来たる!コスプレイヤー 中編
前の話からの続きですが、説明が長いですね……。
今後は出来る限り短いスパンで投稿していきます。
※'15/05/28 一部会話文の閉じ括弧前に句読点を書いてましたので、除去致しました。
レイトと名乗る日本人らしからぬ人物を私は静かに見つめている。
文字通り、跪いている状態の彼に私は協力するよと答えたが反応が返ってこない。なにか答え方が間違ってたのだろうか?
そんな風に内心焦り始めた私の目の前の彼は、よくよく見れば肩を震わしていた。
どうやら私の答え方があんまりだったために、怒りに震えているのだろう。もしくは可笑しくて笑いを堪えているのか、どちらかだろう。私の出した答えは感動に打ちひしがれるほどではないはず。
「くくく……」
笑うのを必死に我慢してる。
ふむ。なるほど。分からん。
一体何が可笑しかったのだろう。
私は物語という名前の静かな湖に『小石を投げ入れましょうか?』と提案しただけなのに。今の例えは我ながら詩人になった気分でニヤニヤしてしまいそうだけれど。
「ふふ……。賢者は手に入った……これでアレも……」
なんだろう。心の声が漏れ出てる気がするなー。
何か企ててるみたいだね。このコスプレイヤー。
「何を考えてるのかは知りませんけど、具体的に何を協力すればいいんですか? 国を持ち治させる方法?」
「え? あ、あぁ。そうですね。父の目指した強力な力を持つ、そして誰しもが平和に幸せな生活を送れる国に変えてもらうことです。そのためにも、すぐにでも帝国へと戻りましょう。賢者様、私の手をお握り下さい。帰還呪文で飛びます」
帰還呪文。飛ぶ。あー、麗しき響き。いいな、いいなぁー。
魔法で一気に場所を移動。ファンタジーって素敵。
「さぁ! 私の手をお握り下さい!」
素敵だとは思う。大好物だけれど、現実的に考えて魔法なんて存在しない。情熱的に考えるなら存在して欲しい。妄想的に考えれば、既に何度も使いまくってるんだから考える必要がない。
とりあえず握らないと話が進みそうにないから素直に握っておこう。
――むぎゅ
ふむ。なるほど。
ひんやりして気持ちのいい手ですね。コスプレイヤーさん。
なんだろう。この吸いつくような肌。潤いか?
私の手には潤いが足りてないということなのか?
それに、なんだこのキメの細かさは!
若さか?
私だってまだ若いつもりだ。ピチピチのティーンかと言われたら違うけれど、アラウンドトゥエンティー。アラトゥーなのだから!
ちょっとだけ鼻息が荒くなってきちゃった。
無意識に握った手をモミモミしちゃってるからコスプレイヤーさんがキョトンとしてる。自重しなさい私。
ま、まぁ、見た目が日本人離れしてるから判断しにくいけど、私とそんなに歳は変わらないでしょう。
「あ、あなた何歳ですか?」
声が少しだけ裏返ってしまった。恥ずかしい。死にたい。
「はぁ、私は十七歳ですが、なにか問題があったのでしょうか? それから私のことはレイトとお呼び下さい。賢者様」
ふむ。なるほど。分からん。
たった二歳若いってだけで、こんなにも肌に違いが出るなんて。
今日からスキンケアをちゃんとしよう。
「いえ、ただ気になっただけなので気にしないで下さい。レイト、さん?」
「呼び捨てて頂いて大丈夫ですので。と、そろそろ帰還呪文を唱えても宜しいでしょうか?」
呪文詠唱タイムが遂に始まるのね。
私はレイト(コスプレイヤー)に頷きを返した。
「……」
「……(ゴクリ)」
生唾を飲み込む音が意外と大きかった。
それにしても呪文は?
「…………」
これはアレだ。呪文とか詠唱とかいらない。無詠唱という特殊技能だろう。
「これは無理ですね」
あっさりと無理宣言頂きました。素晴らしい。私の生きる世界には魔法が存在しないことが証明されました。泣けてくるわ。
せっかくの『物語』も魔法による世界転移が出来ないのでは救いようがないよ?
「詠唱しなければ駄目なのでしょうか?」
それを『ただの』現地人である私に振るのは無理難題じゃないかな?
でも現在出ている情報で妄想すると、魔法が使えない。魔力自体は感じられる。魔法の発動を邪魔してるのはなんだろう……。私の持っている魔法に対する漠然としたイメージは世界の理を欺く物。想像した現象を現実に反映させる物。夢を叶える物。そんなファンタジー小説御用達のイメージしかない。コスプレイヤーのレイト君はどうなんだろう?
「詠唱がいるかどうかは私には分からないですね。少し確認なんですけど、レイト君の魔法のイメージというか……。魔法って何?」
どう聞いたらいいのか分からなくて、質問がアバウトになっちゃった。
「はい?」
「えーと、私が知っている魔法の『定義』とレイト君の知っている『定義』では違いがあるかもと思いまして」
「なるほど! 私の国での魔法とは『そこにある情報体を変化させる力』を指しています」
「フォルティアとは何ですか?」
「そうですね……。例えば、今現在の私の手には何もありません」
レイト君が手で何かを掬うようにしているけれど、言われたように何も掬ってはいない。
「この『何も持っていない』という世界を形作っている『情報』の塊。これの事を情報体と呼んでいます」
服装が貴族っぽいから科学技術とかが発達してないかと思いきや、難しいことを平然と言ってのける。私、頭が痛くなってきたよ。
それに発音は分かるのに文字がさっぱり分からない。ファルナにフォルティア? 何それ?
「情報体を言霊や精霊の力を借りて改変し、『水を掬っている』という情報体へ変える。これが魔法であるとされています」
そこはスピリチュアルになるんだ。
ふむ。なるほど。分からん。
発達してるのかしてないのか……。
「うーん、私が知っている魔法と似てるのかな……」
ほんの少しだけ過程の話が加わっただけで、根本的にはあまりやってることに違いがないように感じる。
ということは現状では魔法が効果を表すことはない。
この『物語』面白いなー。
魔法なんてないと分かってるはずなのに、話してると魔法はある気がしてくる。
いつもは一人で本を読んで、妄想の世界で色々な経験をしてきた。
今回は人の妄想世界に居場所を作ってもらって、ロールプレイに徹してみるのも楽しいかも知れない。
「その帰還呪文は指定の時間に帰ることが出来る魔法ですか? そうなら別に今すぐ発動させる必要はないんじゃないかと思いますが……」
「禁呪については世界中で脈々と研究が行われて来ましたが、未だに呪文と結果くらいしか分かっていないのです。また禁呪と呼ばれるだけの代償があるのが特徴なのですが、その中でも勇者召喚は詠唱者の命を……。一部の研究者のみならず一般階級の人々からさえも『悪魔と契約する魔法』という認識なのです。絶大なる力を手に入れる代わりに理性を失う、永久の命を得て自分の身体を失う、異世界から勇者を呼ぶために命を失ったりするのです。そんな魔法なので勇者を召喚されるまでは効果が持続するとは思いますが、時間が経つにつれて私の精神体がコチラの世界と強く結びついてしまうと帰れなくなるかも知れません。急ぐに越したことはないと思われます」
なるほどね。察するにレイト君のお父さんはノルド・デボアっていう勇者を呼ぶ魔法を詠唱して既に他界されている可能性が高いわけだね。
そして、王の不在が長引けば、異変に気付いた誰かが王位を簒奪してしまう恐れがある。
さらにレイト君がコチラに長居すれば向こうの世界との紐が切れてしまって戻れなくなると。
でも魔法が効力を発揮しない。
なんとなく分かったけどお姉さんには対処のしようがないよ?
――ぐるるるるるぅ〜
レイト君。もしかしてだけど、お腹減ってるから力が出ないとか言わないよね……。