二話 はじまりの宣戦布告Ⅱ
凪達は、取り合えず凪の自宅を目指して歩いていた。やがて山のふもとまでやって来た。
「この崖の上が俺の家だ。?心配しなくても、崖の間を間には山道が通っているから、万が一落ちても何とかなる。」
五人はしばらく歩いたからか、精神状態は割りと安定していた。慎吾に関しては平常心だったため、凪の問題発言にツッコミをいれた。
「なぁ凪…万が一落ちるって、この道を通って行くんだよな?なら落ちる心配なんてないんじゃないのか?まさかとは思うがこの崖を登るのか?」
しばらく沈黙が続いた。凪は慎吾が何を言っているのかよくわかっていなかったからだ。沈黙を破ったのは凪でも、慎吾でもなかった。
「あの…私もう大丈夫だから、下ろしてくれていいよ。凪君、ありがと!」
「?あぁ。そうだな、大丈夫なら下ろすか。翼も大丈夫か?」
「僕も大丈夫です。グロいの苦手なんですよ、僕。慎吾さん、ありがとうございます。この仮は返します。」
慎吾は翼を下ろして、にっこり笑った。慎吾のツッコミで元気になったのか、泉も凪にツッコミをいれた。
「凪さーん?さりげなく話流してない?えっとー…こっち…だよね?」
泉は凪の顔を不安気に見ながら目の前の山道をさした。
しかし凪は泉…いや、五人の期待を裏切る答えを出した。
「??何を言っている?こっちだが??」
凪は何のためらいもなく崖をさした。五人共、呆気にとられたが、しばらく考え込んだ翼が凪に指摘した。
「ここを登るとなると、山道を通るのとあまり変わらない気がするのですが…?あと、金属がなければ僕は登れません。」
翼の指摘に四人は首を動かして頷いたが、凪はまたしても五人を驚かせる答えを返した。
「翼?この山を普通に登ると、二時間近くかかってしまうんだ。もう一つ、この崖を登るんじゃない、走るんだ。」
五人は再び沈黙した。今度の沈黙を破ったのは凪だった。
「慎吾、お前の身体能力的にはいけると思うぞ?やってみろ。他の四人は俺が担いでいく。」
慎吾は苦笑いしながら小さくうなずいて、助走をとった。四人はマジでやるのかよ!と内心で考えていた。
「んじゃぁ、いくぜ!万が一落ちたら助けろよ?」
慎吾は崖に向かっておもいっきり走り出した。が、しかし慎吾は崖を走るどころか、どう血迷ったのか、崖に激突した。
再び気絶した慎吾を含め、凪は五人を全身に巻き付け、崖を飛び越えた。凪は超人てきな脚力で、崖を走るどころか、崖を一段ずつ飛び越えた。五人を体に巻き付けて尚、そこまでの底無しの力に五人は驚いたのと同時にだんだん慣れてきた感覚があった。
「んで、さっきの連中は何だったんだ?気付いたら凪に右の奴等をやれー!とか、凪は数名マジで殺してるかもだし…」
凪の家の畳の部屋で話合いははじまった。
「最初から整理を兼ねて説明会しよう。まずお前が気を失ってからすぐに、路上に魔術師が現れた。アルファとか言うやつは路上で爆発を起こし、あのファミレスの周辺の占拠をはじめた。理由は、魔術師は、錬金術にも武術にも勝る種であり、それを証明するために再び戦争を起こそうとした。手始めにあのまちを手中に収めるつもりだったんだろう。このまちは、元は武術のまちだからな…まずは武術に宣戦布告をしたわけだ。しかし、魔力の供給源にするはずであった場所、それどころか供給源になる魔術師ですら再起不能の状態にされたアルファは、やむなく徹底ってところか…?」
慎吾は納得したのか、していないのか分からないが、魔術師が襲ってきてケンカを売ってきたことくらいは理解した。
「凪さん。もう宣戦布告はすんでいるんですよね?ならいつ仕掛けてきてもおかしくないですよね?もう戦争は避けられないのでしょうか??」
翼は、焦り混じりで問いかけた。
「…戦争はさせない、絶対にだ!俺は弟に協力を仰ぎたいんだが、お前達はどうしてる?魔術はいつ仕掛けてくるか分からない。明日仕掛けてくるかもしれない。俺はその前に手を打ちたい。」
凪は、魔術の人間である泉と理沙を見た。泉は理沙の顔を伺って答えた。
「凪は、あたし達がどうするのか一番聞きたいんだよね?魔術の人間はどうするのか…」
「悪いが、俺は魔術と敵対する。もしかしたら泉や理沙の親戚…いや家族と一戦交える可能性もある…。」
今日何度目か分からない沈黙が続いた。前よりもずっと長く。見るに見かねたのか慎吾が口を開いた。
「凪…俺はお前に協力する。もしかしたら死ぬかもしれない戦いだけど、俺はお前についていく。それに魔術師の野郎に武術の強さを見せつけてやりたいしな!!だから…」
凪は慎吾と目を合わせて「本気だな?」と言ったが、慎吾は無言で凪を見続けた。
「よし、分かった。頼りにさせてもらう。」
すると、ずっと口を開らこうとしていた翼も口を開いた。
「僕も…行く。ここで止めなければ、僕達のサイドにも影響がでる。サポートは任せろ。」
凪は、無言で頷き、再び泉と理沙を見た。
「あたしは…あたしは、ここに残る。魔術の味方にもならない。まだあたしの力じゃ足を引っ張るだけだから…次何かあった時に備えて女子三人で特訓するよ!ね!?いいでしょ?理沙、マリ…」
二人は顔を見合わせて微かに笑って静かに頷いた。
「それじゃあ決まりだ。ここで話しておくことにする。このことを知っているのは、世界で、数えられるくらいだ。しかもその事を武術、魔術、錬金術の文明の長は知らない。このことは他言無用だ。理由はまた今度話すが、いいか?」
五人の顔が真剣であることを確認して、凪は話しはじめた。
「この世界は、一つの文明だったころ敵は外にいた。この世界の海の向こうに。その敵は今も存在する。その敵は、この世界に能力が生まれる以前に、圧倒てきな力で俺達の先祖をくだしている。だが俺達の先祖は必死の反撃の末、この世界と敵との間に結界を張った。敵は、それ以降は攻撃してこなくなった。だが、やつらがいつまたやって来るかは分からない。結界ももう破壊出来るほどに弱まっている。だから、再び戦争を起こした時にはもうこの世界は奴等の襲撃にあって滅びる。」
またしても、理解が出来ていない慎吾は凪に問いかけた。
「なんでそんなことをみんな忘れているんだよ??」
「結界が張られて間もなく、500年の戦争が起きた。消されたんだ…その記憶は。そのために俺がいる。藍澤がいる。敵は三ヶ所からしかやってこれない。そこをいざというときに守る役目を持っているのが藍澤だ。武術の領域の侵入エリアは俺が守る。俺が戦っている間に反撃の体制をたてることが出来れば、そんなに怖くはない。だが、このタイミングで戦争が起きたと知れば、絶対奴等はやってくる。だから戦争は起こすわけには行かない。」
六人は再び沈黙した。そして、またしても慎吾が発言した。
「でも、お前が動いちまったらそこはどうするんだ?」
「言っただろ?その事を知っているのは、他にもいることを。実は俺よりも侵入エリアの近くいるやつがいるんだ。そいつにしばらく目を光らせて貰う。戦争が起きたら、俺達も侵入エリアに構ってられなくなる。だからその前に、出来るだけ小さくおさめる。質問は?」
慎吾は笑顔で言った。
「ない!やってやるぅ!!」
「それじゃあ俺、慎吾、翼、後三人集めて作戦会議といこうか。女子三人は、しばらくここにいろ。その方が安全だ。じゃあ、慎吾!翼!明日は、戦力の補強。明後日は作戦会議。その次は…殴り込みだ!!」
「オイオイ!凪よぉ、武術の人間に協力を仰がないのか?」
「慎吾さん。それでは戦争になります。」
「慎吾。先に言っておくがこれは俺達が魔術に対しての宣戦布告だ!!」
六人でしばらくの雑談をし、夜になり、長い一日が終わりを向かえた。これからの一日はもっと長くなるだろう、そう凪は思った。