あ、はい!」
僕は彼女の手を掴むと光の道を使い、アルともう1人の勇者の元へ移動する。
「えっ? これって光魔法じゃあ……」
「やっぱりエルなんだな? エルフリート・シュバルツ何だよな!」
アルは僕の事に気が付いたみたいだ。カグヤはまだ困惑とした表情を浮かべている。僕は質問に答えず、アルの肩を触れそしてまた移動する。アルが触れているリュウジも一緒に、今度はワンディールさんの背まで移動。うん、魔王になって魔力量が増えた事により、光の道が以前より距離も人数も変わっている。
「マリアさん。彼らを治療してあげて。僕は戻るよ」
「わかったわ。気を付けてね」
「頑張って」
「無理しないでください、エルさん!」
みんな、応援してくれる。
「うん、ありがとうみんな。ワンディールさん。お願いします」
「ああ、俺の背が一番安全だからな。気にせず行ってこい」
僕は再び背から降りる。すると
「貴様は何者だ? 突然現れて魔王だと言えば、勇者が使える光魔法を使用する。魔族なのに人間を助ける。何がしたいのだ」
ザガンが色々と質問してくる。だけど
「そんなことわざわざ言う必要があるかい? 聞きたければ力尽くで聞けばいい。違うかい、魔王よ」
そう言い僕は構える。どれだけ力の差が縮まっているか楽しみだ。差があるとすれば経験の差だけだと僕は思っている。
「ふはは、ふははははは! 確かにその通りだ小僧。貴様を潰して聞き出してやる」
ザガンも構える。マコトたちと戦っているところを少し見たけど、やっぱり本気は全然出していなかったようだね。あの時と比べ物にならないくらいの覇気だ。
「いくよレーヴァテイン」
『了解しました、契約者』
そしてレーヴァテインから紅の焔が吹き出し僕は身に纏う。
「ほう、それも神具か。まさか1日に2度も見れるとは。だが奴より使いこなしているようだな」
マコトのことか。僕もマコトの神具を見てわかったが、神具は総じて魔力の消費量が半端なく多い。マコトの魔力量じゃあ全く神具の力を引き出せていない。僕も魔力量はあるが完璧には使いこなせていないし。
「さあ、やろうか魔王ザガン」
「ああ、いくぞ小僧」
どちらからともなく走り出す。僕はレーヴァテインに魔力を流し、そして左手のコクバにも魔力を流す。影を左手に付与すると、前の悪魔の左手より凶悪な形になる。
ザガンは何も武器を持たずに突っ込んでくる。そう思った瞬間、ザガンは消えた。そして
「遅いぞ小僧!」
目の前に現れる。僕は瞬時に光の道を発動。ザガンの現れた場所の右側へ移動。そして左手で殴る!
だが、この禍々しくなった左手をザガンは右手で捌き、そのまま左手を貫手にし突いてくる。
僕はそれをレーヴァテインで受け止める。よく見ると右手の指先に魔力を纏わせている。
そういえば前にヘルガーさんからザガンはスピードに特化した魔族だから気を付けろって言っていたね。すっかりと忘れていた。
確かにスピードは速いけど、力なら負けていない。僕は防いだ右手をレーヴァテインで弾き返す。そして、焔の斬撃を放つ。掠った地面を溶かすほどの熱だ。当たったら一溜まりもないだろう。
しかし、ザガンは迫り来る焔の斬撃を苦もなく避ける。焔の斬撃もかなりの速さになるのだがそれを上回ってくる。
「ほらほらどうした小僧。さっきまでの威勢はどこへいった!」
ザガンは全てを避け切り、僕へ向かってくる。そして、両手に魔力を纏い手刀で攻撃してくる。レーヴァテインで防御をするが、ぶつかる音が剣と生き物の手がぶつかる音じゃなく金属同士がぶつかる音がする。どうなっているんだろうか?
「ふん!」
くっ、ザガンのスピードが少しずつ速くなっている。僕も何とか避けるが少しずつ掠るようになってきた。そして
「ここだ!」
ザガンは一瞬で僕の懐に入り貫手で僕の体を貫く。僕は声を出すことが出来ずに、貫かれたまま中に浮く。
「ふん。まあまあやるようだったが、俺には勝てなかったな。さあ、お前の事をはな……何!」
だけど
「残念だったね。それは偽物だよ」
僕はザガンの背後で魔力を込めたレーヴァテインを振り抜く。ザガンは瞬時に気が付いて振り向くが間に合わない。レーヴァテインがザガンの体を左下から右上へと斬り上げる。……浅いか。ザガンは後ろへ飛んで避けたようだ。
「ぐぅ、いつの間に入れ替わっていたのだ?」
ザガンは斬られたところを押さえながら聞いてくる。
「最後の焔の斬撃を放った瞬間にさ。その瞬間に闇魔法の偽りなる影を発動し光の道で上に逃げたんだ」
そう言いながらぼくは空に向かって指をさす。
「そして、あなたが偽物を貫いた瞬間、もう一度光の道を使ってあなたの背後へ移動したってわけさ」
ザガンの傷は深くはないが浅くもない。治るのにも瞬時にはいかないだろう。さあ、どうでる?
「やるな小僧。いや名前を聞いておこう」
「僕の名前は……」
あの時捨てた名前をもう一度
「エル。魔王エルフリートだ」
「そうか、魔王エルフリートよ。ここからは本気の殺し合いだ。どっちかが死ぬまで終わらぬぞ!」
そう言いザガンの体から魔力が膨れ上がる。やっぱりさっきまでのは様子見だったか。だけど
「た、大変です、ザガン様!」
ザガンの兵の1人がやってくる。
「何だ貴様は! 男と男の勝負に水を差しおって!」
「ヒィィィイ! し、しかし、大至急お伝えしなければいけないことがありまして!」
「だからなんだと聞いているだろう!」
「魔王ファリイス様からの連絡で『私たちは出兵できなくなった』と連絡がありました!」
ヘルガーさんか! さすが仕事が早い人だ。
「なんだと! くそ! このままでも行けるが……」
そうして僕を見てくる。
「いや、こいつが人族を庇うならそう一筋縄ではいかんか。俺が動けない間に他の兵たちが勇者どもにやられれば。いくら弱いといえども。……仕方がない。今回は退却だ。指示を出せ!」
「はっ!」
「魔王エルフリートよ。今回の勝負は預けるぞ。次に会った時は必ずこの手で貴様を貫く!」
ザガンはそう言いながら僕に貫手で差してくる。それを見た僕はニヤリと笑って
「受けて立とう魔王ザガン。僕は全てを受け止め、全て燃やし尽くす」
僕もレーヴァテインの切っ先をザガンへと向ける。ザガンもニヤリと笑い、そして自軍へと帰って行った。
さあ、これからどうしよっかな?
よろしくお願いします!




