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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

弱さと罪

作者:

その時、潰れたカエルの内蔵が飛び出る感触を、僕はお尻の下に感じた。

ユウ坊に殴られた頬を摩り、下敷きにしてしまったカエルを優しくすくい上げる。申し訳ないなぁとか、僕は悪くないんだよとか、そんな事を考えながら、すくい上げたカエルの死骸を土の中に埋めてやる。

ユウ坊達はその様子を何を思って見てるんだろ? 何も言わないけど、今にもまた殴ってきそうなのは分かった。

「おい、お前が悪いんだ。お前が裏切ったんだ」

ユウ坊のその声には迫力が全く無かった。自分の言葉に自信を持てなかったのか、それとも僕がユウ坊を下に見ていたからなのか、それは分からなかったが、とにかくその声からは迫力という物を感じなかった。

それでもユウ坊は僕を殴る。突き出された拳は僕の顎を揺さぶり、目の前がグニャグニャ揺れる。

痛みと吐き気が許容を超えたとき、僕の膝は音を立てて崩れた。泥なのか自分の吐瀉物なのか分からない物体に顔が埋まる。僕はふと、あの潰してしまったカエルを思い出す。

ユウ坊達は帰ったようだ。僕はユウ坊を裏切ったんだよとつぶやいてみる。またふと潰れたカエルを思い出す。

あの時ユウ坊とユウ坊達のグループは、万引きをしたんだ。僕はまだ悪くない。そこに運悪く居合わせた僕は、ユウ坊から口止め料として盗品の雑誌の一つを貰う。僕はまだ悪くない? それでまた運悪く、僕は店の店員に見つかったんだ。怖くなった僕は受けとった雑誌を返して、ユウ坊達の名前と学校を言ってしまった。僕は悪くないのか? ふと潰れたカエルを思い出した。

僕は正しい事をした。ルールを破ったのはユウ坊達なんだ。だけど僕はユウ坊達を裏切った。半分強制とは言え、ユウ坊から雑誌を受けとった。なのに、僕は告げ口した。僕が悪い。

ふと潰れたカエルを思い出す。あの時は僕は悪くないと言い訳していたが、本当にそうだろうか? ルールを破ったのはユウ坊だ。だけど僕が裏切ったのも本当だ。

泥だかゲロだか分からない物体から顔を離した。ユウ坊の迫力の無い言葉を思い出す。さっきまで暖かかった僕は吐瀉物は、エントロピーの法則に従って、すっかりと冷えている。

お尻にはまだカエルを潰した時の感覚が残っている。ぎゅぷ、と形容し難い不思議な音を立ててカエルは潰れていた。ユウ坊がルールを守る人だったら、僕が約束を守る人だったら、このカエルは惨めな音を立てて潰れることも無かっただろう。

僕は弱かったんだ。だからカエルが死んだ。ユウ坊も弱かったんだ。だからカエルが死んで、声に迫力がなくなった。

近くに川がある。僕はそこに飛び込むつもりだ。体についた泥だかゲロだか分からない物体を洗い流し、お尻に染み付いたカエルの内臓を洗い流したかった。

洗いたかったんだ、汚れた体を。汚れた心を。ルールだとか怖いとか怖くないとか、そんな事でしか物事を判断出来なかった、醜く幼く仕方ない心を捨てて、強くなりたかったんだ。

泥を踏み、草を掻き分け、僕は川を目指す。空にはツバメが飛び交い、その後ろを覆っていた雲に隙間が生まれている。2日程続いた雨はどうやら上がるようだ。僕はまたふと潰れたカエルを思い出した。僕とユウ坊の弱さの犠牲となったあのカエルをだ。


END









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