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Prologue

初めての投稿になります。おそらく遅筆なのですが精一杯書いていきますので、これからよろしくお願いします。

 今日は一日中雨が降るらしい。

 私としては雨が降ってる日の方が好きだけど、お店としてはダメダメだと思う。

 なぜなら、雨の日はあまり客が来ないから妄想してても大丈夫だから。でもお店としては売り上げが無くなってしまう。

 とは言っても私はただの書店員なので経営的なことは分からないことにしておきたい。


「今日中に読み終わっちゃうかもねー。愛されたい系女子の憂鬱……」


 淡々と十九年生きてきて一度も『彼氏』と定義される人に出会ったことがない。

 所謂いわゆる、衝動買いで買ってしまった本だけど、なんてストレートなタイトルだろう。

 そんなこんなで客が来ないからという理由で私は読書に没頭した。


「どこかにこんな私でも愛してくれる人いないかしら……」


 この本のヒロインは今の私と同じ悩みを持っていながら、現状を変えるためには自分を変えなきゃと頑張ってる。でも、なかなか上手く自分を変えられなくて葛藤してる。

 こんな物語を追体験しておきながらも最初の一歩さえ踏み出せない。そう、これが現実。

 そんなことが出来るのなら今頃私は素敵な生活を送っていたと思う。素敵な生活がどんなものかも物語を追体験して漠然と妄想してる。


「どこかに私と一緒にファンタジー小説を黙々と読んで妄想の世界へ行ってくれる人いないかしら……」

「そんな奇特な人間はあまりいないだろうね」


 物語を追体験し脳が活性化している中での妄想。この私の中で至福の時間を遮ったれ者がいる。


「店長。お帰りなさい」

「あんたは理想が高すぎるんだよ。世間の言う理想とはかけ離れてるけれどね」

「今日はお客さん来ないと思うので上がってもいいですか?」

「そもそもだね。あんたは衣食住を捨てて本だけを選んじまった。だから無理なんだよ。彼氏を作ろうなんてね」

「この本たち買って帰ります」

「万が一にも気の合う男が居たとしてもそいつも衣食住を捨ててるようなやつなのさ。お互い一人ならギリギリ生きていけるって状態なのに、そんなのが一緒になっちまうと絶対に死んでしまうと思うんだよね」

「明日はお昼から入りますので。お疲れ様でした」

「ちょいとお待ち。お客さんだよ」


 店長の言った通り店の入り口で棒立ち状態の人影が見えた。

 この書店は古く寂れた商店街の中腹にある。そのため、滅多なことがない限り新規のお客さんなんて来ない。だからこそ、この書店を選んで私は働いている。

 そんな商店街の店だから自動ドアなんて文明の利器がある訳もない。なのに一向に入ってくる気配がない。それに何やらブツブツと引き戸に対して話している気がする。


「店長。私は上がったので面倒くさそうな客は相手にしたくありません」


 暗い店内からでは逆光のせいで人相までは判断がつかない。シルエットを見た限りでは高身長でスラッしている。

 それにしても先程から引き戸に対して話しかけるだけではなく身振り手振りまで入り始めた。


「……開けゴマ。……開門。……我を通したまえ」


 身振り手振りに対してセリフをあててみたのだが、なかなかいい感じだ。


「あんた、開けておやりね。あたしゃ夕飯の支度があるからね」

「ちょ! 店長!」


 私が先に逃げようとしてたのに、やられた。


「あー、お客さん、コレ引き戸だから」


 仕方ないから引き戸の開け方を実演してあげた私。こんなに素敵な行動が起こせるのだから少しくらいモテてもいいと思う。


「なるほど! なにか未知の結界術でも使われているのかと思い始めた所であった」


 なんだろう。私の耳に素敵な言葉が聞こえた気がする。


「お美しい方の手をわずらわせてしまい申し訳ないのですが、ここは書物がたくさんありますね? ここならば賢者と呼ばれる者が居ると思ったのです。ご存知ありませんか?」


 書物。賢者。

 この人は妄想力が高過ぎる。私なんてまだまだ修行が足りないな。

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