第三章 嫌な予感(桜木編)
「20年後にいく!?」
部屋の中で桜木は大声をだした。
「そう。あなたには20年後に言ってもらうわ。」
桜木は体を動かそうとした。しかしどうしても動かすことができない。
かろうじで眼球や指を少し動かせる程度だ。
桜木はほんの少し動かせる目で部屋の端にある時計をチラ見した。
時刻は22時30分。
このような状況になったのはちょうど10分くらい前のことだ。部活から帰り、近くのコンビニで弁当を買いに外出し、帰ってきて弁当をレンジで温め、さあ食べようっていう時にいきなり体が動かなくなった。俺の後ろに誰かいりようで、さっきから女の子の声が真後ろでする。
「体を動かそうとしても無駄だわ。」
桜木の動きを察したようだ。
「私達の時代には能力者がたくさんいるわ。」
「・・・なに言ってんだお前?」
「言葉の通りよ。」
桜木はふふっと笑った。こいつ馬鹿かもしれない。20年後だの能力だのただの気が狂ったバカとしか思えない。
「そんなのあるわけ、」
「でもあなたは現に体を動かせないわ。」
「・・・・」
確かにそうだった。さっきも述べたように、桜木は体全体を殆ど動かすことができなかった。
「2028年、」
少女は話はじめた。
「タイムマシンが完成したわ。作ったのはあなたも知ってる人かもしれないわ。」
「もしかして・・・。」
「そう、吉田誠よ。」
吉田誠。今朝のニュースにもでていた大学生だ。
「で、それがどうしたんだよ。」
「2028年のタイムマシンの開発以来、次元分野、つまり時空関係を扱う学問はめまぐるしく発展していったわ。」
少女は続ける。
「そして2033年、都市の中心に次元センターができた。」
「次元センター?」
「タイムマシンがある巨大な施設だと思ってくれればいいわ。」
「はあ・・・。」
「タイムマシンは厳重管理されているわ。」
「ちょっと待て。」
桜木は話を遮った。
「タイムマシンはそこにしかないのか?もっと量産すれないいじゃないか。」
「当初はそのつもりだったわ。」
「けどね。タイムマシンっていうのは思ったよりも危険なものなのよ。詳しいことは言わないけど。」
まあ、桜木にもなんとなくそれはわかる。昼間相川と話したタイムパラドックスとかも多分大いに関係しているのであろう。
「そしてもう一つ、予想外のことが起きたの。」
「予想外?」
「そう、それが、」
少女は少し間を置いて、
「能力者の出現よ。」
「能力者・・・ねえ・・・。」
「まあ、細かいことは向こうで聞くといいわ。」
正直桜木は目の前の出来事を未だに信じられずにいた。後ろで少女が話している内容も全く意味が分からない。
「それよりお前はなんなんだよ。」
後ろで少女がクスッと笑ったような気がした。
「私のことについて詳しく言うことはできないわ。ただ一つ言わせてもらう。」
後ろの少女は少し間を置いて、
「私はあなた達の敵ではないわ。」
「お前自分のしてることが分かってるのか・・・?」
「いい?」
少女は俺の話を無視して続ける。
「あなたはこれから大変なことに巻き込まれるわ。多分凄い苦労するだろうし、もしかしたらとても悲しむかもしれない。」
「お前何言って、」
「でも決して諦めないで。」
少女はとても真剣そうな口調だった。桜木には後ろにいる少女の顔を見ることはできなかったが、それでもなんとなく想像がついた。
でも桜木にはまだこの現実が受け入れられなかった。体を動かすことができない?能力?20年後?どういうことかさっぱり分からない。
「なあ、俺をどうするつもりだ?」
「何度も言うけど私はあなたを傷つけるつもりはないわ。ただあなたをには20年後にとんでもらう。」
「・・・20年後にいってどうするんだよ。」
「それはあなたが決めることよ。この世の命運はあなた達が握っていると言っても過言ではないわ。」
「はぁ・・・。」
桜木はため息をついた。
「そういえばさ、」
桜木はさっきから気になっていることを聞いてみることにした。
「さっきからお前『あなた達』って言ってるけど、俺以外にも20年後とやらに飛ばされる奴でもいるのか?」
「ええ、もう一人いるわ。既に20年後に飛んでもらってる。」
「誰だよ。」
「それはいうことはできない。」
「なんでだよ。」
「色々あるのよ。」
チッ。桜木は舌打ちした。こいつなんも詳しいことは教えてくれないじゃねえか。
「お前顔見せてくれないの?」
「無理よ。」
そうだと思った。まあ、期待はしてなかったけど。
「最後に一つ言っておくわ。」
何もかも勝手だな。
「これからあなたには20年後に飛んでもらうわ。そこに行ったらとにかく最初は逃げなさい。誰とも話しちゃだめ。いい?」
「お、おう・・・?」
「そして仲間を見つけるのよ。きっとあなたと一緒に戦ってくれる仲間が見つかるはずだわ。決して諦めないで。」
「お前は一緒に行かないのか?」
「私は一緒には行けないわ。まあ、でも向こうで会うかもしれないわね。」
「はあ・・・。」
こうなったらやけくそだ。
「じゃあ早く20年後とやらに連れっててもらいましょうかね!!」
桜木はおどけた調子で言った。
「言われなくてもそうするわ。」
「え・・・。」
目の前が突然真っ暗になった。
最後に「頑張って」っていう声が聞こえたような気がした。
目が覚めたら桜木は桜の木の下に寝っころがっていた。頭が痛い。少し吐き気がする。
「ここは・・・どこだ・・・?」
桜木は寝っころがったまま、頭の中で必死にさっきまでのことを思い出そうとした。
「えーと、変な少女に部屋で絡まれて・・・20年後に行けとか言われて・・・」
桜木はそこまで言うと、
「20年後!?」
桜木は勢いよく立ち上がった。ふらつくがなんとか立てそうだ。
周りを急いで見渡してみる。桜木は状況を整理しようとした。
「時間は夜になる前、日があと少しで沈むかっていうところだな。あとここは・・・東京かな・・・?。」
桜木が今いる桜は都市から少し離れた郊外に位置するようだ。遠くを見るとビル群が見える。そして目の前の桜の木は丘のような場所の上にあるようだ。ピクニックとかで家族が訪れそうな場所にある。
「それにしても凄いな・・・。」
桜木は遠くのビル群をもう一度見てそう言った。
夜前ということもあり、ビルの明かりがちらほらと目立ち始めている。
そして俺が知っている東京のビル群とは少し違う気がした。
まず、全体的にビルの高さが高い。全部東京タワーくらいあるんじゃないのか。そして何よりも目にくのが、ビルの形状だ。どのビルも先っぽに行くほど細くなるような形状をしている。俺の知ってるスカイツリーみたいな形状と言えばいいのだろうか。
近未来っぽいビル群といった感じだ。
そしてその中でも、特に目につくほど巨大なビルが1つあった。
高さはスカイツリーどころの比ではない。もっというと頂上が高すぎて見えない。
そして太さも段違いだ。軽くスカイツリー50本分くらいの太さはあるんではないだろうか。
「なんだよこれなんだよこれなんだよこれ。」
桜木は錯乱していた。
「ちょっとマジで2033年にきたんじゃないだろうな。」
桜木はとりあえず人がいそうなところまででてみることにした。
丘からおりていく。おりるとそこには小さな川があった。川の両岸には桜の木がずらっとあり、なんともいえない風情がある。
桜木は川にそってしばらく歩いてみることにした。
川沿いを歩きながら桜木はこれからどうするかを考えていた。
とりあえず人がたくさんいるところにでたい。なんか嫌な予感がする。大勢人がいるところにでてば色々情報も手に入るだろう。
そこで情報を得てどうする?
何度も言うがこの俺がいる場所は何かがおかしい気がする。
「あっ、財布持ってくればよかった。」
桜木は思い出したようにそう言った。
桜木は自分のズボンのポケットを探る。
「あちゃー。携帯しかないわ。」
携帯を見ると電波は通っているようだ。
「とりあえず電話をしてみるか。」
桜木は少し迷った挙句、相川に電話をしてみることにした。
が、
『おかけになった電話番号は見つかりません。』
「・・・・まあそんなものか。」
何度か試してみたが、どうしても繋がらない。試しに他の人にも色々かけてみたが、結果は一緒だ。とりあえず電話は諦めよう。
しかし財布を持ってこなかったのはデカイな。
ネカフェとかに泊まるにしても金が無ければどうにもならない。
しばらく歩くと看板が川岸にあった。
桜木は読んでみることにした。
「この辺の地図か。」
看板上にはこの辺の地図と思わしきものが描かれている。
「この川に沿って真っ直ぐ行くと建物がたくさんあるとこにでそうな感じでわあるな。」
桜木は地図を眺めていたが、あることに気がついた。
「なんだこの文字は?」
看板の上部を見たらそこには意味不明な文字が書かれていた。普通なら「地図」とでも書かれていておかしくない場所だ。
そこにはよく分からない文字、ひらがなでも漢字でもカタカナでもアルファベットでもない、よく分からない文字、記号と言った方がいいのだろうか、で何かが書かれていた。
「なんなんだよホントに・・・気味が悪いな・・・。」
とりあえず桜木はこのまま川に沿って進んで行くことにした。
詳しいことは通行人か交番のおまわりさんにでも聞いてみるしかない。
桜木は歩きながら部屋で少女が言っていたことをもう一度思い出していた。
『2033年にあなたを飛ばすわ』
確かにあの少女はそう言った。
とするとやっぱりこの世界は2033年なのであろうか。
そうとすれはこの違和感、ビル群のことなどの説明もつく。
「そういえば、」
『あなたともう1人この20年後に飛ばすわ』
少女はそうも言っていた。
「できればそいつと合流してえが・・・結構キツそうだな・・・。」
少女の言っていることが本当であれば、この世界には2013年の人間は俺とそいつしかいない。
もう1人を探すというのは至難の技だ。
そして桜木が1番疑問に思っていること。それは、
「なんでこんな世界に俺が飛ばされたのか、だな。」
これが正直俺にとって1番重要なことだ。
それをあの女は全く説明してくれなかった。
「全くどうすればいいんだよおおおおおおお。アニメ見たいよおおおおおおお。だりいいいいいいいいいい。」
桜木はそう叫んだ。
何でこんなことに巻き込まれなきゃいけないんだよ。
「そういえば、」
桜木はあることを突然思い出した。
「あの少女と話してる時は特に緊張しなかったな・・・。何でだろ・・・。」
そんなことを考えているうちに人がたくさんいる通りに到着した。
ひとまずは安心だ。