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傾国の薔薇姫  作者: 月媛彰 練斗
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傾国の薔薇の誕生

三國志の伝記ものです。

貂蝉、三國志ではとても有名な女性ですね。

幕間を含め4話完結の予定です。

是非楽しんでください。

漢王朝。

中国が三つにわかれる前から中国全土を支配していた王朝が乱世の獣・董卓とうたくにより滅ぼされようとしていた。

反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐんが結成されるも、奇しくも大敗。

董卓とうたく長安ちょうあんへの遷都を強行。

恐怖政治を進めていた。

これを憂い、立ち上がったのは司徒しと王允おういん

養女、貂蝉ちょうせんを使った王允おういん苦心の策、美女連環びじょれんかんけい

後に中国四大美女ちゅうごくしだいびじょの一人として数えられる貂蝉ちょうせんの物語が始まる。


貂蝉ちょうせんは一週間後を楽しみにしていた。

婚約者の曹操そうそうとの結婚が決まったのである。

貂蝉ちょうせんは元は奴隷だった。

しかし、王允おういんに養女として迎えられ、官位のある曹操そうそうの夫人となる。

幸せの絶頂だ。

貂蝉ちょうせんは毎日、舞の練習をしていた。

結婚した暁には曹操そうそうにこの舞を披露するために。


しかし、貂蝉ちょうせんはその舞を曹操そうそうに見せることはなかった。


舞の稽古をしていると侍女が部屋に入ってきた。

貂蝉ちょうせん様、王允おういん様がお呼びです」

本当ならすぐ行くべきなのだが、稽古を途中でやめる気にはならない。

「後にできない?」

舞ながら聞くが、

「至急のご用事ですので…」

否という答えなのだろう。

「わかったわ」

貂蝉ちょうせんは舞をやめ、養父の部屋に向かった。


「お養父様、貂蝉ちょうせんが参りました」

「おお、貂蝉ちょうせん参ったか」

養父の様子が少し変だ。

いつもなら稽古中の時刻に呼び出したりしない。

貂蝉ちょうせん、そなた、董卓とうたくの横暴を知っておろう?」

「はい」

董卓とうたくは全権を欲しいままとし、残虐の数々を平気でやっている。

それは中国全土の者が知っている。五つの子供でも知っているだろう。

董卓とうたく暗殺を企てたが、呂布りょふに邪魔される」

「そう…ですね」

呂布りょふは中国最強を誇る武将。

暗殺者を放ったといえど最強に勝てるはずもない。

貂蝉ちょうせん、―――すまない」

嗚呼。

私と曹操そうそう様の婚儀は無に消えている。

王允 (おういん)の一言で貂蝉ちょうせんは己の運命を悟った。

貂蝉ちょうせん、これは私の最後の策だ。そなたを董卓とうたく呂布りょふの間で舞わせ、二人の仲を引き裂く!連環れんかんけいだ」

貂蝉はその場に跪き、言い放った。

「承りました!この貂蝉、お養父様のためあらば命を惜しみませぬ!!」

「貂蝉……有難う」

今の言葉の中にある貂蝉の悲しみを悟った王允は改めて、乱世を、董卓を、呂布を憎み、己の無力を嘆いた。


次の日。

貂蝉は舞っていた。

かつての美しさ、清らかさはその舞になかった。

そこに在るのは。

幼いながらの色香、艶やかさ。

そして、かつての貂蝉には持っていない。

妖艶な動き。

貂蝉は貂蝉ではない。

かつての貂蝉は昨日、連環の計で死んだ。

今の貂蝉は。

董卓、呂布という名の大悪党を色香で惑わせ狂わせて殺す、国を滅ぼす傾国という名の貂蝉であった。


刻が来た。王允の策、美女連環の計の始まり。

王允の采配は見事であった。

呂布を持て成し、貂蝉を引き会わせる。

「初めまして、貂蝉と申し上げます」

貂蝉は呂布に美しい舞を披露し、気に入られ、結婚の約束をした。


「ここまでは上手くいきましたね、お養父様」

呂布の帰りを見送った後の貂蝉の言葉。

氷のように冷たく、感情が感じられない。

「だが、ここからが肝心だぞ、貂蝉」

「はい」

王允は目を瞑る。

我が娘が痛々しくて見ていられなかった。

本当は、このような策の犠牲になってほしくなかった。

本当は、傾国になぞ堕としたくなかった。

本当は、幸せになってほしかった。

だが、

もう、後戻りは出来ない。

誰もが乱世の運命には逆らえない。

王允は拳を握る。

おそらく、自分は死ぬだろう。

死ぬことは、覚悟していた。

しかし、

娘を巻き込む気などなかった。

幸せにしてやりたかった。

王允の願いも思いも何もかも貂蝉に届く前に乱世の闇に呑まれていった。


後日。

貂蝉は舞っていた。

董卓の前で淫らな舞を―――舞っていた。

彼女は舞う。

乱世を倒す舞を。

貂蝉は舞う。

心の奥底に秘めた想いを消すかのように。

傾国は舞う。

乱世という名の闇に咲く、大華であらんがために。


貂蝉はすぐ董卓に気に入られ、側室として迎えられた。



(ようやく、お養父様の悲願を叶えるため、ここまできた。あとはこの男を私の虜に―――)

「貂蝉、早くこい!!」

董卓が寝台に座り、その寝台を叩く。

「震えておるか。初心よのう」

「董卓様、どうかやさしくしてくださいませ」

心を殺した貂蝉が儚げに言った。

そして、董卓にそっと体を寄せる。

「うむ、ならばうんとやさしくしてやろう。さぁ、おいで貂蝉」

今、私は獣に抱かれる。

貂蝉は目を閉じる。

貂蝉の心は泣いていた。

悲しい運命の前に―――泣いていた。

だが、その内で傾国・貂蝉は嗤った。

この涙が氷となり、やがて董卓の身を貫く凶刃になるのだ、と。


朝。

目を覚ますと董卓はいない。

よいしょ、と起き上がる。

沐浴をし、着替え、朝食を摂ろうとすると、一人の女人が急に貂蝉の部屋を訪れた。

「一緒によろしい?」

「え、ええ」

女は貂蝉の向かいの席に座る。

平然とした動作に貂蝉は警戒した。

「王允様から話は聞いているから警戒しなくていいわ」

養父のことを知っているということは、董卓を快く思っていない者の一人のようだ。

「あなたは?」

女はにっこり笑う。

「蔡淡、字は文姫。ここで女官長、並びに帝の教育係をやっているの。詳しいことは食事の後にして。大きな声では言えないこともやっているから」

「貂蝉よ。私も同じ大きな声では言えない役目を負っているの」

フフフっと怪しげに笑いながら朝食を済ませた。


「そう、王允様も随分切羽詰まっているのね。まさか、あなたを中心に二人を仲違いさせるなんて」

文姫の部屋が一番安全だというので色々と話していた。

「昨日、董卓と呂布の仲に亀裂が生じたって、お養父様が知らせてきた。あと一歩だって。それにしてもあなたもすごいわね。後宮の情報を曹操様や反董卓の者たちに伝えるなんて」

「董卓の隙をついて帝を逃がそうと思うの」

可愛い顔してすごいことを言う。

「呂布はね、武力はすごいけど頭は空っぽ。董卓は頭は良くもなく、悪くもなく。武力は……見れば分かるでしょ?」

これまた、ニコニコしながらとんでもないことを言う。

貂蝉は苦笑いで反応する。

董卓はものすごい巨体。

『巨体』という響きはいいが、はっきり言ってデブ。

自分で椅子から立てないという逸話がある。

武力なんてあったもんじゃない。

(曹操様)

もう一度、得られた幸せを思い出す。

分かっていること。

私は、国を滅ぼす傾国。

今の私は、董卓、呂布を狂わせ殺す、闇の使者。


貂蝉は舞っていた。

美しい舞を舞っていた。

その舞を見ていた者が三人いた。

文姫、董卓、呂布。

文姫は自室でその舞を悲しげに見ていた。

董卓は邸の影でその舞を好色そうに見ていた。

呂布は木の影でその舞を心配そうに見ていた。

「貂蝉!貂蝉!!」

呂布が貂蝉の名を呼ぶが貂蝉は答えない。

呂布は貂蝉に近付き触れようとするが…。

「呂布!!儂の貂蝉に何をしたっ!!?」

分が悪いと悟った呂布は一目散に逃げた。

これで董卓と呂布の亀裂は決定的なものとなった。


「これが傾国」

自室で一部始終を見ていた文姫は呟いた。

貂蝉は舞っていただけだ。

それだけなのに董卓と呂布を血迷わせ、簡単に仲違いさせてしまっている。

董卓と呂布は自滅していくだろう。

それは、ある意味では宿命。

しかし、

傾国・貂蝉の宿命は、二人を滅ぼした後の運命は誰も知らない。

彼女の貂蝉の運命はどうなるのでしょう?

傾国となるのか、それとも――――――。

次話もお楽しみください。

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