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第二章 高次と桜木の出会い(高次編)

「よろしくお願いします」


俺は静かにそう言って頭を下げた。


「簡単に自己紹介してくれる?」


「・・・2年の今井高次です」


俺はめんどくせえと思いながら簡単に自己紹介する。


「全学部用の方でバドミントンは結構本格的にやってました。よろしくお願いします。」


「経験者か~」「すげえじゃん」「なにこのイケメン」といった声が複数あがる。


でも同時にこいつどんやつなんだ?みたいな怪訝な視線も少し感じる。


「これでうちにまた戦力が一つ増えたな!」


隣にいる部長が盛り上げてくれる。


俺はバドミントン部員を見渡した。知ってる顔もちらほらある。えーとあいつの名前は桜木だっけ?あと佐々木もいるな。


「じゃあ練習始めるぞ~!」


みんながランニングを始める。俺もみんなに習って走る。


走っているといきなり誰かに話かけられた。


「俺のことは知ってるよな?桜木周だ、よろしくな。同じクラスなのに余り話したことはないよな?」


「まあ・・・そうだな・・・」


「なあ、どうして高次はこっちにきたんだ?全学部の方のバドミントン部を続けられない理由でもあったの?」


なんだこいつ馴れ馴れしい奴だな・・・。いつも後ろの方に座ってる奴だよな?桜木で名前はいいんだよな。


「・・・色々あったんだよ」


黒髪の桜木に対しての印象は一言で言えば普通って感じだ。俺はクラスの中では余り周りの奴とは話さないでいた。クラスの中でも少し浮いた存在なはずだ。友達も一人もいない。そんな俺だが一応クラスの顔と名前が一致するくらいにはクラスの奴のことは覚えている。桜木は確かいつも後ろの方に座っていたはずだ。いつも隣に相川が座っていてぺちゃくちゃ何か喋っている印象がある。俺の覚えている限りでは話すのは今回が初めてだ。


あとさっきも言ったとおり俺は元々全学部の方のバドミントン部にいた。ただ全学部バドミントン部のほうで少し問題を起こしてしまい、こっちの医学部バドミントン部にきたというわけだ。


「そ、そうか・・・」


桜木はこの時期に一人で入部した俺に気を遣ってるのか、どこか一生懸命だった。どこか無理をしている気がする。


「そ、そういえばさ」


桜木がまた話題をふろうとする。うるさい。


「お前なんで髪が白いんだ?」


「・・・うるせえ生まれつきだ」


「生まれつきかあ。成る程ねえ。っていうかなんかお前怒ってる?」


「別に」


俺は適当に返す。


「そりゃ良かった」


桜木は続ける。


「生まれつきってことは親も髪が白かったとか?」


「・・・・知らん」


「知らんってことはないだろ。母ちゃんか父ちゃんの髪も白いんじゃないの?」


「だから知らんって」


「いやだから、」


「知らんっつってんだろ!!」


周りが凍りつく。ランニングをしている者はみんな驚いた顔でこっちも見ていた。


「・・・悪い。」


俺は簡単に謝った。桜木はまだ驚いた顔をしている。


俺はそんな桜木を置いて走り出した。どうしてもその話はして欲しくなかった。毎日を楽しく生きている周りの奴が許せなかった。平凡な日常を満喫できる周りの奴が許せなかった。


ランニング、ストレッチが終わり、ノック練習をやっている最中も高次は一言も喋らなかった。

周りもどこか高次と距離を置いて話しかけ辛そうにしている。俺もどうしても練習に身が入らない。


これじゃあ全学部のバドミントン部の時と同じだな・・・


俺がバドミントンを続けているのには訳がある。だから人付き合いが多少面倒でも俺はバドミントンを続けていくつもりだ。


俺は桜木がいる方を見た。何か部長とこそこそ話している。

時々こちらの方をチラチラ見ているのは気のせいだろうか。


くそっ練習初日から浮いちまったな。まあ、元々余り馴れ合うつもりもないからよしとするか。


「ねえ高次君」


突然話しかけられた。こいつの名前は美紀だったはずだ。


「いきなりごめんね」


美紀は申し訳なさそうな顔をしてそう言った。


「どうして高次くんがいきなり桜木に怒ったのか分からないけど・・・桜木にはあとでちゃんともう一回謝ってくれないかな・・・?桜木ってね、悪い奴ではないんだよ。あととっても弱いの。だから簡単なことで傷ついちゃったりしちゃうんだ・・・・」


なんだこいつは。桜木とこいつは付き合ってでもいるのか?


「だからその・・・ね・・・?もう一度謝っといてくれないかな?」


美紀はもう一回そういった。


「まあ、機会があったらな」


美紀は複雑そうな顔をしたが、


「そう、お願いね」


とにっこり笑って練習に戻っていった。



練習が終わった。

残ってまだ練習をする者とすぐに帰宅する者がいるようだ。

俺はすぐに帰ることにした。


更衣室で着替えていると桜木が入ってきた。桜木は「あっ」っといったがそれ以上何も話さなかった。

お互い無言で着替える。どこか気まずい。

もういい。こいつとはもう多分話すことはないだろう。脳裏を美紀の言葉がよぎったがそんなこと知ったこっちゃない。


俺は早々に着替えて更衣室を出ようとした。


その時、


「高次、一緒に帰らないか?」


・・・・どういうことだ?


訳が分からなかった。普通いきなりあんなに罵声を浴びせた奴とは話したくなんてないだろうに。不思議な奴もいるもんだ。


「・・・早く着替えろ」


純粋に興味が湧いた。

こいつが俺のことをどう思ったのか気になったのだ。


着替え終わった桜木と更衣室を出た。体育館をでて夜中の大学構内の中、駐輪場へと向かう。

今の時刻は21:00。もう周りは真っ暗だ。


高次は大学から自転車で15分くらいのところに一人暮らしをしていた。一人暮らしといっても狭い部屋ではない。1家族が暮らすことができる程の一軒家だ。どうしてこんな家に住んでるのかというのには色々と訳がある。


桜木は何も話しかけてこなかった。なんで誘ったんだこいつ。


自転車を二人で並行して漕ぐ。この辺りは海の近くだ。季節のこともありこの時刻になると結構寒い。


というか俺このあと用事あるんだがな・・・。


「部長から聞いたよ。」


桜木が突然口を開いた。


「お前両親と妹が亡くなってるんだってな。」


「・・・・・」


「ごめん、ホントに。」


さっき部長とこそこそ話してたのはそういうことか。全くおしゃべりな部長だ。


「・・・まあいいよ、別に。俺も言い過ぎたし。」


そう、俺は10年前の小さな頃に両親と妹を失くしていた。死因は刺殺。殺人だ。

犯人は未だに見つかっていない。俺が19の時、つまり去年時効を迎えた。

俺はあの時の記憶を鮮明に覚えている。あれは雨の日だった・・・。


「部長から全部聞いたよ。犯人もその・・・見つかってないんだろ・・・?」


「・・・・まあな。」


「俺ってさ、」


自転車を漕ぎながら桜木が続ける。


「本当にダメな奴だよな。なんもお前のこととか知らずに無神経なこと言っちゃってさ。」


「だから別にいいって」


「まあそう言わずに聞いてくれよ。正直俺な・・・自分の親が嫌いなんだ・・・」


俺はまた怒鳴りそうになった。でも喉まで言葉がでかかったところで止めた。


「俺のことを何でも自分の思い通りにしようとしてさ。俺の意見なんか聞きやしない。俺は昔からそういう自分の親が嫌いなんだよ。正直言うと今も嫌いだ。だからな、」


相変わらず風が強い。


「お前の気持ちも正直分からないけど。でも酷いこと言ったっていうのは分かる。本当にすまん。」


「・・・」


俺は無言でいた。

なんとなく美紀が言ってたことが分かる気がする。

こいつはとんだお人好しだ。そしてとんでもなく自分に正直だ。


「なあ高次」


「あん?」


「タイムマシンってあったら何がしたい?」


でた。こいつは何もかもが唐突だ。


そういえば今朝テレビでタイムマシン特集みたいなことをやってたっけ。なんでも大まかなタイムマシンの理論体系が完成しそうだとかなんとか。しかもそれを発見したのは俺と同年代だったような気もする。


タイムマシンか・・・。やっぱり過去を変えたりすることができるのだろうか。だとすれば俺はあの日に戻って・・・。


「別になにもしたくはねえよ」


桜木は軽く笑いながら


「本当か?俺だったら宝くじの当選番号を過去の自分に教えたりするけどなあ。」




家についた。桜木とはあのあとすぐ別れた。

家に着くと同時に俺はもう一度出かける準備をする。一度帰宅してもう一度出かけるのは俺が中学生になってからの習慣だ。


家をでると空が曇り始めていた。これは明日雨が降るかもしれなんな。


俺は歩いて目的の場所へと向かう。歩くこと5分、墓石が沢山並んでいる場所についた。

そう、俺が毎日行く場所とは父さんと母さんの墓場だ。


墓石の前に座り手を合わせる。


「絶対いつか犯人を見つけてあげるからね。」


俺はあの時のことを鮮明に覚えている。

決して忘れることなんてできない。

俺は目をつむりながらあの日のことを思い出していた。




「おいしいよ、お母さん」


俺は母にそう言った。外は雨の音がひっきりなしに聞こえる。


「よかった。高次の好きなハンバーグを作った甲斐があったわ」


当時は俺の誕生日。母は俺の為に腕によりをかけたハンバーグを作ってくれたのだ。正直お世辞にも形が整ってるとは言えないハンバーグ。


でもそのハンバーグは本当に美味しかった。


「私ね・・・」


母は言う。


「高次を育ててきて本当に良かったと思っているの。高次は明るくてみんなに優しいし・・・。母さん誇りに思ってるわ」


「お母さんも明るいじゃん。それに僕は優しくなんかないよー」


これは昔の俺の本音だった。


「かーさん、私はーーーー!?」


「梨穂子のこともとっても誇りに思ってるわよ」


「お兄ちゃんばっかり褒めないでよねーーー」


梨穂子は俺の妹だ。まだ小学1年生である。こういうのもなんだが、梨穂子は俺の自慢の妹だ。素直で、そして俺なんかよりずっと優しい。


俺はふとテレビの方へ視線を向けた。


『警察では、この殺人事件をこの地域で発生している連続殺人事件と関係があるものとして捜査を進めるようです』


「怖いわね...。梨穂子は絶対1人で出歩いちゃダメよ」


「分かってるよ~。でもそんな怖い人がいたら、私が蹴散らしてあげる」


力強く梨穂子は言うが、


「無理だろうな。先週亡くなられたのは柔道経験者らしいしな」


「お兄ちゃんは真面目に返しすぎ~」


「はは。そうだな」


我ながら平和な家庭である。


「そういえば今日父さんは?せっかく兄ちゃんの誕生日なのに~」


「色々あるのよ、色々」


「ちぇっ、また仕事か~」


「しょうがないよ。父さんは忙しいんだ」


父さんは医者だ。外科医であることもあって、とても忙しいらしい。


出かける前に、


「高次、本当にすまないな。お前の誕生日だというのに・・・この埋め合わせは絶対にする」


と言ってくれた。別に何とも思ってないのに・・・


ちなみに当時から俺も医者を目指していた。父さんが時々色々医学関係のことを教えてくれたっけ。


「お前にはまだ早いだろう・・・」


半ば飽きれながらそういうのが父の口癖だった。


その後は梨穂子の学校での話をした。なんでも梨穂子の描いた絵がコンクールで入賞したらしい。


俺の両親と妹が殺されたのはそんな日の夜のことだった・・・。




俺はゆっくりと目を開けた。墓石に備えてある花はもう枯れそうだ。明日にでも交換しなくては。


『タイムマシンがあったらどうしたい?』


桜木の言葉を思い出す。

どうしたいかって?そんなの決まってるだろ。過去を変える。家族を生き返らせる。当たり前のことじゃないか。


そんなことを考えながら後ろを振り向こうとした時だ。


「こっちを見ないで」


真後ろに誰かいる。俺は勢いよく振り返った。言葉の内容など気にせず反射的に振り向いた。


後ろを向いたら誰もいなかった。


今、確かに女の子の声がした・・・はずだ・・・。


「振り向かないでと言ったでしょ。」


真後ろに誰かいる。

俺はもう一度振り向こうとした。


が、


体が動かない。


「くっ!!どうして!!」


「心配しないで。何も危害を加えるつもりはないわ。」


なんだいきなり・・・!!


「私はあなたにアドバイスをしにきたのよ。」


21時42分の出来事だった。

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