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鍋底の水

作者: 須藤ハヤ

 壊れた鍋の底、私は溜まり、そして動く事無く固まっている。

混沌とした暗い世界に、一筋の光が射す事ははあるのだろうか。小さな豆電球の光でも良い。完全に闇に慣れ、荒んだ瞳を焼くには問題ない光の強さ。熱と共に私を乾かしてくれ。

 鍋が宙に浮く。

 中の水が左右に揺れ、ぶつかり、そして毀れていく。

――また残ってしまった。


 轟く機械音に耳をすましてみる。これが最後の時だ。周りを取り囲む破壊の申し子達。不敵に笑いながら、その目に炎を灯して一斉に向かってくる。鍋の壁に穴が開いた。

勢いよく射しこんだ光。体を電気が走り、脳に直接痛みが届く。荒みきった瞳は光に貫かれて深紅の水を流し、燃えている。これで、鍋底とはお別れ。

――……ははは。ざまぁねぇな。


 手を伸ばせば、いつでも蓋は占められる。見たくない事、知りたくない事、全て蓋をしていれば知る事も見る事もなく、綺麗なまま生きられる。

しかし、鍋の中に生きる者達は、蓋をされると更に闇に溺れていくのだ。鍋底から出される事を心の底では望みながら、自分では歯止めが効かずに、腐っていくのだ。


 鍋底の水。

ふとした時に見てみると良い。何カ月もそこにある水は、嫌われものの虫が住み着く根城になっているから。

それは、人間も同じ。この広い世界を鍋とするなら、その底に溜まって見て見ぬふりをされる人間は、嫌われ者の虫。全ての誘惑に負けた、弱者。それ等を知らない、見ない者達は自身で蓋をして。遠ざけている。


 鼻に饐えた臭いが届くのは、鍋底の水のせい。その水を捨てないと、出さないと、壁が錆、穴があく。それが、水の最後。外に出たら、捕まる。そして、言われるのだ。

――人間のクズは、さっさと体から灰汁を出して綺麗になれ。 

 

 深い鍋底。そこにいつ自身が落ちるか分からない。下から伸びる手に耳を傾けてはいけない。そのまま引きづり込まれるから。

しかし、目を背けてもいけない。逃げる事も、また罪だから。

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