三話 新たなるスタート
翌日の早朝、凪はこんな状態だったが、毎日の日課をしっかりとこなしていた。凪が最後まで稽古を終えると、いつから見ていたのか、凪の視界には翼がいた。
「これが君の強さの秘訣なのかい?出発前にありったけの金属を集めとかないと、戦えないからね。ここら辺に金属ってないかい?」
「金属ならここら辺の地面に埋まってるって聞いたけど、俺はあんまり知らないなぁ?」
事実上、凪と金属は、無縁だった訳である。しかしこの山が元は鉱山だったと、父から聞いていた凪だった。
「それなら、ここで錬金術をしてしまえばいいから問題はないさ。ありがとう。」
と言って地面に座り込んでしまった。翼に気を使って、凪は家の中に戻った。部屋の中には慎吾がいた。
「もう起きていたのか。出発に備えて持ち物の準備しておけよ?」
「遠足に行くわけでもあるまいし、俺は、この鞭だけあれば何とかなる…」
「予備も用意しておけ、出来れば殺傷能力のあるものを装備してもらいたいんだが…」
慎吾は鞭を見て、凪の言うことを聞いたのか、
「ちょっと調達に行ってくる。早めに戻るから待っててくれ。」
「あぁ。10時には出発するからそれまでに戻ってこい。」
8時半過ぎ、翼は部屋に戻ってきた。お目当ての金属も、背中に背負っているバックの中に入っていた。しばらくすると、慎吾も戻ってきた。あまりにも心配だったため、凪が持ち物を見たが、特に問題はなかった。そして10時。
「それじゃあ行くか。女子三人は絶対にここを出るなよ。学校も昨日の騒ぎで休校だそうだ。くれぐれも注意して行動しろよ。」
「言われなくても、あたしは大丈夫だから!むしろあんた達が注意すべきなんじゃないの?」
「そうだな。特にこいつが危なっかしい。」
凪は、慎吾の肩を叩きながら言った。慎吾は、顔を濁らせたが、気持ちを切り替えたのかなんなのかため息をついて、いつもの顔に戻し、何やら考えはじめた。そして、
「て言うかさ、どこ行くんだよ?戦力の強化とか言ってたけど宛があるのか??」
「俺は物事を考えてから行動に移すタイプだ。今から二時間で、90kmくらい移動して、魔術と、武術の境界に向かう。このまちは割りと全体の中心に近いから移動が楽でいいな!」
慎吾と翼は、顔を見合わせて、
「……」
女子三人は他人事のような顔で(他人事だが)二人を嘲笑った。
「二人共どうしたんだ?その絶望的顔は??具合でも悪いのか??」
「凪さん。僕は身体能力が優れている種ではないので、ここで擬似的な自動車を作って移動したいんですが…」
「構わないさ。俺は走った方が速いからな。」
「なぁ、凪?この際だから俺もお前も乗せてって貰おうぜ?な?」
凪はしばらく考えて込んで口を動かした。
「そうだな。無駄な体力を消耗する必要はないからな。翼?三人乗りのそこそこのやつ作れるか?」
「そうですねぇ…そもそも二時間で90kmは少し無理があるんじゃないでしょうか?」
「仕方ないか…翼?自動車とかの座席を二人分作ってくれ。出来るだけ軽く、ちゃんと座席から離れないようにしろよ?」
「分かりました。すぐ作ります。」
そう言って翼は、外に出た。外に出ると翼は、地面に鉄を置いた。そして、その鉄を手のひらの錬金術師の印である紋章に合わせた。数秒間そのままでいると、鉄が光だしみるみる巨大化しながら形を変えた。
「これで完成です。これをどうするんですか?」
「ん?お前達二人がここに座るんだよ。それを俺が引っ張っていく。」
「おいおい凪よぉ。タイヤも無いものをどうやって引っ張ってくんだよ?そう言えば翼?錬金術ってよく分からないんだが…」
「慎吾。二人に同時に質問するものじゃないぞ?どっちが答えればいいか分からない。タイヤなんていらない。俺に任せろ。あと俺も錬金術に関しては知識0だからな。俺も知りたい。」
翼はあくまでも冷静に淡々と言った。
「この時代の錬金術はよく知られる錬金術とは全くの別物なんですよ。昔の錬金術は、金以外の金属を金にしてしまおうと言う、目的の錬金術でした。ですが、錬金術の文明人の手にはあらゆる物質を変換することのできる紋章が芽生えたんです。僕は、ある程度の金属をあらゆる大きさ形に変えれるレベルです。変換までは、まだ出来ません。簡単に言えばこういうことです。分かりました?」
案の定、凪は「成る程!」って感じの顔。慎吾は「さっぱり?」って感じの顔をしていた。
「なかなか錬金術に興味が湧いた。今度もっと詳しく見せてくれ。さて、雑談はこのくらいにして、二人は座れ。もう行くぞ!」
慎吾と翼は座席に座った。凪は鉄を持とうとしたが、取っ手がなくてどうしようか悩んだあげく、握力で金属に穴を開けた。慎吾と翼は、凪の化け物染みた強さにまた驚かされた、次の瞬間、凪は普通に走り出して崖を飛び下りた、二人ごと。
「な、凪ぃちょ、ちょっとか、風の抵抗がぁ。」
そのまま凪は、自動車よりも3倍速いんじゃないか!と思わせる速度で、目的地に向かった。
目的地、それは湖の中にあった。凪は、あまりの速さと風の抵抗の影響で、軽く逝っていた二人を担いで湖の中心まで歩いた。中心までいくと、凪の体は自然に沈んでいった。そして、湖の中にある、家にたどりついた。そこには一人の子供?がいた。
「ここに来るのは久し振りだな。元気にやってるか?弟よ。」
「兄さんこそ何の用ですか?あぁ僕は元気にやっていますがね。」
「簡単な話だ。真の敵からこの国を守る為に魔術の内政に釘を刺す。何かいい案はないのか?」
そこで慎吾が起きた。
「ぅ、うーん…ってここどこ?」
「!気がついたか。心配したぞ、ここは俺の弟の家だ。」
「どうもです。僕は藍澤那日です。」
「ん。あぁ、俺は慎吾。東城慎吾だ!」
「東城とは、山波流のでしょうか?」
「知ってんのか?嬉しいぜ!凪は知らなかったんだろ?」
「何をいっている。俺は最初から知っていた。だからあの時お前を頼った。」
「兄さん。東城さんの話をしている暇がない状況下にいるんですよ?自覚してくださいね。」
「そうだな。だが、その間に何か思い付いたか?有効な時間で何を見いだした?」
那日は、少し考え仮定と結論をだした。
「仮定と結論どちらからお聞きしますか?兄さんは結論ですよね?」
凪は、頷いた。
「結論、それをすると魔術師は全くの機能を停止する。次の戦争が起こせるようになるのには10年はかかるでしょう。仮定は、魔術師の中枢の人間が集まっているソウル・タワーはご存知ですよね?あのタワーの中には政府軍事機密事項で魔術師にエネルギーを供給できる装置があります。その装置の機能は、魔法によるエネルギー消費を9割カットする機能が備わっています。その装置は、」
「もういい。その装置を二度と使えないように壊してこいってことだろ?単純で分かりやすい。」
「はい。それではお願いします。僕はここから情報の提供を行いますので、九佐瑠さんのとこに行って来てください。」
「さすがは弟、ってところだな。それじゃあ行ってくる。慎吾、行くぞ。」
「もう行くのか?翼は俺がつれてくわ。それじゃあ弟君またな!」
次なる場所にたどり着いたのは、12時頃だった。
「凪よ?何だかんだでまだ二時間しかたっていないとは…俺驚きです!翼はまだ戻ってこないしな。」
「お喋りはこのくらいにしてくれ。ここからは、危険だ。」
翼をおんぶしている慎吾は、警戒の目を光らせた。
「九佐瑠さん?部下に攻撃を止めさせてください。俺、加減と言う言葉を知らなくてぇ!」
凪が口を閉じようとした瞬間、忍者のような衣装をしたやつが、クナイを持って上から降ってきた。凪は、何の躊躇いもなくそいつの攻撃をそのまま地面に受け流しつつ、地面に叩きつけた。しかし、その間に忍者の集団に囲まれた。凪は、攻撃しようとして前に出ようとしたが、肩を叩かれた。
「凪さん、僕がやりましょう。長時間走ってお疲れでしょう?」
そう言って起きた翼は、手を上に挙げて、紋章に強く力を込めた。すると目の前には、大蛇が出現した。
「翼、これはいったい…?」
「召喚獣だよ。いつも僕がやってるのとは、スケールが違うけどね。 」
翼が召喚した、大蛇は図体だけでなく、忍者を蹴散らしてしまうほどの強さだった。しかし、新たにやって来た一人の忍者に、切り刻まれた。
「悪い悪い。こちらの手違いだ。すまないな、凪。」
「いえ、ただ俺は加減が出来ないもので…まぁ今が加減の限界なだけですがね。九佐瑠さん。実は相談があってですね。」
凪は現在の状態の説明と、してもらいたいことを言った。
「いいよ?さっきのお詫びでた!んであたしらは、入り口と侵入口と退路を作るのか…それくらいなら、あたしらに任せれば安心さ!」
「ではよろしく頼む。時間も余っているから人話、」
突然凪の携帯が鳴った。
「兄さん!兄さんの行動が一部の魔術師にばれた!じきにそいつらがそこに行く!気をつけろ!!」
魔術のやつらに襲われてからまだ一日しかたっていないが昨日より今日の方が疲れる。凪はそう思った。