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時は友羽と理衣子の再開から数ヶ月程前に遡る――。
とある研究施設の地下に、理衣子は暮らしていた。……否、暮らしていたというよりは、その状況は軟禁されていた、という方が正しいかもしれない。
白い壁に囲まれた殺風景な一室、家具は寝台だけ。シャワー室とトイレだけは備え付けであったが、それ以外は何もない部屋。
地下故に、窓もない。唯一の出入り口は重たい鉄扉のみで、覗き窓にも鉄格子がはめられており、施錠は外からしか出来ない。
食事や着替えは鉄扉の下部にある小さな扉から毎日決まった時間に受け渡される。
勿論その受け渡し口も普段は外から施錠されていた。
この息苦しい空間から理衣子が解き放たれる事が許されたのは、週に何回かの実験と訓練の時のみであった。
ここに居た年月は理衣子にはもう分からない、途中から数える事を止めたのだ。
けれど、自分がいつからここに居たのかだけは、はっきりと覚えていた。
「……ゆーくん」
理衣子の中にも、友羽と同じようにあの頃の記憶が残っていた。
「……つまんないなぁ」
何一つ自由もなく、面白みの無い地下生活を何年も強いられてきた理衣子にとって、その共有している思い出だけが、唯一心の支えであった。
「あぁ……ほんっと、つまんない毎日」
正確な時間すらも分からない中、理衣子は投げ遣りに寝台の上へ俯せに身を投げた。
その衝撃に、金属のパイプがギシギシと唸りを上げる。
「でも頑張らないといけないよね」
独り言を呟きながら、寝返りをうつ理衣子。そのまま四肢は四方に投げ出して、天井を仰いだ。
その瞳は、意外にも揚々としている。
「だって、頑張ったら頑張った分だけ早くゆーくんに会えるもん」
友羽と理衣子が共有する思い出。中身は同じものでも、友羽と理衣子ではそれに対する認識が大きく違っていた。
理衣子の中ではその記憶は今でも強く大きく、心の中を占めていた。
長らく外界から引き離された生活を送る理衣子にとって、縋れるものが、希望が、生きる意味が、大切なものが――それしかなかったのだ。
――それ以外は、全てなくなってしまった。
理衣子……いや、りーこの時間は、あの時から進んでいない。幼い頃から、止まったままだ。
他人とろくに触れ合う事もなく、理衣子が成長したのは身体だけ。
「ゆーくんもきっと覚えてるよね。だってりーこはこんなにゆーくんの事好きなんだから、ゆーくんも絶対覚えててくれるハズだもん。だからりーこはゆうくんに会うためだけに……」
理衣子は友羽に想いを焦がすよう、穏やかな表情で目を閉じた。
理衣子の精神は子供のままだった。純粋で、無垢で、……だからこそ――。
「……いっぱいいっぱい練習して、早く皆殺せるように頑張るからねっ」
こんな台詞すらも、理衣子はあどけない笑顔で吐き出すのだ。
然し理衣子にとってこれは何らおかしい事ではない。
だってそこには少しの罪悪感も、迷いも、疑問も、何一つある訳がなく。憎しみや、怨み辛みですら、何もないのだから――。