決意
はぁ……はぁ……何時間走り続けただろうか。辺りは真っ暗で何も見えない。多分前だと思う方へ進んでいるだけだ。
僕は何でこんなところに……確か死の森にいたはずなのに。マリンティアさんもミルさんもいない。ただ暗闇が続くだけ。
ん? 誰かいるのか。あの後ろ姿は……僕はまた走り始める。
はぁ……はぁ……ユフィー! ユフィー! 待ってくれ!
僕は叫び続ける。届いているかどうかわからないがとにかく叫ぶ。彼女の後ろを追いながら何度も何度も叫ぶ。
だけどユフィーはこちらを見てくれない。どうして? どうして見てくれないんだ?
ふと、ユフィーの隣を見ると誰かいる。誰なんだろう。
いや、僕は気づいているはずだ。あの時も隣にいたのだから。
ユフィー! どうしてマコトと一緒にいるんだ! 僕と一緒にいてくれるって言ったのに!
僕は2人が楽しそうに話しているのを見ているだけ。いくら叫んでも、いくら追いかけてもダメだ。
それでも僕は叫ぶ、走り続ける。あっ! やっとこっちを見てくれた!
ユフィーは僕の方を笑顔で見てこう言った
ーー私、あなたのこと好きじゃなかったのよーー
その瞬間地面が崩れだした。くそっ! もう少しで追いつくのに! 待ってくれ! ユフィー!
だけどユフィーはマコトを見続ける。僕にはもう興味が無いようだ。マコトは僕を見て笑う。僕を蹴落としたことによる喜びだろうか。僕はマコトを見ながら落ちていく。何処までも真っ暗な底へと。僕はどうする事も出来なかった……ただ2人に対する怒りを抱きながら……
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「ユフィー!」
僕は勢いよく起きた。ぐっ! 起きた瞬間体に激痛が走る。何なんだ一体。
辺りを見回すと見覚えの無い場所だ。右も左も天井も岩肌の壁だ。何処かの洞窟だろうか。ん? 左から気配がする。気配がする方へと向くと。
「エル! やっと起きたのね!」
涙目のマリンティアさんが座っていた。
「マリンティアさん。どうしたの? そんな涙目になって?」
「何を言っているのよ! バカエル! あなたが1週間近く起きないからでしょ! 心配したんだから、バカ!」
そう言って泣き出してしまった。どうしよう? 何か言うべきか。何も思いつかないぞ。と、そこへ
「マリア、急に大声出さない。魔物がく……エル!」
そう言ってミルさんが抱きついてくる。
「心配した。エルのバカ」
2人にこんなにも心配をかけてしまったのか……
「2人ともごめんね。僕が弱いせいで」
「何言ってるのよ! 私たちこそごめんなさい。私たちがちゃんと逃げれていればエルにこんな傷を負う事もなかったのに……」
そう言いまた涙を流すマリンティアさん。なんだ? そこまで重症なのか僕?
マリンティアさんが撫でてくれる左肩を見ると……
「なっ! 腕が!」
僕は驚いてしまった。だって、ついこの間まであったはずの左腕が、肩から先にかけて無くなっていたのだから……
「それだけじゃないの。今は包帯をしているけど左目も大きな傷を負っているわ。ブレスの高熱で眼球が蒸発してしまったみたい。こうなったらもう治しようがなくて……あなたはもう左目で見ることは出来ないわ……」
そうか。だからこんなに視界が悪いのか。
「ごめんなさい。私が魔王玉を取りに行くなんて言わなければこんな事には……」
「マリンティアさん! それ以上言ったら怒るよ。これは僕の為の試練で、それにマリンティアさんとミルさんは手伝ってくれただけだ。2人が気にすることはない」
「でも!」
「マリンティア・クラシウス!」
僕がフルネームで呼ぶとマリンティアさんはビクッとした。
「は、はい!」
「僕たちは危険を承知でここに来たはずだ。ヘルガーさんも死ぬ可能性があるって言っていただろう?」
「うん」
「なら、今はこの傷で済んだと思えばいいんだよ。マリンティアさんとミルさんには怪我は無いんだよね?」
「無い」
あ、また泣く。案外泣き虫だなマリンティアさん。
「なら、いいじゃ無いか。確かに腕や目が無くなったのはかなりの痛手だ。でも死んでいない。立つことも出来る。立って歩くことが出来れば進むことができる。今はそれで十分だよ。ね!」
「ゔん」
僕はマリンティアさんの頭を撫でる。
「ほら、泣き止んで。これからどうするか考えなきゃ」
そう言うとコクコクと頷く。その横でミルさんが羨ましそうに見てくる。
「撫でて」
いや、言葉で伝えてきた。マリンティアさんも落ち着いてきたので、変わってミルさんを撫でる。あっ! 耳が物凄く気持ちいい。フワフワした中にコリッとした感触がある!
「ひゃあ! エル触り方がえっち」
そんなつもりは無いんだけど……
「ほら! もういいでしょ! 今後の話をするんでしょ!」
おお! 立ち直ったね。やっぱりマリンティアさんはこうでないと!
「じゃあ、まずここは何処だろう?」
「ここは迷宮」
えっ! 迷宮に着いてたの?
「エルが倒れた後グレイドラゴンが逃げたから、私たちもその場を離れたのよ。エルを担いでベルヘイムに戻るよりは起きるのを待ってから話し合おうって事になって、歩いてたらたまたま着いたのよ」
「それからマリアと私で交代で看病や見張りをしていた。今は私が見張りでマリアが看病だった」
なるほど。だからミルさんが入り口から来たのか。
「ここに、迷宮の入り口なんだろ? 危なくないの?」
「理由はわからないけど、入り口付近は魔物が近寄ってこないのよ。外からも中からも」
それはまた不思議なことだ。
「だからここで休憩している」
「そうなのか。そういえばマリンティアさんがさっき1週間も寝ていたって言っていたけど」
「正確な時間はわからないけど7回夜明けがきたからね」
そうなんだ。僕はそんなに寝ていたんだ。
「わかった。じゃあこれからどうしようか?」
「私は戻ったほうがいいと思う。今のままじゃあ迷宮に入っても死ぬだけ」
ミルさんの言うことはもっともだ。万全な状態であのザマだったのだから今のままじゃあ僕は足手纏いだ。
「そうだね。一旦戻って体勢を立て直したほうが良いかもね」
「私も賛成だわ。このままじゃ殺されるのがオチだしね」
満場一致で帰ることになった。それから僕たちは魔物に見つからない様に森を出た。魔物と会わないよう、ゆっくりと出たので行きよりも時間がかかってしまった。
行きは1日と少しだったところを5日かけて魔国ベルヘイムへと戻ってきた。兵士たちが物凄く見てくる。少し恥ずかしいな。
城に着くとすぐにローナさんが迎えてくれた。僕の方を見てもあまり驚かなかった。何でだろう?
僕たちはすぐにヘルガーさんの政務室へと訪れた。中にはヘルガーさんとワンディールさん。レーバンさんに見知らぬエルフが一人いた。
「やっと戻ってきおったか」
「もしかして僕がこうなっているのを知っていました?」
「当たり前だ。あの森はお前たちの実力では厳しいのはわかっていた。だから俺の魔法でお前たちを見ていた。もしあのまま迷宮に挑戦するような馬鹿だったら、俺のドッペルゲンガーで叩きのめしているところだ」
なんと! 初めから見ていたのか! まあ、そうじゃないと娘をあんな危険なところに行かせないか。
「ちょっとお父様! 一体どういうことよ!」
「何がだ?」
「魔法でずっと見ていたってことは、エルがこの傷を負う前に助けることが出来たはずよ!」
「ああ、出来たな」
「じゃあどうして!」
「お前は舐めてるのか、マリア。今回の件は全てこいつが決めて行ったことだろう。その責任は自分で取るべきだ。違うか?」
「だけど行かせたのお父様じゃない!」
「そんなもん、こいつは断る事が出来たはずだ。ワンディールに誘われた時からな。こいつが自分で考えずに他人の意見に賛同した結果がこの姿だ。なのにどうして俺が助けなければならない」
確かにその通りだ。僕はただワンディールさんに誘われたから付いてきただけで、自分で2人を見返したいと言っても何も考えずにヘルガーさんの意見に乗っただけだ。
「だ、だけど、それじゃあエルが可哀想よ!」
そう言ってまた涙目になるマリンティアさん。僕の為に泣いてくれるのは嬉しいけど、僕の為に泣いてほしくは無いな。矛盾しているんだけど。
「マリンティアさん。僕は大丈夫だよ」
「でも!」
「マリンティアさん!」
僕が強く言うと黙ってくれた。ありがとう。
「ヘルガーさん。お願いがあります」
「なんだ、腰抜け。もう諦めたいっていうならこの国から出て行けば大丈夫だ。誰も追ったりはせん」
「いえ。僕のお願いはただ1つ。僕を鍛えてください!」
そう言って僕は頭を下げる。
「何故俺がお前を鍛えねばならん! 他人に賛同するだけの男を鍛える価値など無いわ!」
そう言って威圧を放ってくる。前ほど辛く無いのは何故だろう? 慣れてきたのか?
「確かに以前の僕はそうでした。僕は婚約者から離れていきました。いや、言い方を間違えましたね。僕は婚約者から逃げてしまいました。国からも、家からも、全てから逃げてしまいました。今思うとこれなら婚約者に捨てられても仕方ないと思います」
そうだ。今思えば国を出る必要はなかった。あの後にもう一度話し合うことも出来たはずだ。だけど僕はただ逃げた。あの2人に会うのが怖くて逃げてしまったのだ。だけど、あの2人に裏切られたのも事実だ。あの2人を見返したいという気持ちはある。だから僕はこれから言う事を成し遂げて彼らを見返したい。
「だけど、死にかけて僕は夢を見て思いました。それでも僕は彼らを見返したいと。そのための方法もあります。それを成し遂げるにはそれ相応の力が必要になります。その為に僕を鍛えてください!」
「……お前が成し遂げたいということは何だ?」
「僕が成し遂げたいことは、この国の様に他種族が混じっても平和でいられる国を作ることです! 僕はこの国を見て思ったことは、この様な国が他にもあれば戦争は減っていくのでは無いかと。言葉で言うほど甘く無いことはわかっています。
だけど僕はこの国で笑顔で過ごす皆様の様な人たちをもっと増やしていきたいと思ったんです! その為にはヘルガーさんぐらい我を通しても貫き通せるくらいの力が必要なんです!」
僕はヘルガーさんを見る。ヘルガーさんも僕を真剣な目で見てくる。
「その道はかなり厳しいぞ」
「一度逃げた男が何を言っているんだと思うかもしれませんが、僕はもう逃げません! 逃げて後悔するくらいなら貫き通すまでです!」
そう言うと急にワンディールさんが笑い出した。
「はっはっは! 本当にお前の言った通りじゃ無いか、ヘルガー! まさかこいつまでそう考えるとはな!」
どういう事だ?
「小僧。俺がこの国を作った理由を知っているか?」
「確か、ヘルガーさんが他種族の可能性が面白いからじゃあ無かったですか?」
「それは表向きの理由だ。本当の理由はお前の先祖にある」
「僕の先祖にですか。という事はハヤテ・シュバルツですか」
「そうだ。歴史ではグランディーク王国第一王女メルティア・グランディークと結婚し、子供を生んだとされているが、実はメルティアは子供が生めない体だった」
え? それじゃあ僕達は一体どうやって生まれたんだ?
「そこで出てくるのはもう1人の妻であった俺の妹、システィーナ・クラシウスだ。あいつがメルティアの代わりに子供を産み、メルティアの子として育てたのだ」
まさかの大事実だ。ハヤテ・シュバルツが敵であったヘルガーさんの妹さんと結婚していたなんて。
「ハヤテとシスティーナが出会ったのもちろん戦場でな。何度も2人はぶつかり合っていた。だけど、どこかで意気投合したんだろう。気が付いたら王女のメルティアとも仲良くなっていた」
「そうそう! あの時のヘルガーの顔は面白かったぜ! ハヤテとシスティーナが仲良くしてるところを見て口が閉じなくなっていたからな」
「それは驚くだろう。敵と妹が楽しく話しているんだぞ。驚かない方がどうかしている」
確かにそれは驚くだろう。だけどそんな事があったなんて。
「じゃあ、そのシスティーナさんは?」
「あいつは病で死んだ。元々体が弱かったのだが戦うのか好きなやつでな。戦っている方が元気が出るってずっと言っていたな。だから子供をメルティアに預けたのだろう」
寂しそうに笑うヘルガーさん。
「もしかして僕とヘルガーさんって遠い血縁関係にあたるんですね」
「物凄く薄いがな。ほとんど赤の他人と変わらんぞ」
そう言い苦笑いをする。
「俺がハヤテの遺言を知っていたのを不思議には思わなかったか?」
確かに今考えてみれば王家とシュバルツ家しか知らなかった遺言をヘルガーさんは知っていた。
「ハヤテが亡くなる前に魔法で俺の元までやってきたんだ。その時にその遺言と一緒にある言葉を残していった」
「その言葉っていうのは?」
「『他種族関わらず平和に暮らせる国があったらシスティーナと最後まで一緒に過ごせたのに』だとよ。それを聞いた俺はその国を作りたいと思った。俺の最大のライバルであり、友であり、妹の旦那の願いを叶える為に。まあ、俺自身が作ってみたいと思ったのも間違いではない」
まさかこの国の建国の裏にはハヤテが関わっていたなんて。
「それでらお前はやるつもりか?」
「はい! 僕を助けて下さった人たちの為にも他種族関係なく平和に過ごせる国を作るたいと思います! 僕自身がその人たちと一緒に過ごす為にも」
そう言いながら僕はマリンティアさんとミルさんを見る。
「マリンティアさん、ミルさん。その為に僕についてきてほしい。まだ出会って1ヶ月も経っていないけど、僕は2人と一緒にこれからを生きていきたい!」
2人は顔を真っ赤にして、
「わ、わかったわよ! 覚悟しなさいよね! 絶対甘やかしてあげないんだから!」
「じゃあ私が甘やかしてあげる。一緒に生きて行こう」
「なんでそうなるのよ! エル、さっきのは冗談だから。少しぐらいなら甘やかしてあげなくもないわ!」
やっぱり2人といると楽しい。たった数日一緒にいただけてこんなに思えるほど大事な存在になっていたなんて。
「ふん! やっと男らしい顔つきになったじゃないか。覚悟を決めた男の顔だ。いいだろう。俺たちがお前を鍛えてやろう!」
そう言ってニヤッとするヘルガーさん。
僕はもう二度と逃げない。誰にも負けないぐらい、自分の意思を曲げる必要のないくらい強くなってやる!
取り敢えず第1章完って感じです。このあと出て行ったあとの王国の話を入れて第2章の予定です。




