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薄雲  作者: 山口ゆり
2000s
13/18

永遠

聡介&若菜(本編後)

今日は久しぶりに晴れて。

俺自体の休みも重なって。

彼女の休みでもあるというのに。

俺はいつも通りに起きて、彼女がいつものようにやってきて、朝ご飯を食べている間に彼女が溜まりに溜まった洗濯物を洗っては干している。

そんな2人の休日。



じっとその後ろ姿を眺める。

とても楽しそうに濡れたTシャツの皺を伸ばしては干している。


例えばこんなとき。

彼女は本当にそこにいてくれるのかと思って、思わず手を伸ばしたくなる。

触れたくなる。

彼女は子供の頃、俺があの鳥かごにいたときにただ眺めるだけしか出来なかったあの彼女のままで俺の前にいるから。


洗濯が終わって部屋の中に入ってきて、ダイニングのイスに腰掛けている俺と目が合うと嬉しそうに微笑んでくれる。

その彼女もまた、俺の記憶の中にいる彼女そのままで。

とても嬉しくて、同時に苦しいくらいに切なくなる。

俺は色々な人を傷つけてきたけれど、たぶんきっと彼女を1番傷つけているに違いないのに。

それでも彼女はいつでもあの頃のまま輝いていて。

こんな風にまるで母親のようにたゆみない愛を注いでくれる彼女に、俺は何が出来るのだろうか。

ただ、そばにいたい。

そばにいさせてほしい。


時に思う。

彼女は何故ずっとこんな俺を見守り、そして愛し続けてくれているのかと。

そしてそれを思うとき、無性に怖くなって、また彼女に会いたくて、会いたくて。


「若菜」


彼女が振り向く。

今度はこの間持って来たというベランダのハーブに水をやっていた。


「今日、どっかよそで飯、食おうか」

「え?どうしたの?」

「いや、休みのたびに俺のうちの掃除してるだけじゃ若菜、つまんないだろ?」

「そんなの気にしなくていいのに」


でも嬉しいな、と笑って見せてくれる。

本当はいつでもどこか外に行きたいのかもしれない。

でもいつでもこんな風に俺が言い出すのを待っててくれて。

それが分かるだけに少し歯がゆくもあり、そうさせたのは自分だと思うと情けなくなる。


「あっ」


彼女がベランダのさんで躓く。

俺は慌てて立ち上がって、前につんのめった彼女に手を差し出す。

ごめんね、と言いながら彼女はその上に小さな自分の手を乗せる。

起き上がらせるとどうしても抱きしめずにはいられない。


「聡介くん……甘えたさんだねー」


くすくすと笑う彼女を覗き込むと、俺の腕の中ですっかり体を預けている優しい顔がそこにある。

触れて、抱きしめて、そして初めてやっと安心している俺がいる。


そうなんだ。

俺、もうどうしようもないくらい若菜に依存している。

彼女が必要で、この腕から出したくない。

ずっと隣でそうして笑っていて。

そう思っているのに、俺の口からはずっとあの一言が言えなくて。

彼女がいてくれるなら生きてゆけると、心からそう思うのに。


自信がない。


その気持ちがこちらに真っ直ぐ向いているのに怖いんだ。

だけどこの気持ちを彼女に見せてしまうのも怖くて。

俺って本当にどうしようもない。



この間買ったソファに2人で座る。


「聡介くんは優しいね」

「え?」

「私のこといっつも見ててくれて、助けてくれるでしょ。さっき転んだとき、私にはやっぱり聡介くんが必要だなーって思っちゃった」


赤くなりながら話す彼女。

俺は相変わらず彼女を抱きしめた格好のままでそれを聞いていたけれど、結果的には彼女はもう、俺の小さなエゴなんて大きな心で包んでくれていた。

だから、今。

もう一度、君に伝えたい。


「……ねぇ若菜」

「ん?」

「結婚しようか」

「え……」

「俺にも若菜が必要なんだ。いつでもそうして俺のそばで笑ってて」

「聡介くん……」


頷いて。お願いだから。

自信も何にもないけれど、きっと一生君のために生きてゆくから。


彼女が泣いている。

おでこをくっつけて両頬を手で包む。


「いい?」

「うん……」


そうやって笑ってて。

若菜、君はその笑顔が一番綺麗だから。

2人、ソファの上で抱き合って。

このままずっといられたらいい。



このまま永遠に、彼女と一緒にいられたらそれでいい。

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